グルメ界隈では、牛・豚・鶏に次ぐ“第4の肉”論争というものがあり、その2大有力候補が馬と羊です。どちらのほうがウマいのかという話よりも、おそらく熊本県民や福島県民であれば馬、北海道民や長野県民であれば羊となるはず。なぜなら、古くから各地で食されてきた文化が深く関係しているからです。
ただその点、世界で最も羊を食べる国、中国由来の“ガチ中華”がジワ増しているなど、最近の日本では羊がやや優勢な様子も見られます。こういったトレンドもある中、2022年6月に「味付ジンギスカングランプリ」という興味深いコンペが開催されました。
「味付ジンギスカングランプリ」の授賞式にて。約70商品の中からグランプリが発表されました
国内には、計200種以上の味付ジンギスカンが売られており、各メーカーから68商品の応募が来たとか。審査は、オージー・ラムの伝道師やラムバサダーなど、羊肉のプロフェッショナル6名が、11時間にわたって吟味。そこから7商品が選ばれ、そのうちのひとつがグランプリに輝きました。
グランプリは、北海道帯広の老舗による「白樺ジンギスカン」
ただ、「味付ジンギスカングランプリ」の公式サイト(https://jingisukan-gp.com/)では、各受賞商品に対する受賞理由やコメントが公表されていません。そこで、グランプリ商品を始め、高評価だった4商品を一堂に集め、それぞれを食べ比べ。甘さや濃さといったディテールとともに、味わいをレポートします。
審査員特別賞を除く、上位4商品を集めました。実食時は、ジンギスカン用の鍋を使います
最初に挑んだのは、グランプリに輝いた「白樺ジンギスカン」。特徴は大きく分けて2つ。ひとつは、パック内で味付けされているうえ、別途でつけダレが付いていること。もうひとつは、冷凍ではなく冷蔵状態で届けられること。おいしさへの強いこだわりを感じます。
有限会社白樺の「白樺ジンギスカン」。1袋490gで784.4kcal、炭水化物30.4g(タレは90g、104.4kcal、22.4g)。羊肉はオーストラリア産です
タレには、新鮮なりんごとたまねぎがたっぷり
「白樺ジンギスカン」は、たくましく育ったマトン(※)を使用。部位は、やわらかなロース、豊かな風味のバラ、食感のいいモモを選び、独自にブレンドしています。そのうえで、食べやすい大きさと、肉の食感がよく感じられる絶妙な厚みにカットし、おいしさを閉じ込めています。
※:一般的に生後2年以上の羊肉が「マトン」。生後1年未満が「ラム」で、その中間の生後1年から2年未満の羊を「ホゲット」と呼びます
完成です。盛り付けたら、まずは肉だけを堪能。その後、つけダレにつけて食べたり、野菜と一緒に食べたりしてタレの味もチェックします
そのまま味わってみると、羊のミルキーなうまみをしっかり感じられるワイルドなおいしさ。タレは甘じょっぱいパンチがありながらキレも強く、羊のうまみと絶妙に調和します。よく「羊はくさみが〜」と言う人がおり、個人的にはそれこそが羊の魅力だと思うのですが、そのくさみを気にする人は、タレにしっかりつけて味わうといいでしょう。逆に、羊好きの人はつけすぎに注意を。
ところどころ分厚いカットも入っており、満足度が高いです
つけダレを付けているためか、パック内の味付けは繊細で、その分、肉への味の染み込みもやさしめですが、だからこそ羊の魅力を最大限に楽しめるジンギスカンに仕上がっていることを実感。羊好きにこそおすすめしたい、グランプリにも納得のおいしさです。
有限会社白樺「白樺ジンギスカン」の味わいチャート(※タレにつけて食べた場合の評価)
次は、塩味という珍しいジンギスカン。北海道の千歳や苫小牧から近い厚真町に店を構える「あづま成吉思汗本舗」は、さまざまな味付けのジンギスカンを手がけており、なかでも人気の高い1品が「塩コロジンギスカン」です。
あづま成吉思汗本舗(有限会社市原精肉店)の「塩コロジンギスカン」。100g当たり207kcal、炭水化物3.0g。1袋300g入りです。羊肉はオーストラリア産
独特のカット法が特徴。漬けダレには粗挽きブラックペッパーを使っています
同商品では、チルド状態で2週間程度寝かせたラム肉をていねいに処理し、ひと口大にカット。漬けダレには、燻製岩塩、椎茸だし、本枯れ節などを使用して肉のうまみを引き出しています。また、白神山地の天然水のみを使用するなど、随所にこだわりが満載。
ゴロッとしたカットでウマそうです
しょうがや果物、スパイスなどを使っていない比較的シンプルな味付け。その分、“羊感”は強めで、焼いているそばからパワフルな香りがただよってきます。また、スーパーの精肉コーナーで見かける「カレー・シチュー用」的なゴロッとしたカットも特徴。これは期待できます!
サイコロステーキのようなルックス。アウトドアなどで、炭火でガッツリ焼き上げたいと思いました
ひと口目から、押し返すような歯応えはさすが。これは分厚いカットならではでしょう。でも硬いわけではなく、ワイルドかつリッチな方向性。味付けはラムのうまみを生かした適度な塩加減で、粗挽きブラックペッパーの塩梅も見事。白米はもちろんのこと、酒とも相性抜群なジンギスカンです。
あづま成吉思汗本舗(有限会社市原精肉店)「塩コロジンギスカン」の味わいチャート
北海道に次ぐ羊肉エリアと言えば、長野県。国道19号沿いの「ジンギスカン街道」には、多くのジンギスカン店が立ち並んでいます。その長野県のメーカーの商品で、オージー・ラム賞に輝いたのが「信州新町本場ジンギスカン 羊肉ロース」です。手がけているのは、県内でも羊食文化が特に色濃い、長野市信州新町のむさしや食品。
むさしや食品有限会社の「信州新町本場ジンギスカン 羊肉ロース」。100g当たり151kcalで炭水化物10.6g。1袋230g入りです。羊肉はオーストラリア産
やわらかく、肉と脂のバランスがいいロースを使用
なお、むさしや食品は公式ホームページが存在せず、オンライン通販も大々的に行っていません。県内では多くのスーパーの店頭に並んでいるので、長野土産として覚えておくといいでしょう。ただ現在は、原料肉の輸入遅延のため製造販売を一時休止中で、2022年8月から販売再開予定とのこと。
食べやすい厚さとサイズ。野菜とのからみもよさそうです
味わった際に印象的に感じたのは、タレの染み込み具合。パック内でじっくり漬け込まれているからか、肉汁とともに甘じょっぱいタレの味が口の中で広がります。タレはしょうがの香りとたまねぎの甘みが生きたタイプで、甘さや濃さはほどほど。羊のうまみも十分感じられます。
濃過ぎず重過ぎず、それでいて物足りなさは皆無。好バランスなジンギスカンと言えそうです
長野県はりんごでも有名ですが、本商品では使われていません。だからか、甘過ぎない味付けで絶妙なおいしさ。白米がよく進む、ジンギスカンのお手本と言えるおいしさだと感じました。
むさしや食品有限会社「信州新町本場ジンギスカン 羊肉ロース」の味わいチャート
北海道東部に位置する北見市は、人口に対する割合で焼肉店の店舗数が日本一多いと言われている肉の聖地。当然、その焼肉には羊も含まれるわけで、そんな現地の人から愛されているのが大正2(1913)年創業の老舗、おたに商店のジンギスカンです。
株式会社尾谷商店の「特選味付ラム 尾谷のらむじん」。100g当たり227kcalで炭水化物は0.1g。1袋320gです。炭水化物0.1gはちょっと怪しい気もしますが、推定値と表記。羊肉はオーストラリア産です
今回の商品の中で、パック内のタレが最も多かったのがこちら。生の肩ロースを使っている点もポイントです
おたに商店は、昭和50(1975)年からジンギスカンの販売を開始し、その後、平成12(2000)年ごろに自社ブランド「のんたジンギスカン」を開発。今回受賞した「特選味付ラム 尾谷のらむじん」は、同社の数あるラインアップ中でもプレミアムな位置付けの1品です。
タレがたっぷりで、野菜と一緒に味わいたいと思わせてくれる内容です
その特徴は、脂が適度にのった肩ロースを厚切りカットで採用していること。それをりんご、オレンジ、にんにく、しょうがなど、19種類の素材によるタレで漬け込んでいます。
甘口のジンギスカンで、子供にもおすすめです
食べた感想は、甘めでわかりやすいおいしさだということ。厚めで食べ応えがある肉に、甘くフルーティーなタレがマッチ。タレの味が中まで染み込んでいるので、ジューシーかつ余韻も長めです。また、タレは甘口かつたっぷりなのでつゆだく状態で、まるで“羊のすき焼き”のような感じに。それこそ、深めの鍋で豆腐や白滝などと一緒に煮込む食べ方もおいしそうです。
株式会社尾谷商店「特選味付ラム 尾谷のらむじん」の味わいチャート
4品食べ比べた感想は、それぞれに魅力があるということ。個人的には、角切りカットと塩ダレで羊のうまみを前面に出した「塩コロジンギスカン」に惹かれました。グランプリの「白樺ジンギスカン」は、冷凍しないうえに別ダレを用意するというこだわりがワンランク上のおいしさを生んでおり、確かにおいしいと実感。
ということで、以下にそれぞれの特徴をまとめました。お取り寄せの際にぜひ参考にしてください。
「白樺ジンギスカン」⇒生肉の味とつけダレによる贅沢な味で万人向け
「塩コロジンギスカン」⇒酒好きにおすすめ。BBQにも合いそう
「信州新町本場ジンギスカン」⇒タレの染み込みが絶品でごはんが進む
「尾谷のらむじん」⇒つゆだく好き、甘口好きにおすすめ
クミンなどのスパイスで“味変”するのもおすすめです
日本ではまだ、牛、豚、鶏に比べたらマイナーな羊肉ですが、北海道や長野県などの一部の地域の人はそのおいしさを知っています。それは、おいしい味付ジンギスカンを知っているからとも言えるでしょう。ぜひ本稿を参考に、めくるめく“羊をめぐる冒険”へ!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。