レビュー

新グレードのスバル「フォレスター STI Sport」。雪上試乗で味わった絶大な安心感

2022年8月、スバルのクロスオーバーSUV「フォレスター」へ、新たに「STI Sport」と呼ばれる新グレードが追加設定された。今回、その新グレードを雪上で試乗する機会が得られたのでレポートしたい。

2022年8月に、スバル「フォレスター」の新グレードとして追加設定された「フォレスター STI Sport」。今回は、同車を雪上路で走行することで、「フォレスター」の走破性の高さを改めて検証してみた

2022年8月に、スバル「フォレスター」の新グレードとして追加設定された「フォレスター STI Sport」。今回は、同車を雪上路で走行することで、「フォレスター」の走破性の高さを改めて検証してみた

フォレスターの製品画像
スバル
4.41
(レビュー691人・クチコミ52073件)
新車価格:299〜363万円 (中古車:29〜398万円

まずは、新グレードのベースモデルである「フォレスター」現行モデルの概要について説明しよう。2018年6月に、5代目となる現行「フォレスター」がデビューした。5代目は、スバルの重要な世界戦略車として、新たにSGP(SUBARU GLOBAL PLATFORM)と呼ばれる新プラットフォームを採用。クラストップレベルの安全性能やドライバーの意志に忠実なハンドリング、快適な乗り心地などを実現している。また、「フォレスター」で初のハイブリッドモデルとなる「e-BOXER」搭載車が新たにラインアップされたほか、スバルの安全運転支援機能である「アイサイト ver.3」に加えて、全車速追従クルーズコントロール機能を備える「アイサイト・ツーリングアシスト」を全車標準装備したのも注目のポイントだ。

2018年にフルモデルチェンジされた、5代目「フォレスター」。画像は発表会時のもので、グレードは「Advance」

2018年にフルモデルチェンジされた、5代目「フォレスター」。画像は発表会時のもので、グレードは「Advance」

そして、「フォレスター」はフルモデルチェンジ後もほぼ毎年のようにA型、B型と一部改良が加えられ、2021年8月には大幅改良が施されてD型となった。D型のポイントは、5代目となってから初めて外装、特にフロントフェイス周りに手が入れられたことと、「アイサイト」がステレオカメラの広角化やソフトウェアの改良によって、精度がさらに向上したことが挙げられる。

2021年に大幅改良が施された「フォレスター」(D型)。新デザインのエクステリアが採用されているほか、「アイサイト」が新世代のものへとバージョンアップしており、安全性能をさらに向上させている

2021年に大幅改良が施された「フォレスター」(D型)。新デザインのエクステリアが採用されているほか、「アイサイト」が新世代のものへとバージョンアップしており、安全性能をさらに向上させている

そして2022年8月、スバルはレース部門などで培った技術をもとに、日常のドライブ領域における“ドライバーとクルマの一体感”を目指して開発された、「フォレスター STI Sport」を発表した。

2022年8月に、5代目「フォレスター」の追加モデルとして発表された「フォレスター STI Sport」。サスペンションにチューニングを施すことでタイヤの接地性や乗り心地の向上が図られているほか、上質でスポーティーな内外装が採用されている

2022年8月に、5代目「フォレスター」の追加モデルとして発表された「フォレスター STI Sport」。サスペンションにチューニングを施すことでタイヤの接地性や乗り心地の向上が図られているほか、上質でスポーティーな内外装が採用されている

重心の高いSUVに合わせた専用のチューニングが施されることで、スポーツセダンのような操縦安定性と上質な乗り心地を両立させているという。フロントサスペンションには、快適な乗り心地と俊敏でスポーティーな走りを高次元で両立する、日立Astemo製の「SFRDフロントダンパー」を採用。コーナーリング時など、ボディに大きな入力が加わった際には高い減衰力を発生させてロールを抑制し、タイヤの接地性を向上。そして、通常走行時は低い減衰力でロードノイズなどの車両に伝わる微振動を軽減する。また、フロントサスペンションの特性に合わせて、リヤサスペンションにも専用のチューニングが施され、車体全体のバランスを最適化することでリヤのスタビリティを高めているという。

なお、搭載されるパワートレインは、1.8L水平対向4気筒DOHC直噴ターボ“DIT”にマニュアルモード付リニアトロニック(CVT)が組み合わされたもので、同グレードにはe-BOXERは設定されていない。

フラット感が増した足回り

では、いよいよ試乗へと移ろう。試乗日は2023年2月下旬で、今回は積雪路を走行するため東京から新潟県・越後湯沢のさらに奥にある松之山温泉を目指した。ちなみに、試乗した「フォレスター STI Sport」に装着されていたスタッドレスタイヤは、ヨコハマの「iceGUARD SUV G075」であった。

まず、クルマのキーを受け取り、ドアを開けてシートに腰を下ろすと、インテリアの上質さがすぐに伝わってくる。「フォレスター STI Sport」の内装は、ブラックパーツをあしらうことによって、引き締まった大人のスポーティーなテイストが表現されている。さらに、ボルドー&ブラックの専用ナッパレザーシートによって、快適かつ上質な空間が作り上げられている。特に、黒基調ながらポイントにボルドーがあしらわれた色調は、落ち着いた印象の中に華やかさを感じさせてくれるものだ。

「フォレスター STI Sport」のインテリア。ドアを開けると、ブラック&ボルドーでシックに仕立てられた上質な室内空間が広がる

「フォレスター STI Sport」のインテリア。ドアを開けると、ブラック&ボルドーでシックに仕立てられた上質な室内空間が広がる

ちなみに、今回試乗したスバルの広報車は地下駐車場に停められており、地上までアプローチするには狭いコーナーや駐車ゲートを潜り抜けなければならない。だが、「フォレスター」は着座位置が高く、前方の視界が良好なので狭い場所でも安心して通過できる。さらに、路上へ出るまでには少し大きめの段差を乗り越えるのだが、STIチューンのダンパーの影響もあって、そのショックは固めながらも角の取れたもので好印象であった。

A型(つまりデビュー時)に試乗した「フォレスター」では、このようなシーンにおいては妙に突っ張ったような抵抗感のある乗り心地だったと記憶していたので、筆者は乗り始めてすぐに「フォレスター STI Sport」に好感触を抱くようになった。そこから、しばらく市街地を走らせてみても、やはりA型との比較にはなるものの、そのフラットさははるかに向上していると感じられた。

さて、高速道路へとシーンを移すと、クルマ全体としての静粛性は比較的高いと言えそうだ。後述するが、ドアがサイドシルまで回り込んでいることがその効果を生んでいるようだった。高速道路での乗り心地については、引き締まってはいるもののダンパーがいい方向に効いていて、フワフワした感覚ではなく固くもない、とてもバランスの取れた乗り心地のよさだった。さらに、シートそのものもよくできていて、長距離の移動ながらほぼ疲れ知らずであったことも付け加えておきたい。

フロントサスペンションには、STIがチューニングを施した日立Astemo製「SFRDフロントダンパー」が装着される

フロントサスペンションには、STIがチューニングを施した日立Astemo製「SFRDフロントダンパー」が装着される

いっぽう、直進安定性についてはあまり高くはなかったのだが、これについてはスタッドレスタイヤの影響が少なくないと思われる。また、アクセルペダルを全閉にした後にすぐに踏み込んだ時など、加速にタイムラグがあることに違和感を覚えた。少々ギクシャクした動きになるので、高速道路など一定速度での巡行には気を使う。

だが、そこで活躍するのが「アイサイト」だ。「アイサイト」は自動運転ではないので、ドライバーの責任の下、適宜操作をしなければならないしステアリングも常に握っていなければいけない。しかし、たとえば加減速やステアリング操作などをアシストしてくれるので、前述したアクセルレスポンスの鈍さを見事に補ってくれるのだ。

さらに、これまでの「アイサイト」は前走車がいなくなると、たとえその先に別の前走車がいても設定速度まで一気に加速し、そのクルマに追いつくと強めにブレーキをかけて減速するといった傾向があった。だが、バージョンアップした新型ではその頻度は減少し、前方が空いても前走車がある程度先にいると認識すれば緩やかに加速し、そこからエンジンブレーキなどを使いストップランプをつけないようにしながら減速するといったマナーを身に着けていた。ただ、もともとアイサイトの癖のひとつだったレーンキープアシストの設定位置が車線中央から若干左寄りというポジションは変わらず、大型車などの追い抜きには神経を使い、クルマを少し中央寄りにステアリング操作をしなければならなかったことも付け加えておきたい。

さて、いよいよ今回のメインである雪上試乗について。冒頭で述べたとおり、東京から松之山温泉を目指すと片道でおよそ200kmになるので、高速道路やワインディングを含めた雪道を試せると考えた。

松之山温泉にて撮影。2月下旬で全国的に雪は少なくなってきていたものの、積雪の多い新潟県を目的地としたことから、雪上における「フォレスター」の実力の高さを存分に味わうことができた

松之山温泉にて撮影。2月下旬で全国的に雪は少なくなってきていたものの、積雪の多い新潟県を目的地としたことから、雪上における「フォレスター」の実力の高さを存分に味わうことができた

そして、その目論見は成功し、関越道の土樽PAからチェーン規制(スタッドレスタイヤ以上)となり、高速道路を降りて目的地に近づくにつれて雪の壁に囲まれていく。当然、路面も雪がしっかりと残り、日向ではシャーベット状に、日陰ではブラックアイスバーンというなかなかに過酷な状況となった。さらに、道中はワインディングも多く、さらにアップダウンも伴うので気が抜けない道のりだった。

だが、そういったシーンにおいて「フォレスター」は、SUVならではの実力の高さを見せてくれた。まず、アイポイントが高いことから路面をしっかりと見極められ、かつ見晴らしがいいので運転中は高い安心感が得られた。さらに、ブレーキペダルを踏んだ時のコントロール性の高さも秀逸だ。たとえば、ロックしそうなポイントを探る際の微妙なブレーキコントロールがしやすく、わずかな踏力の変化もリニアに受け付けてくれるので、自信を持ってブレーキ操作することができるのだ。そして乗り心地は、雪で凸凹になってしまった路面においてもしっかりとショックを吸収してくれて、かつシートのホールドも適切なので雪上路においても無用な疲れを誘発することがない。今回、「フォレスター」を雪上で試乗することによって、その魅力をたっぷりと味わうことができた。

「フォレスター」は、アイポイントの高さや見晴らしのよさから、雪上路において安全に走行することができる。さらに、「STI Sport」グレードに採用されているチューニングサスペンションのおかげか、ブレーキコントロールもリニアで雪上路においても自信を持ってブレーキを操作することができた

「フォレスター」は、アイポイントの高さや見晴らしのよさから、雪上路において安全に走行することができる。さらに、「STI Sport」グレードに採用されているチューニングサスペンションのおかげか、ブレーキコントロールもリニアで雪上路においても自信を持ってブレーキを操作することができた

いっぽう、唯一残念だったのが、高速道路でも感じていたアクセルレスポンスの鈍さだ。これはCVTの特性もあるのだが、一定開度で走らせているとトルクが落ちてしまい、そこから踏み込むとトルクが出過ぎてしまうといった現象が見られた。そこで、エンジンブレーキなども考慮して、積極的にパドルシフトを操作したり、シフトレバーをマニュアルモードにしたりすると、かなり運転操作が楽になった次第だ。

だが、気になったのはそれだけで、本当にグランドクリアランス(最低地上高)の高さが安心感へとつながることには感嘆した。どこに段差が隠れているかわからず、結構深めの轍があるシーンも見受けられたのだが、「フォレスター」はそのようなことを気にもせず、グイグイと雪道を進んでいける頼もしさを持ち合わせていた。さらに、シンメトリカルAWDもすぐれたもので、最初はSNOW/DARTモードなどを選択してみたりしたのだが、最終的にはNORMALモードだけで走り通してしまった。つまり、よほどのことがないかぎり、NORMALモードで十分な性能を発揮してくれるというわけだ。

雪壁ができるほどの雪道を走行しても、「フォレスター」はNORMALモードだけで走りきってしまう。その実力の高さは、底知れないと感じる

雪壁ができるほどの雪道を走行しても、「フォレスター」はNORMALモードだけで走りきってしまう。その実力の高さは、底知れないと感じる

そして、もうひとつうれしいことに、SUVで雪道などを走った後の乗降時、大概のクルマのサイドシルには雪や泥跳ねが付着しており、パンツやスカートを汚してしまいがちなのだが、「フォレスター」は前述したようにサイドシルを覆う形でドアが設計されているため、そういった気遣いが一切無用だったことだ。このように、大小さまざまな面において、「フォレスター」は総合雪国性能の高さを十分に感じさせてくれた。

「フォレスター」は、走破性の高さを特徴とするクロスオーバーSUVでありながら、サイドシルなど細かな点にも配慮されている。このようなところが、「フォレスター」やスバル車が人気を得ている大きな理由のひとつなのだろう

「フォレスター」は、走破性の高さを特徴とするクロスオーバーSUVでありながら、サイドシルなど細かな点にも配慮されている。このようなところが、「フォレスター」やスバル車が人気を得ている大きな理由のひとつなのだろう

雪道というシチュエーションにおいて、スバル車は何のためらいもなく、またドライバーにストレスを極力与えずに、安全に目的地にたどり着けるという根本的な思想のもとに開発されていることが、今回「フォレスター」を試乗することで改めて理解できた。たしかに、アクセルレスポンスなど気になる点も多少はあるが、それはドライバーがクルマの機能を使いこなすという視点を持てば解決策も見えてくる。それさえわかれば、あとはスバルの絶対的な価値である雪国での総合的な使い勝手を含めた性能を満喫できるだろうし、それを見据えていなければ、面倒なサイドシルを覆う形のドアの設計やシンメトリカルAWDなどを採用したりはしないはずなのだ。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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