特別企画

独自の魅力を放つスバル「レヴォーグ」の美点と課題を2人のジャーナリストが分析対談

2020年にフルモデルチェンジが行われ、2代目となったスバル「レヴォーグ」。実用性と趣味性を兼ね備えたモデルとして人気が高いが、開発背景やセールス状況などについて、メーカー事情に詳しいモータージャーナリストの渡辺陽一郎氏と、生粋のスバルファンとして名が通る自動車ライターのマリオ高野が真っ向対談!

渡辺陽一郎氏(左)とマリオ高野(右・筆者)。今回はスバル「レヴォーグ」について、業界の大先輩と意見交換しました

渡辺陽一郎氏(左)とマリオ高野(右・筆者)。今回はスバル「レヴォーグ」について、業界の大先輩と意見交換しました

「レガシィ」の後継モデルとして

マリオ高野
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スバル「レヴォーグ」は、今となっては希少なステーションワゴン専用モデルです。消滅した「レガシィツーリングワゴン」と入れ替わるようにして、2014年に初代モデルが登場しました。今も多くのクルマ好きからの支持が高い4代目「レガシィツーリングワゴン」のターボグレード「GT」の実質的な後継モデルとして誕生したのが記憶に新しいところです。

「レヴォーグ」の現行モデル(2代目)、写真のグレードは「STI Sport R」

「レヴォーグ」の現行モデル(2代目)、写真のグレードは「STI Sport R」

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

車名を残すためにクルマとしての中身を大きく変えたトヨタ「クラウン」とは真逆で、クルマの中身を残すために車名を変えて存続を図ったわけだ。

マリオ高野
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はい。いわば、国内のスバルファンのためだけに「レガシィツーリングワゴン」の「GT」を復刻させたクルマであるという、世にも稀なコンセプトから生まれました。4代目「レガシィ」のサイズ感を強く意識して企画されましたが、ステーションワゴンなのにスポーツカーのように速い四駆のターボモデルということで、ルーツは初代「レガシィツーリングワゴン」までさかのぼります。ブランニューモデルでありながら、昔ながらのコンセプトを守り、国内スバルファンからは拍手喝采で歓迎されました。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

5代目のレガシィがサイズアップするなどして車格が変わっちゃったから、日本国内ではあまり売れませんでした。ファン待望の「日本のレガシィ」が復活という感じでしたね。

マリオ高野
マリオ高野

「ライトバンではないスタイリッシュなワゴン=ツーリングワゴン」という市場を開拓したスバルは「レガシィ」でステーションワゴンのブームの火付け役となり、ブームが去ってからもステーションワゴン市場に踏みとどまって成功したと言えます。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

競合がほとんどいなくなっちゃったんですよね。ステーションワゴンは、まだミニバンやSUVの走行性能が低かった時代に、走りとユーティリティーの両方を求める層から絶大な支持を受けてブームとなりました。セダンは古くさく、クーペは不便。普通のハッチバックでは物足りないし、SUVやミニバンは重心が高くて運転が楽しめない。そんな時代にはステーションワゴンを選ぶ理由があったのですが、SUVやミニバンの走りがよくなると、ステーションワゴンの魅力は相対的に低減してしまったわけです。

マリオ高野
マリオ高野

90年代中盤から2000年代初頭にかけてのワゴンブーム期には「打倒レガシィ」を掲げる競合車がたくさんありましたが、それらをことごとく蹴散らし、ワゴンのひとり勝ち状態が続いたのは、スバルファン的に痛快でした。

4代目「レガシィツーリングワゴン」。国内の競合車を蹴散らし、ワゴンブームが去ってもなお高い人気を博し続けた。この4代目モデルは欧州車の性能と質感に迫るレベルとなり、スバル車で初めてカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど名車の誉れが高い

4代目「レガシィツーリングワゴン」。国内の競合車を蹴散らし、ワゴンブームが去ってもなお高い人気を博し続けた。この4代目モデルは欧州車の性能と質感に迫るレベルとなり、スバル車で初めてカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど名車の誉れが高い

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

90年代中盤に盛り上がった「RVブーム」の中核を担ったのがステーションワゴンでしたね。「カルディナ」や「アベニール」、「レグナム」などの人気も高まり、「レガシィ」を意識したターボエンジン搭載のスポーティーな仕様を矢継ぎ早に追加。スポーティーなワゴンが急増した時代で、市場は一気に盛り上がりました。

マリオ高野
マリオ高野

96年夏にビッグマイナーチェンジを実施した2代目「レガシィツーリングワゴン」は、当時の自主規制280馬力に達し、17インチ大径ホイールやビルシュタインダンパーなどを装備して人気が沸騰。その後の「レガシィ」は、スバル車としては空前の記録、月間販売台数1万台を超えて販売ランキングの上位に食い込む快挙を見せます。あれも実に痛快でした。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

ステーションワゴンの歴史をひも解くと、戦前から使われていた車体から派生した「ダットサン・DW2」というのが国産ワゴンの始祖に当たり、マツダ「ルーチェ」や「サバンナ」、トヨタ「クラウン」などにもワゴンが設定され、ごくごく一部の層に定着していただけだったのですが、1989年に登場した初代「レガシィツーリングワゴン」が革新的な人気を博します。

マリオ高野
マリオ高野

ワゴンなのにスポーツカーのように速く、スタイリッシュ。「レガシィツーリングワゴン」はミニバンブームの中でも高い人気を維持しました。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

当時のミニバンは初代「エスティマ」や「バネットセレナ」で、床下エンジンレイアウト。SUVは「パジェロ」な どの本格クロカン四駆が主流で、高速や山道での走りはまだそれほどよくなかったのですが、1995年の初代「オデッセイ」、96年の初代「ステップワゴン」ら、FFレイアウトを採用するミニバンの登場により流れが変わります。FF化されたミニバンや、乗用車的なSUVが増えたことで、荷物がたくさん積めて運転も楽しめるクルマは、ワゴンだけではなくなりました。

マリオ高野
マリオ高野

1996年当時、ホンダの新車セールスマンをしていたので、初代「オデッセイ」や初代「ステップワゴン」は商品力が高く、売りやすいクルマでした。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

40年間ぐらい、ずーっと土の中で潜んでいたのが、急に地上に出て大活躍するも、短期間でいなくなってしまうという、まるでセミのようだと思っていました(笑)。

マリオ高野
マリオ高野

なるほど! スバルファン的には、「どうやっても『レガシィ』に勝てないから、他社は『打倒レガシィ』を諦めて、ワゴンから撤退した」と解釈していました(笑)。ブームが去り、ステーションワゴンそのものが完全に衰退した後も「レガシィ」は市場に踏みとどまり、独占的な状態になったのは事実ですよね。

初代「レガシィツーリングワゴン」。排気量2リッターで当時最強クラスの200馬力の高出力と、スポーツカーのようなハンドリングで大ブレイク。ワゴンボディ車に対する世間のイメージを、「商用ライトバン」から「ツーリングワゴン」へと激変させた立て役者

初代「レガシィツーリングワゴン」。排気量2リッターで当時最強クラスの200馬力の高出力と、スポーツカーのようなハンドリングで大ブレイク。ワゴンボディ車に対する世間のイメージを、「商用ライトバン」から「ツーリングワゴン」へと激変させた立て役者

“国産ワゴン”としての希少な存在

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

2023年現在、国産車のワゴンは「マツダ6」や「カローラ」ぐらいしかなく、「レヴォーグ」の競合は「ゴルフヴァリアント」などの欧州車になっていますよね。日本と違い、欧州には古くからステーションワゴンの文化があって、逆にミニバンやSUVはほとんどなかったから、ワゴンは流行の波とは関係なく常に一定 の層から支持されてきた歴史があります。

フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」。欧州メーカーは人気車種のほとんどにステーションワゴンをラインアップする

フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」。欧州メーカーは人気車種のほとんどにステーションワゴンをラインアップする

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

SUVが全盛となってから販売台数はかなり減ったと思いますが、今でも欧州メーカー各社はステーションワゴンをラインアップしているし、荷物を目一杯積んで快適な高速移動をするために必要なジャンルと認識されていますから、「レヴォーグ」は欧州車的と言えますね。

マリオ高野
マリオ高野

初代「レヴォーグ」が登場してから、スバルディーラーの来客用駐車エリアに停まるクルマの層が明らかに変わりました。ドイツ御三家やボルボのユーザーの代替え検討の対象になることが増えたのです。

渡辺陽一郎
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同時に、マリオさんのような古い世代のスバルファンは少し減った印象もあります(笑)。

マリオ高野
マリオ高野

「レヴォーグ」は、4代目「レガシィ」が好きだった国内スバルファンのために生まれたというのに、実は新規ユーザーに購入されるケースがとても多く、スバル車ユーザーの幅を劇的に広げました。初代「レヴォーグ」の2リッターターボ車は旧「レガシィGT」の直系として認識されましたが、初代「レヴォーグ」の販売の8割を占めた1.6リッターターボ車は、新規ユーザー開拓に大きく貢献したのです。

初代の「レヴォーグ」 は2014年に登場。スバルの裾野を広げる役割を担った

初代の「レヴォーグ」 は2014年に登場。スバルの裾野を広げる役割を担った

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

ブームが去って誰もいなくなった市場に踏みとどまり、愚直に昔ながらのクルマを作り続けたことが奏功した好例ですよね。スバルはミニバンを作らず、軽自動車も自社開発をやめましたが、ミニバン市場は消耗戦だし、軽自動車はあまり儲からない。スポーティーなステーションワゴンは単価を高くできるから、とても効率のよい商売をしていると思います。販売台数が増えてもディーラー数は増やさないところも含めて。

マリオ高野
マリオ高野

ディーラーの数は増えていないものの、建物のリニューアルはどんどん進んでおり、おしゃれで快適なショールームが目立つようになりました。もっと小さなクルマが欲しい、3列シート車が欲しい、といった要望はありますが、いたずらにフルラインアップ化しなかったのはよかったと思います。主流のSUVは充実していますし。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

スバルの場合は、「レオーネ」の時代から悪路走行の性能を磨いてきた長い歴史があるのも強みですよね。たとえばエントリーモデルの「インプレッサ」のような実用車でも、AWDシステムは本格的なものだし、シャシー設計も泥濘路や雪上での走行を前提としている。なので、クロスオーバー化しても本格派のSUVが作りやすい。

マリオ高野
マリオ高野

はい。「レオーネ」は全車とも車高が高く、四輪駆動はガチの本格派。実質全車クロスオーバー車でしたから、そのDNAが受け継がれているのは大きな武器になっていると感じます。既存のクルマの車高を上げて、フェンダーにモールを付けるだけでも、俗に言う“ナンチャッテSUV”にはならないので。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

まさに、そこですよね。AWDシステムやサスペンションのアーム類などがしっかりしていないと、180mm以上の最低地上高のあるクルマは作りにくいものです。車高が高いとユーザーは悪路を走る可能性が出てしまい、思わぬクレームにつながるリスクがあるからです。

マリオ高野
マリオ高野

スバルの場合は、どのクルマも「泥、雪、砂利道もどうぞお楽しみください!」ですからね(笑) FRの「BRZ」でさえ、比較的悪天候に強いことで定評があります。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

「レヴォーグ」がただひとりワゴン市場で生き残れたのも、そういうタフな性能も備えているからでしょうね。スバルだからこそブームに関係なくワゴンが一定の人気を保てるわけです。

「レオーネは」70〜80年代のスバルの主力モデル。乗用車向け四輪駆動車のパイオニアとなったスバルは、「レオーネ」で悪路走破性能の高さを求める層へ訴求。車高は高めで本格派の四輪駆動システムを搭載し、ワゴンはユーティリティーも高かった

「レオーネは」70〜80年代のスバルの主力モデル。乗用車向け四輪駆動車のパイオニアとなったスバルは、「レオーネ」で悪路走破性能の高さを求める層へ訴求。車高は高めで本格派の四輪駆動システムを搭載し、ワゴンはユーティリティーも高かった

好みの分かれるCVT

マリオ高野
マリオ高野

ところで、スバル車のネックとしてよくあがるもののひとつにCVTがあります。渡辺さんは「レヴォーグ」のCVTをどう評価されていますか?

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

ハード的には高効率で低燃費が図りやすいよいミッションだと思いますよ。ストップ&ゴーの多い日本の交通事情にもマッチしますから、国産の小型車は半分以上がCVTを採用しています。

マリオ高野
マリオ高野

「レヴォーグ」のようなスポーツモデルだと「変速時のフィーリングに違和感アリ」と指摘する声が根強くあります。そのため、現行型「レヴォーグ」は「CVTの逆襲」とうたいながらステップ変速の切れ味を鋭くし、デュアルクラッチ式のような小気味よい変速フィールを追求したのですが。

スバルは無段変速機と呼ばれるCVTを世界で初めて大量生産車に採用(1987年の「ジャスティ」)。以来35年以上にわたり進化熟成を図ってきた。変速ショックのないスムーズさと高効率な動力伝達性が特徴だが、独自の変速感覚は好き嫌いが分かれるところ

スバルは無段変速機と呼ばれるCVTを世界で初めて大量生産車に採用(1987年の「ジャスティ」)。以来35年以上にわたり進化熟成を図ってきた。変速ショックのないスムーズさと高効率な動力伝達性が特徴だが、独自の変速感覚は好き嫌いが分かれるところ

「CVTの逆襲」と銘打って、スポーツ志向の高いユーザーに訴求する「スバルパフォーマンストランスミッション」は、CVTを有段変速機のような味付けにしたトランスミッション。これを搭載する「レヴォーグ STI Sport R」のステアリングにはシフトパドルが備わる

「CVTの逆襲」と銘打って、スポーツ志向の高いユーザーに訴求する「スバルパフォーマンストランスミッション」は、CVTを有段変速機のような味付けにしたトランスミッション。これを搭載する「レヴォーグ STI Sport R」のステアリングにはシフトパドルが備わる

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

一部のマニアは今でも指摘するのかも知れませんが、本来CVTは段付きのない滑らかな変速がウリのミッションなので、段付きにするのは本末転倒のような気がしますが……そういう部分を気にして躍起になって開発するのはスバルらしいですよね。CVTのパイオニアとしての意地もあるのでしょう。

マリオ高野
マリオ高野

2.4リッターターボ用のCVTは「変速フィール」の改善にすべてを費やしています(笑)。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

アクセルを踏んだときの感覚と加速感のズレが嫌だというのはわかりますが、低回転域からトルクの出るターボエンジンは回転をむだに上げる必要がないので、今の「レヴォーグ」は加速とエンジンの回転上昇が比較的比例してますよね。フィーリング面でも問題はないでしょう。

マリオ高野
マリオ高野

サーキット走行でもATは「Dレンジ」に入れっ放しのほうが速いぐらい、変速の制御にもこだわっています。

渡辺陽一郎
渡辺陽一郎

トップスポーツモデルのCVTはそういうマニアックなこだわりを見せるいっぽう、CVT本来の利点を生かした低燃費性能にもさらなる力を入れて欲しいですね。

マリオ高野
マリオ高野

同感です。本日はありがとうございました。

マリオ高野

マリオ高野

1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。

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レヴォーグ 2020年モデルの製品画像
スバル
4.31
(レビュー116人・クチコミ4964件)
新車価格:310〜576万円 (中古車:219〜636万円
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