2021年のビール業界で大ヒットした商品のひとつが、“マルエフ”で知られる「アサヒ生ビール」です。同年9月14日に発売されるや否や、売れ過ぎて一時休売。その間に供給体制が整えられ、約2か月後の11月24日から再発売となった流れは、ビールファンならご存知でしょう。
★「マルエフ」の記事はこちら!★
「売れすぎで一時休売のビール「マルエフ」をスーパードライと飲み比べ! 味の特徴を徹底解明」
https://kakakumag.com/food/?id=17530
この「マルエフ」再発売日の11月24日ですが、当初この日は“もうひとつの幻のビール”が発売されるはずでした。しかし、大ヒットした「マルエフ」の供給を優先するために、いったんその復活は見送りに……。
この“もうひとつの幻のビール”こそが、「アサヒ生ビール黒生」。ようやく生産の目途が立ち、2022年2月15日から発売されるに至ったのです。では、その味にはどのような特徴があるのでしょうか。「アサヒスーパードライ ドライブラック」との飲み比べを交えながらレポートします。
左が「アサヒ生ビール黒生」で、右が「アサヒスーパードライ ドライブラック」。比較しながら各味の特徴に迫ります
1986年デビューの「マルエフ」には、缶が終売し、飲食店だけで提供されるようになったものの、2021年に復活という背景がありますが、「アサヒ生ビール黒生」も独自のストーリーを持っています。
「アサヒ生ビール黒生」のルーツは、1982年、日本初の黒生缶ビールとして発売された「アサヒ黒生ビール」。やがて、黒麦芽やクリスタル麦芽、ミュンヘン麦芽がブレンドされ、麦芽の香りと苦みが少なく、やや甘味を感じるまろやかな味わいに進化して、1995年にリニューアル発売されました。
そうして長年、同社の定番黒ビールとして愛飲されていたものの、2012年になると「アサヒスーパードライ ドライブラック」が登場。「アサヒ黒生ビール」は、2015年に終売を迎えたのです。ただ、そのいっぽうで、同社のお客様相談室やSNS上には復活を望む声が寄せられていたことから、「マルエフ」と同様に再発売されることになったのです。
「アサヒ生ビール黒生」の350ml缶。表(左)と裏(右)でデザインが異なり、裏には出自やルーツなどが書かれています
味の特徴をつかむうえで見逃せないポイントは、缶に書いてあります。たとえば、裏ラベルに「19世紀後半頃、ドイツで飲まれ始めた濃色ミュンヘンビールの流れを汲む」とあり、これはおそらく「ミュンヒナーデュンケル」という下面発酵のビアスタイルのこと。また両面ともに、ロゴの上に「Munich-Type(ミュンヘンタイプ)」と表記されています。
「Munich-Type」下部に書かれた「FORTUNE PHOENIX」は、「マルエフ」の由来でもある幸運の不死鳥のこと。「アサヒ生ビール黒生」にも、復活への想いが込められているということでしょう
下面発酵とは、ラガーのことで、上面発酵のエールよりも比較的すっきりした味わいに仕上がります。たとえば、黒ビールのビアスタイルで有名な「ポーター」は、上面発酵で、コク深くまろやかな味わいが特徴。では、下面発酵のミュンヘンビールをヒントにあげている「黒生」の味は、どういった特徴があるのでしょうか。
さっそく飲んでみました。
黒ビールではあるものの、ほんのり褐色のダークブラウン系。きめ細かい泡も魅力的です
黒ビールは、ローストした麦芽を使うことが最大の特徴ですが、「アサヒ生ビール黒生」はその香ばしいフレーバーがしっかりとしています。味わいとしては、ベースにカラメル的な甘みがあり、苦みやボディは軽やかに感じます。口当たりはまろやかで、泡もクリーミーですが、余韻はすっきりしていてゴクッと飲みやすいテイストだと言えるでしょう。
どこか「マルエフ」の特徴である、やわらかさを感じるテイスト。飲み口も心地いいです
比較対象として用意した「アサヒスーパードライ ドライブラック」については軽く触れましたが、改めて紹介すると、こちらは「アサヒスーパードライ」ブランドの黒ビール。ロースト麦芽にカラメル麦芽を加えた黒ビールらしい豊かな風味と、泡がクリーミーになるように仕立てていることが特徴です。
「アサヒスーパードライ」の持ち味と言えば、辛口な爽快感とシャープなキレ。「アサヒスーパードライ ドライブラック」もその特徴は踏襲しているのでしょうか。
こちらも飲んで確かめてみました。
「アサヒスーパードライ ドライブラック」の缶デザインは表と裏がほぼ同じ。裏面(右)の左端には、「飲めるお店」が書かれたWebページへのリンクがQRコードで描かれています
おお〜、黒ビールならではの香ばしい風味がありつつ、キレもしっかり。やはり、「アサヒスーパードライ」らしいスカッとした爽やかさを感じます。「アサヒ生ビール黒生」もスッキリしていますが、より研ぎ澄まされている印象も受けました。
「プハッ」とノドが鳴るような“ドンシャリ感”はさすが!
同じメーカーの黒ビールでも、キャラクターが異なっていて面白いですね。ということで、それぞれを並べて、交互に飲み比べてみました。
スペックをチェック。大きな違いのひとつがアルコール度数で、「アサヒ生ビール黒生」が5%のところ、「アサヒスーパードライ ドライブラック」は0.5%高い5.5%に設定されています
原材料の違いとしては、「アサヒスーパードライ ドライブラック」に入っている「麦芽エキス」が「アサヒ生ビール黒生」には入っておりません。また、誤差ではありますが、100ml当りのエネルギーは「アサヒ生ビール黒生」が「アサヒスーパードライ ドライブラック」よりも2kcalだけ多い47kcal。スペックの違いはほかにもありますが、それぞれの原材料や製法で独自の味を作り上げていることがわかります。
それぞれ注いで並べてみると、同じ黒ビールでも色に違いがあることが一目瞭然。「アサヒ生ビール黒生」は、先述したとおりでやや褐色です。いっぽうの「アサヒスーパードライ ドライブラック」は、より黒さがくっきりしている印象。
泡の色にあまり違いは見られませんが、ビール自体の色はご覧のとおり
そして交互に飲み比べてみると、それぞれの個性がいっそうよくわかります。「アサヒ生ビール黒生」のほうが、香りや甘みが豊かで、軽やかな方向性の爽快感。「アサヒスーパードライ ドライブラック」のほうは、キレや苦みが豊かで、シャープな方向性の爽快感。アルコール度数がやや高いからか、飲み応えや刺激も若干強く感じました。
料理とのペアリングを例にすると、よりわかりやすいかもしれません。ともにロースト麦芽の香ばしさがあるので、甘みやコクが豊かなタレや味噌系の料理が合いやすいのですが、「アサヒ生ビール黒生」は調和させるのが得意。魚の照り焼きや西京焼き、タレ焼鳥などの和食には特にマッチすると思います。
いっぽうの「アサヒスーパードライ ドライブラック」は、油分をリセットさせるのが得意。麻婆豆腐やトンポーロー(豚の角煮)のようなこってり中華を始め、ハンバーグやバックリブ(スペアリブ)のBBQソースといった甘く濃厚な欧風料理にもマッチしますし、それこそ揚げ物全般によく合うと思います。
ハーフアンドハーフとして楽しむのもおすすめ!
これらのペアリングは1例ですが、ぜひ実際に両方買って飲み比べや食べ合わせをしていただけたら。また、YouTubeのアサヒビールの公式チャンネルでは、「アサヒ生ビール 楽しめる注ぎ方 『ハーフアンドハーフ』篇 新垣結衣」というCM動画で、「マルエフ」と「アサヒ生ビール黒生」のブレンドを推奨しています。こちらも参考にお試しを!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。