レビュー

ブリヂストン「ブリザック VRX3」はSUVでも雪上&氷上性能は抜群!

2022年10月、ブリヂストンはスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX3」のサイズラインアップへ、新たにSUV向けのタイヤサイズを追加した。

新たに、SUV向けのタイヤサイズが追加された、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック  VRX3」。今回は、ブリヂストンのテストコースやスケートリンク、北海道の一般道などを、同タイヤを履かせたSUVをメインに試乗することで、氷上や雪上、ドライ路面などにおける実力をたしかめてみた

新たに、SUV向けのタイヤサイズが追加された、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX3」。今回は、ブリヂストンのテストコースやスケートリンク、北海道の一般道などを、同タイヤを履かせたSUVをメインに試乗することで、氷上や雪上、ドライ路面などにおける実力をたしかめてみた

そこで今回、ブリヂストンのテストコースやスケートリンク、北海道の雪道など、さまざまな路面において「ブリザック VRX3」装着車を試乗する機会が得られたのでレポートしたい。

「ブリザック VRX3」とSUV専用スタッドレスタイヤ「ブリザックDMV3」との違い

「ブリザック VRX3」の詳細については、すでに以下の記事で解説しているので、今回は概略だけお伝えしておきたい。

降雪地域を中心に、No.1のスタッドレスタイヤとして君臨するブリザック。そのシリーズは、現在3つある。まず、今回ご紹介するのが、2021年に発売された「ブリザック VRX3」。そして、「ブリザック VRX3」と併売されているのが、前モデルの「ブリザック VRX2」。最後は、SUV専用の「ブリザック DMV3」である。

「ブリザック VRX3」は、ブリザック史上でダントツの氷上性能を実現しているとともに、摩耗ライフを向上することで、より経済的に。そして、性能の効きを長持ちさせることで、より長く、安心して使える最高のブリザックとして位置付けられている。

SUVのタイヤサイズが新たに追加された「ブリザック VRX3」。いっぽう、SUV専用のスタッドレスタイヤである「ブリザックDMV3」とは、利用シーンによってどちらを選ぶかが異なってくる

SUVのタイヤサイズが新たに追加された「ブリザック VRX3」。いっぽう、SUV専用のスタッドレスタイヤである「ブリザックDMV3」とは、利用シーンによってどちらを選ぶかが異なってくる

今回、そのラインアップを広げたのは、SUV市場が拡大基調にあることが最大の要因だ。さらに、ブリヂストンの市場調査によると、多くのSUVは街乗り中心の日常使いやファミリーカーとして使用されていること。さらに、そのようなユーザーが求めるのは、安全性や実用性、そして快適性であるという。そこで、ブリヂストンとしては、「ブリザック VRX3」のサイズ拡大によって、そのニーズに応えることにした。たとえば、街中の交差点やトンネル出入り口に生じやすい凍結路面での安全性や、ドライ路面にもSUVの走行性を最大限に引き出すグリップ性能とともに、静かで快適な車内を実現する静粛性の高さ。「ブリザック VRX3」は、これらの性能を備えているからだ。

いっぽう、「ブリザックDMV3」というSUV専用スタッドレスタイヤも存在しているので、「ブリザック VRX3」との棲み分けが気になるところだ。具体的には、前述の街乗りメインのユーザーには、ダントツの氷上性能で安全性の高い「ブリザックVRX3」を。そして、レジャーなどで雪山や郊外での利用も多いユーザーには、冬道における総合的な性能をバランスよく提供できる「ブリザック DMV3」を。つまり、雪道においてSUVの走破性の高さを積極的に発揮させるような場面が多い場合には、「ブリザックDMV3」という選択になるという。

ドライ路面の乗り心地は、まるでコンフォートタイヤのよう

では、さっそく「ブリザック VRX3」を装着したクルマに試乗してみよう。まずは、ブリヂストンのテストコースにおいて、スラロームや段差の乗り越え、若干荒れた路面などを走行した。試乗した車両は、トヨタ「ヤリスクロス」と「プリウス」、そしてアウディ「Q5」でいずれも4駆になる。

「ブリザック VRX3」を装着した3台の車両を、ブリヂストンのテストコースで走らせてみた。車種は、左からトヨタ「プリウス」、トヨタ「ヤリスクロス」、アウディ「Q5」

「ブリザック VRX3」を装着した3台の車両を、ブリヂストンのテストコースで走らせてみた。車種は、左からトヨタ「プリウス」、トヨタ「ヤリスクロス」、アウディ「Q5」

最初に、どのクルマにも共通して最も強く感じたのは、まるでコンフォートタイヤを履いているかのように快適だったことだ。たとえば、路面の接地面が硬いとか、逆に交差点での曲がり角で挙動がぐらつくといったこともなく、ちょっとした路面の突起や歩道の段差を乗り越える際には、接地面のあたりのやさしさが感じられた。

さらに、ステアリングを切った時の挙動には違和感がなく、若干の応答遅れが感じられていた「ブリザック VRX2」に比べると、ステアリングの舵角と挙動の追従性は実に素直な印象となっていた。これは、「ブリザック VRX3」のタイヤそのもののケース剛性が高められたことによるもので、腰砕け感がまったくと言っていいほどに見られない。つまり、ドライ路面で普通に走らせているぶんには、通常のサマータイヤと遜色ないかのようなフィーリングなのだ。

「では、1年を通して履けばいいのではないか」と思われるかもしれない。その点について、ブリヂストンのエンジニアに聞いたところ、「そういう人もいる」と前置きしたうえで、サマータイヤに追いつけない点は、ハードウェット性能と言う。つまり、夏の夕立などの場合、結構な雨量が路面にたまってしまい、タイヤの排水性能が追い付かなくなるというのだ。もちろん、すぐに滑ったりすることはないのだが、サマータイヤと比較するとその限界域は決して高くはないようだ。また、やはり摩耗に関してもドライではサマータイヤには劣るようなので、きちんと履き替えることをおすすめするとのことだった。

さて、ドライ路面で唯一気になったのは、遮音性の高い「Q5」やEV走行時の「プリウス」で感じたタイヤのパターンノイズで、「ひゅわひゅわ」といった高周波音が少し発生することだ。ちなみに、この音は「ブリザック VRX3」だけでなく、多くのスタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤで聴こえるものである。ただし、これは「何か、気になることはないか」とよく観察していて気づいた音なので、多くは気づかないか、最初は気になったとしてもすぐに慣れる類のものとも言えそうだ。では、なぜ「ヤリスクロス」では気づかなかったのか。それは、遮音性があまり高くなく、ほかのノイズやエンジン音が大きく侵入してきていたからだ。

そのため、こういったシーンで実はいちばん輝いたのは「ヤリスクロス」かも知れない。バタついた乗り心地はかなり軽減され、直進安定性も若干だが向上した印象を受けた。つまり、少しいいコンフォートタイヤを履いた印象と言ってもいいだろう。

氷上性能も抜群にいい

では、次にスケートリンクを走行した印象についてお伝えしたい。初めは「プリウス」で走行し、その後に「ヤリスクロス」と「Q5」へと乗り換えた。

「ブリザック VRX3」は、スケートリンクのような路面であっても、アクセルやブレーキ、ステアリングをゆっくりと慎重に動作させれば、しっかりとグリップしてくれる

「ブリザック VRX3」は、スケートリンクのような路面であっても、アクセルやブレーキ、ステアリングをゆっくりと慎重に動作させれば、しっかりとグリップしてくれる

車重が重いアウディ「Q5」でのスケートリンクの走行は少し心配だったが、滑った後がとてもコントロールしやすいうえに、そのまま滑り続けるようなこともなくグリップが回復してくれるので安心できる

車重が重いアウディ「Q5」でのスケートリンクの走行は少し心配だったが、滑った後がとてもコントロールしやすいうえに、そのまま滑り続けるようなこともなくグリップが回復してくれるので安心できる

若干重心高が上がり、特に「Q5」に至っては車重が1,900kgほどになるので、「プリウス」(約1,400kg)などと比較して、いかにこのクルマを止めるのか。タイヤの負荷が高いことが、十分に予想された。だが、この心配は杞憂に終わった。たしかに、8の字旋回などではクルマの大きさや重さを感じ、それなりに滑るのだが、アクセルで十分にコントロール可能で、だらしなくずるずると滑っていくこともない。ただし、完全にツルツルでかつ平滑なスケートリンクなので、タイヤからのフィードバックが感じられず、どこから滑り始めるのかがつかみにくい一面もあった。

基本的に、いずれのクルマでも基本的な挙動は穏やかであり、またパニックブレーキを踏み込んでも、ABSが働きながらもきちんと路面をとらえて停止するさまは驚きに値するものであった。

アイスバーンでも、ていねいに運転すれば問題なし

さて、ここからは北海道、旭川での試乗の印象をお届けしよう。まずは、朝9時に旭川市内のホテルを出発。そこから、45kmほどの道のりを経て旭岳温泉へと向かった。そのときに試乗したのが、4駆の「ヤリスクロス」だ。

「ブリザック VRX3」を装着した「ヤリスクロス」で、北海道の一般道を走行した。ところどころにアイスバーンが見られたものの、「ブリザック VRX3」はあっけないほどに、しっかりとグリップしてくれる

「ブリザック VRX3」を装着した「ヤリスクロス」で、北海道の一般道を走行した。ところどころにアイスバーンが見られたものの、「ブリザック VRX3」はあっけないほどに、しっかりとグリップしてくれる

この道のりでは、アイスバーンなどの凍結路面や圧雪路、そしてチェーンなどで削られてガタガタになった、いわゆるそろばん路面を体験してほしいとのことだった。凸凹なので、タイヤは接地面積を稼げなくなるため、かなり厳しい凍結路面といえる。クルマを受け取り、雪に覆われた慣れない市街地を、恐る恐るアクセルを踏んで走り始めると、意外にも滑ることなくあっさりと走ることができた。しかし、油断は禁物。信号などの停車時は早めにブレーキングを開始していたのだが、ある信号で停止寸前にズルッと滑った。速度は、たぶん1〜2km/hほどである。そこで、ドアを開けて路面を触ってみると、完全なアイスバーンだった。この時は、路面状況から滑りそうというフィードバックはなかったので、少々焦ってしまった。やはり、ブリザックといえども万能ではない。ただし、こういった路面でも止まる寸前まで路面を離さない、また、滑っても発泡ゴムの吸水性の高さから、しっかりと最後は止めてくれる「ブリザック VRX3」に驚かされた。もちろん、スタートは普通よりやさしくアクセルを踏み込めば、滑るそぶりさえ見せず加速していく。路面は、前述のとおり凸凹で荒れ放題だが、しなやかな接地面のおかげで乗り心地も悪くなかった。

ちなみに、旭岳に向かうには結構な上り坂を登ることになる。ふかふかの雪と、その下にはアイスバーンが隠れているというタイヤにとっては過酷な状況だが、「ヤリスクロス」の車重が軽い(約1,500kg)のせいもあって、淡々と登っていく。ちなみに、山岳路のアップダウンでは基本マニュアルモードを選択し、随時エンジンブレーキを使用して走行したことを付け加えておきたい。

重量級のSUVでも雪道は安心

旭岳温泉に到着後は、旭岳の中腹から下まで、片道約14kmを往復した。前半はダウンヒルコースで、雪で全面覆われており滑りやすい路面状況のため、車重の重いSUVでは油断しているとスピードがかなり出てしまう状況だ。ちなみに、テスト車はアウディ「Q5」、トヨタ「ハリアー」、メルセデス「GLC」の3台で、「Q5」と「GLC」はディーゼルエンジンの4駆。「ハリアー」はガソリンエンジンの4駆だった。

アウディ「Q5」で、旭岳の山道を往復。「ブリザック VRX3」は、「Q5」や「A4アバント」など、アウディ車との相性が特にいいと感じられた

アウディ「Q5」で、旭岳の山道を往復。「ブリザック VRX3」は、「Q5」や「A4アバント」など、アウディ車との相性が特にいいと感じられた

このアップダウンコースでは、「Q5」がタイヤとのマッチングが最もよく、乗りやすかった。ABSとの協調性も高く、ABSが効き続けてズルズルと進むこともなく、しっかりと路面をとらえて減速Gが立ち上がる。一度、安全な状況を確認してから、わざと急ブレーキを踏んでみたのだが、しっかりと真っ直ぐに停止してくれた。前述のスケートリンクで心配した車重の影響は、こういったシーンでも気にならず、しっかりとコーナー手前で減速して、マニュアルモードで適切なギアを選んでアクセルオンで曲がるようにすれば、車両側の電子デバイスとスタッドレスタイヤのグリップとで姿勢が乱れることはほぼなかった。また、極端にツルツルな路面でもなく、新雪が積もって、ある程度固められている状態なので、ステアリングへのフィードバックもそこそこあり、また、滑り始めがつかみやすいので安心感もあった。ただ、やはり「Q5」の車高の高さは気になった。実は、「ブリザック VRX3」を装着した「A4アバント」にもわずかながら乗ることができたのだが、個人的にはいちばん好ましかった。

いっぽう、「ハリアー」と「GLC」は、タイヤそのものというよりも、クルマ側に少しクセがあった。いずれも、「ブリザック VRX3」が装着されていることで乗りやすいことには変わりはないのだが、コントロール性で気になる点が明確になったのだ。

トヨタ「ハリアー」は、「ブリザック VRX3」を装着することで、雪道での走行における安心感がより高まるように感じられた

トヨタ「ハリアー」は、「ブリザック VRX3」を装着することで、雪道での走行における安心感がより高まるように感じられた

まず、「ハリアー」はアクセルの踏み始めの出力の出方とドライバーの期待値が合わず、思った以上に勢いよく発進する。もちろん「スノーモード」を選択すれば解決するが、ここまでセンシティブな設定が必要かは疑問だ。「Q5」や「A4アバント」などに試乗した後、「ハリアー」に乗って同じ調子でアクセルを踏み込むと、若干ホイールスピンを伴ってしまったことは告白しておきたい。また、ステアリングフィールも若干曖昧で、もう少しリアルなフィードバックがほしいと感じた。また、電子デバイスの介入も少々人工的で、「Q5」や「GLC」で感じられたような自然さは、あまりなかったことも付け加えておきたい。

だが、このような「ハリアー」が持つ少しネガティブな部分を、「ブリザック VRX3」は見事にカバーしてくれる。たしかに、ステアリングの切り初めの反応がつかみにくいし、どこから滑るかいまひとつ自信を持てないシーンもあったものの、それでも多少滑ったとしても、そこでステアリングをわずかに戻すかアクセルをほんの少しだけ踏み込んであげることで、しっかりとタイヤに駆動力が伝わって雪を踏みしめてくれる安心感が常にともなった。

メルセデス・ベンツ「GLC」は、車重の重さから、「ブリザック VRX3」のようなグリップ力の高いスタッドレスタイヤであっても、より慎重な運転が求められる

メルセデス・ベンツ「GLC」は、車重の重さから、「ブリザック VRX3」のようなグリップ力の高いスタッドレスタイヤであっても、より慎重な運転が求められる

もう1台のメルセデス・ベンツ「GLC」については、基本おっとりした走りなのと、最も重い2,000kgという車重のため、かなり不利な状況だった。特に、下りではABSの反応が相当に早く、「Q5」よりも思ったような減速が得られず、より慎重な運転が求められた。どうやら、タイヤとのマッチングがあまりよくなかったこともありそうだ。その理由は、サマータイヤでワインディングなどを走った経験から、決してABSが早期に介入することもなく、適切なタイミングだったからだ。このように、クルマによってタイヤとのマッチングがあることにも注意が必要だ。もちろん、同時に乗った「Q5」や「ハリアー」などと比較しての話で、適切な速度で走らせている限りでは、ドキッとするようなシーンはほとんどないといっていい。

ひとつだけ、付け加えておかなければいけないのは、安全デバイス満載のSUVと「ブリザック VRX3」のセットであっても、オーバースピードでコーナーに飛び込んだり、急なステアリング操作をすると、特に雪やアイスバーンなどではその限界域はいともカンタンにやって来ることだ。そうしたことがないように、コーナー手前できちんと減速して、基本的にアクセルはパーシャルの状態でコーナーを回り切る必要がある。その理由は2つ。ひとつは、クルマはブレーキング時が最も安定性を欠き、アクセルオンの時が最も安定するからだ。そして、もうひとつはほとんどの安全デバイス、たとえばコーナーで1輪、あるいは2輪が滑った際に、滑っていないタイヤによってトルクを掛け、かつ、滑ったタイヤにはトルクを抑制することで走行安定性を確保するトラクションコントロールなどはアクセルを踏まないかぎり働かないからだ。そうなると、ブレーキング時はABSのみなので、安定性の確保は難しい。そういったクルマの構造は、覚えておいても損はないと思うし、これはドライ路面でも同様だろう。

閑話休題。総じて、「ブリザック VRX3」はSUVであっても、その氷上性能や雪上性能はこれまでの乗用車用サイズのものと十分に遜色ない完成度の高さといってよさそうだ。街乗りなどをメインに使用するのであれば、最も心配な氷上性能はまったく問題ないと言えるし、雪道でも同様だ。また、「ブリザック VRX2」と比較して、ハンドルを切り始めた初期の操舵感やクルマの落ち着き、滑り始めの感覚などはより掴みやすくなっている。トレッド面の剛性が上がり、より接地面積が増えたからのようだ。このことは、氷上や雪上性能だけでなく、ドライ性能にも大きく効いてくる。降雪地帯での装着率No.1のブリザックは、SUVにおいても盤石な体制で挑んできているのだ。

最後に、どうしても避けられないウェット性能の優劣だが、残念ながら今回もその試乗テストはかなわなかった。しかし、近い将来その評価はできるとお約束したい。なぜなら、私自身のクルマに「ブリザック VRX3」を履かせる予定だからだ。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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