原材料高騰など、食の業界に逆風が吹き荒れるなか、老舗が廃業することも珍しくはありません。2022年に大きなニュースとなった、「サクマ式ドロップス」で知られる佐久間製菓もそのひとつ。2023年1月20日をもって、115年の長い歴史に幕を閉じました。
こちらが今も残っている佐久間製菓の公式サイト(2023年2月3日時点)
ここで重要なのが、「サクマ式ドロップス」には似て非なる名作「サクマドロップス」という商品があり、その製造元であるサクマ製菓は継続販売するということ。一部では「商品名や社名が似ていてややこしい」という声もありますが、ここではなぜ似た名称の商品や企業があるのかといった部分も含め、味の違いなどもレポートしていきます。
左が佐久間製菓の「サクマ式ドロップス」で、右がサクマ製菓の「サクマドロップス」。撮影時はたまたま、どちらもアニメのコラボパッケージでした
まずは、企業ストーリーから解説しましょう。
東京・池袋に本社を構えていた佐久間製菓は、1908年に千葉県出身の和菓子職人だった佐久間惣治郎氏が創業。特許庁より「サクマ式ドロップス」の登録商標が認められ、佐久間氏は「ドロップス王」とまで呼ばれるようになったとか。
しかし、太平洋戦争の渦中に工場は焼失し、戦争末期の企業整備令で1944年に廃業へと追い込まれます。それを1948年、実業家の横倉信之助氏が再興。東京・八王子に工場を作り、天然果汁入りキャンディ「キャンロップ」などのロングセラーも世に送り出しました。
上の写真の「サクマ式ドロップス」の裏側。これは復刻版デザインで、公式サイトに掲載されているデザインが通常版です
いっぽうのサクマ製菓(本社は東京都目黒、工場は長野県佐久)も、ルーツは佐久間製菓です。佐久間製菓が1944年に廃業したあと、当時の社長の三男、山田隆重氏が1949年にサクマ製菓を創業しました。やがて「サクマ式ドロップス」の商標をめぐって両社で裁判になりますが、のちに和解。こうして、佐久間製菓が戦前と同じ赤い缶の「サクマ式ドロップス」、サクマ製菓が緑の缶で「サクマドロップス」を販売することになったのです。
このパッケージは「鬼滅の刃」のキャラクター、嘴平伊之助(はしびらいのすけ)を採用したもの。デザインは全16パターンラインアップされています
「サクマ式ドロップス」と「サクマドロップス」は、それぞれ8種のキャンディ(ドロップとはハードキャンディの一種で、本稿では商品名以外はキャンディで統一)が入っていますが、若干フレーバーが異なることでも知られています。改めておさらいしましょう。まずは「サクマ式ドロップス」から。
上段左からイチゴ、オレンジ、リンゴ、ハッカ。下段は左からパイン、レモン、ブドウ、カカオ。形も数パターンありますがランダム封入で、イチゴっぽい形をしたカカオ味もあります
ほかのWebサイトでは、黄緑色(リンゴ)→パイン、黄色(パイン)→レモン、白クリア(レモン)→リンゴと表記しているレビューがありますが、間違い(もしくは佐久間製菓が変更したか)です。なお、「サクマ式ドロップス」と「サクマドロップス」を一斉に比べて見ると、「サクマ式ドロップス」のほうが少しだけ白っぽいことがわかります。
「サクマ式」のほうが若干白っぽく、「サクマ」のほうがややクリア。味にも違いが出ているのか、気になるところです
また、容量は「サクマ式ドロップス」のほうが多い115g。「サクマドロップス」は80gで、35gの違いがあります。
缶のサイズも、「サクマ式ドロップス」のほうが大きいです
ちなみに言及が遅くなりましたが、「サクマ式ドロップス」はスタジオジブリの名作映画「火垂るの墓」(原作は野坂昭如の短編小説)に登場してることでも非常に有名。復刻版パッケージで缶を持っている女の子は、物語に登場する節子(主人公、清太の妹)です。
ということで、次に「サクマドロップス」の中身をチェック。どのフレーバーがそれぞれにしかない味かも、このあと解説します。
上段左からイチゴ、オレンジ、リンゴ、ハッカ。下段は左からパイン、レモン、スモモ、メロンです
そう、「サクマ式ドロップス」だけの味はブドウとカカオ。そして「サクマドロップス」だけの味はスモモとメロンです。「レモンだと思って食べたらハッカだった」「なんで桃ではなくスモモなんだ? しかも水色かよ!」など、つっこみどころが満載なのも、このドロップスの面白い魅力ですが、とにかく「サクマ式ドロップス」がなくなってしまうのは実に悲しい。
「サクマ式ドロップス」は計39個、「サクマドロップス」は計26個のキャンディが入っていました。完全に消えゆくブドウとカカオが多めに入っていたのは佐久間製菓の計らいなのか……、ちょっと感動してしまいました
ここからは、「サクマ式ドロップス」と「サクマドロップス」の両方に入っている6種類のキャンディから、相互に食べ比べて味をチェック。なかには、味がかなり異なるものもありました。イチゴからレポートします。
イチゴ。ちなみに「サクマドロップス」のサクマ製菓は、イチゴキャンディの金字塔「いちごみるく」のメーカーでもあります。柱となる商品が多いから廃業知らずという説も
面白いのは、濡れると実は「サクマ式ドロップス」のほうが色が濃いところ。ただ、イチゴは「サクマドロップス」のほうが、少しだけ香りと酸味が豊かな印象です。「いちごみるく」メーカーとしての矜持を感じました。
オレンジ
やはり濡れると「サクマ式ドロップス」のほうが色が濃く、しかも味も濃いめです。どこか「果汁グミ」のオレンジのような味で、僅差ですが「サクマ式ドロップス」のほうが好きな味。なくなるのは惜しい!
リンゴ。「サクマ式ドロップス」がこの色を採用しているのは、ともに赤色の座をイチゴに譲ったから、という気がします。ただ、食べてみると「サクマドロップス」も黄緑色でよかったのでは?と感じました。理由は後述します
ともに原材料表記が「りんご」なのでリンゴとしているのかもしれませんが、食べてみるとどちらも爽やかさや酸味がしっかりある甘さで、青リンゴとしても違和感がない味です。「サクマドロップス」のほうが甘み豊かでインパクトがあり、これはぜひ試していただきたいところ。
人によっては“ハズレ”とも評される、かわいそうなフレーバーがハッカ。「サクマ式ドロップス」のほうがクール感が強めな気もしますが、互角のおいしさ。改めて食べてみると、どちらも想像以上においしいです。
パイン。こちらは食べる前から、「サクマ式ドロップス」のほうが濃い色をしているのがわかります
パインは「サクマ式ドロップス」のほうが少々酸っぱく感じます。その分「サクマドロップス」のほうが甘めでまろやかな印象。比較的違いがわかりやすいフレーバーだと思いました。
レモン。再度申し上げますが、一部の他サイトで「サクマ式ドロップス」のこの色をリンゴと紹介しているのはナゼなんだ?と強烈な違和感を覚えるほど、ぶっちぎりでレモン味です
レモンは「サクマ式ドロップス」のほうが若々しく、甘酸っぱさが濃い印象。いっぽうで、「サクマドロップス」にはほんのり苦みがあり、噛むとそのビターテイストをよりダイレクトに感じます。それぞれに個性があって、面白いフレーバーだと思いました。
お次は、それぞれにしかない「サクマ式ドロップス」のブトウとカカオ、「サクマドロップス」のスモモとメロンをチェック。比較対象はありませんが、レビューしていきます。
ブトウとカカオは赤缶「サクマ式ドロップス」独自のフレーバー。スモモとメロンは緑缶「サクマドロップス」独自のフレーバーです
ブドウ
ブドウはワインの原料であり世界的に定番のフルーツ。グミ業界でも非常によく用いられるフレーバーで、「サクマドロップス」に採用されていないのが不思議にも思えてきます(ちなみに、同社の「ハローキティ缶ドロップス」にはブドウ味が入っています)。それはいいとして、味の完成度もピカイチ! これがもう食べられなくなるのは非常に残念です。
カカオ。原材料名に「カカオマス」と書いてあるので、本稿ではチョコではなくカカオとしています
うわー、カカオもなくなるにはもったいないフレーバー。何かのグループでたとえるなら、センターにはなれないけど色黒で個性を放つ、なくてはならないキャラ的な(その色白版がハッカ)。具体的な味は、酸味がないまったりしたコクのある甘さで、冬に食べたくなる気がします。
スモモ。先述した「ハローキティ缶ドロップス」には、モモ(ピーチ味)が入っています
食べてみると、「あれ、この味は何かに似ているぞ?」と味覚の記憶がフラッシュバック。……そうだ! これは春日井製菓の名作「花のくちづけ」に近い味です。そして「花のくちづけ」はミルクスモモ味。なんとも面白い! なぜ桃ではなくスモモにしたのかはわかりませんが、桃よりも酸味があってフラワリーな香りが華やぐこの味は、間違いなくスモモなのです。
メロン
はっきり言って激ウマ! ここまで食べてきて、まさにオンリーワンな味です。メロンソーダのようなレトロフレーバーに全振りかと思いきや、リアルな完熟メロン感があって、これはお見事。リッチさすら感じます。
特に違いを感じたのはレモンとパインで、「サクマ式ドロップス」の終売とともに消えるブドウとカカオも実に惜しいおいしさ。これからは「サクマドロップス」の大活躍を期待したいところですが、「『サクマ式ドロップス』をぜひ試してみてください」とはもう言えない状況に、一抹の寂しさを感じました。
佐久間製菓さん、おいしいキャンディを今までありがとうございました。そして長年お疲れ様でした!
とはいえ、佐久間製菓が廃業となるタイミングで本稿をレポートできてよかったとも思います。稚拙な部分などがあったかもしれませんが、この記事が長く読み続けてもらえますように。そして「サクマ式ドロップス」よ、永遠なれ!
ちなみに価格.comでは、佐久間製菓「サクマ式ドロップス」の店頭在庫がまだ買えるようです(2023年2月3日時点)。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。