「いいクルマを買いたい」というのは、老若男女問わず誰もが願うことだと思います。でも、運転する人やしない人、前に座る人や後ろに座る人、荷物を乗せる人、子どものお世話をする人、趣味が多い人……。
クルマのいろんな使い方があるなかで、「いいクルマ」とひと口に言っても、その視点や条件はさまざま。もしかすると、自分がまったく思いもよらなかった視点や感覚で、「いいクルマ」を判断する人もいるかもしれないですね。
たとえば、私の友人のケース。もうすぐ子どもが生まれることになったとき、スポーツカーを愛してやまないご主人に、「申し訳ないけど、後席にチャイルドシートが装着できて、私でも運転できるAT車に買い替えてほしい」とお願いし、クルマ選びを一任したそうです。友人は、どんなミニバンがわが家にやってくるのかと期待していたところ、納車されたのは、まさかの日産「GT-R(R35)」!
最高時速は300キロを超えるというスポーツカー「GT-R」。後席のあるAT車ではありますが……
確かに後席があってチャイルドシートの装着が可能、AT免許で乗れるので、ご主人は友人の出した条件を満たしたことになりますが……。彼女は「もっとちゃんと話し合えばよかった」と苦笑いしていました。
この一件からも、条件が同じでも人によって求めるクルマはまったく別のものになることがわかりますね。今回はそんな、家族みんなが満足できる「ファミリー目線のクルマ選び」を考えていきたいと思います。
まずは、「クルマの性能」と聞いて連想することをあげてみましょう。クルマに詳しい人であれば、エンジンの排気量や形式、トランスミッション(変速機)の種類、駆動方式などをあげる人が多いと思います。でも、そうではない人は、排気量が何ccだとかエンジンが何気筒だとかというメカニズムにはこだわらず、ボディサイズやデザイン、ドアのタイプやシートアレンジといった部分を、クルマの性能として重視することが多いのです。
特にボディサイズは重要項目。「自分でも運転できそうだな」と思えるかどうかがポイントで、自分の手で操れると思えないクルマは最初から候補に入らないと言う人もいます。軽自動車やコンパクトカーの人気が一貫して高いのは、価格や維持費が抑えられるだけでなく、「これなら運転できそう」という親しみやすさを多くの人が抱くことも一因です。
ホンダの軽自動車「N-ONE」。軽自動車やコンパクトカーは扱いやすいサイズから人気が高い
ただ、メルセデス・ベンツ「Cクラス」など、前輪がよく切れるようになっているうえ、低速では逆位相(進行方向と逆方向)に切れるリア・アクスルステアリングのアシストで、予想以上に小回り性能がいいクルマのように、見た目ではちょっと大きいかなと思いつつ、乗ってみると運転しやすいとわかるクルマも、“ギャップ萌え”的な感じで好感度が高い傾向が見られます。
大きさやデザインの次は、インテリア。クルマ好きの人は、メーターが三眼かどうか、シフトレバーがどんな形状か、ステアリングスポークが何本なのか、シートのサポート形状はどうか……というようなところを見ると思いますが、そういう人ばかりではありません。
インストゥルメントパネル、通称インパネのデザインでは、明るい色みや家具のような雰囲気、どこかにセンスのいい個性的なモチーフがあるもの、などに心をつかまれる人が多いと思います。色ならアイボリー、ベージュ、グレージュ、最近ではカーキといったところで、スズキ「ラパン」、ダイハツ「ムーヴキャンバス」、フィアット「500」などのインパネは人気が高いですね。
ルノー「トゥインゴ」のように、ちょっと遊び心のあるモチーフや、DSオートモービル「DS3 CROSSBACK」に見られるヨーロッパのアート作品のような雰囲気、マツダ「CX-30」のように上質でクールな雰囲気も目を惹くと思います。
「ムーヴキャンパス」の明るいインテリア
本格的な走りを好むクルマ好きに人気のシートは、ホールド性にすぐれ、お尻を通じてクルマの挙動が感じ取れるものです。しかしそういうシートは、すべての人にとって必ずしも快適とは言えません。
スポーツ性をいったん脇に置いておき、インテリアという視点からクルマのシートを見てみると、ソファのようで思わず「座ってみたい」と感じる、心地よさそうな厚みのクッションや、ダイヤモンドステッチ、パイピングなどが人気です。レザーならいいというわけではなく、すべすべとしたスエードや、暖かみのあるファブリックも好まれます。もし色や柄が好みではなかったとしても、小さなお子さんがいるファミリーや、アウトドア趣味がある人にとっては、撥水・防汚・消臭機能のあるインテリアも魅力的です。
そして細かいところでは、家族みんなが使えるクルマに、ガラスのUVカット機能はマストです。エアコンの風が顔などに直接当たるのが苦手な人も多いので、吹き出し口の向きや形状もチェックしたいところ。ホンダ「ヴェゼル」には、風が身体に当たらないよう、エアカーテンのように風が出る吹き出し口が装備されていたり、日産「ルークス」や三菱「ekスペース」など、後席に素早くエアコンの風が送れるリヤサーキュレーターが天井に装備されていたりすると、後席に暑がりのお子さんを乗せていても、運転席が寒くならずに快適な室内が保てるので助かります。
「ルークス」に装備されている送風装置「リヤシーリングファン」
快適装備では、「ナノイー」や「プラズマクラスター」など「美容家電」でもおなじみの、お肌や髪にもいい高機能エアコンだと、それだけでもポイントアップ。昨今は花粉やウイルスに悩まされる人も多いので、高機能のエアフィルターが装備されていると安心ですね。
収納スペースも気になりますが、ただ数が多ければいいのではなく、ボックスティッシュを「隠して収納」しつつ引き出しやすい工夫があるクルマはポイント高め。以前スズキのエンジニアに聞いたところ、これを実現するために日本中で売っているボックスティッシュを取り寄せて、ちゃんと引き出せるかを試したほどだそう。
ティッシュケースがピッタリ入るなど、使い勝手を徹底的に研究した「スペーシア」のインパネボックス
次に、ちょっとしたテーブル代わりになるフラットな部分があるかどうか。これは、車内でメイク直しをしたり日焼け止めを塗ったりすることが多い人には、ポーチや容器を置いておける平らなスペースが必要だからです。赤ちゃんを乗せるならば、車内でミルクを作ったり、離乳食をあげたりすることもあり、忙しい人はランチ休憩を車内で取ることもあるため、テーブル代わりになるスペースがうれしいのです。
さらにもうひとつ、ドリンクホルダーが“カップ形状”であることも大事。最近はプッシュオープン式が減ってきましたが、ドリンクホルダーとしてだけでなく、ちょっと外したアクセサリーを無くさないように入れたり、リップクリームやのど飴を入れたり、いろんな使い方をする人がいます。入れたいモノ、持ち運びたいモノが多い人ほど、収納スペースはしっかりチェックしたいところです。
「ムーヴキャンパス」に搭載されるカップ形状のドリンクホルダー。なんと保温機能まで付いています
さてほかに、使い勝手を左右する大きなポイントとして、ドア形状があります。最近は特に、スライドドアが人気。子育て世代に限らず、一度使うと手放せなくなる人が多いのです。場所を取らずに広い開口部が取れるので、大きな荷物などを持ったままでも乗り降りしやすいのは大きなメリット。
パワースライドドアならドアを開けるための力が要らず、風が強い日でも周囲にぶつける心配も不要。小さなお子さんがいる人にはチャイルドシートのお世話がラクだし、後席でオムツ替えなどもしやすい。ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」といった軽自動車の両側スライドドア車や、トヨタ「シエンタ」「ルーミー」、ホンダ「フリード」といったコンパクトボディのスライドドア車が人気なのは、そうした理由が大きいはずです。
スズキ「ワゴンRスマイル」の両側スライドドア。大きな開口部を持ち、楽に開閉できる便利さは一度味わうと手放せなくなる人多数
そしてラゲッジスペース。シートアレンジの豊富さではなく、操作が簡単で、軽くワンアクションでアレンジできるほうがありがたいところです。中学生以上のお子さんがいるなら、自転車が積めるかどうか。これ、かなり重要なポイントです! 朝、お子さんが駅まで自転車で行き、塾や習いごとで遅くなったり帰りに雨が降ったりしたとなったら、クルマでお迎えに出かけますよね。そうなると、お子さんだけでなく自転車も乗せてこなければなりません。この観点からも、「N-BOX」や「スペーシア」など、軽でも自転車が積めるモデルは人気も高いのだと言えます。
「スペーシア」のラゲッジスペースには自転車を積むための溝が備わっています(赤丸部分)
あとは、時代とともに重視する人が多くなっている安全装備ですが、長距離ドライブが多い人なら高速道路の追従機能、ハンズオフ機能などに魅力を感じることも多いと思います。ですが、市街地でのチョイ乗りがメインの人は、車庫入れを助けてくれる「パーキングアシスト機能」や、急に飛び出してくる歩行者や自転車などにヒヤリとしないような衝突被害軽減ブレーキ、SOSコールなど、日常での運転中の不安を取り除いてくれるものに、より魅力を感じる傾向があります。
トヨタ「ノア」「ヴォクシー」に初めて搭載された、一般道でも前走車やカーブなどを検知して、減速をサポートしてくれる「PDA(プロアクティブドライビングアシスト)」や、日産「サクラ」の「プロパイロットパーキング」、多くのクルマに搭載されている360度ビューモニター、誤発進抑制機能などは、とくに「あったらいいな」と思う人が多いと思います。
こうして見てくると、いろんな視点の「クルマの性能」があり、「いいクルマ」の正解は、十人十色だということがわかります。
・ボディの大きさ
・デザインとカラー
・美容健康によくリラックスできる室内、
・収納、ラゲッジスペース、乗降しやすさ
・安全装備を含めた運転しやすさ。
以上の5つをメイン要素として、趣味趣向やライフスタイルに合うクルマを見つけていきましょう。みなさんそれぞれが、運命の1台と出会えますように。
2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。誰でも今日からできる交通安全応援プロジェクト「OKISHU(オキシュー)」でイベント等も開催。