“弾丸”試乗レポート
現在そして未来の課題に取り組む横浜ゴムのR&Dセンターをレポート

横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「ice GUARD 5 PLUS」を支える技術とは?

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低燃費タイヤ「ブルーアース」やスタッドレスタイヤ「アイスガード」が人気の横浜ゴム。そのタイヤの技術的な特徴はどんなものだろうか? また、開発の現場の様子は? さらには未来に向けて、どのようなことを考えているのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

横浜ゴムのタイヤ技術の特徴や研究施設である平塚製造所の様子を鈴木ケンイチ氏がレポートする

横浜ゴムのタイヤ技術の特徴や研究施設である平塚製造所の様子を鈴木ケンイチ氏がレポートする

ミクロのカラが氷上の水を除去する

2015年9月24日、横浜ゴムの平塚製造所において、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)の会員向けのタイヤ技術勉強会が開催された。横浜ゴムのタイヤ技術の特徴や研究施設、将来に向けての展望などを聞くことができたので、ここで紹介したいと思う。

横浜ゴムの最新のタイヤといえば、2015年8月に発売開始されたばかりのスタッドレスタイヤ「アイスガード・ファイブ・プラス(ice GUARD 5 PLUS)」だ。この最新スタッドレスタイヤで、特に進化したのはゴムである。

氷上でタイヤがグリップしないのは、氷が滑るからではない。タイヤの圧力などで溶けた水が路面の氷とタイヤの間に膜を作るから。タイヤが水の膜に浮いてしまうので滑るのだ。そのため、横浜ゴムではタイヤのゴムで水の膜を除去するというコンセプトでスタッドレスタイヤを開発している。

では、どうやって水を除去するのか。それが「新マイクロ吸水バルーン」と「エボ吸水ホワイトゲル」である。新マイクロ吸水バルーンは、名前のとおり、マイクロメートルのサイズの球体のカラだ。これをタイヤのゴムに混ぜ込むことで、ゴム表面に水を吸収するスペースを作る。またエボ吸水ホワイトゲルも水を吸水するゲル状の物質で、ゴムに混ぜ込まれている。特に、今回の新型タイヤでは、エボ吸水ホワイトゲルを従来比で最大30倍までに大きくした。これにより、水膜吸水率は20%も向上したという。

8月に発表されたばかりの、新しいスタッドレスタイヤ、アイスガード・ファイブ・プラス(ice GUARD 5 PLUS)。従来比20%という高い水膜給水率を実現している

アイスガード・ファイブ・プラスのゴムを拡大したところ。表面に細かい穴がたくさん見える

アイスガード・ファイブ・プラスのゴムを拡大したところ。表面に細かい穴がたくさん見える

これらの穴は、ゴムに混ぜ込まれた細かなカラである新マイクロ吸水バルーンが形成したもの

これらの穴は、ゴムに混ぜ込まれた細かなカラである新マイクロ吸水バルーンが形成したもの

もうひとつの吸水物質エボ吸水ホワイトゲル、こちらは従来製品より最大30倍というボリュームアップを果たしている

ここで面白いのは、ライバルであるブリヂストンのコンセプトも同じく「水膜をタイヤのゴムで除去する」ということ。ただし、ブリヂストンは「発泡ゴム」という技術を使う。これは製造中に発泡する素材をゴムに入れておき、最終的にゴム自体がスポンジのような構造とする。新マイクロ吸水バルーンというカラを入れる横浜ゴムとは、技術的なアプローチが異なるのだ。

また、アイスガード・ファイブ・プラスは燃費性能も向上している、これもカギはゴムだ。エネルギーを熱として逃がさない「低発熱ベースゴム」を新開発。これをトレッドゴムの下の層に配置。タイヤの剛性を保ちつつ、エネルギーロスを低減した。これにより燃費性能が向上。さらに操縦安定性能も高まったという。

こうしたゴムなどの進化によって、最新のアイスガード・ファイブ・プラスは、従来品よりも氷上ブレーキ性能を7%向上、燃費性能の面でも転がり抵抗を7%低減した。スタッドレスタイヤとしての性能を高めながら、通常の低燃費タイヤ同等の性能を合わせ持つまでになっているのだ。

複雑な立体サイプが互いに支え合う「トリプルピラミッドサイプ」構造。剛性を確保することで、接地性や操縦安定性を高めている

最新設備と研究員の能力を生かしてすぐれたタイヤを開発

横浜ゴムのR&Dをリードする「RADIC」は、神奈川県平塚市にある。旧海軍の跡地に建設されたもの

横浜ゴムのR&Dをリードする「RADIC」は、神奈川県平塚市にある。旧海軍の跡地に建設されたもの

横浜ゴムのタイヤ開発をリードする研究開発センター(RADIC)は神奈川県平塚市の横浜ゴム平塚製造所にある。旧海軍から払い下げられた火薬工場跡地だ。そこで見学できたのは、分析を行う研究本部・研究施設とタイヤ試験部・試験設備であった。

最新のゴムの開発に欠かせないのは、マイクロやナノといった微小な領域でのゴムの分析だ。どんな成分が含まれるのか? それらの成分がどのように性能向上に貢献するのか? 新しく作ったゴムが、果たして狙い通りの成分構成となっているのか? などを調べるのだ。

見学できた分析機器は、形態観察系、分離系、分光系、熱系であった。形態観察系とは、いわゆる電子顕微鏡だ。研究室という窓のない殺風景な部屋に、無造作に電子顕微鏡が据えられていた。ここで検査員が毎日、山のようなサンプルを観察しているという。電子顕微鏡は電子線を照射して、ゴムの表面の様子を観察する。走査電子顕微鏡を使うとマイクロメーター単位のゴム表面を観察できる。横浜ゴムのスタッドレスタイヤに使われる新マイクロ吸水バルーンは、このくらいのサイズだ。そして、透過電子顕微鏡を使うと、さらに微小なナノメートル単位までを見ることができる。ゴムに含まれる素材を確認するときには透過電子顕微鏡を使うという。

電子顕微鏡内にサンプルを納めた後、内部を真空にして観察を行う

電子顕微鏡内にサンプルを納めた後、内部を真空にして観察を行う

サンプルに電子線を照射して、反射された二次電子や透過電子をキャッチして画像とする

サンプルに電子線を照射して、反射された二次電子や透過電子をキャッチして画像とする

分離系の分析機器はガスクロマトグラフ質量分析装置であった。検査する物質を燃やし、発生したガスを分離して質量を計測。どんな物質が含まれるのかを確認する。熱系も同じくサンプルを燃やして、そのときの質量変化を計測して、含まれる成分を確定する。分光系の分析機器は、核磁気共鳴装置だ。サンプルを強力な磁場の中に入れることで、その分子構造を調べる。これらの分析機器も電子顕微鏡と同じく、機器ごとに別の部屋に置かれていた。特に核磁気共鳴装置は、強い磁場を発生させるため、カメラやスマートフォンといった電子機器どころか、クレジットカードさえダメにしてしまう。そのため、特にほかの機器と距離を置いて設置されていた。

こうした分析機器は、ハイテクノロジーの極みのような存在ではあるが、あくまでも道具にすぎない。それを使いこなすために、いかに上手にサンプルを準備できるか。また、いかに検査結果を開発に生かすかは、研究員の能力次第になるという。

続いて、タイヤ試験部の様子をレポートしよう。白衣が似合うような研究施設から一転し、巨大な機械の稼働音に包まれる。最初に見学したのは氷上摩擦試験機で、回転するドラムの内側を凍らせておき、そこにサンプルのゴムを押しつける。そこで発生する摩擦を計測。これでゴムの特性を調べるのだ。

これを実物大のタイヤで行うのが、インサイドドラムタイヤ摩擦試験機だ。直径4mものドラムは最高時速250kmもの速度でのブレーキを再現することができるという。

最高時速250kmからのブレーキを再現できるインサイドドラムタイヤ摩擦試験機

最高時速250kmからのブレーキを再現できるインサイドドラムタイヤ摩擦試験機

同じようにドラムにタイヤを押しつけるけれど、それを常温で行うのが転がり抵抗試験機となる。タイヤのころがり抵抗の値は、タイヤの性能をうたうラベリング制度に使われるため、非常に正確な検査結果が求められる。そのため試験時の温度を厳密に管理するため、空調で管理された小部屋の中で試験が行われていた。

そして、延々とタイヤをドラムに押しつけ続けるのが耐久試験機だ。最高時速450kmまでテストが可能だという。最終的にタイヤが破裂するまでテストすることもあるため、周囲を頑丈な金網で囲われていた。

延々とタイヤにドラムを押し付け続ける耐久試験機。最高時速450kmまでテストが可能

延々とタイヤにドラムを押し付け続ける耐久試験機。最高時速450kmまでテストが可能

最後に見学できたのが路面を模したベルトの上でタイヤのコーナーリング性能を見る、フラットベルトコーナーリング試験機だ。回転するベルトはステンレス製で表面に紙やすり状のものが張られている。そのベルトに、コーナーリング状態を再現するために角度をつけてタイヤが押しつけられるのだ。

化学そのものといった新しいゴムの研究と、巨大な機械を駆使するタイヤの試験。こうした研究開発・試験を通して新しいタイヤが生まれてくるのだ。

コーナーリング環境を再現するフラットベルトコーナーリング試験機。ベルトはステンレス製で紙やすりのような表面加工が施されていた

CO2削減や資源保護などを通じて、タイヤを使い続けられる地球の未来を模索

勉強会のしめくくりとして行われたプレゼンは、横浜ゴムの未来に対する取り組みの説明であった。

現在、世界を悩ます問題のひとつに気象変動がある。横浜ゴムは、タイヤメーカーのできる対策として二酸化炭素排出量低減に取り組んでいるという。1998年には、いち早く「低燃費」をコンセプトとしたエコタイヤDNAをリリース。現在では、より発展したブルーアースシリーズを広く展開している。タイヤで燃費がよくなれば、それだけ燃料の消費が減る。それはそのまま二酸化炭素排出量低減につながるというわけだ。また、「千年の杜プロジェクト」と称して、2017年までに横浜ゴムの国内外の生産拠点に50万本の苗木を植える活動を行っているという。

そして現在、考えているのが「石油由来の原材料から、植物由来への転換」だ。一般的なタイヤの原材料構成比は、天然ゴム21%、合成ゴム25%、カーボンブラック19%、シリカ8%、ゴム薬品6%、スチールコード6%、オイル4%、ビードワイヤ4%、繊維4%、酸化亜鉛2%、硫黄1%だという。最大を占める合成ゴムは、石油を原料としている。これを少しでも植物由来に変えていきたい。しかし、技術的やコスト的な問題が山積しており、なかなか実現が難しい。それでも横浜ゴムは、研究開発を進めて、一歩でも目標に近づこうとしているという。

そして、その成果が、この夏に2つ発表された。ひとつは東京工業大学、もうひとつが理化学研究所/日本ゼオンとの共同研究だ。どちらもバイオマス(生物資源)から合成ゴムを作る技術であった。

東京工業大学との共同研究で開発されたのは、バイオマス(生物資源)であるセルロース(植物繊維の主成分である糖)から、合成ゴムのブタジエンを作り出す触媒である。特に今回の研究では、量産化も視野に入る高効率な固体触媒ができあがった。これにより、2020年代前半の実用化を目指すという。ブタジエンゴムは、使用量の多い合成ゴムのため、実用化されれば、化石燃料の使用量削減に大きな効果が期待できるという。

理化学研究所と日本ゼオンとの協同研究では、バイオマス(生物資源)から合成ゴムのイソプレンを合成する方法を発見。こちらも2020年台前半を目標に実用化を計画しているという。イソプレンは、化学構造が天然ゴムに類似するため、合成天然ゴムとも呼ばれるもの。実用化すれば、化石燃料使用量低減だけでなく、天然ゴムを補てんする存在としても期待できるのだ。

5年後、10年後を見据えた素晴らしい研究開発であった。1日でも早い実用化を願うばかりだ。

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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