ビールのおいしい季節が、2022年も到来! 今の時季は夏本番を前に、毎年各社から意欲的な商品が発売されますが、2022年は「ホワイトビール」ジャンルがアツめです。アサヒビールは「アサヒ ホワイトビール」を、サントリーはシリーズ初のフレーバータイプ「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」を新発売するなど、まさに“ホワイトビール戦国時代”開幕といった状況です。
そこで、ホワイトビールの世界的銘酒「ヒューガルデン ホワイト」を加えた3本で飲み比べを実施。「そもそも、ホワイトビールってどんな特徴があって、どんな味?」という点も解説しながら、各商品の味の違いなどをレビューします。
左から、「アサヒ ホワイトビール」、「ヒューガルデン ホワイト」、「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」
まずは、「そもそも、ホワイトビールって何?」という点から。名称については、「ビールの色? 白くなくね?」という声も多いでしょう。ごもっともな意見です。あの液体の色で「ホワイト」と呼ぶのは言い過ぎかもしれません。
では、なぜホワイトビールと呼ぶのか。それは、ビールの歴史が語ってくれます。
19世紀ごろまで、世界の主流は、濃い褐色のビール。それに対し、「ヒューガルデン醸造所」の明るく淡い色のビールを「ホワイトビール」と呼ぶようになったのだとか。当時は、「ホワイト」と表現したくなるほど、異彩を放っていたのでしょう。
そんなホワイトビールは、ビールの主原料、大麦(大麦麦芽)のほかに、小麦(小麦麦芽)も使っていることが特徴。小麦は、「グルテン」というたんぱく質を多く含むため、泡もちがよく、さらにほのかな酸味をともなうフルーティーな香味(多くはバナナと表現されます)や、爽やかな口当たりも生み出します。
有名なビアスタイルは、ベルギーの「ベルジャンホワイト」とドイツの「ヴェイツェン(ヘーフェヴァイツェン)」。どちらも上面発酵(エール。下面発酵はラガー)で作られており、「ベルジャンホワイト」は副原料にオレンジピールやコリアンダーシードを使うことが多いのが特徴です。ちなみに、「ヴェイツェン」は「小麦」という意味です(ヘーフェは「酵母」という意味で、無濾過が特徴)。
色はご覧のとおり。後述しますが、「アサヒ ホワイトビール」は、オレンジピールとコリアンダーシードを使っているので、ビアスタイルは「ベルジャンホワイト」と言っていいでしょう
2022年5月10日に発売された「アサヒ ホワイトビール」は、これまでにない手法で作られています。その手法というのは、従来とは異なるブランディングや販売チャネル(販売先)、そしてやや特殊な製造工場(ブルワリー)をさします。
まずブランディングについて。すでにお気づきの方も多いと思いますが、パッケージデザインが異彩を放っています。夕陽と月夜をモチーフにしたような、ファンタジックなカラーとグラデーションが印象的です。こういった薄明(トワイライト)の時間帯を「マジックアワー」と呼びますが、同商品ではその世界観を、パッケージのデザインやメッセージ、そしてWebコンテンツで表現しているのです。大手企業が手がける缶ビール商品としては、ここまで“エモーショナルなコンセプト”を押し出しているのはめずらしいと思います。
「アサヒ ホワイトビール」。アルコール度数は5%と、「アサヒスーパードライ」と同じ度数
本商品の主なターゲットは、若者。苦みを抑えたり、アルコール度数を低くしたりといった味作りに加え、心地よさや気持ちよさといった、飲み手の気分を重視したコミュニケーション手法が用いられています。
次に販売チャネルに関して。実店舗では、東京都と神奈川県の「セブン-イレブン」限定発売ですが、7月からは「Amazon.co.jp」での発売も予定されています(予約受付中/2022年6月30日時点)。
最後に、醸造工場について。本商品を手がけているのは、アサヒビールの工場ではなく、クラフトビールの作り手「軽井沢ブルワリー」。この点も、ユニークと言えるでしょう。
350ml入り1缶は、「セブン-イレブン」では259円(税込)で販売されていました。ホワイトビールとしては、リーズナブルな価格かと思います
先述したように、本商品は、副原料にオレンジピールとコリアンダーシードを使った「ベルジャンホワイト」のビアスタイル。ふんわりとした華やかな香りと、やわらかな飲み心地をウリとしており、同社のプレスリリースでは「まさにエモーショナルな味わい『エモ味』」と表現されていました。そんなこと言われたら、ますますどんな味か気になってきますね。
「エモ味」かどうかは謎ですが、率直にウマいです!
実際に飲んでみると、タッチはやわらかく、軽やかですっきりとした飲み心地。「ベルジャンホワイト」特有のバナナ香がふわりと香る、フルーティーな味わいです。奥では、シャープなドライ感を感じつつも、ホップの苦みやコリアンダーシードのスパイシーさは抑えめでフレンドリー。どんな食事とも合いそうなホワイトビールだと思います。
個性豊かなさまざまなビアスタイルを持つベルギービール。その中でも、ホワイトビールの代表銘柄として知られているのが、「ヒューガルデン ホワイト」です。「ビールは苦手だけど、『ヒューガルデン』なら飲める」、「『ヒューガルデン』がビールでいちばん好き」という人も少なくないでしょう。
こちらは、世界的なビールメーカー「アンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)」の商品で、国内では日本法人「アンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパン」が手がけています。なお、近年では、2008年までは小西酒造(日本におけるベルギービールインポーターの代表格)が、2017年まではアサヒビールがライセンス販売を行っていました。
「ヒューガルデン ホワイト」。アルコール度数は5%。缶バージョンもラインアップされています
「ヒューガルデン ホワイト」は、ベルギーのヒューガルデン村で伝統的に作られていた小麦を使用したビールがベース。一時途絶えていましたが、1966年に同村出身のピエール・セリス氏が「ヒューガルデン ホワイト」と名付けて販売したのがルーツです。しかし1985年、醸造所が火災に見舞われ、復興が困難に。やがて、インターブリュー(現在のAB InBev)の傘下に入って今にいたります。
330ml。ホワイトが圧倒的に有名ですが、フランボワーズの果汁を加えた「ヒューガルデン ロゼ」や、濃厚で熟成感のある「ヒューガルデン 禁断の果実」などもラインアップされています
余談ですが、ピエール・セリス氏は手放したビールを「もはや、本来の味ではなくなった」と評し、アメリカに渡って「セリス ホワイト」という新しいビールを生み出しています。「ヒューガルデン ホワイト」が好きな人は、ぜひ飲み比べてみてください。
液体の色は、今回の3商品の中で最も淡い印象。味はどうでしょうか
全体的な方向性は、同じベルジャンホワイトの「アサヒ ホワイトビール」と近しいですが、「ヒューガルデン ホワイト」のほうがバナナ香のボリュームが大きく、ハーバルかつスパイシー。いっぽうで、飲み口はサラリ&スッキリな印象です。濁りは十分見られるのですが、酵母由来のやわらかさや泡のきめ細やかさは、「アサヒ ホワイトビール」のほうが豊かかも。ただ、ホワイトビールらしい味や香りは、「ヒューガルデン ホワイト」のほうがキャッチーでわかりやすいと思います。
言わずと知れた、プレミアムビールの有名ブランド「ザ・プレミアム・モルツ」。季節などに応じて、これまで数々の限定フレーバーが登場していますが、実は初となるホワイトエールが「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」です。
チェコやその周辺国で収穫、製麦された「ダイヤモンド麦芽」を一部使い、天然水で醸造するなど、原材料や製法のベースはブランドの基本を踏襲。そのうえで、小麦麦芽を一部使用し、エール酵母で醸造しているのが特徴です。
「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」。アルコール度数は6%と、やや高めです
「アサヒ ホワイトビール」と「ヒューガルデン ホワイト」には細かいスペックが記載されていなかったのですが、「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」にはありました。100ml当たり51kcalで、糖質は3.7g。通常版の「ザ・プレミアム・モルツ」が47kcal/3.6gなので、やや高めです。また、アルコール度数も「ザ・プレミアム・モルツ」は5.5%なので、数値としては全体的に少しだけ高めのスペックと言えます。
若干ながら今回の3製品の中では最も濃い色。プレミアムビールらしさを感じます
加えて、「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」には、オレンジピールとコリアンダーシードが使われていないので、ビアスタイルは「ベルジャンホワイト」ではありません。副原料の有無が味にどう作用しているかを意識しながら、チェックしました。
さすが「神泡」。シルキーなタッチで、ひと口目からリッチな飲み口です
ホップ由来の華やかな香りもあり、そこに小麦由来のフルーティーな要素がプラス。「ベルジャンホワイト」的なハーバルさやスパイシーさはないですが、パンやバナナの奥に洋なしやマスカット的なフレーバーも感じる、心地いいテイストです。今回の3商品の中では重厚感がいちばんつよい味わいで、麦の甘みも豊か。同ブランドのひとつで、上面発酵の「ザ・プレミアム・モルツ<香る>エール」の要素を匂わせつつ、ほんのり南国のニュアンスも持った味わいだと感じました。
3商品を飲み比べた結果、同じホワイトビールでありながらも、各キャラクターの違いを感じられました。好みやシーン別に特徴を分けてみたので、参考にしてみてください。
・「アサヒ ホワイトビール」⇒エントリー層向けのフレンドリーなホワイトビール。和洋中にエスニックと、料理に幅広く合わせやすい
・「ヒューガルデン ホワイト」⇒バナナ香が豊かなうえ、ハーバル&スパイシー。個性的ながらフルーティーで飲みやすい
・「ザ・プレミアム・モルツ<ホワイトエール>」⇒南国調のニュアンスを持ったフルーティーな香味。プレミアムビールらしく、飲み応えも豊かで、リッチな味わい
きっと2022年も猛暑となるはず。特有のフルーティーさと爽快感をあわせ持ったホワイトビールで、おいしく暑気払いを!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。