クラフトジンの人気がジワジワ広まる中、サントリーから新しいジャパニーズジン「翠(SUI)」が発売されました。
これまで、サントリーは「サントリードライジン エクストラ」、「サントリーアイスジン」、ジャパニーズクラフトジン「ROKU」などを発売してきましたが、それぞれコンセプトや味わいが異なります。今回の新作には、どんな特徴があるのでしょうか?
そこで本稿では、世界的に有名なジン「ビーフィーター ジン」や、コンビニなどでも買える「サントリーアイスジン」と飲み比べて、その魅力を浮き彫りにしていきます。
左から「サントリーアイスジン」(500ml/税込847円)、ジャパニーズジン「翠(SUI)」(700ml/税込1,518円)、「ビーフィーター ジン 40度」(700ml/税込1,419円)
ジンとは、大麦、じゃがいも、とうもろこし、ライ麦などの穀物を原料として、ジュニパーベリー(ネズの実)で香りをつけた蒸溜酒のこと。17世紀の半ば、オランダで熱病の特効薬としてジュニパーベリーをアルコールに浸して蒸溜したのが始まりと言われています。ウォッカ、テキーラ、ラムと並び、世界4大スピリッツ(蒸溜酒)と呼ばれており、ジントニックなどのカクテルの材料としておなじみですね。
ジンを製造する過程で、ジュニパーベリー以外にもさまざまなボタニカル(薬草成分)がくわえられることが多いのですが、これによって味の特徴が決まります。素材的な制約が比較的少なく自由度が高いため、銘柄ごとの個性が出やすいのが、ジンの面白さと言えるでしょう。
ちなみにジンは、素材や製法によって呼び名が異なり、大きく「ドライジン」「オールド・トム・ジン」「ジュネヴァ」「シュタインヘーガー」という4タイプに分けられます。この中で、現在、最も主流になっているのが「ドライジン」です。
そんなジンの中でも、近年特に注目されているのがクラフトジン。厳密な定義は定められていませんが、「造り手が原料、製法、産地などにこだわったジン」と言うのが一般的な位置付けです。日本におけるクラフトジンは、柚子や山椒など、日本ならではの和素材を前面に出す傾向があり、繊細で新しくも親しみやすい味に仕上げられています。
それでは、今回飲み比べる3商品の特徴を紹介します。
サントリーの3つのジンを飲み比べ
まずは、本稿の主役であるサントリーの新作「翠(SUI)」から。
ジュニパーベリーやコリアンダーシードなど、ジンの定番ボタニカルにくわえて、柚子、緑茶、生姜といった和素材を使用。柚子の華やかな香り、緑茶のうまみ、生姜のすっきりとした辛みが加わり、日本人好みの爽やかな香りと味わいに仕上がっています。
パッケージのメインカラーは青緑色。書家の荻野丹雪さんによる墨文字も粋です
サントリーは、本製品のおすすめの飲み方としてソーダ割りを紹介。日々の食事や居酒屋で出るようなつまみに合うジンとして、その魅力を打ち出しています。
「翠(SUI)」はソーダ割りがおすすめとか
イギリスの近衛兵のラベルでおなじみの「ビーフィーター ジン」は、1820年に発売されて以来、変わらぬ秘伝のレシピを守り続け、ロンドンで蒸溜されています。洗練された爽やかな柑橘系の味わいが特徴で、ジントニックのベースにぴったりです。
ジンの定番「ビーフィーター ジン」。お酒をたしなむ人なら、誰もが1度は見たことがあるはず
「サントリーアイスジン」は、0℃に冷却してろ過することで、すっきりとした味わいを実現したジン。厳選された8種類のボタニカルそのものの香りを引き立てつつ、2度の蒸溜によって雑味のないクリアな味わいに仕上げられています。
パッケージデザインから、氷点ろ過のクリアなイメージが伝わってきます
3種類の比較として、最初は何も割らずにそのまま飲んでみて、その後ソーダで割って飲んでみます。ソーダはサントリーの「サントリー 南アルプススパークリング」を使用しました。
まずは、「翠(SUI)」から。
香りのボリュームは3商品の中で1番です。また、やわらかさというか温かさというか、和やかな感じが印象的で、ツンとしたトゲがありません。
やわらかな飲み味と、華やかな香りが特徴
ソーダで割るとその特徴がさらに強まり、味わいは明るく繊細。やさしい爽やかさは柚子、グリーンな酸味やまろやかな甘みは緑茶、繊細なビター感は生姜から来ているのでしょう。
「令和」という年号は、「Beautiful Harmony=美しい調和」が趣旨だということが話題になりましたが、まさにそんな感じ。新時代に生まれた、“令和らしいジン”です。
ソーダで割ることで、さらに香りが花開きます
続いて「ビーフィーター ジン」。
エッジの立った、力強く爽やかな香りが鮮烈です。味はどことなくシャープな辛みも感じましたが、上品かつ絶妙なバランスで嫌な感じではありません。スマートでジェントルな英国紳士を思わせる、「これぞジン!」と言うべき説得力があります。
キリッと力強いキレが印象的な王道タイプ
ソーダで割ると、シュッとした爽快感がより浮き彫りになりました。ほかの2商品に比べると、ハーバルでスパイシーなビター感が出ていて、居酒屋メシというよりはステーキやローストビーフ、赤身肉などに合いそうです。
ソーダで割っても、肉料理に負けないパワーは健在
そして「サントリーアイスジン」。
香りはシャープで、どちらかと言えば「ビーフィーター ジン」に近い印象です。でも味は「翠(SUI)」のような、日本らしいやわらかな感じが加わっています。
透明感のあるすっきりとした飲み口
ソーダで割ってみると、クリアな爽快感がより印象的に。後味がスッと消えるキレも強いです。ヌケがよいと言いますか、クールな味わいに仕上がっています。
とにかくクリア。ライトで飲みやすさも秀逸
さらに「翠(SUI)」の味を深掘りするために、定番カクテルのジントニックを作ってみて、先ほどのソーダ割りとの違いを比較してみたいと思います。
トニックウォーターで割ると、一気に「バーで飲んでいる感」が強まります。やはり味わいとしておしゃれなのはジントニックで、単品で飲むならこっちのほうがよさそうです。ただこれ1種類で飲み続けるのは、ちょっぴり飽きるかもしれないと思いました。
「翠(SUI)」とトニックウォーターの個性が融合して、ドリンク自体で主役になれる味わいです
いっぽう、飽きがこなくてゴクッといけるのがジンソーダ。その理由はトニックウォーターの甘みや苦みがないからで、食事に合わせるのならこっちがおすすめです。
食前や食後にはジントニック、食中ならジンソーダ、これがベストでしょう。ソーダはトニックウォーターに比べて手に入りやすいので、家で飲むなら終始ジンソーダでもよいかもしれません。
飲むタイミングによって、トニックウォーターとソーダは使い分けをしましょう。面倒ならソーダだけでもOK
ソーダをレモンフレーバー入りのタイプに変えると、明るい酸味が増して、フレッシュな感じが強調されます。爽快感を際立たせたい人には、これもおすすめです。
爽やかさが欲しい時は、レモンの風味をプラス。ここでは、「サントリー 天然水スパークリング レモン」を使用しました
サントリーの公式サイトでは、「翠(SUI)」のソーダ割りと、居酒屋メシの相性がよいということが紹介されています。鶏のから揚げや焼き鳥などがおすすめとのことで、そのペアリングも試してみました。
電子レンジで手軽に調理できる、冷凍の鶏つまみを用意しました
食事と一緒にジンソーダとジントニックを飲み比べてみると、その差は歴然。「居酒屋メシに合わせるならジンソーダだ!」とはっきりとわかりました。
というのも、やはりトニックウォーターの甘みやビターなテイストは、居酒屋系のつまみにはちょっとジャマなのです。山椒や胡椒が利いたスパイシーな居酒屋メシや、洋風のステーキならジントニックもアリだと思いますが、ごく普通のから揚げや焼き鳥には、ジンソーダがベストマッチです。
いつもの食事には圧倒的にジンソーダが合う!
これまでハイボールやレモンサワーがお酒のブームとしてきましたが、ジンソーダも流行りそうなポテンシャルが大いにあります。ほのかなビター感がおしゃれだし、いろいろなつまみに合うはず。特に、カレー、花椒(ホアジャオ)、クミンなどのオリエンタルなスパイスを使った料理に合うのは、ジンソーダだと確信しました。
家でレモンサワーを作る時に、最近ではレモンサワーの素を使うこともあるかもしれませんが、甘さがより少ないジンをベースにするのもアリ。特に「翠(SUI)」は、滋味深く、たおやかな和のアロマが効いているので、醤油やダシを使った気軽な家メシ、家つまみには合わせやすいでしょう。
「翠(SUI)」のおいしさを検証してみましたが、結論、和のボタニカルが前面に出たこの味わいで700mlが1,518円(税込)なのはとてもリーズナブルと言えます。ボトルもおしゃれだし、男女どちらにもしっくりくる、ダイバーシティさえ感じます。
「翠(SUI)」と食事の相性をぜひ試してみてください!
いつもの食事に合う酒と言えば、「翠(SUI)」のような爽やかなジン。そんなイメージが広まる日も近いかもしれません。手の届くお手ごろ価格と、個性が強すぎないという個性は、「クラフトジンにトライしたい」と思っている人たちの入門編にもぴったりです。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。