インターネットリサーチの大手、マクロミルが2021年11月に行った調査によると、「縁起を担いだものや時節柄のもの、日本の慣習に沿ったもので食べているもの」の1位は、「年越しそば」だったとか(ちなみに、2位「おせち」、3位「クリスマスケーキ」)。
ならば、カップそばの食べ比べを!と思ったのですが、最近の市場で興味深いのが「縦型」のカップそばがジワジワと増えていること。2021年秋には、「サッポロ一番 カップスター」から「カップスター海老天そば」が登場し、セブン-イレブンからは期間限定で「マルちゃん 縦型ビッグ 緑のきつねそば」が発売されました。
ということで今回は、メジャーな縦型カップそばを5つ食べ比べ。縦型ならではの特徴はあるのか、各社の味の違いはどこにあるのか、などを探っていきたいと思います。
今回は、この5商品をチェック。セブン-イレブン限定の「マルちゃん 縦型ビッグ 緑のきつねそば」は入手できずでしたが、同じ「マルちゃん」ブランドからは、「うまいつゆ 鴨だしそば」をノミネート
まずは、大定番「どん兵衛」の縦型タイプ「日清タテ型どん兵衛 天ぷらそば」を試食。
「どん兵衛」や「緑のたぬき」などの超メジャー商品は、販売エリアごとにつゆが異なり、東日本は「東=East」を示す「E」、西日本は「西=West」の「W」などがパッケージに記載されていますが、この縦型に関してはありません。
「日清タテ型どん兵衛 天ぷらそば」は、80g(麺60g)で390kcal。炭水化物は45.3g
定番の横型に比べると、やや小さい気がしますが、おなじみの天ぷらは健在
横型との大きな違いのひとつは、つゆの袋が小分けになっておらず、粉末つゆがかやくとともに始めから入っていることです。また、横型の内容量は、100g(麺72g)なので、縦型のほうがやや少なめ。調理時間は、どちらも同じで3分ですが、そばやつゆの味に関してはどうでしょうか。
天ぷらのほか、かまぼこやねぎなども入っています
食べてみると、つゆは醤油が効いた甘じょっぱいテイスト。原材料名からだしをチェックしたところ、「かつお節粉末」と記載があるいっぽう、西日本向けのカップ蕎麦によく用いられる「昆布エキス」は入っていないので、こちらは東日本向けの味かと思います。
そして麺は、さすがの「どん兵衛」品質。ちぢれが少なめで、しなやかなのど越しからは上品ささえも感じられます。また、天ぷらはつゆを吸ってもサクふわ感があって、全体的に「コレだよ、コレ!」的な安定感。飽きないおいしさです。
ストレートに近く、のど越しがよい「どん兵衛」のそば。縦型でもそのおいしさは健在でした
次は、2021年秋デビューした「サッポロ一番 カップスター 海老天そば」。CMでは人気のアイドルやヒップホップユニットが絶賛していますが、どういう味わいなのでしょうか? 個人的には、「カップスター」ブランドの独自性を確立しているのかが、気になるところです。
「サッポロ一番 カップスター 海老天そば」は、68g(麺50g)で298kcal、炭水化物は41.4g
カップラーメンでは、日清食品「カップヌードル」や東洋水産「マルちゃん クッタ」と縦型カップ麺バトルを繰り広げる「カップスター」。独自の個性は発揮されているのでしょうか?
特徴は、挽きぐるみそば粉に粗挽きのそば殻を配合した、やや幅広で適度な歯応えのある麺を採用していること。つゆには、かつお節と雑節(いわしなど)、昆布のうまみに、濃口醤油を合わせ、みりんの甘みとゆず七味唐辛子の風味も加えた複層的な味わいに。
具材は小海老天、あげ玉、花形かまぼこ、ねぎの組み合わせ
なお、挽きぐるみそば粉とは、胚芽や甘皮なども含んだそば粉のことで、香ばしく、たくましい食感になるのが特徴。食べてみると、やや太く厚みもあり、ちぢれもあって「田舎そば」を思わせるタッチです。つゆは、甘過ぎず、だしの風味を生かした味で、海老天の香ばしさがパワフル感をプラス。余韻のゆずも爽やかさがナイスで、技ありな味に仕上がっています。
麺には、「ホシ」と呼ばれる黒い粒が多め。海老天は、大きな桜海老のようなアクセントで、トッピングとしては十分な存在感です
「マルちゃん」でおなじみの東洋水産からは、「うまいつゆ」シリーズのカップそばから「うまいつゆ 鴨だしそば」をセレクト。こちらは商品名のどおり、鴨だしというのがポイントで、液体つゆ付き。また、鴨のほかに、昆布とシイタケのうまみを効かせた、やや甘めのつゆに仕上がっています。
「うまいつゆ 鴨だしそば」は、71g(麺55g)で310kcal、炭水化物は38.3g
かやくには、油揚げと鶏挽き肉、かまぼこ、ねぎが入っています
「マルちゃん」は、超ロングセラー「緑のたぬき」を手がけているだけあって、カップそばの開発は得意なはず。期待して味わってみると、パツッとしたそばは「どん兵衛」ほどストレートではないものの、のどごしがよくて上品なタッチ。つゆも秀逸で、ふくらみのある甘みをもった鴨のだしが醤油とマッチし、リッチなおいしさです。
鶏挽き肉は小さいので存在感はありませんが、フワッとしてジューシーな油揚げのおかげで、チープな印象はありません
つゆは、醤油ベースの甘じょっぱいものなので、パンチはありますが、天ぷらそばほど油っこくならないのも魅力。酒のシメや夜食にも、よいかもしれません。
くっきりとしたつゆと、しなやかな麺は好相性。アクセントのネギもよい仕事をしています
「スーパーカップ」や「わかめラーメン」、「スープはるさめ」などが有名なエースコックは、そばの印象は薄いものの、タテ型カップそばもちゃんと発売しています。それが「まる旨 小海老天そば」。「サッポロ一番 カップスター 海老天そば」と同様、後発なりの独自性が気になるところです。
「まる旨 小海老天そば」は、57g(麺50g)で256kcal、炭水化物は34.4g
小海老天、揚げ玉、卵、わかめ、ねぎが入っています
スペックとしては、量が5製品の中で最も少なく、その分、カロリーや炭水化物も低め。また、味の方向性は、「サッポロ一番 カップスター 海老天そば」と同系列ですが、こちらのほうが海老天のサイズは小さめ。味に関しては、だしにかつおの本枯節(ほんがれぶし)を使っているのがウリです。
海老天は、小さいながらも香ばしい風味はしっかり。かきあげより油っこくないので、あっさり食べたい人にはおすすめです
本枯節というのは、カビが付くまで発酵させたかつお節のことで、カビの付いていない荒節(あらぶし)よりも高級品。つまり、このカップそばは、贅沢なだしに仕上がっているということです。味わってみると、他社商品より、かえし(いわゆる、つゆの素)がやさしく、その分だしのうまみがボリューミー。醤油のニュアンスも抑え気味ですが、薄さは感じません。なるほど、これが本枯節の効果でしょう。
麺はやや細め。やや珍しい卵とわかめは、アクセントとしてすばらしく、これはこれで大アリ。「少しだけ食べたい」という時や、夜食には最適だと思います
最後は、2019年のデビュー時に「これもアリなのか!」と思い知らされた1品「おだしがおいしいカップヌードル鶏南蛮そば」です。こちらは、何と言っても「カップヌードル」ブランドからリリースされたそばということで、「どん兵衛」を有する日清食品の、いわば内乱的な商品。しかし、こういったチャレンジこそ、日清食品らしさが表われている気がします。
「おだしがおいしいカップヌードル 鶏南蛮そば」は、63g(麺50g)で285kcal、炭水化物は37.3g
最大の特徴は、「カップヌードル」でおなじみの「謎肉」風の味付け鶏ミンチがかやくとして入っていること。そのほか、卵とねぎが入っています
ちなみに、本商品の名前の「鶏南蛮」や、「カレー南蛮」、「鴨南蛮」など、そばでいう「南蛮」は、ねぎのことを指します。気になる味は、想像以上にかつおのだしがしっかり。鶏の存在感はミンチ寄りにシフトしており、つゆはかつおのほうが強めという印象です。だしが効いているので、醤油感も主張し過ぎず、「おだしがおいしい」のうたい文句も納得。つゆに関しては正統派で、まじめに味作りがされていると感じました。
鶏ミンチや卵を食べると、「カップヌードル」感がアップ。大きめのねぎも存在感があって、好印象です
つゆの方向性は、「どん兵衛」に通じるものを感じましたが、麺は少々異なります。本商品のほうがちぢれていて、「どん兵衛」ほどのしなやかさはありません。食感も、若干やわらかく感じました。とはいえ、麺も「どん兵衛」に似せてはあまり意味がない気もするので、これはこれでアリでしょう。
入れ替わりの激しい「カップヌードル」のフレーバーですが、今も残っているのは支持されている証。普通にウマい!
5品を食べ比べましたが、各そばに独自の主張が現れていて、それぞれのよさが感じられました。最後に、商品ごとの特徴を「No.1」の形で表現してみました。こちらも参考にしてみてください。
【安定感No.1】
「日清タテ型どん兵衛 天ぷらそば」
【麺の個性No.1】
「サッポロ一番 カップスター 海老天そば」
【小腹満たしに重宝No.1】
「まる旨 小海老天そば」
【贅沢感No.1】
「うまいつゆ 鴨だしそば」
【具のユニークさNo.1】
「おだしがおいしいカップヌードル 鶏南蛮そば」
個人的には、「うまいつゆ 鴨だしそば」がおいしかったです
カップそばと言えば、「どん兵衛」に「緑のたぬき」と横型の2大巨頭が君臨していますが、たまにはタテ型も味わってみてください。「年越しそば」のタイミングにも、ぜひ!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。