先々代「インプレッサ」の最廉価グレード「G4」を買って10年。スポーツカーの「BRZ」を買い足してもなお、まったく飽きないライター、マリオ高野です。
今回紹介するのは、スバルの新型「インプレッサ」のベーシックグレード「ST」。スバルが自社開発・自社生産するクルマ(軽自動車除く)の中で最廉価に当たるモデルながら、その実力の高さが自動車系YouTube界隈で静かに注目されています。注目ポイントは、FF(前輪駆動)なら車両本体が税込229.9万円からという安さにあり。
グレードごとの外観の差別化が少ないのは最近のスバル車の特徴。フォグランプは付かないのが最大の識別ポイントで、アレイ式アダプティブドライビングビームが選べないのは残念ですが、一般的には、パッと見てベーシックグレードだと認識されにくいメリットがあります
ルーフのアンテナ部分も「ST」グレードの識別ポイント。上級グレードはシャークフィンタイプになります
実際には業務用として買われることも多い位置付けにありますが、業務用らしさはまったくありません。IMPREZAの文字の下にe-BOXERのエンブレムがなくなるのも識別ポイントです
現在販売されるエンジン排気量が2Lクラスの普通乗用車としては、かなり安いと言える価格ながら、走りの動的な質感や、運転支援システムの性能を含めた安全性がきわめて高く、コスパにたいへんすぐれたクルマとして多方面から賞賛されているのです。
実は昔から、スバルのエントリーモデルの、さらにベーシックなグレードは走りの実力の高さで定評があり、玄人筋からの評価が高く、一部のカーマニアたちをうならせてきました。
スバル車の、水平対向エンジンを軸とした左右対称のパワートレインがもたらす車体バランスのよさは、「BRZ」や「WRX」のようなスポーツモデルのみならず、ベーシックな実用車でも存分に発揮され、運動性能の高さの源泉となります。
むしろ、クルマの物理的な素性のよさは、サスペンションが比較的やわらかく、タイヤのグリップもそれほど高くはないベーシックモデルのほうが、アドバンテージとして現れやすい傾向に。その事実を雄弁に語るのが、歴代スバル車のエントリーモデルのベーシックグレードであると言えるのです。
最高出力などのスペックは先代モデルと変わりませんが、エンジンとミッションの細部には改良が施されており、発進時や高回転域のスムーズさが増しています
ハンドルやシフトまわりが簡素化されますが、遮音材や吸音材などは省かれていないので、本質的な質感は高いレベルにあります
ベーシックグレードでも17インチのアルミホイールを装着。タイヤの幅は少し細く、サイズは205/50R17。フロントブレーキのローターは16インチですが、車重が軽いので問題ありません
また、スバル車の場合は、他メーカーに比べてラインアップされる車種が比較的少ないため、上位車種で採用される技術が、おおむねそのままベーシックモデルに展開されやすいメリットがあります。
たとえばインナーフレーム構造の「SGP」(スバルグローバルプラットフォーム)と呼ばれる車体構造も基本的な部分は横展開されるので、ボディ剛性や衝突安全性の高さは、エントリーモデルのベーシックグレードでも最上位モデルに遜色のないレベルに。(厳密には、よりボディサイズの大きなモデルのほうが衝突安全性ではより有利となりますが……)
定評のある運転支援システム「アイサイト」についても、上位車種に備わる「アイサイトX」ほど多機能ではないものの、コアテクノロジーと呼ばれる前方認識能力やアクセル/ブレーキの制御、ステアリングアシスト機能などについては、ほとんどの車種でほぼ同一レベルの高さを備えているので(「BRZ」のみ、やや世代が古い運転支援システムを採用)、エントリーモデルのベーシックグレードは非常にお買い得と言えます。
とはいえ、「インプレッサ」の「ST」グレードは、「アイサイト」の「緊急時プリクラッシュステアリング」や「後側方警戒支援システム」、「エマージェンシーレーンキープアシスト」など一部の機能が省かれるので、100%上位グレードと同じとは言えません。しかし、運転支援システムの基本的な性能は省かれていないので、そこは安心できます。
運転してみると、老舗うどん店が供する“素うどん”のごとく、滋味深い味がこの「ST」にはあるのではないかと思った次第です。素うどんがおいしければ、そこに何をのせてもおいしいに違いない。「ST」のできがよいからこそ、「インプレッサ」およびスバル車の完成度が高いのも納得できるというわけです。
スバルが誇る安全装備を備え、軽快な走りが楽しめる狙い目グレード「ST」
また、新型「インプレッサ」は、先代モデルまで設定された1.6Lエンジン搭載車がなくなったので、全体的に少し値上がりましたが、その分ベーシックグレードの質は底上げされ、スバル車全体のプレミアム度が高まったとも言えます。
電動化が遅れていると指摘されがちなスバルのラインアップでも、純粋なガソリンエンジン仕様は減りつつあり、「インプレッサ」の「ST」グレードは、「BRZ」とともに数少ない純ガソリンNA(自然吸気)エンジン搭載車となりました。
上級グレードに搭載される「e-BOXER」と呼ばれるハイブリッド車の滑らかな走りや電動アシストも決して悪くありませんが、それより150kgも軽い車重による軽快な走りは「痛快」と評せるものであり、大変魅力的です。多くの専門家が賞賛しているのも納得と言ったところ。
今後、何らかの形で電動駆動のシステムが組まれたクルマは確実に増えますが、純ガソリンエンジンの実用車はどんどん少数派になっていくので、新車で買えるうちに味わっておきたいと考えている人には、自信をもってオススメできます。
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。