2023年7月、三菱のピックアップトラック「トライトン」が6代目にフルモデルチェンジされた。三菱のピックアップトラックは、1978年に販売を開始してから、これまでに約560万台が生産され、世界約150か国で販売されてきた世界戦略車だ。今回の新型「トライトン」も、年間でおよそ20万台が生産される見込みとなっている。海外ではすでに販売が開始されているが、日本でも2024年の初頭に発売予定だ。
新型「トライトン」には、耐久性を向上させた新開発のラダーフレームが採用されており、高出力化と環境性能を両立させた新エンジンが搭載されている。また、サスペンションも乗り心地や操縦安定性にすぐれる新開発のものへと刷新されている
「トライトン」は、日本では旧モデルが2006年から2011年にかけて売られていたものの、その後は販売されなかった。そのため、日本市場へはおよそ12年ぶりに再投入されることになる。今回は、その新型「トライトン」のプロトタイプモデルをオフロードコースで試乗できたのでレビューしたい。
試乗の前に、なぜ新型「トライトン」が日本へ導入されるのかについて少し解説したい。その背景には、複数の理由がある。まずひとつは、ライバル車であるトヨタ「ハイラックス」の販売が堅調なことだ。「ハイラックス」は、1968年に登場して人気を高めたが、その後に売れ行きが下がり、2004年に日本国内での販売を一度終えている。そして、2017年に復活した現行モデルは後席を備えたダブルキャブの4WDで、価格は350万円以上にもなるのだが、それでも1か月平均で1,000台近くが販売されており、三菱なら「アウトランダー」に近い売れ行きとなった。
トヨタ「ハイラックス」(グレード:「Z GR SPORT」)の走行イメージ
そして、「ハイラックス」は高価格帯のクルマでありながら、20〜30代の若い年齢層に人気が高い。今は、クルマを所有するユーザーが高齢化しているので、若年層に人気を得られる車種は貴重な存在だ。
さらに、三菱側の事情もある。三菱が販売する車種は、SUVを中心としたラインアップだが、「パジェロ」が販売を終えた今、副変速機を備えた4WDを搭載する後輪駆動ベースの悪路向けSUVは販売されていない。だが、新型「トライトン」であれば、その特徴を備えている。そのような、いくつかの事情によって、新型「トライトン」は日本で販売されることになったのだ。
まずは、新型「トライトン」のボディタイプについて。2列シートを備える「ダブルキャブ」、1列シートの「シングルキャブ」、フロントシートの後ろに荷室が備えられた「クラブキャブ」の3種類があるのだが、そのうち日本へ導入されるのは「ダブルキャブ」になる予定だ。
新型「トライトン」のデザインコンセプトは、勇猛果敢な「BEAST MODE」。ピックアップトラックならではのタフさや力強さ、堅牢さなどを持ち合わせたデザインが採用されている。フロントフェイスは、「ダイナミックシールド」にプロテクターなどを組み合わせ、ピックアップに最適化した造形となっている
ボディサイズは(日本仕様は不明のため、海外仕様のスペック)、全長5,360mm、全幅1,930mm、全高1,810mm。たとえば、三菱のミドルサイズSUV「アウトランダー」のボディサイズ(売れ筋グレード)は、全長4,710mm、全幅1,860mm、全高1,745mmなので、比較すると「トライトン」はかなり大柄なことがわかる。また、最小回転半径も6.2mと大回りなので、日本の市街地などでは少々取り回しがしづらいかもしれない。
荷室高は、従来よりも45mm低い820mmとなっており、バンパーコーナー上面の面積を拡大して足を乗せるスペースにするなど、実用性を向上させている
インパネなどの内装デザインは乗用車と遜色のないもので、ピックアップトラックならではといった無骨さは見られないので使いやすいだろう。運転席の座り心地は、腰から大腿部が少し硬めで体をしっかりと支えてくれる。また、後席の広さは実用的なもので、身長170cmの大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ弱の余裕がある。後席は、背もたれの角度が立ちぎみなのが少々気になるものの、4名乗車での実用性は高いだろう。
インテリアは、走行時の車体姿勢の変化をつかみやすい水平基調の「HORIZONTAL AXIS(ホリゾンタル・アクシス)」を進化させたインパネが採用されている
新型「トライトン」のフロントシート(上)とリアシート(下)
搭載エンジンは2.4L直列4気筒ディーゼルツインターボで、最高出力は204PS(3,500rpm)、最大トルクは47.9kg-m(1,500〜2,750rpm)、トランスミッションは6速ATになる。エンジンは、低回転域において粘り強く、1,300rpm前後からでもアクセルを踏み込めばググッと加速していく。低回転域を維持しつつ加速でき、フル加速時には高回転域を保てるなど、さまざまな場面において扱いやすいパワートレインだ。
新型「トライトン」に搭載されている新開発のラダーフレームは、従来モデルよりも断面積を65%増やし、曲げ剛性を60%、ねじり剛性を40%強化することで、走行性能や乗り心地を大きく向上させている
新型「トライトン」の運転感覚や走行安定性は、ピックアップトラックながら一般的なSUVに近いものに感じられる。ステアリング操作に対する反応は自然で、ピックアップトラック特有の鈍さが感じられないことに驚く。サスペンションは、前輪がダブルウイッシュボーンの独立式で、リヤはリーフスプリングを使う車軸式だが、ピックアップトラック特有の上下に揺すられるような感覚がうまく抑えられている。乗り心地は、500kgの最大積載量に対応しているので少し硬めだが、こちらも一般のSUVに近い感覚だ。
そして、最も注目されるのが悪路走破性の高さだろう。凹凸が激しく、滑りやすい悪路などを走行してみたが、4WDを選べばアクセルペダルを軽く踏むだけで難なく走破できる。さらに、前述した低回転域から高い駆動力が得られるエンジン特性は、悪路においても走りやすい。
新型「トライトン」には、トラクション性能とコーナリング性能を両立するトルク感応式LSDを備えた「スーパーセレクト4WD-II」が採用されており、悪路などにおいて高い走破性を発揮する
さらに、「ヒルディセントコントロール」も備わっているので、滑りやすい急斜面を安定して下ることができる。作動中は、4輪ブレーキが独立制御されているので、車両は常に安定している。通常のブレーキでは、4輪の独立制御は行われないので、滑りやすい急斜面などでは車両が横滑りを発生させ、最悪は横向きの姿勢に陥って横転する危険性などもある。新型「トライトン」に搭載されている「ヒルディセントコントロール」は、そのような横転事故を防ぐ効果も大きい。また、「ヒルディセントコントロール」はバック時にも作動させられる。たとえば、雪道の下り坂などをバックしながら下るときは、横転の危険性がより高まるが、「ヒルディセントコントロール」があれば安心して後退できる。
下り坂などで一定の速度を保って走行できる「ヒルディセントコントロール」のほか、坂道発進でのずり落ちを防止する「ヒルスタートアシスト」や、カーブでの安定性を向上させる「アクティブスタビリティ&トラクションコントロール」など、新型「トライトン」には数多くの安全制御機能が採用されている
新型「トライトン」は、ピックアップトラックでありながら、前後輪の回転数を調節できる「センターデフ」を備えているのも大きな特徴のひとつだ。ライバル車のトヨタ「ハイラックス」などには「センターデフ」が装備されていないため、舗装路は基本的に後輪駆動の2WDで走行する。だが、新型「トライトン」は舗装された峠道や高速道路などにおいても4WDにシフトして走行安定性を高められる。
一般的な使い方では、悪路を走るよりも普段の道において走行安定性を高める機会のほうが多いだろうから、センターデフが装備されているメリットは大きいだろう。また、「グラベル」(未舗装路)、「マッド」(泥道)、「ロック」(岩場)など、走行状況に合わせて4WDやブレーキの設定を変えられる「ドライブモード」も採用されている。ここまで走りの機能が充実しているピックアップトラックは、珍しいと言える。
「スーパーセレクト4WD-II」搭載車は、後輪駆動の「2H」、フルタイム4WDの「4H」、センターディファレンシャル直結の「4HLc」、ローギヤの「4LLc」の4種類が選択可能となっている
新型「トライトン」は、前述のようにボディが大きく、駐車スペースの制約も受けやすい。誰でも所有できるようなクルマではないが、悪路を走る機会が多く、なおかつレジャーを楽しみたいユーザーには適している。安全装備も充実しており、「衝突被害軽減ブレーキ」や車間距離を調節できる「クルーズコントロール」、後方の並走車両などを検知して知らせる機能なども採用されている。
発売は2024年の初頭なので、現時点では価格は発表されていないが、装備が充実するグレードでも「ハイラックスZ」の388万2,000円以下に抑えたいところだ。また、SUVのトヨタ「RAV4」は、前輪駆動ベースながら悪路走破性が高められており、NAエンジンのアドベンチャーの価格は368万4,000円になる。新型「トライトン」も、装備を充実させた主力グレードを370〜380万円に設定すると購入しやすいだろう。逆に400万円を超えると、三菱車では「デリカD:5」の価格帯に入り、割高な印象が高まる。
新型「トライトン」なら、これほどの急坂であっても運転テクニックなどを必要とせず、楽に上り下りできる走破性の高さを持ち合わせている
新型「トライトン」が注目されると、「4WDの三菱」としての信頼性やブランド力が高まる。現行モデルの「アウトランダー」や「デリカD:5」、軽自動車の「デリカミニ」の印象まで変わってくるはずだ。新型「トライトン」は、ユーザーとメーカーの両方に新たな価値を生み出すパワーを秘めているクルマだ。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト