2018年秋のNHK朝ドラは「まんぷく」。こちらは、インスタントラーメンを発明した日清食品の創業者をモデルに描かれる作品とのこと。それに伴い、今年は袋麺界が一層盛り上がりをみせそうな予感。聞けば、東日本大震災後にカップ麺が品薄となった影響で袋麺の人気が再燃。大手各社が「マルちゃん正麺」など本格派の袋面を売り出し始めたほか、全国のご当地インスタントラーメンもここ1〜2年でかなり増えており、今やその数なんと1,000種以上。
そんなご当地袋麺を専門に扱うお店「インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店」の店主に、その中からさまざまなイチオシを教えてもらいました! そして実際にお店で作ってもらい、食べてみようと思います。
協力してくれたのは「インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店」のご主人、土橋泰二さん。TVにもよく登場する、即席麺業界の有名人です
「インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店」には系列として、大阪の即席麺販売専門店「やかん亭」があり、こちらで取り扱う約1,000種類の商品から常時100〜120アイテムをえりすぐって提供しています。選別の基準は、定番人気のものや新作の中から注目度の高い商品などなど。
「インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店」の客席側にズラリと並ぶ商品群。お客さんはここから好きなものを選び、オーダーして作ってもらうという流れです
同店には大きな棚があり、基本的には都道府県別にご当地袋麺が並べられています。そこからまずはラーメンの味の4大ジャンルといえる、醤油(しょうゆ)、塩、味噌(みそ)、豚骨の4つからおすすめを教えてもらいました。
岩手県が誇るブランド牛のひとつが「前沢牛」。この高級食材をスープに使った、リッチな味わいの醤油スープが決め手です。なおラーメンの具材は、お店のほうでスープに合うおすすめをトッピングしてもらいました。こうして盛り付けてみると、ラーメン店のものと遜色がなくて驚きですね!
同商品は2017年に発売されたばかりとのことですが、クオリティの高さで一躍トップに躍り出たとか。おいしさの秘密は、麺に練り込まれた前沢牛のエキス。近年の人気商品には麺自体に味を練り込んでいることが多いそうで、素材のうまみをよりダイレクトに楽しめるのが特徴です。
麺は2日かけてじっくり熟成させた、細ちぢれタイプ。コシが強く、深みのあるスープによく絡みます。スープをレンゲですくってみると、時折茶色い粒が混じりますが、これは前沢牛の肉のチップ。非常に細かいものの、これもふくよかなうまみを生むことにひと役買っているのでしょう。事実、ひと口目からどっしりとした深いうまみが広がります。あくまでもあっさりとした醤油ラーメンですが、豚や鶏とは違う力強さが印象的。ぜひお試しを!
パッケージの見た目はかわいらしいですが、味は超本格的。昨今のインスタントラーメンは、同じようにギャップのある商品が多いことも特徴です。このしじみラーメンは、土橋店主が「完成度No.1」と特に太鼓判を押す逸品。繊細な味わいに驚いたとのことですが、その実力やいかに?
ちなみに商品名の「天塩」というのは、北海道天塩郡天塩町のこと。ここの名産であるしじみを、ふんだんに使っているということですね。土橋さんいわく「こういった商品は町おこしの意味合いが強いため、自治体も売り上げ度外視で安価に設定していることが多い」とのこと。なるほど! 確かにコスパはかなり高い気がします。
食べてみると、まずは上品な香りに圧倒。スープの味自体にも、しじみの濃厚なエキスがあふれています。土橋店主の言う「料亭のおすましとして出てきてもおかしくない味」という表現にも納得です。あっさりとした塩味ですが、この絶妙なテイストだからこそ鮮烈なダシの風味が生きているのでしょう。しじみの貝もしっかり入っていて、好アクセントに! 滋味深くてやさしいテイストは、体をいたわりたいとき、また酒の締めにもおすすめです。
天塩しじみラーメン
参考価格 - 円
2018年4月18日 12:31 現在
前沢牛の醤油にしじみの塩ときて、次は毛がにの味噌! こちらも麺に特徴があり。北海道産小麦粉にオホーツクの塩、そして毛がに粉末を麺に練り込んでいるとのこと。
そう、こちらも素材のうまみを麺に練り込んでいる商品です。そしてもちろん、スープにもカニのエキスがたっぷり。香りからしてリッチな風味がたまりません。
この味を簡潔に表現するのであれば「エレガント!」。カニ風味どころではなく、しっかりとカニの味が感じられます。もちろん味噌とのバランスも絶妙。これは高コスパといえるでしょう。カニのラーメンなんて、専門店で食べたら1,000円は超えそうですが、インスタントラーメンなら格安で食べられますから。麺の食感も昨今の技術進化で、乾麺でありながら生麺のようなみずみずしいテクスチャー! 芳醇な風味のスープとあいまって、より高級感を醸(かも)し出します。パッケージもぜいたくなデザインで、ちょっとした贈り物にも使えるのではないでしょうか。
豚骨を醤油や味噌と並べることに、個人的には違和感があります(豚骨はタレではなくスープなのでetc)。ただ、世間的に並列される場合の豚骨ラーメンというのは、白濁したスープ×ストレート細麺の関西〜九州系が中心。今回の豚骨も、そういった意味合いでカテゴリーを立てています。その中で、軍配が上がったのは「しゃれとんしゃあラーメン」というシリーズのレペゼン熊本!
このシリーズは、博多を拠点とする食品会社が発売しているもの。白濁豚骨×ストレート細麺の九州ラーメンを、各ご当地のスタイルごとに数種類展開している中のひとつです。土橋店主いわく、九州ラーメンはストレート麺ということもあって、インスタントも伝統的に棒状で発売されているとか。また替玉の文化があるように、おかわりをする人が多いため、2食入りのパッケージが一般的なのだそうです。
ファーストインプレッションは「九州ラーメンの王者は、博多じゃなくて熊本なのでは?」とすら思える、“ニク”い香りの演出。クリーミーな豚骨スープに、焦がしニンニクフレーバーが利いています。ただ、豚骨感もニンニクテイストもそこまで強烈ではないので食べやすく、もたれる感じもありません。バランスよく調和していてうまみがいい感じに出ているところが魅力といえるでしょう。適度にツルっとプリっとした麺もスープによくなじみ、おいしいです。
※現在価格.comでは一時的に取り扱いがないようです。見つけ次第リンクを追加します
ここからは、味以外の部門別に紹介します。インスタントラーメンは種類が豊富なだけに、さまざまな個性を持った“変わり種”が存在。その中から、特にこれはトガっているけどウマい! という商品を、土橋さんに東西で1つずつピックアップしてもらいました。
まずは東から。ものすごく幅広い麺が最大の特徴。「ぺろっこらーめん」というネーミングも独特ですが、岩手県の製造元がもともと「ぺろっこうどん」を販売しており、それのラーメンバージョンがこちらだそうです。
個人的に、筆者が一番気に入ったのはこれ! 非常にトガった個性ではありますが、期待を超える“ちゅるりん”とした食感に、ほほえみが止まりません。なんだか麺というよりワンタンに近いような弾力。とはいえ生地とスープが1つになって、口の中に広がる味わいはラーメンです!
スープは魚介と豚骨清湯(チンタン)がベースの、あっさりとした醤油味。懐かしの中華そばといった雰囲気です。太くて生地自体の味わいが強い麺にも負けない豊かなうまみがあり、互いの相性も抜群です。あっという間に完食してしまいますよ。
対する西は、なんとオリーブオイルを練り込んだ麺を味わうラーメンです。製造元があるのは香川県の小豆島なのですが、ここは伝統的にそうめんの製造が盛んで、なおかつ国内屈指のオリーブの生産地。両方の技術から生まれるべくして誕生したのがオリーブラーメンというワケですね。
こちらは味が数種類あり、その中で土橋さんがおすすめするのは海鮮スープ。塩、トマト、地中海風などバラエティーに富んでいるので、気になる人はほかのスープも試してみるといいでしょう。
そしていざ、海鮮スープで実食へ。最初は「なんだこれ!」的な驚きがありますが、これはおいしいサプライズ。麺は手延べの技で20時間以上かけて作っているそうで、プツっとした歯ごたえが魅力的です。中華麺に欠かせない「かんすい」は不使用とのことで、パスタに似た食感。でも、この味わいはパスタでもそうめんでもなく中華麺。不思議な食感ですが、しなやかかつ上品なノド越しでおいしいです!
コアなファンに大人気の激辛ジャンル。ただ、実は筆者は苦手なのです。土橋店主も好んで食べることはないそうですが、特に辛さで定評のある商品を教えてもらいました。
福岡県発で、九州ならではの細麺に唐辛子が練り込まれているのが特徴。コチュジャンやハバネロなどがブレンドされた味噌仕立ての激辛スープには、辛さだけでなくうま味とコクが感じられるとのこと。
実は、一番辛い商品は「18禁ラーメン」という商品なのですが、この日は品切れ…とのことで、数年前までNo.1の辛さを誇っていたというこの「朱(トゥー)」を作ってもらいました。そしてひと口…「ヒィー! 燃える!」。メチャクチャ辛い、辛いというか痛いです。そして、これ以上口にすることはできませんでした。すみません!
筆者は辛いものが苦手とはいえ、普通の辛さであればなんなく食べられるタイプ。でも、これはぶっちぎりで無理でした。土橋さんも、このラーメンを作る際は、気化した香辛料が目に入ると痛いので気を付けているとか。辛いものは得意じゃないけど試してみたい、という人は、調理にもお気を付けください。
なお、おまけでこちらも紹介。系列である「やかん亭」が監修した激辛ラーメン「乙女麺 OTOMEN」です。「インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店」で2番目の辛さだそうです。価格.comでの取り扱いはありませんが、気になる激辛ファンの人はぜひご賞味を。
以上が、今回部門別のイチオシとして紹介してもらったインスタントラーメンです。ただ、改めて激ウマインスタントラーメンの世界に浸りたい人、または万人受けするド定番を知りたいという人のために、殿堂入りといえる二大巨頭をご紹介。両方ともレペゼン北海道ですが、まずはこちらから。
北海道利尻島から、「利尻漁業協同組合」で開発された「利尻昆布ラーメン」。名産である利尻昆布を知ってもらおうと、利益を度外視して作られた逸品です。
とにかく人気で、別のお店などでアンケートをとっても首位になるという傑作がこちら。板状の利尻とろろ昆布がそのまま入っているというインパクトも確かに秀逸ですが、やはり基本の味がすばらしい!
この感動をひと言で表現するなら、「北海道、万歳!」。やさしい風味の中に広がる、昆布のパワフルなうまみ。そして麺も独特です。なんと、利尻昆布が練り込まれているではありませんか! そのため、麺がうっすらと緑色になっています。ゆるやかなウェーブがかかっていてスープともよく絡み、しっかりとしたコシがあってノド越しも良好。これは確かに名作です!
そして最後に紹介するのは、現在のご当地インスタントラーメンブームの立役者といえるレジェンド的商品。このかわいらしいパッケージ、見たことがある人もいるでしょう。デザインもさることながら、味もハイクオリティなんです。
乾麺でありながら、生麺のような食感。これは冒頭の「マルちゃん正麺」が世に知らしめた印象ですが、それ以前に実現させていたのが、このシロクマラーメンなのです。販売元の「藤原製麺」は今でこそ業界で有名ですが、もともとは旭川の零細メーカー。インスタント麺のおいしさに、革命をもたらした企業なのです。
思わず口からこぼれる「やっぱりうめぇ!」というセリフ。筆者もこちらは何度か食べていますが、改めて思うのは、お手本のようなおいしさです。飛び抜けて何かがスゴいという印象はないものの、「毎日飽きずに食べたいのはこれ!」と思える普遍性を感じました。やさしい塩味で、今回紹介した中で、お子さんからお年寄りまで万人に受けるのはこの味かも、とも思いました。
全種類を食べて改めて感じたのは、袋麺が想像以上に進化しているということ。各地のラーメン専門店の味が、数年前に比べて全体的においしくなっているとは思っていましたが、袋麺業界にも同じ現象が起きているということでしょう。スープも麺も専門店に負けないおいしさになっていて、しっかりトッピングして提供したらインスタントだと気付かれないかもと思えるレベルです。
なお、まとめとして土橋さんの個人的なNo.1は「天塩 しじみラーメン」。筆者のお気に入りは「小山製麺 ぺろっこらーめん 醤油味 200g」です。
そして土橋さんより、家でおいしく作るためのアドバイスが2つ。
1つ目は、麺とスープは同じ鍋で煮込むのではなく、分けて調理。しっかりと湯切りをして、スープの味がぼやけることのないように。ただし味が練り込まれている麺は逆で、一緒に煮込んでなじませましょう。
2つ目は、なるべく冷めないようにあらかじめ丼とスープを温めておくこと。
丼にスープを袋のまま入れて、お湯を注(そそ)いで準備。特に冬場は油が固まりやすく、スープの中身を出しづらくなるため重要とのこと
今回紹介した商品は、通販で購入できるほか、もちろんお店でも提供しており、その場合は1杯790円から食べられます。持ち帰りでの販売も行っているので、立ち寄ってみるのもいいでしょう。ぜひ本稿を参考に、有意義なラーメンライフを!
【取材協力店舗】
インスタントラーメンさくら 練馬光が丘店
住所:東京都練馬区高松5-7-10 エメラルドビル 1F
電話番号:03-6794-6777
営業時間:月〜土11:30〜14:00/17:30〜23:00、日祝17:30〜23:00
定休日:不定休
アクセス:都営大江戸線「光が丘駅」A5番出口徒歩10分
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とウェブメディアを中心に編集と撮影を伴う取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。