ステランティスジャパンは、プジョー 新型「408」を、2023年7月1日から販売開始した。セダンとクーペ、そしてSUVを融合させたファストバックモデルだ。今回、ガソリンエンジン搭載車とPHEVの両方に試乗する機会が得られたので、新型「408」の解説とともに2つのパワートレインにおける乗り味の違いなども比較レポートしたい。
流麗なエクステリアが特徴的な、プジョー 新型「408」。画像のボディカラーは「オブセッション・ブルー」
■プジョー 新型「408」のグレードラインアップと価格
-1.2Lガソリンエンジン搭載車-
PEUGEOT 408 Allure:4, 290, 000円
PEUGEOT 408 GT:4,990,000円
-PHEV -
PEUGEOT 408 GT HYBRID:6,290,000円
PEUGEOT 408 GT HYBRID First Edition:6,690,000円(※限定80台)
新型「408」のボディサイズ(全長4,700×全幅1,850×全高1,500mm)は、プジョーのフラッグシップモデル「508」とほぼ同じながら、大径タイヤ(205/55R19)を履かせることによって、車高やアイポイントを上げているのが特徴的だ。
新型「408」のフロント、リアエクステリア。フロントフェイスには、中央におなじみのライオンエンブレムを配した大型のフレームレスグリルが据えられる。また、ヘッドライトにはライオンの牙をモチーフにしたLEDデイタイムランニングライトが、テールランプにはライオンの爪をイメージした3本のLEDランプが備わる
エンジンバリエーションは、ガソリンエンジン搭載車には1.2L 3気筒ガソリンターボエンジンが、PHEVには1.6L 4気筒ガソリンターボエンジンが採用されている。ちなみに、ディーゼルエンジンは本国でもラインアップされない。
さて、ステランティスグループでは「408」と同じファストバックモデル、シトロエン「C5 X」も販売していることから、どのように棲み分けるのか気になるところだ。
まずは、新型「408」が開発された理由について、ステランティスジャパン マーケティング部 プジョープロダクトマネージャーの八木亮佑さんに伺ってみた。
新型「408」と同じく、流麗なファストバックデザインが採用されているシトロエン「C5 X」
「プジョーとしては、新しい選択肢をお客様にご提供したい、今のラインアップにないものを作りたいという思いがありました」と八木さんは言う。現在、プジョーはコンパクトハッチバックやサルーン、ワゴンのほかに、MPVやSUVなどをラインアップしている。特に、5年ほど前に「2008」や「3008」といったSUVを本格的に導入したことも記憶に新しく、そこでプジョーに新風が吹いたことは間違いない。だが、それから年月が経ち、ユーザーへの新たな提案が必要になったのだろう。
八木さんは、「これまでのクロスオーバーモデルは、“ソフトSUV”のようなクルマが多かったと思います。ですが、新型『408』はハッチバックでもなくセダンでもない。さらにSUVでもないのですが、お客様がそれぞれのボディタイプに感じている魅力を少しずつ集めて、バランスのいいクルマを作ることが目的でした。そこへ、SUVの次に提案できるファストバックを組み合わせて商品化すれば、プジョーにとって新たな地平線が開けるのではないか、と考えたようです」とコメントする。
いっぽう、シトロエン「C5 X」がグループ内に存在することについて、八木さんは「基本的な技術やプラットフォーム、パワートレインはグループ内で開発して、それぞれブランドごとにうまく使っていくという考え方が基本にあります。ですので、シトロエンと比べてどうかというのは(プジョーとして)実はあまり見ていない節があります。同じベース技術を使って、シトロエン流のクルマを作り、プジョー流のクルマを開発したというプライドがあるのです」と教えてくれた。
さて、ここからは試乗した印象をお伝えしたい。まずは、ガソリンエンジン搭載車の「408GT」から。試乗車の走行距離は800km程度と、まだ慣らしも終わっていない状況だったことから、乗り心地に関してはかなり渋さが残っていたというのが正直な印象だった。
それでも、段差をゆっくりと乗り越えるシーンなどでは、しっかりとしたサスペンションストロークが感じられたので、十分に走り込んだ後にはかなりしなやかな足回りに仕上げられてあるものと思われる。
「408GT」は、「C5 X」のような「ふんわりとしたクルーズ船に乗っているかのような感覚」ではなく、きびきびとしていて運転の楽しさを味わえるクルーザーのような印象だ。
「408」グレードの乗り心地は、近年のプジョー車らしく足回りのしなやかさが感じられるもので、「C5 X」とはキャラクターが明確に異なっている
さて、多くの読者は「1.2リッター3気筒ターボエンジンで、はたしてきちんと走るのだろうか」と気になるだろう。スペックを見ると、130ps/5,500rpm、230Nm/1,750rpmとあり、最大トルクは数年前の2.5リッターエンジンのスペックに近い。そして注目すべきは、1,750rpmという低回転数で最大トルクを発生させることだ。
さらに、1気筒あたりの内径や行程を見ると75.0×90.5mmと、ピストンが上下する距離が長いことがわかる。ここから見えてくることは、トルクフルな走り、つまりスタート時の力強さだ。スペックが示すとおり、新型「408」は十分以上にスタートダッシュが力強い。そして、そこから一気にアクセルを踏み込んでいくと、ターボの加勢もあって、非力とか物足りないなどと思わせない加速を見せてくれる。
さらに付け加えると、プラットフォームは電動化も見越したもので、しっかりと剛性が確保されていることから、静粛性も非常に高いものであった。
「408GT」グレードは、1.2 リッター3気筒ターボエンジンという排気量からは想像できないほどの力強い加速で、非力さは感じられなかった
また、エンジンと8速ATの組み合わせも非常にうまくいっている。「C5 X」の1.6リッターターボエンジンは、ロックアップ(トルクコンバーターなどを介さずエンジンとトランスミッションを直結させ燃費を向上させる機構)やアイドルストップの介入などで、ギクシャクした動きが出やすかったのだが、新型「408」では皆無で、非常にスムーズなものであった。さらに、VW系のダウンサイジングターボエンジンに見られるように、せわしなくシフトチェンジするようなこともなかった。
今回の試乗でのもうひとつのチェックポイントは、大径タイヤを履いたことによるハンドリングや乗り心地への影響だ。確かに若干バネ下が重くバタつき感は感じるものの、これはじっくりと走り込んで足回りの慣らしが終われば、かなり改善されることが予想される。
そして、それ以上に驚いたのがハンドリングだ。たとえば、高速道路に入る際のアプローチなどでは比較的タイトなコーナーが散見されるが、そういったところでもしっとりと、きわめてスムーズに安定した姿勢を見せるのだ。
しかも、舵角がピタリと決まるという、ちょっとしたスポーツカー顔負けのハンドリング性能を備えていることは特筆に値するものだった。つまり、大径タイヤや上がった車高などによる違和感は一切なかったのだ。
ちなみに、このようなシーンで「C5 X」はもっとふんわりとした姿勢変化が感じられるので、目指す方向性の違いが明らかに感じられた。
「408GT」のコーナーリングは、スポーツカーかと思えるほどに高い安定感を発揮する
また、プジョー独自の「i-Cockpit」は、小径ステアリングとその上から見下ろすメーターと、ドライバーを囲むようにレイアウトされたセンターコンソールによって構成されるが、適度な囲まれ感とともに、スポーティーさも感じさせる好ましいものだった。この辺りも「C5 X」としっかり差別化されている。質感も高いので、十分に満足できる仕上がりだ。
新型「408」には、小径のステアリングやヘッドアップインストルメントパネルなどが用いられた、プジョー独自の「i-Cockpit」が採用されている
いっぽう、センタースクリーンには少々難があった。物理スイッチとタッチスクリーンの組み合わせ自体はいいのだが、温度調節などはタッチスクリーンで「クライメート」を選んで画面を変えて調整し、元に戻すという操作をしなければならない。タッチスクリーンに触れたときに音や振動も特にはないようで、結局のところ視線はそこに向いてしまう。
これはとても危険なので、操作頻度の多いものは物理スイッチ、そうでないものはタッチスクリーンと、再度分類してほしい。
また、ハザードランプは同じ形状の物理スイッチが並んでいる右端に配されているが、これも独立したスイッチになるといいだろう。とっさのときに考えずに操作ができるからだ。
センタースクリーンについては、エアコンの温度調節などでやや使いづらい面があった
PHEVの「408GT HYBRID」に乗り換えてみよう。ガソリンエンジン搭載車に比べて車重が300kgほど重くなることから、乗り心地自体も重厚感のあるものへと変わってくる。しかし、その印象をたとえるならば、ゴムの反発力のようなものが感じられ、少々の違和感を覚えた。
コーナーリング時なども同様で、途中に段差などがあると妙に突っ張ったサスペンションの印象がともなったのだ。こちらも1,400kmほどの短い走行距離だったので、もしかしたら足周りの慣らしが終わっていなかったのかもしれないが……。
「408GT HYBRID」の試乗車は、走行距離が短かったからか、少し突っ張るような乗り心地が気になった
また、ブレーキペダルのフィーリングは回生などによって踏力が明らかに変化し、少しギクシャクした動きをしたり、EVからエンジン走行に切り替わるときに若干振動が出たりするのも気になったところだ。走りそのものはパワフルではあるが、EV走行からエンジンに切り替わる際にともなう若干のショックなど、熟成はいまひとつなのかもしれない。
2台の新型「408」を乗り比べた結果としては、現状では明らかにガソリンモデルに軍配が上がった。「408」の魅力であるハンドリングや走行性能が十分に発揮されており、かつパワーも十分だ。さらに価格も安い。ただし、“現状では”と述べたように、最近のクルマはさまざまな学習機能が備わっており、それはこの「408」も例外ではない。よってPHEVも、ブレーキのフィーリングなどは長く乗ると変化してくる可能性もあるだろう。
今回の試乗車は前述のとおり、どちらも足回りの慣らしが完全に終わった状態ではないため、その点を加味した評価とさせていただきたい。ヨーロッパ車、特にプジョーやシトロエンは5,000kmほどの距離を後にしたくらいでやっとあたりがよくなってくるので、機会があれば十分に慣らしが終わったテスト車にて、改めて長距離テストに挑んでみたいと思う。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。