赤くて目立つパッケージやデザイン、個性的なネーミングなど、数ある中華調味料の中でも、独特な存在感を放つ商品が「味覇」(ウェイパァー)です。
2020年9月1日、その新フレーバーとして「海鮮味覇」が発売され、大きな話題になりました。品薄になる店舗も出ているようです。
そこで今回は、定番の「味覇」と新作の「海鮮味覇」を比較。調味ペーストそのものの味比べはもちろん、調理してみて味わいがどう変化するのかもチェックしました。
中華調味料のド定番「味覇」(写真左)と、話題の新作「海鮮味覇」(写真右)
「味覇」は、鶏骨や豚骨から取ったダシをベースに、野菜エキスやスパイスを配合した中華スープの素。1953年創業の廣記商行という、中華料理の食材やキッチングッズなどを扱う会社が製造しています。神戸・南京町の中華街には廣記商行が運営する食材店があり、プロも御用達の品揃えで多くの人に愛されています。
広東、四川、北京、湖南など、中華料理にはさまざまなジャンルがありますが、どの料理も、食材から抽出したスープが基本。「味覇」はそんな中華料理の王道とも言うべきコクとうまみを凝縮した調味料で、スープだけでなく、家庭で作るあらゆる料理を本格的な味わいに変えてくれます。元々業務用として作られていたのですが、「便利でおいしいから、個人用にも作ってほしい」という声によって、一般家庭向けのお手ごろサイズが誕生したそうです。
「味覇」と言えば、大きく書かれた商品名と、たくさんの中華食材のイラストがあしらわれた赤いパッケージが目印。スーパーやデパートでもよく見かけますよね。そしてフタには、何だか気になるおじさん、通称「味覇おじさん」のイラストが描かれています。こちらは、廣記商行の創業者であり初代社長の鮑日明(パォルゥミン)さんがモデルなのだそう。
新作の「海鮮味覇」にも、あの「味覇おじさん」は登場しています
同社の公式Twitterでは、「味覇」を使ったレシピから、商品とまったく関係ないトリビア、さらには仕事を頑張る社会人への応援メッセージなど、「味覇おじさん」がいろいろなことを日々つぶやいています。
さて、本題に戻りましょう。
今回チョイスした「味覇」は、内容量250gの缶入りタイプ。異なるサイズやチューブタイプもラインアップされているので、使用量や使い方によって選ぶことができます。
どちらも内容量は250g
定番の「味覇」は、鶏や豚など、動物系のダシがメインなのに対し、新作「海鮮味覇」は、その名の通り魚介が中心。エビ、アサリ、昆布、オイスターなどのうまみが凝縮されています。どちらもスープを作るなら小さじ1杯弱(4g)程度をお湯に溶かせばOKなので、1個で長く使えるのではないでしょうか。
パッケージでは、使用量の目安や簡単なレシピなどが紹介されています
フタを開けて、それぞれの味をチェックしてみましょう。「味覇」は素材の風味やうまみをストレートに引き出すべく、ペースト状に封入されています。
写真右の「海鮮味覇」のほうが、濃い色をしています
まずは、通常の「味覇」から味見。そのまま食べるのは初めての体験です。脂っこさはそれほどでもないですが、少量でも十分な濃さがあり、しょっぱさはもちろん奥深いうまみもしっかり。
方向性としては、動物や野菜のフレーバーで、豚や鶏のダシに寄った塩系テイスト。ハーブやスパイスといったエッジのある風味は感じられませんが、確実に中華料理を連想させるオリエンタルな味わいです。
濃厚なうまみと塩味たっぷりの「味覇」。料理の味付けはこれだけで十分でしょう
続いて「海鮮味覇」。エビやカニといった甲殻類のニュアンスが鮮烈です。ただ、原材料の「魚介パウダー」にはカニと表記されていないので、この香りはエビということなのでしょう。知っている人は「ああ、あれか」となると思うのですが、近しいのは「ガピ」(または「カピ」)と呼ばれるタイのシュリンプペーストの風味です。あのエビ全開の香りが「味覇」に加わっており、味わい的にもそんな印象を受けました。
エビの香りがブワッと漂う、濃厚な魚介ベースです
色だけでなく、風味も香りもまったく別物です
「味覇」と「海鮮味覇」自体の違いがわかったところで、料理に使うとどう変化するか? 実際に調理して食べ比べてみました。
まずは、チャーハン&スープのセットから。違いをより明確にするため、ご飯以外の具材はチャーシューとネギと卵のみ。「味覇」だけで味付けした場合と、「海鮮味覇」だけで味付けした場合を比較しました。
食材をサッと炒めて、「味覇」を投入します
全体に味をからめたら盛り付けます
「味覇」のおかげで、中華の王道と言うべきセットが簡単に完成しました
通常の「味覇」を使うと、「チャーハンと言えばこの味だよね」と思わせる、教科書的なおいしさに仕上がります。ペーストをそのまま味見した時にも感じたカドのない味があり、それでいて物足りなさは感じさせないバランスのよさがあります。
皆さんが思い描く通りのチャーハンの味です
「味覇」をお湯に溶かして、ネギを散らしただけのスープを飲んでみましょう。まろやかでいてすっきりとした、こちらもお手本のような中華スープになりました。チャーハンのお供にするのも最適ですが、醬油のコクやラードっぽい油のパンチはそこまでないので、ラーメンなどの汁物料理にしたい場合は、各自で調味料を足したほうがいいかもしれません。
中華料理店で飲むスープと比べると、あっさりした味わいに仕上がりました
同じことを「海鮮味覇」でもやってみました。
先ほどと同じ工程で、最後の味付けに「海鮮味覇」を使用
「海鮮味覇」を全体に行き渡らせたら完成です
ペーストの状態では色が違いましたが、料理にはそこまで色の違いは見られません
調理すると、鮮烈なエビの香りがやんわりと落ち着いてなじむ感じ。確かに魚介の風味は前面に出るものの、動物系テイストの土台があったうえでの魚介なので、変な違和感はありません。アサリやカキ、昆布などのダシもきいているようなので、その甘みも絶妙。リッチなチャーハンに仕上げたい時にオススメです。
動物+魚介の複層的な風味が、上品な味わいを生み出します
「海鮮味覇」を溶かしたスープは、エビの粉末によるものなのか、茶褐色の見た目で、香りはこちらのほうが強いです。飲んでみて思ったのは、お粥に合いそうなテイストだということ。少しエビが強めですが、お粥のようにシンプルな料理を華やかにしてくれるパワーがあります。餃子のあんにアレンジを加えたい時にもよさそうです。
スープにすると、「海鮮味覇」のほうが香りの強さが強調されます
シンプルな料理ゆえに、両者の特徴が色濃く出ました。その違いは歴然で、「海鮮味覇」は通常の「味覇」の互換品ではなく、目指すテイストに応じて使い分けるべきものだということがわかりました。
ノーマルか海鮮か、好みに合わせて使い分けてください
公式サイトによると、「味覇」は洋の東西を問わず、どんな料理にも、どんな食材にも合わせられるとのこと。続いては「トマトの卵炒め」を味付けしてみました。酸味や甘みがはっきりしているトマトにも、うまくマッチするのでしょうか?
トマトと卵をフライパンで熱して、仕上げに「味覇」を投入してからめます
火を通し過ぎないうちに盛り付けて完成です
通常の「味覇」は、トマトの甘みや卵のマイルドな味わいともよくなじみ、素材のよさを引き立ててくれる印象。全体を一層まろやかに包んで、まとまりのあるおいしさに仕上げてくれます。その万能っぷりは、さすが「味覇」。
個性的な食材でもうまくまとめてくれるのが「味覇」の強み
「海鮮味覇」でも試してみました。
仕上げ前に「海鮮味覇」を投入します
仕上がりの見た目は、通常の「味覇」と変わりありません
海鮮のシャープな側面が強調されて、個性的な味わいに仕上がりました。中華料理のエビチリや、シンガポール料理のチリクラブなど、トマトや卵に魚介を合わせるレシピは珍しくないので、少し攻めたトマト卵という意味では大アリ! リッチな風味になるという意味でもいいと思います。
プロっぽい味わいを家庭でも再現できます
スタンダードなザ・中華を楽しむなら通常の「味覇」を、王道の味に飽きた時や、ちょっと贅沢な風味を出したい時は「海鮮味覇」をそれぞれ使ってみてください。料理のうまみやコクがグンと深まります。ちなみに、筆者の個人的な嗜好によると、以下のような結果になりました。
・チャーハン→「海鮮味覇」が好き
・スープ→「味覇」が好き
・トマトの卵炒め→「味覇」が好き
いつもの「味覇」だと思って接すると面喰らいますが、「海鮮味覇」の味わいもまたクセになりそうです
エビが強めですが、「ラーメンは魚介がきいているほうが好き」という人は「海鮮味覇」にハマるかもしれません。「海鮮味覇」は現在人気があるため、しばらく店頭ではあまり見かけないかもしれませんが、ネットならもちろん入手可能。見つけたらぜひ買って試してみてください!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。