バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
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大型オフロードバイク×DCTの優位性とは? 新「アフリカツイン」の真価を探る

「アフリカツイン」の名を聞いて心躍らせている人は多いのではないだろうか。かつてホンダがパリ・ダカールラリーで3連覇を達成した1988年に発売した「XRV650」に冠せられていた名が、同社のダカールラリーへの復帰に合わせるように復活。そのマシンが「CRF1000L Africa Twin」だ。CRF1000L Africa Twinには通常のマニュアル・トランスミッションを採用したモデルだけでなく、自動で変速を行うデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)モデルがラインアップされているのがおもしろいところ。今回は、大型オフロードマシンに自動変速を搭載したDCTモデルを作った真意を開発者にインタビューするとともに、その乗り心地を試乗して確かめてみた。

デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)モデルのサイズは930(幅)×1,475(高さ)×2,335(長さ)mmで、車重242kg。ちなみに、マニュアル・トランスミッションモデルもサイズは同じだが、車重が232kgとなる

ラリーマシンの技術を継承した車体

初代「アフリカツイン」であるXRV650は、パリ・ダカールラリーなどで活躍したラリー専用マシン「NXR750」のイメージを受け継ぎ、本格的なオフロード走行も可能なモデルとして登場した。1990年には排気量を750ccに拡大した「XRV750」へと進化し、その後もモデルチェンジによってブラッシュアップされながら1999年まで販売。デザインだけでなく、足回りにもラリーマシンからのフィードバックが反映されるなど、高い走行性能を有する、今でもファンの多いシリーズだ。

ラリーマシンのイメージを踏襲したデザインで多くの人を魅了した初期型の「XRV650」

ラリーマシンのイメージを踏襲したデザインで多くの人を魅了した初期型の「XRV650」

今回発売されたCRF1000L Africa Twinも、2013年から参戦を再開したダカールラリーを走る「CRF450 RALLY」のイメージを継承。高速での風圧を低減する大型のフェアリングを備え、足回りも前後フルアジャスタブルと本格的な性能を与えられている。前モデルとなる「XRV750」はV型エンジンで排気量は750ccだったが、CRF1000L Africa Twinは1,000ccの直列2気筒に変更。排気量がアップしたことと、レーシングマシン「CRF」シリーズのノウハウを生かしたユニカムバルブトレイン機構で、最高出力は「XRV750」の43kWから68kWへと大きく向上した。また、270°クランクの採用によりトラクション性能も優れる。

従来のイメージを残しつつも進化したCRF1000L Africa Twinの構造を見ていこう。なお、以降で紹介する要素はDCTモデルだが、基本的な構造はマニュアル・トランスミッションモデルも同様だ。

直列2気筒のエンジンを採用したことにより、エンジンがコンパクト化。シート近くにシリンダーなどがなくなり、シート高を下げたり、シートの幅を抑えることにも成功した

出口が2穴タイプのマフラーは大排気量らしい容量の大きなもの。大排気量車ならではの低く、迫力を感じる排気音だが、音量自体は静かだ

前輪は、21インチのホイールにΦ310mmのダブルディスクと4ポッドキャリパーを組み合わせたブレーキを装備。ABS機構も標準で搭載している

230mmのロングストロークを確保したフロントサスペンションには、荒れた道での走行にも対応した倒立式フォークを採用。イニシャルや伸び側・圧側の減衰力調整も可能だ

リアホイールは一般的なオフロードモデルと同様の18インチで、ブレーキはΦ256mmのシングルディスク。後輪のABSは状況によりキャンセルもできる

リアサスペンションもフロントと同様にフルアジャスタブルとなっている。プリロードなどは、ダイヤルで簡単に調整可能

ライトはXRV750と同様の2灯式で、イメージを継承。XRV750は丸型だったがCRF1000Lでは現代的なツリ目デザインとなり、光源もLEDとなっている

コックピットにある大型の液晶パネルには速度や回転数のほか、走行モード、選択されているギアやトラクションコントロールなどがすべて表示される

前モデル(XRV750)では40°だったハンドルの切れ角は、左右それぞれ43°になった。最小回転半径はクラストップレベルの2.6mとなっており、オフロード走行時や日常の押し歩きなどでも取り回しがしやすい

開発者に問う! DCTが採用された理由とは?

そもそもDCTとは変速を自動で行う機構で、スクーターのように右手でアクセルを開けるだけで走ることができる。加えてスクーターなどの無段変速とは異なり、速度が上昇すれば1速→2速→3速とシフトアップし、減速した場合はシフトダウン。停止する際にクラッチを握る必要はないため、ライダーの操作は格段にラクになる。

そんなDCTをアフリカツインに搭載するプロジェクトは、当初は開発陣の中にもその優位性を疑問視する声が多かったという。一般的に排気量の大きなオフロードモデルはバイクに乗り慣れたベテランライダーに選ばれることが多いため、自動変速がそれほど求められているとは言えないというのが理由だ。それでもDCTモデルを作った意図を開発者に聞いてみた。

DCTと電子制御ユニットの開発を手掛けた、本田技術研究所 二輪R&Dセンターの伊藤飛鳥さん(左)と中村公紀さん(右)

CRF1000L Africa Twinはコンシューマー向けのマシンであるが、ラリー専用モデルからの技術をフィードバックし、長距離のオフロード走行も可能なアドベンチャーモデルと位置付けられている。そのため、ラリーで使用されるようなコースも走破できるようなマシンを目指して開発が行われた。
「オフロードでのライディング中は想像以上にクラッチや変速の操作に意識を取られています。ダカールラリーで走るような、過酷なオフロードを含む長距離を無事に完走するというシチュエーションを想定した時、それを自動化することはライダーの負担を減らし、結果的に転倒などをすることなく無事に帰って来るということに有効だと考えたからです」と話すのは、DCT制御を担当した伊藤さん。

とはいえ、多くのベテランライダーを納得させるには、DCTの変速操作がライダー以上に的確であることが必要となる。アフリカツインにDCTモデルが用意されたということは、DCTの変速制御がそれだけ進化しているという自信の現れだろう。
「あらゆる走行シーンでライダーの思いどおりの変速操作ができるように、多くの制御を採り入れています。たとえば、坂を登り降りするシーンでは車速、エンジン回転数、スロットル開度、ギアポジションなどから上り坂であるか下り坂であるかを推定。登坂では低めのギアポジションを維持し、降坂ではシフトダウンタイミングを早めることで減速中の適切なエンジンブレーキを確保するという制御を自動で行います」(伊藤)。

こうした制御を積み重ねることで、多くのライダーを満足させる変速の自動化を可能にしている。

変速は自動化されているため、左手側にあるクラッチレバーは存在しない。変速操作時はもちろん、停止からスタートするシーンでもクラッチ操作は不要。ちなみに、奥に見えるレバーは坂道などで駐車する際に使用するパーキングブレーキだ

本格的なオフロード走行に対応するためには、さらに複雑な制御が必要。DCTはエンジンの回転数が上昇するとシフトアップを行うが、オフロードでは後輪がスリップしてしまいエンジン回転数は上がっているが車体は進んでいないという状況になることも。そこで、CRF1000L Africa Twinでは前後輪に搭載されたセンサーがスリップを感知すると、後輪が空転している場合にはシフトアップを行わない制御が行われる。

また、「Gスイッチ」と称されるオフロード向けのクラッチの制御機能が装備されているのもポイント。
「DCTでは変速の際、唐突にギアがつながって挙動がギクシャクするのを防ぐため、半クラッチ的にわずかにクラッチを滑らせる制御を行っています。ただ、オフロードではアクセル操作で後輪を滑らせたり、車体を起こすといった操作を行うので、0.1秒以下のクラッチの滑りでも操作の遅れになってしまう。Gスイッチは、ボタン1つでクラッチの滑りを減らし、よりダイレクトな操作感を実現します」(伊藤)。

オフロードでは、アクセルの操作であえて後輪を滑らせるような走り方をすることがある。これを実現するのがGスイッチだ
※画像提供:ホンダ

Gスイッチはカウルの右内側に装備。ちなみにGスイッチの左にあるボタンでは、後輪のABSをキャンセルできる。後輪をあえてロックさせて向きを変えるブレーキターンの操作が可能に

さらに、アフリカツインには駆動力が強すぎてタイヤが滑ってしまった場合に駆動力を調整して滑りを抑制するトラクションコントロール(ホンダでは「ホンダ・セレクタブル・トルクコントロール」と呼ぶ)も搭載されている。従来のバイクで後輪が滑ってしまうと、ライダーがアクセルとクラッチでトラクションをコントロールする必要があったが、そうした制御もマシンが行ってくれるのだ。しかし、オフロード走行では後輪を滑らせながら前に進ませたいという状況も存在する。そのため、CRF1000L Africa Twinではトルクコントロールの効き方を3段階で選択できるようにし、場合によってはOFFにもできるようにしたという。
「トルクコントロールを選べるようにするにも、DCTと協調した制御は必須です。そのため、車体を統括して制御するコンピュータ(ECU)は同時に多くの計算を行える高性能さが求められました。これまでのバイクに比べるとECUの性能を限界に近いところまで使用していますが、すべては“ライダーの感覚”にあわせるため。DCTでライダーにかかる負担をサポートするとともに、オフロードを意識した制御機能で自分好みの走行を楽しんでいただければと思います」(中村)。

3段階で調整できるトルクコントロールのレベルは、左手側に設けられたレバーを引くだけで切り替えできる

3段階で調整できるトルクコントロールのレベルは、左手側に設けられたレバーを引くだけで切り替えできる

DCTモデルの乗り心地は?

「ライダーの感覚にあわせる」という言葉が印象に残ったインタビューだったが、その言葉がどれほど実現されているのか、実際にDCTモデルに試乗して確かめてみた。

小雨が降る中での試乗となったため、ウェットコンディションの路面を走行

小雨が降る中での試乗となったため、ウェットコンディションの路面を走行

左手のクラッチ操作と左足のシフト操作から解放されるとライディングは圧倒的にラク! とはいえ、自動化された変速操作が自分の意にあわないものであればストレスが溜まってしまうが、CRF1000L Africa Twinに搭載されたDCTは、簡単に言うと「自分より上手な人が代わりに変速操作をしてくれている」という感覚。ライダーの意図を先読みしているかのような変速で、ストレスを感じることはなかった。もちろん、ラクではあるが無段変速のスクーターのように操っている感覚が薄まってしまうようなこともない。どちらかというと、今までは変速操作に向けていた意識をアクセルやブレーキ、車体を寝かせるといった操作に向けられるので、よりバイクを操ることに集中できる。今回はオフロードで試乗することはできなかったが、よりクラッチ操作などに気を遣う必要のあるオフロード走行ではその恩恵をより強く感じることができそうだ。

ちなみに、自動で変速を行うモードのほか、手元のシフトスイッチによって任意のタイミングで手動変速できる「MTモード」も搭載。また、自動変速には走りやすさと燃費を重視した「Dモード」とエンジン回転数を上まで使ったスポーティーな走りができる「Sモード」の2種類があり、「Sモード」の中でも、より高回転を多用する「S3」から中回転域を主に使う「S1」まで3つのレベルを選ぶことができる。

「Dモード」と「Sモード」を切り替えるボタンは右手側に搭載。「N」を押すとギアがニュートラルとなり、走り出す際は「D-S」と記載されたほうを押す

シフトアップを手動で行う場合は、左手の人差し指でシフトアップボタンを押す。「D/Sモード」を選択している最中でもボタンによるシフト操作は可能。操作後は自動で「D/Sモード」に戻るため、たとえば2速から3速へのシフトアップだけを手動で行ない、あとは自動で……といった走り方もできる

左手の親指側にあるボタンで、シフトダウンの操作を手動で行うことも可能。シフトアップ同様に任意のタイミングで操作し、あとは「D/Sモード」に任せることもできる

実際に、「Sモード」に入れて走行してみた。モードを「S1」〜「S3」と選択していくと、自分の感覚と走行しているシチュエーションにちょうどいいモードが見つかる(筆者の場合はオンロードでは「S2」モードが一番しっくりきた)。モードを選択した状態でも「ここでシフトダウンしたいな」と感じたら、ボタンの操作で即座にシフトダウンできるのは非常に便利だ。

まとめ

新しいアフリカツインにDCT搭載モデルが用意されていると聞いた時、オフロードが走行できるといってもツーリングに重点をおいたものなのだろうと勝手に予想していたが、開発者の話からは、今回のDCTが単なる「ツーリングをラクにするための機能」ではなく、ハードなオフロード走行でのライダーの負担を減らす、つまり無事に帰ってくる可能性を高める有効的な施策であることが強く伝わってきた。

また、「ライダーの感覚にあわせること」を重視して開発したという点においては、実際の試乗で実感。感覚に遅れることなくバイクが反応してくれるのでストレスや疲労を感じることなく、楽しくバイクを操ることができた。“CRF1000L Africa Twin×DCT”は、バイクの新しい可能性を提案する画期的なマシンと言えるだろう。

走行シーン撮影:松川忍

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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