2023年上半期のフード業界最大のヒット商品と言えるのが、「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」と「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」。2023年5月9日に発売され、品切れが続出するほど話題となった通称「みそきん」です。
左が「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」で、右が「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」。5月同様に「セブン-イレブン」限定で、2023年8月10日から順次発売されます
こちらはもはや説明不要かもしれませんが、大人気の動画クリエイター、HIKAKINさんが開発に全力投球した製品。事前の話題性も高かったため瞬時で売り切れ、「買えない」という声があまりにも多く、“転売ヤー”も続出する騒動にも発展してしまったことで、HIKAKINさんは再発売を約束しました。そのあと同年7月28日に再販開始日が報告され、そしてついに8月10日から、全国の「セブン-イレブン」で順次発売される運びとなったわけです。
HIKAKINさんのブランド公式サイトより
5月に運よく買えて味わえた人もいるでしょうし、多くのメディアでは味のレビューもされていますが、ほかの濃厚味噌カップ麺と比較するとどうなのかという点が筆者は気になっていました。そこで、名作の「すみれ」などと食べ比べて「みそきん」のおいしさを深掘りしていきたいと思います。
近くのコンビニで、味が近しいと思われる商品をゲット。これらを食べ比べます
今回用意したのは5品。販売店が限定されているものがほとんどですが、製造元はすべて日清食品です。
・HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン
・HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ
・セブンプレミアムゴールド すみれ 札幌濃厚味噌
・ファミマル 濃厚札幌味噌
・カップヌードル ぶっこみ飯
なお、「みそきん」ブランドは2商品ありますが、「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」はカップ麺ではなく、カップ飯。「日清カレーメシ」や「ぶっこみ飯」など、日清食品の中では「カップライス」にカテゴライズされるジャンルです。
そこで、まずはカップ麺である「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」を主軸に3品を比較。そのあと、カップ飯の「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」と、比較対象として用意した「カップヌードル ぶっこみ飯」とでチェックします。
ということで、トップバッターは「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」。大枠から解説すると、そもそも「みそきん」はHIKAKINさんが自身の「好き」を詰め込んだブランド「HIKAKIN PREMIUM」の第1弾製品です。
これは即完売したことにも関連するのですが、HIKAKINさんはまず2023年4月21日に自身のYouTubeチャンネルで、1週間ほどSNSを含む表立った活動を休止すると発表。その理由は、自身の夢に集中するため。「1年前から水面下で準備してきたことで、自分にとって重大発表です。YouTuberとしての夢とは別に、ずっと叶えたかった僕の夢がようやく叶う発表です」と呼びかけ注目を集めていました。
そして同月27日に「HIKAKIN PREMIUM」の立ち上げと「みそきん」の発売を発表。ラーメンはHIKAKINさんの好物であるとともに、下積み時代を支えた料理だとか。なかでも、味噌味のラーメンには格別な思いがあるのだそう。
パッケージには、若いころのHIKAKINさんの写真とコメントが載っています。元々彼はヒューマンビートボクサーとしてキャリアをスタートさせており、その下積み時代のワンシーンでしょう
なお、HIKAKINさんは新潟県の妙高高原町(現在の妙高市)出身ですが、新潟はそもそも「5大ラーメン」の存在があることでも知られるラーメン県。そのひとつが、新潟市の「こまどり」が元祖と言われる「新潟濃厚味噌ラーメン」です。
ただ、HIKAKINさんの地元である妙高市の名店には、「食堂ミサ」(本店は隣の上越市)や「オーモリラーメン」といった老舗もあり(しかも「食堂ミサ」は味噌ラーメンが名物)、ファンの間では両店ともに彼のソウルフードであることは有名。一般的に味噌ラーメンと言えば北海道の札幌が代表格ですが、「みそきん」は一体どんな方向性の味わいなのか、気になるところです。
フタの上には香味油が添付。こちらでより濃厚な味を表現するのでしょう。なお、価格は左が300円(税込)、右が322円(税込)と、カップ飯のほうがやや高めです
スペックをチェックして気になった原材料は、スープの山椒と麺の卵。山椒を利かせる味噌ラーメンは「すみれ」を始め、札幌の一部ラーメン店が取り入れている手法であり、卵を使う麺も「札幌ラーメン」のひとつの特徴です。これはますます気になってきました!
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」のパッケージ裏
フタを開けて中身をチェックすると、モヤシが印象的。細かくカットされたメンマとネギも入っているいっぽう、なんと肉は入っていません!
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」のスペックは、108g(麺80g)に対し511kcalで、炭水化物は61.9g
ちなみに、今回比較対象とした「すみれ 札幌濃厚味噌」とファミマルの「濃厚札幌味噌」の具材には肉系の具材入り。基本的に、ラーメンの具材にはチャーシューなど肉系具材が入るのがスタンダードであり、あえて「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」に肉を入れないのは、HIKAKINさんのこだわりだということでしょう。
右下の「濃厚札幌味噌」には、カップヌードルなどでおなじみの「謎肉」が入っています
そしていよいよ、熱湯を注いで実食。こちらは全製品を同タイミングで調理し、一気に食べ比べました。まずは3品のカップ麺から。
調理完了。ルックスだけ見ても三者三様です
公式サイトに書かれている「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」の特徴は、歯切れのよい中太ちぢれ麺、ニンニクとすりゴマを利かせた白味噌ベースのスープ、そしてラー油に野菜の旨味と豚のコクを加えた特製の香味油。実際食べてみると確かに濃厚で、どっしりしたスープと、シュッとしたモヤシの食感によるメリハリが好印象です。
辛すぎず、コクを深める香味油がナイス。食べ進むうちにとろみが増し、より濃厚な食べ応えに。山椒のニュアンスはそこまでなく、特に後述の「すみれ」ほど感じませんでした
全体的な味わいで特に個性を感じたのは、味噌のテイスト。白味噌といってもその味は多彩ですが、ここではいい意味で“いなたさ”を感じる、どこか普通ではないコクとしょっぱさが絶妙です。なお、麺にも味付けを施しているのかもしれませんが、こちらは標準な印象。太めで濃厚なスープともマッチしますが、特別感はない気がします。
麺の太さは、タテ型カップ麺では太いほう。油で揚げたフライ麺ですが、また同企画でカップ麺を出すならノンフライ麺でも食べてみたいです
次は、セブンプレミアムのカップ麺としては2000年からのロングセラー「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」。「セブン-イレブン」のPB(プライベートブランド)の中でも最上ランクの「セブンプレミアムゴールド」に位置付けられており、殿堂入りと言える名作です。
「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」。143g(麺は80g)で564kcal、炭水化物73.2g。多くのヨコ型カップ麺ならではの、粉末と液体2つの別添スープを食べる直前に入れるタイプです。税込321円
先に優劣の感想から。おいしさの基準には個人差がありますが、筆者としては「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」のほうが「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」よりおいしいと思いました。
ただ、カップ麺は一般的にヨコ型のほうがタテ型より豪華な内容になるうえ、値段も高くなりがちです。それもあって今回はタテ型の「濃厚札幌味噌」でも食べ比べているのですが、ロングセラーである「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」はさすがに全体のバランスがよく、説得力のあるおいしさです。
甘みも感じる濃厚でコク深いスープに、ビターな香ばしさや、生姜と山椒の余韻が絶妙。熟成感のあるプリッとした弾力の麺もマッチしています
最後は、日清食品が手掛けるタテ型の濃厚味噌カップ麺ということで選んだ、「ファミリーマート」のPB「濃厚札幌味噌」。公式サイトには「豚の旨みとガーリックがきいた濃厚な味噌スープが、もっちりとした弾力が特徴のウェーブフライ麺によく絡む一品です」とあります。
「濃厚札幌味噌」。83g(麺は60g)で395kcal、炭水化物46.9g。税込150円
先述の「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」と「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」に比べて価格が半額以下になるのもあって、チープさは否めません。ただ、謎肉を始め、具材がバランスよくしっかりと入っていて多彩でもあるので、同価格のカップ麺に比べれば上等ではないでしょうか。
先述の2品と比べれば濃厚さは劣りますが、大健闘の味わい。麺はもうちょっと太いほうがより濃厚感がアップすると思います
味は、にんじんやコーンといった野菜の甘みが生きたマイルドな方向性。謎肉の影響なのか、どこかスナック的な味わいですが、味噌のカップ麺としては悪くない製品だと思います。
次はカップライス2品を比較。
なお、日清食品のカップライスは実は長い歴史があり、1975年にはカップヌードルの姉妹ブランドとして、その名も「カップライス」を展開していました(前身は1967年発売の即席飯商品「日清ランチ」)。
そのあとは受難の時代が長く続いたものの、2009年に「日清GoFan」、2010年に「カップヌードルごはん」、2013年に「日清カレーメシ」と進化しつつ認知を拡大。そして2017年には「ぶっこみ飯」、2021年に「日清オシャー飯」、2023年に「日清炎(ホムラ)メシ」がデビューしています。これら数々の知見をつぎ込んだのが「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」だと言えるでしょう。
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」は99gで413kcal、炭水化物69.3g
ほかのカップライス同様、ご飯には、1度炊き上げた米を高温高速の熱風で膨化(ぼうか)、乾燥させた「パフライス」を使用。熱湯5分で湯戻りするこのご飯に、まろやかでコク深くニンニクのパンチを利かせた白味噌豚骨スープを合わせているのが特徴です。
こちらの具材は肉入り。味付け肉そぼろ、キャベツ、キクラゲ、ネギ、ニンジンが入り、カップライス用に調合された特製香味油も別添されます
なぜHIKAKINさんがカップライスにも手を出したのかはナゾですが、濃厚な味噌スープであればご飯にも合うことは容易に想像できます。ということで、「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」からひと口。
左が「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」。右は「カップヌードル ぶっこみ飯」で、おなじみの謎肉、海老、卵なども入っています
おっ、これは! 想像していたよりも、カップ麺「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」との味の違いがはっきりわかります。こちらも“いなたさ”はあるものの、特に印象的なのは、「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」のほうが甘みがあること。どちらも白味噌ベースですが、具材に違いがあることなども関係している気がします。
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」と「カップヌードル ぶっこみ飯」ともに、熱湯を入れるとこんな感じに。しっかり混ぜて味わいます
たとえば、「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」に入っていたモヤシが「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」にはなく、いっぽうでニンジンは「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」にしか入っていません。また、パフライスは熱湯に溶けるのが速く、食べ進むうちに濃厚感が増すとも感じました。量もそれなりで、想像以上に食べ応えがあります。
味付け肉そぼろは小粒ながら、あるのとないのとでは大違い。単調な味を回避する好アクセントとして効いています
いっぽうの「カップヌードル ぶっこみ飯」は、今回唯一の醤油ベースであり、ブイヨンを感じさせるどこか洋風なテイストでもあることから、かなり独特な味わい。カップヌードルを食べたあとのスープにご飯をぶっこんだような味を再現しているそうで、その開発意欲もしっかり感じられます。
「カップヌードル ぶっこみ飯」は90gで346kcal、炭水化物66.1g。希望小売価格は税込289円です
ただ、これは個人的な感想ですが、「カップヌードル ぶっこみ飯」のほうはどこか飽きが来るような……。具材のバリエーションはしっかりしていますし、本家の「カップヌードル」や「日清カレーメシ」は大好きな筆者ですが、今回の食べ比べでは味に物足りなさを感じました。あのスープにご飯をぶっこんだ味の再現度が高い分、ジャンクさが強すぎたのかもしれません。
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」ほどこってり感はなく、胡椒がほんのり利いたシャープな味。ただ「パフライス」を熱湯で戻したご飯の食感は、「みそきん」と同じでした
なお、もちろん「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」と「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」の味比べも行っています。感想は、やはり「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌メシ」のほうが甘め。そして白味噌ベースの濃厚な味わいは同じですが、麺と飯なのでやはり別物の食べ物だと感じました。
どちらも量がしっかりあるので、両方を同時に食べるのは大食漢でなければ厳しいかも
「HIKAKIN PREMIUM みそきん 濃厚味噌ラーメン」を主軸に、さまざまな食べ比べをしました。味噌ラーメンの味としては、新潟や札幌の面影を感じさせつつも、オリジナルのおいしさに仕上げた、完成度の高い濃厚味噌ラーメンに仕上がっていると思います。
個人的には「ヨコ型のみそきん」が出たら、また「すみれ 札幌濃厚味噌 143g」と比較したいです
気になるのは、なぜタテ型だったのかということ。これは初めての試みで販売数が読めなかったことや、工場の稼働状況にもよるかもしれませんが、もし次回があるのであれば、贅沢なヨコ型や、ノンフライ麺版も食べてみたいです。
「みそきん」は「HIKAKIN PREMIUM」の第1弾ということで、今後の展開にも注目
何はともあれ、最初の5月の発売時は騒動と言えるほどの売れ行きでした。今回は多くの人が“普通に”食べられるように手配されているとうれしいなと思います。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。