2023年1月13日、三菱は東京オートサロン2023において新型軽スーパーハイトワゴンの「デリカミニ」を一般公開した。発売は2023年5月ごろで、価格は約180〜220万円ほどになるという。また、公開と同時に予約受注も開始されている。
2023年5月に発売と正式にアナウンスされた、三菱の新型軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」。ベースモデルは「ekクロススペース」だが、内外装だけでなく車高やサスペンションに至るまで、かなりの変更が施されている
「デリカ」は、今は三菱の代表車種である「D:5」として名を馳せているが、55年前に商用車としてスタートしたことは、あまり知られていないかもしれない。その発売翌年に、乗用車の「デリカコーチ」をラインアップ。その後、「デリカスターワゴン」、「デリカスペースギア」へと進化し、本格的な4WD性能を備えたワンボックスタイプのRVとして成長してきた。そして、5代目の「デリカD:5」は、ミニバンとしての居住性と快適性に、SUVとしての力強さと走破性を融合させた三菱ならではのオールラウンドミニバンとして、アウトドアやレジャーを楽しむ多くのユーザーに支持されている。
登壇している人物は、三菱 商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリストの藤井康輔さん
そして、「デリカミニ」はその「デリカ」の世界観を身にまとった軽スーパーハイトワゴンだ。「精悍な中にも、愛嬌のある表情と力強い走りを予感させる、SUVテイストのスタイリング。広々とした快適な居住空間と多彩な使い勝手によって、かわいいだけじゃない、かっこよさもある軽SUVです」と、三菱 商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリストの藤井康輔さんは紹介する。その商品コンセプトは、“Reliable & Active Super Hight Wagon”。「デリカの名にふさわしい頼もしさと力強さを持ち、アウトドアレジャーから日常までを楽しめる軽スーパーハイトワゴンとしました」とのことだ。
東京オートサロン2023の三菱ブースにて、藤井康輔さんと「デリカミニ」
では、なぜ「デリカミニ」が今投入されるのか。同セグメントに存在する、「ekクロススペース」との関係性が気になる。実は、「ekクロススペース」はSUVテイストをより強めて、アウトドアのイメージを高めていくというコンセプトだった。だが、市場の考えは異なっており、カスタム系のクルマとしてとらえられていたようだ。そのため、三菱の思いを込めた新たな1台が必要になったのだ。その背景には、現在のキャンプブームやアウトドアなどの人口増加もある。そこで、アウトドアのイメージを想起させるクルマを作ろうということから、「デリカミニ」の投入が決まった。
「デリカミニ」のベースモデルとなっている「eKクロススペース」
SUVらしさがあり、アウトドアで活躍するというイメージは、まさに「デリカ」そのものだ。そこで、「仲間や家族と過ごす、大切な時間や楽しい時間の提供を、デリカは長年培ってきました。それであれば、ekシリーズのひとつではなくて、デリカシリーズのひとつとして位置付けた方が、お客様に説明しやすいですし、デリカの名を冠するにふさわしいクルマと考えたことから名付けました」と藤井さんは説明する。
ちなみに、「D:5」に続く「D:1」という車名案はなかったのかを聞いてみると、「軽スーパーハイトワゴンのいちばんのユーザーはヤングファミリー、特に女性の方です。そして、女性の目からデリカD:5を見ると、すごく遠い存在なのです。デリカの存在は知っているのですが、ごつい男の人が乗るクルマというイメージで、自分には関係のないクルマという印象を持たれていました。そこで、デリカミニという車名の響きで調査すると、それならとても親近感が湧く、ということがわかりましたので、D:1ではなくデリカミニの車名を与えたのです」と、あくまでもターゲット層はヤングファミリーで、女性が利用するシーンなども想定して開発されたことが窺えた。
つまり、「デリカミニ」は「ekクロススペース」の使い勝手や取り回しのよさ、安全装備などに加えて、軽自動車というかぎられた枠の中に、いかに「デリカ」のエッセンスを採り入れていくか。そして、「デリカ」という車名を与えることから、悪路走破性をどこまで向上させるかがポイントだったようだ。
「デリカミニ」のデザインコンセプトは、“デイリーアドベンチャー、日常に冒険を”。実用的な軽スーパーハイトワゴンのパッケージに、アクティブな軽自動車のライフスタイルを融合させるイメージである。「フロントマスクは、力強さと安心感を表現するダイナミックシールドと、特徴的な半円形のLEDポジションランプを内蔵したヘッドランプを組み合わせ、凛としながらも親しみやすい表情としました」と藤井さん。
「デリカミニ」のフロントフェイスには、三菱のアイデンティティーである「ダイナミックシールド」が用いられている
また、フロントバンパーとテールゲートガーニッシュには、「立体的なデリカロゴを採用し、ブラック塗装を施したホイールアーチに加えて、前後バンパー下部にはプロテクト感のあるスキットプレート形状を用いることで、デリカならではのSUVらしい力強さを表現しています」と言う。
「デリカミニ」の前後には立体的なデリカロゴが配されることによって、「デリカ」シリーズの一員であることが表現されている
フロントの印象は先代「デリカD:5」のイメージを感じるが、三菱 デザイン本部 プログラムデザインダイレクターの松岡亮介さんによると、「意識しなかったと言えばうそになりますが、それほどこだわりませんでした」。それ以上に、「今あるデリカのデザインを、そのまま持ってくるというのはやりたくなかったのです。それよりも、“デリカネス”をどう引き継ぐか。デリカネスとは、スペース効率がいいクルマと、リフトアップしてどこへでも行けるようにというコンセプトを合体させた言葉。ただし、これはお客様が見て感じるもので、決してデザインがコピペされたからではないんですね。醸し出す雰囲気がデリカっぽい、と感じて頂けるのが最終地点なのです」と語る。
そのフロントで目を惹くのがやはりヘッドライトだ。三菱は、デザインを開発する際にデザインパーソナリティを用いるそうだ。これは、クルマの顔を擬人化した時に、どのような性格とキャラクターの人間なのかを定めてからデザインしようというもの。松岡さんは、「軽自動車に乗っている方は、女性も多いでしょう。そして、女性はライトなどとは言わずに目、とよく表現されます。ですから、我々もライトではなく目だよね、と意識を刷り込んでデザインしました。デリカミニキャラクターは、“やんちゃ坊主”です。小学校の低学年ぐらいの男の子で、アクティブでやんちゃですごく活発な子なのですが、見ていてちょっとほっとけないような、少し可愛げがあって母性本能をくすぐるような感じの顔にしたかったのです。そのため、かわいいのですがちょっとキリっと、クリッとしてる目ですね。そういうイメージを持ってもらいたいのです」と教えてくれた。
最適な“目”の表情をデザインするため、半月のライトは角度の違いによる表情の変化について、幾度も試行錯誤が繰り返されたという
インテリアで特徴的なのがシートだ。「カラーデザイナーのインスピレーションから生まれました。多くのアウトドアトレンドやファッションを見ていた時に、ダウンジャケットはキルティングでモコモコしてるような感じがありますよね。これを、シートのテクスチャーに使いたいというのが発端です。シート生地が立体的になっていて、その座り心地がいいのです。立体的になっているので、座った時にお尻の接地面積が少なく、通気性がよかったり、蒸れなかったりと女性の評価がとても高かった。そこで、このシートを採用しました」と松岡さん。さらに、シート生地は撥水加工もされているので、使い勝手は高そうだ。
「デリカミニ」のフロントシートとリアシート
そのほか、室内の前後長や高さはスーパーハイトワゴンそのもので、広々としたものだ。多彩なシートアレンジに、後席のロングスライドも装備されるので、使い勝手は十分以上だろう。また、ハンズフリーオートスライドドアなどもeKクロススペースと同様に採用されているので利便性も高い。
「デリカミニ」のインパネ周り
さらに、アイポイントは高めに設定されている。運転席からは、前方だけでなく周囲を見渡せる広々とした良好な視界を確保しているので、視認性も非常に高い。そのほか、ヒルディセントコントロールが搭載されているほか、4WD車には14インチではなく15インチの大径タイヤを採用し、最低地上高を高め、専用チューニングのショックアブソーバーも採用されている。その結果、「荒れた路面で、安心感ある操縦性と快適な乗り心地を実現していますので、アウトドアレジャーにお出かけの際も安心して運転を楽しめます」と藤井さん。
このように、「デリカミニ」は「デリカ」の精神を受け継いだ末っ子のやんちゃ坊主として登場した。4WD性能に関しては、いずれ試す機会が訪れるだろうが、「デリカ D:5」ほどの性能ではないものの、最低地上高のアップなどから、アウトドアやレジャーを楽しむレベルであれば不都合はなさそうだ。
最後に、お伝えしたいことがある。「デリカミニ」は、大径タイヤを強調するために、フェンダー部分にピアノブラックの塗装が施されている。普通車であれば、パーツを取り付けるなどで対応するところだが、軽の横幅いっぱいで作られている関係上、パーツの追加は不可能。また、「デリカ」という名前であることから、安っぽくすることはできないことから塗装となった。しかし、フェンダーには何らかの印やガイドラインがないことから、職人が1台ずつマスキングして塗装するとのこと。
「デリカミニ」のサイドイメージ。前後に黒く塗られたフェンダー部分は、実は開発にかなり苦労したとのこと
しかも、ここからが三菱のすごいところで、通常であればボディ色を塗った後にフェンダーの黒い部分を塗る例が多い。その理由は、黒の方が塗る面積は小さく、手間やコスト抑制につながるからだ。しかし、三菱はまずボディ全体を黒で塗装し、その後、マスキングをしてボディ色を塗装する方法を採った。これは、塗装面にある。2色を重ねて塗ると、最初に塗った塗装とその上の塗装とでは本当にわずかだが段差ができてしまうのだ。通例だと、ボディ色の上にフェンダーの黒を塗るので、黒の方が上に来るのでその段差は上向きになる。しかしボディ色を後で塗ればボディ色が黒の上になり、段差は下向きになる。つまり、上向きだと埃や水が溜まりやすくなり、汚れが付きやすい。いっぽう、下向きだとそれを防げるわけだ。このように、三菱はその品質面にも気を遣ってクルマを仕上げている。こういったことを聞くだけで、「デリカミニ」がいかにまじめに作られているかが伝わってくる。ぜひ、興味のある方はショールームなどにある2トーンのクルマで、塗り分けられた部分を手で触ってみてほしい。その理由が、よくわかるはずだ。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。