レビュー

ホンダ「シビック」を買うなら“e:HEV”を推奨したい、その理由は

ホンダの主力車種である「シビック」。初代モデルは1972年に発売され、2022年には50周年を迎えた。

歴代シビックに共通している特徴は、運転の楽しさとすぐれた環境性能の両立だ。初代シビックは、1973年に希薄燃焼方式のCVCCエンジンを加えて、触媒コンバーターなどの後処理装置を使わずに、1970年代中盤の厳しい排出ガス規制をクリアした。

ホンダのハッチバックモデル「シビック」に、新開発の2.0L直噴エンジンと「e:HEV」ハイブリッドシステムが搭載された「シビック e:HEV」が、2022年7月1日に発売された。今回、「シビック e:HEV」へ試乗したので、その魅力などについてレビューしたい

ホンダのハッチバックモデル「シビック」に、新開発の2.0L直噴エンジンと「e:HEV」ハイブリッドシステムが搭載された「シビック e:HEV」が、2022年7月1日に発売された。今回、「シビック e:HEV」へ試乗したので、その魅力などについてレビューしたい

シビックの製品画像
ホンダ
4.32
(レビュー124人・クチコミ4819件)
新車価格:324〜398万円 (中古車:15〜545万円

その、初代シビック CVCCを現代へと蘇らせたクルマが、2022年7月1日に発売された「シビック e:HEV」(ハイブリッド)だ。1.5L直噴VTECターボエンジンを搭載する現行「シビック」は2021年に発売されており、「シビック e:HEV」は追加モデルになる。今回は、「シビック e:HEV」に試乗したのでレビューしたい。

「シビック e:HEV」は、2L直列4気筒直噴エンジンが主に発電を行い、モーターが駆動を担う。ただし、高速道路の巡航時などにおいてはエネルギー効率を高めるため、状況によりエンジンがホイールを直接駆動する。日産の「e-POWER」もホンダの「e:HEV」に似ているシステムではあるが、「e-POWER」ではエンジンが直接ホイールを駆動させる機構は備えられていないという大きな違いがある。

「シビック e:HEV」は5ドアハッチバックなので、ボディの後部にリヤゲートが備えられている。ボディサイズは、従来から設定されていたターボのLXやEXなどと共通だ。全長は4,550mm、全幅は1,800mmとワイドで、全高は1,415mmに抑えられている。

「シビック e:HEV」のフロントエクステリアとリアエクステリア。外観は、ガソリンモデルの「シビック」とそれほど大きくは変わらない

「シビック e:HEV」のフロントエクステリアとリアエクステリア。外観は、ガソリンモデルの「シビック」とそれほど大きくは変わらない

ホイールベースは2,735mmと長く、最小回転半径は5.7mと少し大回りになる。ボディ後端のピラーは太めにデザインされているので、ななめ後方の視界はあまりよくない。

内装は、インパネ周辺などが上質にデザインされている。インパネの中央から助手席の前側まで伸びる横長のメッシュパネルには、エアコンの吹き出し口が備えられている。また、エアコンのスイッチなども高い位置に装着されており扱いやすい。

「シビック e:HEV」のインテリア

「シビック e:HEV」のインテリア

注意したいのは、ATの操作がスイッチになっていることだ。筆者は、乗り始めで慣れていない状態だったこともあり、DレンジとR(後退)レンジを一瞬、間違えそうになることが何回かあった。もちろん、慣れの問題とは思うのだが、最初に運転するときには注意したい。

「シビック e:HEV」では、ATの切り替え操作がスイッチタイプになっているのが、ガソリンモデルの「シビック」と異なる

「シビック e:HEV」では、ATの切り替え操作がスイッチタイプになっているのが、ガソリンモデルの「シビック」と異なる

フロントシートは、ゆったりしたリラックスできるような感覚というよりもしっかりと腰の近辺を支えてくれる感覚で、着座姿勢が乱れにくい。腰から大腿部が適度に硬めなので、長距離を移動するときにも疲れにくそうだ。

リアシートは、腰が少し落ち込んで膝が持ち上がる形になる。全高は1,415mmと低めで、天井を後方へ向けて下降させているためだ。広々感はないが、身長170cmの大人4名が乗車した時に、後席に座る乗員の膝先には握りコブシ2つ分の余裕があるので、背の高い方でなければ大人が座っても十分な広さだろう。

「シビック e:HEV」のフロントシートとリアシート

「シビック e:HEV」のフロントシートとリアシート

ハイブリッドシステムは、前述の通りモーター駆動が基本となっている。モーターは最高出力が135kW(184PS)、最大トルクが315N・m(32.1kg-m)。加速感をガソリンエンジンに置き換えると、総合的には2.8LのNAエンジンのような感覚なのだが、巡航中にアクセルペダルを踏み増した時の反応はモーターなので機敏だ。そのため、走行状況によっては3Lエンジンを超えるような大排気量のように感じる場面もあった。

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の走行イメージ

また、フル加速時などは有段式のAT車のように、エンジン回転数が上下しながら速度を高めていく。だが、e:HEVのエンジンは基本的に発電用だ。巡航時以外は駆動を行わないので、エンジン回転数の上下動は加速感とエンジンの回転数の違和感を抑えるための、いわゆる演出になる。発電効率にすぐれた回転域だけを使うのに比べて、燃費性能が悪化する心配もあったが、開発者は「運転感覚を爽快かつ上質にするには、不可欠な制御だった」とのことだ。

エンジンが一定の高効率な回転域で回り続けると、ドライバーにはエンジンが勝手に作動しているような違和感が生じるからだろう。たしかに、「シビック e:HEV」を運転すると、エンジンを発電用に使うハイブリッドであることを、つい忘れてしまうほどに自然なエンジン感覚だ。

なぜなら、アクセル操作や速度に合わせたエンジン回転数の上昇に加えて、エンジンノイズの響き方までも、上手に調和させているからだ。これが、不自然な制御であれば演出であることがすぐにわかってしまうが、「シビック e:HEV」にはそれが感じられなかった。実用回転域の駆動力が高く、ノイズを抑えたNAエンジンの感覚で運転することが心地いい。開発者は「自然な運転感覚とすぐれた燃費性能の両立には苦労した」と述べている。

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の走行安定性は、ガソリンエンジン車と同様にすぐれている。後輪の接地性が高く、峠道の下りカーブを曲がるような安定性の悪化しやすい場面でも落ち着いて運転できる。後輪を安定させるいっぽうで、操舵に対する反応が正確なのでコーナーが曲がりやすく、ワインディングをスポーティーに走ることができる。ステアリングホイールを、右端から左端まで回した時のロック・トゥ・ロックも2.3回転なので、少ない舵角で機敏に曲がっていく。走行安定性が高くない車両に、ロック・トゥ・ロックが2.3回転というクイックなステアリングギヤ比を組み合わせると、挙動を乱しやすくなってしまうが、「シビック e:HEV」は基本的な安定性が高いので、スポーティーなセッティングが可能となっている。

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の走行イメージ

乗り心地は、時速40km以下で街中を走ると路上の細かな凹凸が伝わってくるが、速度が高まると硬さは薄れてくる。柔軟ではないが、引き締まり感が伴って不快ではない。大きな段差を乗り越える時の突き上げ感も穏やかだ。

「シビック e:HEV」の試乗イメージ

「シビック e:HEV」の試乗イメージ

開発者は、「シビック e:HEV」は、駆動用電池の搭載などによって重心が下がり、スプリングは硬めながらショックアブソーバーの減衰力を低く抑えることができた」と言う。走行安定性の素性が優れているから、乗り心地に配慮した足まわりの設定も実現できたわけだ。ターボと乗り比べると、e:HEVはカーブを曲がる時の軽快感は下がるが、直進安定性と乗り心地は上まわる。

少々、不満を感じたのは後席だ。5ドアハッチバックなので、セダンと異なり後席と荷室の間に隔たりがないため、後輪が路上を転がる音が直接的に進入してくる。後席に座ると「ゴーッ」という音が耳障りに感じる。「シビック e:HEV」は、ハイブリッドとあってエンジンやモーターの音が小さいから、後輪の転がり音が一層目立ってしまう。

ちなみに、「シビック e:HEV」のWLTCモード燃費は24.2km/L。走行性能や充実した装備を考えれば満足できる数値だ。

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の走行イメージ

「シビック e:HEV」の課題は、価格だ。グレードは1種類のみで、価格は3,940,200円。装備はかなり充実していて、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能、カーナビ、BOSEプレミアムサウンドシステム、アクティブノイズ/サウンドコントロール、18インチアルミホイールなどが標準装備されている。それでも、約400万円は少々割高と受け取られる。その理由は、e:HEVモデルのみが高いのではなく、「シビック」全体の価格が高いためだ。装備水準の近いターボのEXも3,539,800円なので、e:HEVの価格アップそのものは400,400円に収まる。一般的に、ノーマルエンジンとハイブリッドの価格差は35〜60万円なので、「シビック e:HEV」は割高ではない。

「シビック e:HEV」は、購入時に納める税額がターボのEXに比べて123,700円安いから、実質価格差は276,700円に縮まる。また、e:HEVの使用燃料はレギュラーガソリンだが、ターボはプレミアムガソリンだ。その結果、7〜8万kmを走ると、276,700円の実質価格差を燃料代の節約によって取り戻せる。「シビック e:HEV」では、約400万円の価格自体は高いが、ターボに比べると割安になる。

したがって、「ハイブリッド車が欲しい」というニーズなら、「プリウス」や「ノートオーラ」なども検討したいが、「シビックを買いたい」という場合はe:HEVが狙い目だ。「シビック e:HEV」の走行性能は総じてすぐれているため、クルマ好きのユーザーならば、特に高い満足感を得られるはずだろう。

渡辺陽一郎

渡辺陽一郎

「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト

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新車価格:324〜398万円 (中古車:15〜545万円
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