Lサイズミニバンの人気車種であるトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」が、2023年6月21日にフルモデルチェンジされた。
人気の高級ミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」がフルモデルチェンジされた。さらに強められた迫力のフロントフェイスや押圧マッサージ機能付のシートなどの豪華装備、走りに対するこだわりなど新型の魅力を詳細に解説しよう
「アルファード」は、快適かつ豪華な上級ミニバンの主力車種で、本モデルで4代目。新型では、乗り心地を重視した足まわりの改良やタイヤ装着などが行われた。
いっぽう、「ヴェルファイア」の新型モデルでは、スポーティー指向がより強められているのが特徴的だ。「アルファード」には用意されていない2.4L直列4気筒ターボエンジンの採用や足まわりの改良、さらにはフロントフェイスのデザインや内装の色彩まで、“走りのよさ”が味わえるように開発されている。
「アルファード」「ヴェルファイア」はグレードによって装備がかなり異なるので、まずは2車のラインアップから見ていこう。
■トヨタ 新型「アルファード」「ヴェルファイア」のグレードラインアップと価格(すべて税込)
-アルファード-
<2.5L NAエンジン搭載車>
Z:5,400,000円[2WD(FF)]/5,598,000円[4WD]
<2.5Lハイブリッド車>
Z:6,200,000円[2WD(FF)]/6,420,000円[4WD]
Executive Lounge:8,500,000円[2WD(FF)]/8,720,000円[4WD]
-ヴェルファイア-
<2.4Lターボエンジン搭載車>
Z Premier:6,550,000円[2WD(FF)]/6,748,000円[4WD]
<2.5Lハイブリッド車>
Z Premier:6,900,000円[2WD(FF)]/7,120,000円[4WD]
Executive Lounge:8,700,000円[2WD(FF)]/8,920,000円[4WD]
「アルファード」のグレード構成は、2.5L NAエンジン搭載車と2.5Lハイブリッド車にそれぞれ「Z」がラインアップされ、2.5Lハイブリッド車にのみ上級グレードの「Executive Lounge」が用意されている。
「ヴェルファイア」は2.4Lターボエンジン搭載車と2.5Lハイブリッド車に「Z Premier」がラインアップされ、「アルファード」と同じく2.5Lハイブリッド車にのみ「Executive Lounge」が用意される。
まずは両車の外観についてだが、フロントフェイスはグリルと一体化した新しいデザインが採用されており、先代よりもグリルがさらにワイドになって迫力が強められている。
新型「アルファード」のフロント、リアエクステリア。全体的にはキープコンセプトだが、先代モデルよりもフロントグリルの幅が広がり、ヘッドライトとグリルが一体となったフロントフェイスの採用でさらに迫力が増している
新型「ヴェルファイア」のフロント、リアエクステリア。先代モデルのグリルは、「アルファード」に比べるとやや控えめだったのだが、新型モデルではグリルが拡大されており、「アルファード」と同様にインパクトの強い顔立ちとなった
同車の発表会において、トヨタは「アルファード」のフロントフェイスを”ドヤ顔”、「ヴェルファイア」のフロントフェイスを“ちょい悪”と表現しているが、新型モデルもまさしくその言葉がぴったりとあてはまるようなデザインとなっている。
さらに、新型モデルではフロントフェイスに突進するような力強さを持たせるため、エンブレムがちょうど先端に位置するような形状がとられた。
「アルファード」(上)と「ヴェルファイア」(下)のフロントフェイス比較。ともに分厚くワイドなグリルが採用されており、力強い存在感を放っている。大きな違いはグリルの形状で、「アルファード」は小さなスクエア型のパーツが集まったデザインだが、「ヴェルファイア」は水平基調のデザイン
フロントフェイスで注目したいのが「デイタイムランニングライト」で、グリルと融合したデザインによって、まるでメッキ加飾の一部が光っているかのように見せているのが特徴的だ。
「デイタイムランニングライト」はグリルと融合したようなデザインが施されており、ヘッドライト直下に横2列で配置されている。また、「デイタイムランニングライト」の下1列はウィンカーの役割も果たす。画像は「アルファード」
サイドデザインは、闘牛のように大きな筋肉の塊が力強く突進する姿をイメージしてデザインされており、先代に比べて大きな抑揚が施されている
「アルファード」「ヴェルファイア」のボディサイズは、どちらも全長は4,995mm、全幅は1,850mm、ホイールベースは3,000mmにもなる。先代に比べて、全長は45mmほど伸びたが、そのほかのサイズは同程度だ。
注意したいのが最小回転半径で、先代は5.6〜5.8mだったのが新型では5.9mと少し大回りになった。その代わり、フロント左右の三角窓が拡大されていて、前方左右の視界を向上させている。さらに、1列目のサイドウィンドウの下端が約10mm下げられており、側方視界も向上した。
車内の装備は先代も豊富ではあったが、新型ではさらに使いやすく向上させている。トヨタ初となる、全車標準装備の「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」は、機能性と収納性を両立している大型のルーフセンターコンソールだ。圧迫感のないように薄型に開発されており、照明機能や収納などが同コンソールに集約されていて使いやすい。
「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」は、後席左右に座る乗員が共有スペースとして使える天井中央に着目して開発されたという。機能としては、車内を明るく照らすLEDランプ、天井を彩り64種からカラーを選べる「LEDルーフカラーイルミネーション」、左右に「読書灯」が配置されているほか、中央にはティッシュケースが入る「天井収納ボックス」が備えられている。また、スライドドアやシェードなどの操作スイッチもここに集約されている
「アルファード」(Executive Lounge)のインパネ周り。インパネの中央に装着されているディスプレイオーディオは、先代モデルは10.5インチだったが新型モデルは14インチへと大型化された
車内の広さは先代と同程度だが、各シートの頭上や足元には十分な空間が確保されている。床の高さも、先代と同じだ。プラットフォームは、「GA-K」と呼ばれるタイプへと刷新されている。新プラットフォームによって、床と天井を下げて低重心化することも可能だったが、乗員が座った際の見晴らしのよさや外観を重視したため、床の高さは変えていない。だが、そのままでは乗降性があまりよくないため、新型ではスライドドアに連動して開閉する「ユニバーサルステップ」(左右で6万6,000円)がオプションで用意されている。
2列目シートは、「アルファード」の「Z」と「ヴェルファイア」の「Z Premier」には、大型アームレストや電動オットマンなどが装着される「エグゼクティブパワーシート」が採用されている。そして、両車の最上級グレードである「Executive Lounge」には、電動スライド機能や背中から大腿部までを押圧してくれる「リフレッシュシート」機能、回転格納式テーブルなどが加わった「エグゼクティブラウンジシート」が採用されており、快適性がさらに向上した。
「アルファード」「ヴェルファイア」の「Executive Lounge」に採用されている「エグゼクティブラウンジシート」には、押圧によってマッサージしてくれる「リフレッシュシート」機能や、天板にバニティミラーを内蔵し、90度水平回転することでテーブルを出したまま乗降できる回転格納式テーブルなどが備えられている
少し注意したいのが、3列目シート。先代と同様に、床と座面の間隔が不足していて、足を前に投げ出すような座り方になるからだ。背もたれや座面の柔軟性も少々乏しい。開発者は、「3列目シートの座り心地を改善することも検討したが、サイズが拡大するので左右に跳ね上げにくくなる。そのため、3列目シートについてはほぼ変更していない」と述べている。そのため、3列目シートを格納すれば大容量の荷室に変更できるという従来のメリットは先代から継承されている。
「アルファード」と「ヴェルファイア」で、今回最も力が入れられているのが走行性能と乗り心地だ。両車ともに、後部の床下へ補強材の「V字型プレース」の装着などによって、ボディ剛性が高められ、ステアリング操作に対するクルマの反応や走行安定性、乗り心地などを先代よりも向上させている。
注目したいのが、「アルファード」と「ヴェルファイア」では、タイヤ設定が異なることだ。「アルファード」は乗り心地を重視するため、タイヤサイズは「Z」が18インチ、「Executive Lounge」には17インチのタイヤが装着されている。
いっぽう、「ヴェルファイア」は全グレードに19インチタイヤが装着されているほか、「フロントパフォーマンスブレース」が装備されており、ステアリング操作に対する反応が「アルファード」よりもさらに正確なものになっている。さらに、ショックアブソーバーは「アルファード」よりも硬めで、全グレードに周波数感応型が採用されている(「アルファード」は「Executive Lounge」のみ周波数感応型)。周波数感応型のショックアブソーバーは、路面からの振動の入力に応じて減衰力を機械的に可変するシステムが組み込まれたもので、乗り心地を向上させる効果がある。
「ヴェルファイア」は、走りの質を向上させながらも、乗り心地には影響しないような配慮がなされている
パワーユニットについて述べていこう。「アルファード」ではベーシックな2.5L NAエンジンを選べ、その最高出力は182PS、最大トルクは24kg-mで、動力性能は先代とほぼ同じだ。2WDのWLTCモード燃費は10.6km/Lとされる。
「ヴェルファイア」に搭載される2.4Lターボエンジンは、先代の「アルファード」「ヴェルファイア」に搭載されていた3.5L V型6気筒エンジンの後継機種で、最高出力279PS、最大トルクは43.8kg-mに達する。設計の新しいエンジンとあって、WLTCモード燃費も2.5L NAエンジンと同程度の10.3km/Lだ。
そして、今回の本命パワーユニットが、両車に採用されている2.5Lハイブリッドだ。これは設計が新しいハイブリッドシステムで、エンジンとモーターの駆動力を合計したシステム最高出力は250PSに達する。先代の2.5Lハイブリッドは197PSだったので、モーターを中心に大幅に出力が向上がしたことになる。
たとえば、「クラウンクロスオーバー」にも同型のハイブリッドシステムが搭載されているが、システム最高出力は234PSであり、比べてみると「アルファード」「ヴェルファイア」が上まわっているのだ。しかも、ハイブリッド車のWLTCモード燃費は17.7km/L(「Z」「Z Premier」)と、先代の14.8km/Lに比べてガソリン代は約16%安く抑えられる。
新型「アルファード」「ヴェルファイア」で買い得なのは、ズバリ「ハイブリッド車」だ。「アルファード 」のハイブリッド「Z」の価格は、2.5L NAエンジンの「Z」に比べて、100V・1500Wの電源コンセント(4万4,000円相当)を含めて約80万円高い。その代わり、購入時に納める税額は19万4,000円安く、電源コンセントの価格を差し引くと、ハイブリッド車とNAエンジン搭載車の正味価格差は約56万円になる。
これを踏まえて、レギュラーガソリン価格を1L当たり160円で計算すると、9〜10万kmを走ればガソリン代の節約で正味価格差を取り戻せる。ハイブリッド車は、前述のとおり動力性能が高く、かつノイズが小さいので、買い得度は最も高い。
推奨グレードは、「アルファード」のハイブリッドは「Z」(620万円・2WD)、「ヴェルファイア」ハイブリッドは「Z」 Premier(690万円・2WD)だ。
「アルファード」か「ヴェルファイア」、どちらを選ぶかについては、「ヴェルファイア」ハイブリッドの「Z Premier」が「アルファード」ハイブリッドの「Z」よりも70万円高いものの、プラスされる装備は豊富だ。「アドバンストパーク」などのセットオプション(「アルファード」のオプション価格は13万9,700円)、「左右独立ムーンルーフ」(同13万2,000円)、「カラーヘッドアップディスプレイ」(同5万5,000円)、さらにプレミアムナッパ本革シート生地、アルミホイールの19インチ化、「フロントパフォーマンスブレース」や「周波数感応型ショックアブソーバー」の装着などがあげられる。これら、「ヴェルファイア」ハイブリッドの「Z Premier」に加わる装備を価格に換算すると総額約70万円に上るので、「ヴェルファイア」ハイブリッドの「Z Premier」も割高ではない。
もし、先にあげた装備が欲しい場合は「ヴェルファイア」ハイブリッドの「Z Premier」を選ぶ価値は高いが、そうでないときは「アルファード」ハイブリッドの「Z」に必要なオプションを加えるほうが合理的だ。
また、ハイブリッド車の「Executive Lounge」は、「アルファード」が850万円で、「ヴェルファイア」は870万円である。「エグゼクティブラウンジシート」などが装着されるものの、ハイブリッドの「Z」や「Z Premier」に比べると割高だ。
さらに、「アルファード」ハイブリッドの「Executive Lounge」は、オプションで19インチタイヤを装着できるが、「ヴェルファイア」と違って「フロントパフォーマンスブレース」や減衰力を高めたショックアブソーバーは採用されない。単純に標準装着の17インチから19インチにタイヤとホイールが変更されるだけだ。走りの全体的なバランスを考えると、19インチタイヤを装着したいのなら、走りの質が向上する「ヴェルファイア」を推奨したい。安全装備や運転支援機能は、「プロアクティブドライビングアシスト」の採用など、新型になって大幅に充実している。
新型「アルファード」「ヴェルファイア」は、車内の広さや居住性は先代と大差ないが、ハイブリッドを中心に走行性能や乗り心地、燃費、安全装備、運転支援機能などが大幅に進化した。先代から新型に乗り替える場合、外観のデザイン以外ではこれらの進化に価値を見出すか否かが、購入するかどうかの判断の分かれ目になるだろう。
なお、低価格なグレードが欲しいユーザーにとって、今の選択肢は2.5L NAエンジンの「アルファード」の「Z」グレード(540万円)であるが、今後は装備をシンプルに抑えた「G」などのグレードが加わる予定だ。そのため、今後グレードが追加されてから購入するという方法もあるだろう。
最後に、納期について複数の販売店に尋ねたところ「短くても1年を要する。販売会社によっては、受注台数の上限に達して、早くも販売を停止した」とのこと。新型を手に入れたいのなら、早めに販売店に問い合わせて商談を始めたほうがいいだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト