人気のコンパクトハイブリッド車である、日産「ノートオーラ」とトヨタ「ヤリスハイブリッド」の2台。前回は、内外装や安全装備などについて比較したが、今回は動力性能や乗り心地など、実際に試乗した印象をレビューしたい。
なお、今回の比較について、以下の動画でも詳しく紹介しているので、ぜひご覧いただければ幸いだ。
「ノートオーラ」が搭載するハイブリッドシステムは、「e-POWER」と呼ばれるタイプだ。1.2L直列3気筒エンジンが発電機を作動させ、その電気を使ってモーターがタイヤを駆動する。
「ノートオーラ」の駆動用モーターの最高出力は100kW(136PS)、最大トルクは300Nm(30.6kg-m)と、「ノート」の駆動用モーターに比べて最高出力で18%、最大トルクで7%の向上が図られている
「e-POWER」はモーターのみで駆動するので、その運転感覚は電気自動車に近い。アクセル操作に対する反応が機敏で、加速は滑らかだ。また、荒れた路面を走っているときにはエンジンを積極的に作動させて充電を行うなど、エンジンノイズをできるだけ目立たせない制御なども組み込まれており、静粛性にすぐれている。
対する「ヤリスハイブリッド」のハイブリッドシステムは「THSII」と呼ばれるもので、1.5L直列3気筒エンジンとモーターのどちらも(走行状況によって)駆動を担う。エンジンは、タイヤを駆動させつつ発電機となるモーターも動かすなど、その仕組みは複雑だ。
「ヤリスハイブリッド」は、1.5L直列3気筒エンジンの最高出力が67kW(91PS)、最大トルクが120Nm(12.2kgf・m)で、モーターの最高出力は59kW(80PS)、最大トルクは141Nm(14.4 kgf・m)と、なかなかにパワフルだ
「ヤリスハイブリッド」は、3気筒エンジン特有のノイズが時々聞こえるものの、モーター駆動を併用しないNAエンジン車よりははるかに静かだ。動力性能には、十分な余裕がある。
「ノートオーラ」は、走行安定性を重視している。後輪の接地性が高く、高速道路では直進安定性もすぐれている。いっぽう、「ヤリスハイブリッド」は操舵に対して機敏に曲がる印象が強い。後輪の接地性よりも曲がりやすさを重視しているので、峠道や市街地をキビキビと走ることができる。
つまり、「ノートオーラ」は対象とする速度域が高めに設定されており、「ヤリスハイブリッド」は低めだ。足まわりの性格と、得意な道路環境が異なると言っていいだろう。
「ノートオーラ」は直進安定性にすぐれており、高速道路など高い速度域を走行するのが得意だ
『ノートオーラ』はエンジンが発電専用ということもあって、車内がとても静かですね。乗り心地もよくて、ハンドルも重すぎない程度にしっかりとしたフィーリングです。また、個人的にはe-POWERの『ワンペダル』が、アクセルを緩めるだけで速度調整しやすくて、とても好みですね
「ヤリスハイブリッド」は、機敏なハンドリングによってワインディングなどのコーナーを楽しく走るのに向いている
『ヤリスハイブリッド』は、停車からの走り出しがとてもなめらかで驚きました。ボディがコンパクトなので、横幅などをあまり気にせずに不安なく安心して運転ができます。また、ステアリングの追従性がよくて、自分が行きたいと思った方向にスッと曲がってくれて、運転していて気持ちのいいハンドリングだなと思います
両車ともに、乗り心地は少々硬めだ。「ヤリスハイブリッド」は操舵に対する反応が機敏で、大きめな段差を通過したときには粗さが感じられる。「ノートオーラ」は、「ヤリスハイブリッド」に比べると乗り心地に重厚な印象を受ける。
両車ともに、衝突被害軽減ブレーキを標準装備している。「ノートオーラ」の前方衝突予測警報は、2台先を走る車両も検知する「インテリジェントFCW」が採用されているなど、安全性が高い。いっぽう、「ヤリスハイブリッド」も自車が右左折するときに直進する車両や横断歩道上の歩行者を検知して衝突被害軽減ブレーキを作動させる「プリクラッシュセーフティ」機能が備えられている。
また、後方の並走車両を検知して知らせる機能が「ノートオーラ」に標準装備されており、「ヤリスハイブリッド」もオプションで設定できる。緊急時にオペレーターに通報できる「ヘルプネット」は、「ヤリスハイブリッド」には標準装備され、「ノートオーラ」では「SOSコール」としてオプション設定されている。
車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどの運転支援機能は、「ノートオーラ」では「プロパイロット」としてオプション設定され、「ヤリスハイブリッド」は標準装備されている。このように、安全装備と運転支援機能については、両車ともに一長一短だ。
今回のテストで計測した実走燃費は、「ノートオーラ」が25.5km/L、「ヤリスハイブリッド」は32.1km/Lであった。
WLTCモード燃費は、「ノートオーラ」(Gグレード)が27.2km/Lなので、実走燃費の達成率は94%に達する。「ヤリスハイブリッド」(Zグレード)のWLTCモード燃費は35.4km/Lなので、達成率は91%だ。両車ともに、実走燃費はWLTCモードに近い数値となった。「ヤリスハイブリッド」の燃費性能は、4輪車における最高水準の数値だ。
「ノートオーラ」は後席の居住性にすぐれており、内装や乗り心地も上質だ。セダンに近い価値観を備えているため、ファミリーカーにも適している。「ヤリスハイブリッド」は、コンパクトなボディを生かしたスポーティーな運転感覚が特徴で、峠道や市街地を楽しく運転できる。さらに、燃費性能がすぐれていることも特徴的だ。2名以内の乗車に向いているだろう。次回は、2台の価格比較やグレード選びについて解説したい。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト