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伝統のロータリーエンジンを電動モデルに搭載! 「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」が日本初公開

マツダはヘリテージカーイベントの「オートモビルカウンシル2023」で、ロータリーエンジンを初めて発電機として搭載したPHEV(プラグインハイブリッド)、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」(欧州仕様車)を、日本初公開した。今回は、マツダの関係者に話をうかがいながら、同車の特徴などについてレポートしよう。

マツダは、欧州で発売されるPHEV、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」を日本初公開した。ロータリーエンジンを、初めて発電機として搭載していることが最大の特徴だ

マツダは、欧州で発売されるPHEV、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」を日本初公開した。ロータリーエンジンを、初めて発電機として搭載していることが最大の特徴だ

MX-30の製品画像
マツダ
3.91
(レビュー45人・クチコミ969件)
新車価格:264〜501万円 (中古車:183〜3456万円

欧州では若年層も注目する「ロータリーエンジン」

以前から、ロータリーエンジンをレンジエクステンダーEV(発電用エンジンを備えた電気自動車)で復活させるという話はあったものの、それが「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」として世界初公開されたのは、2023年1月にベルギーで開催されたブリュッセルショーでのことだった。

「MX-30」は、マツダ初の量産型EV、およびマイルドハイブリッド車として、同社の電動化をけん引してきたクルマだ。そして、新たに登場したPHEV(プラグインハイブリッド車)の「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」は、17.8kWhのリチウムイオンバッテリーの搭載によって85kmのEV航続距離を備え、ロータリーエンジンが発電機を担うことによって、さらなる長距離走行を可能とするモデルだ。

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」のフロント&リアエクステリア。全体的な外観は、ほかの「MX-30」モデルと大きくは変わらない

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」のフロント&リアエクステリア。全体的な外観は、ほかの「MX-30」モデルと大きくは変わらない

新開発された発電用ロータリーエンジンは、高出力モーターやジェネレーターと同軸上のモータールームに配置されている。ロータリーエンジンに電動駆動ユニットやリチウムイオンバッテリー、50Lの燃料タンクを組み合わせることによって、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」は独自のプラグインハイブリッドシステムを実現している。また、普通充電と急速充電のどちらにも対応した充電口や1500Wの給電機能のほか、シーンに合わせて「EVモード」「ノーマルモード」「チャージモード」の3つの走行モードを選択できる。

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の充電口は右側(運転席側)後方に備えられており、普通充電と急速充電の両方に対応している

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の充電口は右側(運転席側)後方に備えられており、普通充電と急速充電の両方に対応している

ヨーロッパで初披露した際の反響について、マツダ コーポレートコミュニケーション本部 コミュニケーション企画部の小宮山裕介さんは、「想像以上に、ロータリーエンジンに対するお客様の期待の高さを感じました」と、そのときの印象を語る。そして、「ロータリーエンジンに慣れ親しんだ世代の人たちだけでなく、若い人たちにも思った以上に興味を持っていただけていることを肌身で感じました。それは、とてもうれしかったですね」と言う。さらに、今回の発表をきっかけとして、「『MX-30』にも、関心を抱いてもらえているようです」とのことだった。

ロータリーエンジンのメリットはコンパクトさ

日本市場への投入時期は“近い将来”とのことで未定なのだが、発売されれば「MX-30」のラインアップは、バッテリーEVの「e-SKYACTIV EV」、マイルドハイブリッドの「e-SKYACTIV G 2.0」、そしてPHEVの「e-SKYACTIV R-EV」の3車種になるはずだ。そこで、それぞれのパワートレインについて日本ではどのようなユーザーが適しているのか、マツダに聞いてみた。

右がバッテリーEVの「e-SKYACTIV EV」で、左がバッテリーEVの「e-SKYACTIV G 2.0」

右がバッテリーEVの「e-SKYACTIV EV」で、左がバッテリーEVの「e-SKYACTIV G 2.0」

まず、「e-SKYACTIV EV」は、「環境に対する貢献意識が高く、比較的シティコミューターに近いような使い方が中心の人々でしょう」。そして、「e-SKYACTIV G 2.0」は、「普段使いから遠出まで、クルマを幅広く利用される人に向いています。技術的な環境貢献はしながらも、クルマの使い方をガソリンエンジン車と変えずに乗り続けていただけます」。そして「e-SKYACTIV R-EV」は、「ちょうど、その中間のイメージです。現在、EVシフトが進んでいるので環境貢献をしたいけれど、航続距離や充電環境が心配という人にマッチするでしょう。特に、日本ではマンションにお住まいの人も多いでしょうから、なかなかバッテリーEV導入に踏み切れないという人も多くいらっしゃいます。そのような人々へ、EVとして使いながらも不安を払拭できる新たな選択肢になります」と話してくれた。

また、気になるのが発電をロータリーエンジンで行うメリットについて、だ。新たに開発しなくとも、たとえば日産の「e-POWER」のように既存のエンジンを利用できるのではないだろうか。すると、小宮山さんは「どんな形であっても、ロータリーエンジンを作り続けるということは、我々の大事な使命だと思っています」とメーカーの思いを語ったうえで、「EVにシフトしていくなかで、もちろん電動での航続距離は稼がなければいけません。『e-SKYACTIV R-EV』には、17.8kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されていますので、ヨーロッパ基準で85kmくらいはピュアなEVとして走行できます」。つまり、満充電にできる環境があれば、日常使いではバッテリーによるEV走行だけで済む。

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」に搭載されている発電用ロータリーエンジン

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」に搭載されている発電用ロータリーエンジン

クルマ移動は短距離ばかりではないと考えたマツダは、「パラレル式(エンジンが発電もタイヤの駆動も行う方式)」も考えたのだそう。だが、EVとして使ってもらえるよう、可能な限りモーターだけで動くようにしたかった。そうすれば、「e-SKYACTIV EV」で培ってきたモーター駆動の制御技術がそのまま使えるからだ。しかしここで問題が生じた。欧州市場を見据えていることから、最高速度で140km/hくらいまではモーターだけで走らせることを考えた際に、「モーターの出力を上げないといけないのですが、そうするとモーターをより大きくしなければなりません。そこへエンジン、たとえば4気筒や3気筒のレシプロエンジンを載せると、『MX-30』に納まらなくなってしまうのです」。

そこで、コンパクトなロータリーエンジンの出番だ。ロータリーエンジンは置き方の自由度が高く、上下左右、いざとなったら寝かせて搭載することも可能なことから、ロータリーエンジンを発電用と割り切って採用したという。

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」は欧州での高い平均速度をPHEVで実現するため、モーターを大きくするとともにエンジンを小さくする必要があり、ロータリーエンジンが選ばれたという

「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」は欧州での高い平均速度をPHEVで実現するため、モーターを大きくするとともにエンジンを小さくする必要があり、ロータリーエンジンが選ばれたという

もちろん、既存のロータリーエンジンをそのまま搭載するわけではなく、技術的な改良も加えられている。最も大きなトピックは、ロータリーエンジン初の直噴化だ。「燃焼室の中に、いちばん吹きたいタイミングと場所へ効率的に燃料を吹くことができますので、一回の爆発できれいに、急速に燃やすことができます。同時に圧縮比も上げていますので、結果として最大で25%ぐらい効率が上がっています」と言うから相当なものだ。ロータリーエンジンのポテンシャルを、うまく引き出すことに成功したと考えていいだろう。

ロータリーエンジン好きがよろこぶ細かな演出

今回展示された「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」は欧州仕様だったので、最後に、日本仕様との違いについて聞いてみたのだが、その違いはほぼなさそうだ。もちろん、認証のモードが異なるので航続距離などに差異は出るだろうが、その差はわずかだろう。内外装の違いなどもあまりないものと考えられる。

ちなみに、今回の展示車は「Edition R」と呼ばれる特別仕様車で、ボディカラーが黒とマルーンルージュのツートーンになっている。このマルーンルージュは、「R360クーペ」のルーフ色を復刻したものだ。

オートモビルカウンシルに展示された、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の特別仕様車「Edition R」

オートモビルカウンシルに展示された、「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の特別仕様車「Edition R」

そのほか、「Edition R」ならではの仕様としては、シートのヘッドレストにエンボス加工が、フロアマットにオーナメントが入っていたりする。そこへスペシャルなタグが取り付けられており、そのタグにある白い線はロータリーエンジンのアペックスシールの幅と同じになっているというこだわりようだ。

「Edition R」のフロントシートに刻印されたヘッドレスト(上)と、フロアマットのタグ(下)

「Edition R」のフロントシートに刻印されたヘッドレスト(上)と、フロアマットのタグ(下)

そのようなこだわりのひとつとして、キーフォブ(リモートキー)がある。「MX-30」のチーフデザイナーである、マツダ デザイン本部 チーフデザイナーの松田陽一氏がデザインしたもので、マツダ 国内営業本部 国内商品マーケティング部の岩本麻美さんによると、「とにかく、ロータリーエンジン好きの方に愛でていただきたい」という思いが込められているという。ロータリーエンジンのローターのアールとキーフォブの面のアールを合わせ、サイドのスリット部分をアペックスシールの幅と合わせることで、手の中でロータリーエンジンを感じてもらえるように作り上げた。「ロータリーエンジンが好きな方に、少しでも楽しんでもらえるようにちょっと細工を施しています」と岩本さんは語った。

キーフォブは、ロータリーエンジンを再現するために面の曲率をロータリーエンジンのローターと同じにするとともに、サイドスリットをアペックスシールの幅と合わせるなど、こだわりの詰まったデザイン

キーフォブは、ロータリーエンジンを再現するために面の曲率をロータリーエンジンのローターと同じにするとともに、サイドスリットをアペックスシールの幅と合わせるなど、こだわりの詰まったデザイン

マツダの“飽くなき挑戦”の象徴

オートモビルカウンシルのプレゼンテーションにおいて、マツダ 取締役専務執行役員の青山裕大氏は、ロータリーエンジンファンの熱い思いを受け止め、「私たちマツダは、ロータリーエンジンを諦めたくない。やはり、作り続けたい」と、マツダの思いを語った。そして、「私たちは2012年以降、ロータリーエンジンの量産をしばらくストップしていました。ロータリーの灯がここで消えてしまうのではないか。特に、ロータリーファンの皆さまには本当に心配をおかけしてきました。しかし、ロータリーエンジンは、私たちマツダの“飽くなき挑戦”の精神の象徴であり、マツダのアイデンティティーとして、未来へ受け継いでいかなければいけないものです」と語る。そして、「ロータリーには、まだまだ可能性があります。私たちマツダ全員の思いと情熱があります。どのような形でも、たくさんではなくても、作り続けることが大事であると考えています」とコメントした。

ここからも窺えるように、マツダの不屈の精神が今回のロータリーエンジン復活劇となったのだ。これまでも、何度もロータリーエンジンは消滅の危機にさらされてきた。しかし、その都度マツダのエンジニア魂によって、その荒波を乗り越えてきた。今回の展示では、1970年代に公害対策のため、各社が動力性能を落として対応するなか、従来性能を維持したまま燃費を改善したロータリーエンジンの開発に成功し、業界に先駆けて排ガス規制をクリアしたことから、“アンチポリューション”の頭文字を取った“AP”の名を冠した「コスモAP」と、マツダが世界で初めて実用化した水素ロータリーエンジン搭載車、「RX-8 ハイドロジェン」が展示されていた。マツダのロータリーエンジンが、性能に妥協せず、環境対応も可能にした歴史を振り返り、それが未来にもつながっていることをアピールしたのだ。

オートモビルカウンシルへ展示された、「コスモAP」(上)と「RX-8 ハイドロジェン」(下)

オートモビルカウンシルへ展示された、「コスモAP」(上)と「RX-8 ハイドロジェン」(下)

今回、ロータリーエンジンは発電機として復活した。これはとても喜ばしいことで、ロータリーエンジンの未来を暗示させるものでもある。しかし、マツダのことだ。この程度で終わらせるつもりはないだろう。将来へ向けて、タイヤを駆動するロータリーエンジンの復活にも期待したい。あくまでも今の環境問題は、内燃機関ではなくCO2が課題なのだ。その削減が可能であれば、その手段は何だっていいのである。そこへ、ロータリーエンジンの活路が見出せそうな予感がする。マツダなら、やってくれると思う。

写真:内田俊一/内田千鶴子

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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マツダ
3.91
(レビュー45人・クチコミ969件)
新車価格:264〜501万円 (中古車:183〜3456万円
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