メルセデス・ベンツ日本は、プレミアムコンパクトセグメントに属する「Aクラス」のハッチバックとセダン、そして余裕ある室内空間や高いユーティリティー性などが特徴的な「Bクラス」、2車種のマイナーチェンジモデルを発表した。
メルセデス・ベンツの「Aクラス」(右)と「Bクラス」(左)に、マイナーチェンジが施された。どちらも、外観はさらにスタイリッシュになり、ユーザーからの要望によって利便性が高められるなどの正常進化が図られている
今回は、新型「Aクラス」「Bクラス」の魅力やラインアップの特徴などについて解説しよう。
まずは、「Aクラス」と「Bクラス」におけるそれぞれの歴史について、少し触れておきたい。小型で高い安全性を有するクルマがほしいという市場からの要望を受け、1997年にメルセデス・ベンツ初の前輪駆動車として「Aクラス」が誕生した。「Aクラス」は、万が一の衝突の際にエンジンが乗員の生存空間を潰さないよう、下に滑り落ちる「サンドイッチコンセプト」を採用したことで話題となった。そして、2005年2月にこのサンドイッチコンセプトを踏襲した2代目の「Aクラス」にフルモデルチェンジされる。トランスミッションにメルセデス初のCVTを採用するなどの進化が図られた。
2005年にフルモデルチェンジされた、2代目「Aクラス」
2013年1月には、3代目の「Aクラス」が発表される。若返ったデザインによって、新たな顧客の獲得に成功する。当時、コンパクトクラスでありながら先進の運転支援システムを採用するなど、充実した装備を備えたメルセデス・ベンツならではのコンパクトカーであった。
2013年にフルモデルチェンジされた、3代目の「Aクラス」
そして、2018年10月に4代目の現行モデルが発表され、さらに2019年7月にはセダンが追加される。4代目には、「Hi,メルセデス」で起動してナビゲーションのセットやエアコンの調整ができるインフォテインメントシステムやMBUX(Mercedes Benz User Experience)の採用のほか、運転支援システムをさらに向上させた。
2018年にフルモデルチェンジされた、4代目(現行モデル)の「Aクラス」。画像はハッチバックモデル
さて、続いては「Bクラス」だが、2006年1月に初代モデルが登場する。「Bクラス」は、室内の広さを「Aクラス」よりも拡大したこともあって、日本において瞬く間に人気車となった。そんな「Bクラス」は、2012年4月にフルモデルチェンジされて、2代目へと進化。運転支援システムが採用され、さらに人気のクルマとなった。現行モデルの3代目は、2019年6月に発表。4代目の「Aクラス」と同様にインフォテインメントシステム、MBUXの採用や、運転支援システムをさらに向上させたクルマとして現在にいたっている。
2019年にフルモデルチェンジされた、現行モデルの3代目「Bクラス」
「Aクラス」と「Bクラス」の購入ユーザー層について、メルセデス・ベンツ日本 営業企画部 商品企画2課の木下潤一さんは、「Aクラスは、日本車やほかの輸入車からの乗り替えが多く、そこからCLAやCクラス、GLAなどへステップアップされます。いっぽう、Bクラスは自社の代替が多く、BクラスからBクラスへと乗り換えるお客様も多いバランス型になります」と言う。特に、メルセデス・ベンツ日本の社内においても他社から「Aクラス」への乗り換えは非常に多いそうだ。
さて、ここからは新型「Aクラス」と「Bクラス」の改良点について述べていこう。まず、最大のポイントはエクステリアデザインだ。
「Aクラス」は、ボンネットにパワードームと呼ばれるデザインが採用され疾走感のあるイメージになり、前傾したフロントエンドや水平基調のヘッドライトが採用されることによって、フロントフェイスはよりシャープな印象となっている。フロントグリルは、マットクローム仕上げの小さなスリーポインテッドスターが無数に散りばめられた、シングルルーバータイプのスターパターンフロントグリルが新たに採用された。
新型「Aクラス」のフロントエクステリア
また、「Aクラス」のスポーティーな性格を強調する、新たなデザインのホイールが装着されている。リアは、新デザインのコンビネーションライトやリアバンパー下部のディフューザーの形状が変更されることで、よりスポーティーかつパワフルな印象となっている。
新型「Aクラス」のリアエクステリア
いっぽう、「Bクラス」は新デザインのLEDヘッドライトやスポーティーなフロントバンパー、「Aクラス」と同様にスターパターンが散りばめた新デザインのフロントグリルのほか、アルミホイールも新しいデザインが採用されるなどによって、さらにスポーティーさが強調されている。
新型「Bクラス」のフロントエクステリア
リアは、新デザインのリアディフューザーとツーピース構造のLEDリアコンビネーションライトを採用することで、ワイド感が強調されたダイナミックなリアビューとなっている。
新型「Bクラス」のリアエクステリア
インテリアについて、大きく変化したのはセンターコンソール周りだ。これまでは、タッチパッドやダイヤルなどでカーナビなどを操作していたのだが、それらが一切なくなったのだ。その理由として、タッチスクリーンのほうが利便性が高いというユーザーの声とともに、機能が増えていくとダイヤルだけでは対応しきれないという側面もあることから、改良に踏み切ったようだ。
新型「Aクラス」のインテリア
そしてもうひとつ、機能面の進化としてあげたいのが、ステアリングホイールに静電容量式センサーが備わったことだ。直進安定性の高い「Aクラス」や「Bクラス」では、これまでのトルク感応型だとアダプティブクルーズコントロール(メルセデス・ベンツでは「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と呼ぶ)を使用している場合、ステアリングを握っていても修正舵を与えていないことが多くなるため、クルマ側ではステアリングを握っていないと勘違いされ、きちんと握るように警告が出てしまっていたので、それが改善されるのはうれしいところだ。
また、MBUX関連ではナビゲーションが大幅に進化し、「ARナビゲーション」となったことにも注目したい(A180はオプション、そのほかのグレードは標準装備)。「ARナビゲーション」は、前方の映像をタッチスクリーンに映し出し、その映像へ被せるように進行方向を映し出してくれるもの。リアルな映像に方向指示が出るために、わかりやすさでは群を抜いていると、メルセデス・ベンツの担当者は説明する。
「Aクラス」「Bクラス」の日本仕様に搭載されるエンジンは、どちらも共通で2種類あり、マイナーチェンジ前からのキャリーオーバーとなる。ひとつは、「Aクラス」および「Bクラス」の180グレードに搭載される、1.4リッターガソリンターボエンジン「M282」で、最高出力は136PS、最大トルクは200Nmを発生させる。もうひとつは、200dグレードに搭載されるディーゼルターボエンジンのOM654型で、最高出力は150PS、最大トルクは320Nmになる。
ちなみに、これまで存在していたAMGモデルについては、本国の生産体制や船積みの関係で、今回の発表からは若干遅れて追加されるとのこと。また、マイナーチェンジ前にあったプラグインハイブリッドモデルは、今回はカタログ落ちとなった。その理由について、前出の木下さんは、「欧州の流れもあるのですが、電気自動車が増えてきており、AクラスではEQA、BクラスではEQBがあり、好評いただいています。そこで、今回はプラグインハイブリッドをなくして、ガソリンとディーゼルに特化させるとともに、車名は異なりますが、電気自動車というラインアップとしています」とコメントする。
新型「Aクラス」ハッチバック(左)と同セダン(右)
新型「Bクラス」のエクステリアイメージ
本国ですでに発表されているように、メルセデス・ベンツは今後、収益性の高い高級モデルとEVに注力していく。したがって、2025年には「Aクラス」「Bクラス」は廃止される見通しと伝えられている。方向性としては、EQAとAクラスを、そしてEQBとBクラスをそれぞれ一本化するのではないかと思われる。
いずれにせよ、内燃機関のみの「Aクラス」「Bクラス」はこれが最後となるかもしれない。こういった話を聞いたことがあるだろうか。「最後のメルセデスは、最良のメルセデス」と。つまり、「Aクラス」「Bクラス」ともに現行車としては今回が最後の改良である可能性が高く、熟成されて完成の域に達したと言ってもよさそうだ。ARナビゲーションなど、「Sクラス」などに採用されている装備が搭載され、安全運転支援システムもバージョンアップしている。そのようなことを踏まえると、「Aクラス」「Bクラス」の購入を検討しているならば、今がよいチャンスと言えそうだ。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。