「ベジ牛」に始まり、「ライザップ牛サラダ」など、ヘルシーメニューで話題作の多い牛丼チェーンの老舗「吉野家」(※「吉野家」の「吉」の字は、「土」に「口」)。徐々に健康路線を拡大している同社が、またやってくれました! 2022年7月11日に、外食チェーンで初となるトクホ牛丼の具「トク牛サラシアプレミアム」を新発売したのです(外食メニューではなく小売りの冷凍食品)。
トクホとは特定保健用食品のこと。本商品に配合されている「サラシノール」は、食事から摂取した糖の吸収を減らし、食後血糖値の上昇をゆるやかにするとのこと。なるほど! ただ機能性もさることながら、やはり味がどうなのかが気になるところです。
そこで、定番の冷凍食品「牛丼の具」と、店舗でテイクアウトした「牛皿」(並盛)に加え、非常食としても注目されている「缶飯 牛丼」を集めて食べ比べ。肉とたまねぎそれぞれの味や食感に違いがあるかないか、などをチェックします。
この4品を食べ比べ。左下が新商品の「トク牛サラシアプレミアム」です
特定保健用食品は、1991年から施行されている食品カテゴリー。消費者庁が管理しており、体の生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品とされています。
「トク牛サラシアプレミアム」のパッケージ。バンザイしているようなトクホマークのほか、保健の内容などが記載されています
特定保健用食品として販売するには、食品ごとに有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得なければなりません。なお、吉野家は2017年3月に「サラシア牛丼の具」も発売していますが、こちらは外食チェーン初の機能性表示食品(健康の維持や増進に役立つ機能をうたうことができる。国の審査はないが届け出が必要で、機能の科学的根拠も公開しなければならない)でした。
それでは、食べ比べていきましょう。
ということで、まずは基本の味を確認するべく王道の「牛丼の具」をチェック。注目すべき点は、外食店舗のレシピとは異なる手法で仕上げられていることです。公式サイトには、「吉野家店舗での牛丼の美味しさに近づけるため、加熱工程と原材料の一部を変更」と記載。自宅などであの味を再現してもらうために、あえて専用レシピを採用しているのでしょう。
「牛丼の具」は1袋120gで、248kcal、炭水化物7.6g。湯せんで4分加熱するか、袋のまま電子レンジでの調理も可能(600Wなら約2分30秒)です。また、原材料配合割合(仕込時)は牛肉47%、たまねぎ23%との表記あり
加熱して、袋からお皿へ移しました。見た目は、色がやや淡めでしょうか(ラストで詳報します)。ただ香りはお店でかげるものに近いですし、ウマそうです。なお、“原材料の一部を変更”とはいえ、牛肉の部位は不変。吉野家おなじみの「ショートプレート」と呼ばれる牛脇腹の肉で、バラの一部であり、焼肉店ではカルビ系のカテゴリーで扱われます。
「ショートプレート」は赤身と脂身のバランスがよく、うまみと甘みが豊かで、やわらかい食感も特徴。吉野家の秘伝のタレに最も合うそうで、つまり牛丼に適した部位なのです
ちなみに、この部位は赤身が好まれる米国では人気が低く、加工向けの安価な肉でしたが、吉野家が目を付け、独自の幅(9インチ)に切り分けて「吉野家スペック」として米国の規定に採用してもらったという経緯があります。その後、このスペックは吉野家以外からも買い付けられるようになり、やがて「ジャパンスペック」へと名称変更。今でも米国農務省の規格のひとつだというのは、吉野家ファンの間ではよく知られたストーリーです。
この写真では肉とたまねぎを中心に盛り付けていますが、袋にはつゆもしっかり入っています
話を戻して、いざ実食。総評としては十分ウマイです。ただし、後述する店舗の「牛皿」と比べると、違いも散見されます。具体的に言えば、肉はしっとりしているもののやや硬めで、たまねぎはシャキッと感がほんのり。味付けの甘みはほぼ同等ながらも、塩みがやや強く、いっぽうでうまみが少々ぼやけた感じは否めませんでした。とはいえ、致命的なブレではないと思います(個人的には)。
白飯に載せて紅生姜をあしらい、牛丼に。真剣に食べ比べると、店舗の味とまったく同じではないものの、よほどの吉野家ファンでない限り、違和感なくおいしいと思えるはずです
では、今回の本命にまいりましょう。改めてお伝えすると、「トク牛サラシアプレミアム」は吉野家が研究を重ねた新作で、前述「牛丼の具」のタレに、サラシアエキスの「サラシノール」を0.5mg配合しているのが特徴。食事から摂取した糖の吸収を減らし、食後の血糖値上昇がゆるやかとなる有効性、安全性が国によって認められた特定保健用食品です。
「トク牛サラシアプレミアム」は1袋135g、258kcal、炭水化物5.4g。湯せんで5分加熱するか、袋のまま電子レンジでの調理も可能(600Wなら約3分)と、「牛丼の具」と若干異なります。さらに、原材料配合割合(仕込時)は牛肉48%、たまねぎ22%で、こちらも1%の差異がありました
牛肉は、脂肪の少ない特別仕様を採用。タレも、「サラシノール」を配合する過程で工夫を凝らしているとか。肉のルックスを確認すると、確かに脂身が少なめです。ただし、全体的な色味は濃いめで、「むしろウマいのではないか」という期待すら抱かせてくれます。
スペック比較では、「牛丼の具」より炭水化物がやや低め。タレの甘さも控えめなのか、気になるところです
食べてみると、肉の脂肪が少ないからか、全体的にややライトです。しかし、だからといってボリュームにネガティブな感じはありません。脂が減った分、赤身の存在感が前に出るため、食べごたえはしっかりしているのです。
おそらく、「ショートプレート」の中でも脂が少ない部分を採用していると推測。脂身が少ないため若干の硬さは感じますが、パサパサではありません
また、肉の脂身が少ないとはいえ、味の濃さに大きな遜色もなく、コクとキレはしっかり。タレの甘さは控えめですが、肉の甘みに豊かさを感じるのがナイスです。素材の生かし方が上手なのでしょうか。加えて、たまねぎは“シャキとろ感”が絶妙。若干あっさりしているため、味の方向性は吉野家らしさから遠ざかった感じが否めませんが、おいしさとしてはアリです。
個人的には大歓迎の味わい。好みで分かれるかもしれませんが、赤身ラバーに愛されそうなタイプの牛丼の具です
次は店舗からテイクアウトした「牛皿」。349円(税込)の並盛をチョイスしました。前述2商品とのいちばんの違いは、調理後に冷凍していないこと。肉、たまねぎ、タレそれぞれの細胞に変化を与えていないので、自然な食感やピュアな味付けが楽しめます。
「牛皿」の並盛は110g(筆者が計測。容器を除く)で257kcal、炭水化物6.0g。紅生姜と唐辛子は購入時にもらえます。なお、店舗のメニューの場合、原材料配合割合は開示されていないようです
見た目において最も異なる点は、肉とたまねぎが大きめなこと。特にたまねぎは明らかに肉厚でおいしそう。また、全体の色は「トク牛サラシアプレミアム」よりさらに濃く見えます。
店舗メニューでは注文の際に「つゆだく」などを選べますが、今回はすべて“普通”でオーダーしています
うん、味は「これだよ、これ!」と叫びたくなる安定感。冷凍タイプとまったく異なるとまでは思いませんが、こうして比べてみると、あのおいしさをはっきりと感じ取れました。「牛丼」の並盛は426円(税込)ですが、改めて圧倒的にコストパフォーマンスが高いことを思い知らされました。吉野家さん(松屋さん&すき家さん、なか卯さんも)ありがとう!
冷凍していないからか、吉野家が理想とする味がダイレクトに届いている感じがして好印象
特に秀逸なのは、素材のやわらかい食感。味の濃さも適度で、油っこくはないものの素材にしっかり染み込み、肉はジューシーでプリッと、たまねぎもほどよくトロッとしています。また、サイズもしっかりしているので食べ応えも十分。これぞ“吉牛”です!
肉とたまねぎ、それぞれの大きさが見事で調和もグッド
最後は、吉野家の非常用保存食「缶飯」シリーズの定番味「缶飯 牛丼」をチェック。同シリーズには、「缶飯 牛焼肉丼」や「缶飯 焼塩さば丼」など、数種がラインアップされています。詳しくは、「吉野家が作った“丼の缶詰”を全部食べてみた! はたして再現度は……!?」をどうぞ。
「缶飯 牛丼」は内容量160gで289kcal、炭水化物29.6g。炭水化物がほかより多いのは、炊いた玄米が入っているからです。原材料配合割合(仕込時)は玄米19%、牛肉18%とのこと
内容的には、高機能玄米「金のいぶき」に吉野家の牛丼の具を乗せたもの。常温でも食べられるのですが、缶ごと湯せんで10分加熱するとよりおいしくなるとのことで、温めてから開封して味わいました。
たまねぎは溶けてしまっているのか、ほぼ見当たりません。肉もかき集めたものの、量としては少ないです
公式サイトには「具材は、吉野家牛丼具をたっぷり使用。冷凍牛丼の具を用いることで、お店の味をそのまま表現しています。」と記載されていますが、たまねぎがほぼない、肉が小さいなど違和感が散見されます。ただ、缶詰で牛丼を表現している点はお見事。そのうえで、できる限りのおいしさを目指したということでしょう。
肉は調理過程でちぎれてしまったのか、ポロポロとした小粒。とはいえ、味付けからは吉野家イズムを感じられました
缶詰というパッケージにするに当たり、玄米を選んだのかもしれませんが、これはこれでユニークな食感。ドロッとしたテクスチャーの中にプチッとした歯応えが楽しめて、悪くないです。味付けは凝縮した感じの濃さで、肉のうまみより脂の甘みが前に出ていますが、万が一の非常時に食べるなら、これぐらいインパクトがあったほうがいいのかもしれません。
プチプチとした食感があり、牛丼風味のリゾットのようなニュアンスも。缶詰としてはなかなかアリな味わいです
今回の食べ比べで筆者が強く感じたのは2点。「冷凍の有無で味が結構変わる」と「『トク牛サラシアプレミアム』は想像以上にウマい」です。
なかでも興味深かったのが、各商品の肉(部位はおそらくすべて「ショートプレート」)とたまねぎの大きさ(厚さ)の違い。テイクアウトした「牛皿」は、ほかより堂々として肉厚だったいっぽうで、「缶飯 牛丼」はたまねぎがほぼ皆無で肉は小さめでした。
これは、調理工程に理由があるのではないかと想像しています(実際はナゾ。あくまで個人の感想です)。使用する肉とたまねぎのサイズや厚さはどの商品でも同じかもしれませんが、冷凍食品の場合は凍結により細胞に負荷がかかるはず(もしかすると、パック後の高温殺菌処理も)。
そして缶詰の場合も、缶に詰めてから高温加熱により殺菌処理をしているはずです。こういった理由から、冷凍食品や缶詰は素材が縮んだり、ハリやみずみずしさが減少したりするのではないかな?と思いました。
こちらは各商品の集合。冷凍の「牛丼の具」(写真左下)は色が淡めです
そのうえで、4商品の各特徴を簡潔に表現すると以下のような感じです。どうぞご参考に。
・牛丼の具:本家には劣るが容認できるおいしさ
・トク牛サラシアプレミアム:ライトだがアリな味。ヘルシーなら全然イイ!
・牛皿:比べてわかるリアル本家のスゴさ。世界に誇れる最強のコスパ飯
・缶飯 牛丼:プチプチ食感が秀逸。缶詰としての完成度は高い
家で食べるなら牛丼にするほか、多彩にアレンジも可能。個人的には「トク牛サラシアプレミアム」を豆腐と一緒に食べる“肉豆腐風”がおすすめです
本稿の主目的は「トクホ牛丼はおいしいか?」を探るものでしたが、即答で「おいしい」です。吉野家大ファンの中には前向きな改善案を抱く方もいるかもしれませんが、フードアナリストの筆者としては問題なし。これからのヘルシーメニュー開発にも期待大です!
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。