2018年末、ぐるなび総研の「今年の一皿」に「鯖(サバ)」が選ばれました。
一連のブームの中、2018年夏に公開した「価格.comマガジン」の「サバ缶」特集記事もあいかわらず好評を博していますが、今“ポストサバ缶”と言われているのが「イワシ缶」。そこでもちろん気になってくるのが、“どのイワシ缶がウマいのか”ということです。
本稿では、ご当地モノに比べて入手しやすいメジャーな商品に着目。いくつかを食べ比べた中から、味付けごとに部門を設定し、それぞれの「トップ2」を勝手に決定しちゃいます!
マルハニチロ、ニッスイ(日本水産)、はごろもフーズなど、水産缶詰大手の「イワシ缶」が勢ぞろい。5つの部門別に全10品を食べ比べました
【目次】
・水煮部門
・醬油煮/味付き缶部門
・味噌煮部門
・蒲焼き部門
・オイルサーディン部門
採点項目は、「身のおいしさ」「味付けの秀逸さ」「脂ののり」「コストパフォーマンス」の4つ。なお、「味噌煮部門」と「醬油煮/味付き缶部門」と「蒲焼き部門部門」は、「白米との相性」も評価しました。
集めているうちに気づいたのが、味付け加工の方向性がサバとやや異なるところ。「サバ缶」は、各メーカーともに「水煮」や「味噌煮」が充実している印象です。いっぽうで「イワシ缶」は、「蒲焼き」がひとつのジャンルを確立しているほか、「オイルサーディン」タイプが販売されているのが特徴的です。
オイルサーディンタイプの「イワシ缶」
ちなみに、この「オイルサーディン」、聞きなれない人もいるかもしれませんが、実は日本初の缶詰は海外品をマネたイワシの油漬け、つまり「オイルサーディン」だったという説も。
また、最近はサバに押されているように思われているかもしれませんが、実は昔からイワシは日本人になじみの深い魚です。なぜなら、一般的に「煮干し」や「シラス」といえば「カタクチイワシ」だから。本稿はそういったウンチクも交えながら、レポートしていきたいと思います。
「月花いわし水煮」
「サバ缶」の記事でも登場した、最大手の一社であるマルハニチロの一大ブランド「月花」は、イワシでも提供。その特徴は、脂がのった国産素材を使用することや、中身のボリュームもたっぷりなこと。サバとイワシの違いを知る意味も含めて、スペックを比べてみました。
「月花いわし水煮」は、200gで468kcal。必須脂肪酸である「DHA(ドコサヘキサエン酸)」は3310mg、「EPA(エイコサペンタエン酸)」は5244mg
「月花さば水煮」は、200gで360kcal。DHAは2660mg、EPAは2300mg
サバのほうが100kcalほど低カロリー。いっぽうで、人が体内で合成できず、食物から摂取する必要がある必須脂肪酸のDHAやEPAはイワシのほうが豊富。これは興味深い差と言えるでしょう。なお、「月花」ブランドはサバやサンマ、イワシを展開しており、サバは水煮のほかに煮付けと味噌煮がありますが、サンマとイワシは水煮のみです。ということで、次はサバとイワシの中身の違いを見比べてみましょう。
どちらも輪切りした身が入っていますが、「サバ缶」(下)は3切れだったのに対し、「イワシ缶」(上)は6切れ。これは生物的な特徴として、イワシのほうがサイズが小さいため、その分、身の数が多く入っているのだと思います
次に「イワシ缶」の味をチェック!
煮汁自体は濃いめですが強すぎず、イワシの素材本来の味わいをダイレクトに感じられました。腹部は豊かな脂をもっていて、とろける食感が絶品。それでいて全体の身はしっかりとしていて、バランスが整ったおいしさだと思います。そのまま、おかずやおつまみとしても十分イケるでしょう。
「カルディオリジナル いわしの水煮 190g」
全国的に展開されている、コーヒーと輸入食品の専門店「カルディ」。同店はPB(プライベートブランド)も展開しており、「カルディオリジナル」のほかに、和ものは「もへじ」、海外ものは「オーバーシーズ」といった名称で手がけています。
「カルディオリジナル いわしの水煮 190g」は、190gで445kcal
国産のイワシを使い、静岡県焼津に工場をもつ業者に製造を委託。また、瀬戸内の花藻塩を使っているのも特徴です。味わいとしては、マルハニチロの「月花いわし水煮」と比べると、煮干しを思わせるシャープな苦みをほんのりと感じます。なお、身は7切れ入っていましたが、マルハニチロのよりもやや小さめ。
切り身をマルハニチロの「月花いわし水煮」と比較。左が「カルディオリジナル いわしの水煮 190g」
イワシの水煮は一般的にアレンジしやすい味付けなので、自炊料理に活用する人も多いはず。その観点で言うと、味がやわらかくてより万能なのがマルハニチロ「月花いわし水煮」で、エッジの効いた味が「カルディオリジナル いわしの水煮 190g」。「セメント系」とも言われる、ダシの濃厚な煮干しラーメンを好む人は後者を選ぶといいと思います。
「釧路産 大羽いわし味付」は、100g当たり163kcal。200g入りなので、1缶326kcalです。公式サイト価格は1缶410円(税込)
同缶は、マルハニチロの北海道〜青森の生産拠点である「マルハニチロ北日本」発の商品。地の利を生かしたプロダクトがウリで、この缶詰のイワシは釧路産。体長18cm以上の大型を厳選しているのが最大の特徴です。
大きめサイズの缶の中に、イワシがびっしりと2尾入っています
身は脂をたっぷりと蓄えており、リッチなおいしさを楽しめますが、味付けも秀逸。みりんのような甘みと生姜の風味が効いた煮汁は、味も濃いめで絶品です。もしこれが、小料理店などでそのまま提供されても、缶詰だとは気づかないであろうレベルです。ただ、ひとつだけ問題と改善点があります。
実は、缶切りがないと開けられません
それは、缶切りが必要ということ……。
利便性が追求されるこのご時世、けっこう珍しいですよね。しかも、缶切りが必要であることがパッケージ類に書いておらず、厚紙の包装に覆われているので、はた目からだと気づかないのです。筆者自身も、開封する時点でそのことに気づき、面くらいました。商品の味自体は絶品なので、そこが改善されるともっといいと思います。
「旬 鰯醬油煮」は、100g当たり204kcal。商品の内容量は175gです
SSKのロゴで知られる「SSKセールス」は、缶詰以外にスープや惣菜、パスタソースなど、幅広く手がけている企業。野球系のスポーツ用品メーカーにも「SSK」はありますが、まったくの別会社です。
中サイズのイワシが8切れ入っていました
本商品は、旬の時季に水揚げされた国内水揚げのイワシを厳選。味付けには、熟成に6か月以上かけた濃口醬油である八木澤商店の「いわて丸むらさきしょうゆ」を使用しています。煮汁は甘じょっぱくておいしいのですが、汁の油分が多い印象で、その分、醬油のウマみが抑えられ、塩味だけ前面に出ているような気がしました。
こうして比べると、「釧路産 大羽いわし味付」の大きさが明らか!
醬油煮・味付きというジャンルの特性上、どちらも白飯との相性は抜群。なお「釧路産 大羽いわし味付」は価格こそ高めですが、クオリティやボリュームを加味すれば決して高すぎるとは思いません。それもあって、缶切り問題は残念な気がします……。
「銚子港水揚げ いわし味噌煮」は、100g当たり259kcal。商品の内容量は190gです
「カンピー」は、食品卸の業界大手である加藤産業のPB。缶詰のほかにジャム、ピーナッツバター、シロップ、乾麺、乾物など、さまざまな食品を手がけています。この缶詰は銚子港で水揚げされたイワシを使い、信州味噌を中心に味付け。隠し味に生姜パウダーを使っているのも特徴です。
中サイズのイワシが9切れ入っていました
煮汁の油分がちょっと多めなので、もっと生姜の風味を効かせたほうが好バランスな気もします。味付けとしては甘みを強く感じますが、味噌煮であればこれぐらい甘いほうがいいのかもしれません。というのも、濃いめではありながら、イワシの身がやわらかくなるほど、ひたひたに味が染みてはいないからです。いずれにせよ煮汁は絶品で、捨てるにはもったいないと思えるレベル。夏は冷や汁とか、冬は味噌味の鍋の具などに使えると思いました。
「いわしみそ煮」は、100gで193kcal。「カンピー」より低カロリーです
ニッスイこと日本水産は、明治創業の老舗であり超大手。有名な商品をあげるとすれば冷凍食品の「ニッスイ 大きな大きな焼きおにぎり」ですが、缶詰や魚肉ソーセージなど、さまざまな食品を販売しています。
容量は100gとコンパクトながら、大ぶりの身が3切れ入っています
甘さは控えめで、その分、塩味が強調されている印象。味の方向性としてはおいしいです。味噌煮であればもう少し濃くてもいいのかなと思いつつも、健康面に配慮している結果なのかもしれません。「カンピー」よりも薄味に感じましたが、カロリーが低いのは強み。好みが分かれるところでしょう。
身はニッスイのほうが大きい分、食べ応えがあります。全体的な量や健康面を気にする人はニッスイにするなど、食べるシーンによって使い分けるといいでしょう
「秘伝いわし蒲焼」は、100gで218kcal
筆者、マルハニチロの回し者でも何でもないのですが、蒲焼き部門でも同社商品が素直においしいと思いました。ちなみに、マルハニチロは商品群が豊富なのも特徴で、蒲焼きは「いわし蒲焼」という“秘伝ではない”タイプもあります。それを凌駕するウマさを感じたのがこれ、「秘伝いわし蒲焼」。
蒲焼き缶詰の特徴のひとつが、イワシのカット方法。半分におろされた切り身になっていて、本商品にはそれが4枚入っていました
「秘伝いわし蒲焼」は、羅臼昆布のダシを効かせることで奥行きを演出。このひと工夫がワンランク上のおいしさを実現しているように思います。また、見た目からして特徴的なのがツヤのある照り。この場合は煮汁ではなくタレと呼ぶのかもしれませんが、羅臼昆布のふくよかなウマみが醬油と調和して深みのあるおいしさを実現しています。焼いているからか、独特の香ばしさもあってタマりません。
「いわし蒲焼」は、「秘伝いわし蒲焼」と同じく100gですが、同社の規定(個体差などによりバラつきが出るという理由)によりカロリーなどの栄養成分表示がありません
HOKOは、戦後まもなく創業した株式会社宝幸のブランド。現在は日本ハムグループで、チーズやフリーズドライなども手がけています。そんな同社の「いわし蒲焼」は、国内工場で製造した正統派の味わいが特徴。
こちらも半身のイワシが4切れ入っていました
タレは甘みが抑えめで、そのためかマルハニチロ「秘伝いわし蒲焼」より香ばしさは若干強い印象。あわせて、ウマみをともなう適度な苦みもあっておいしい。とはいえ、蒲焼きですし全体的にはもっと濃くてもいいと思います。ちなみに、パッケージに山椒の葉がのっていますが、山椒の風味はありません。ただ、ウナギの蒲焼きには山椒がよく合うように、別途でふりかけるといいと思います。
マルハニチロはタテ幅が広め、HOKOはヨコ幅が長めという特徴が見られました
蒲焼きタイプはどちらも、薄切りにされている分、タレの味が染み込んでいました。なお2019年夏の土用丑の日は7月27日。「ウナギは高くて……」という人は、イワシの蒲焼きでしのぐという手もありでしょう。
「日本近海獲り オイルサーディン」は、中身の固形量が75gで181kcal
「缶つま」は、創業300年を超える食品&酒類の総合卸売りの老舗「国分グループ本社」のオリジナルブランド「K&K」から生まれた人気シリーズ。その名の通り、お酒に合う缶詰が多彩にラインアップされており、その中のオイルサーディンが本商品となります。
パッケージと変わらない、きれいな配列で敷き詰められたイワシ。中には、頭と尾をカットした身が8切れ入っています
イワシ以外はオリーブオイルと塩のみなので、ほかの「イワシ缶」に比べて味わい自体は淡白。そのいっぽうで、オイル漬けのために身は非常にやわらかく、素材のウマみも存分に楽しめます。お酒とのペアリングなら、白ワインやスパークリングワインが合いそう。
何かにのせて食べるなら、オイルサーディンは白米よりパンがオススメです
ただ、そのまま食べるとなると、薄味な分、ほかの「イワシ缶」よりも物足りなさがあるかもしれません。バゲットなどのパンにのせたり、オイルをディップしたり、またはパスタの具にするといい気がします。
いわずと知れたご長寿マンガ「ゴルゴ13」のコラボパッケージが印象的。袋の中に、レシピ集が入っています
最後はこちら。「シーチキン」で有名なはごろもフーズが販売している輸入品です。
ここで「シーチキン」についてのウンチクを2つ。「シーチキン」は、同社の商標なので他社はこの名称を使えず、おにぎりなどのシーチキンマヨネーズ商品は、あのフォント(字体)とともに(R)のレジスターマークが付いています。また、「シーチキン」はツナ(マグロ)だけでなくカツオを使う商品(「シーチキンマイルド」の魚がカツオ)もあるので、厳密にはシーチキン=ツナではないのです。
「はごろも&キングオスカー オイルサーディン」は液汁を含む105gで411kcal
では本題へ。
こちらは「サーディン」を「サーティーン」と文字った、遊び心あふれるコラボ商品。ベースとなっているのは、1902年にノルウェーとスウェーデンの統一王であるキングオスカーII世より、特別な認可を与えられて誕生した逸品です。
「缶つま」より若干細めのイワシが9切れ入っていました
原産国名はポーランドとの表記ですが、使用しているのはノルウェーのフィヨルド近海で漁獲した「ブリスリング」と呼ばれる種類のイワシとのこと。こちらをカシの木のチップでスモークし、大豆油で調理。ブリスリング種はやわらかな食感が特徴とのことで、確かに「缶つま」よりもさらにほぐれやすいです。燻製の香りは弱めですが、塩味は「缶つま」よりあるので、味付けとしてはこちらのほうがすぐれているかもしれません。酒と合わせるなら、ハイボールがオススメです。
国産イワシを使った繊細な味付けの「缶つま」と、海外産を香り高く仕上げた「はごろも&キングオスカー オイルサーディン」
産地も味付けも異なるため、好みが分かれるところですが、筆者的には僅差で「缶つま」が1歩リード。もっと「はごろも&キングオスカー オイルサーディン」の燻香が強ければ違うかもしれませんが、「缶つま」はイワシ本来のたくましい味わいがおいしいと思いました。
イワシは漢字で「鰯」と書くのは、水揚げするとすぐに死んでしまうほど弱いからだという説が濃厚。ただ、缶詰をはじめ、煮干し、シラス、唐揚げ、マリネなど、多彩な調理方法がある“万能魚”であり、DHAやEPAがサバより豊富で栄養価的にも頼もしく、「ポストサバ缶」と言われるのも納得です。
本稿で紹介した商品はどれも入手しやすいので、ぜひ参考にしてご購入ください
本稿で紹介した全10種類の「イワシ缶」採点表
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。