2023年2月10日、「ハリー・ポッター」シリーズの世界を舞台にしたゲーム「ホグワーツ・レガシー」が発売された。誰もが魔法界に飛び込める、原作ファン待望のオープンワールド・アクションRPGで、発売以降、世界中のハリー・ポッターファンたちを熱狂させている。総合ゲームレビューサイトMetacriticでユーザースコア9.1、Google評価で高評価95%を獲得するなど、紛れもない大好評を博しているソフトである。
プレイヤーから高い評価を得ている「ホグワーツ・レガシー」
筆者も、2月7日に先行して発売されたアーリーアクセス版を遊んでいるのだが、映画で見たハリー・ポッターの世界を体験できる本作は、今まで90本近くのオープンワールドRPGを遊んできた筆者にとっても尋常ではないほど特別な感情を抱く作品だった。
ちなみに、筆者は小学生時代から小説「ハリー・ポッター」シリーズに触れており、映画全作を何周もするほど見ている。スピンオフ作品の「ファンタスティック・ビースト」シリーズも見ており、「ハリー・ポッター」に慣れ親しんできた人間だ。
だからこそ、本作の”魔法界に飛び込めるゲームデザイン”には感動を覚えずにはいられなかった。ただし、筆者が覚えた感動は、「ハリー・ポッターの世界観を忠実にゲームの中で再現したことだけでは語れない、それ以上の秀逸さにある」と、プレイ時間を重ねるうちに感じるようになった。
今回は、本作をやり込み要素含むストーリークリアまでプレイしレビューしていくので、ぜひ最後まで読んでいただけるとうれしい。なお、レビューではストーリーに関する記述があり、場合によってはネタバレになる可能性があるので、注意していただきたい。
最初に本作の概要を紹介しよう。「ホグワーツ・レガシー」はAvalanche Softwareにより開発された最新オープンワールド・アクションRPGであり、映画や小説などで世界中の人々に親しまれている「ハリー・ポッター」の世界を題材にしている。
Avalanche Softwareは、「カーズ」などのディズニー作品のビデオゲーム版に携わってきた会社。これまで20年間に渡って数多くの作品を手がけており、原作をゲームの世界に落とし込むことにおいては、老舗のゲーム会社だ。
本作では1800年代の魔法界を舞台に、プレイヤーは5年生から編入してきたホグワーツの新入生となって魔法界を冒険していくことになる。主人公は、明るみに出ると魔法界のバランスを崩しかねない、強力な魔法、古代魔術を解き明かすカギとなる力を持っており、主人公の力を巡ってさまざまな物語が展開される。
本作ではホグワーツに眠る古代魔術を巡ってさまざまな物語が展開される
ゲームの主体となる要素は、ホグワーツの学生として授業に出席して魔法やアイテムの製法を会得したり、ホグワーツの外で闇の魔法使いやトロールなどの魔法動物と戦いを繰り広げたり、魔法界に住むさまざまな人々と交流し悩みや問題を解決したりしていくことだ。
ホグワーツで魔法界を生きる術を学び(上)、トロールなどの魔法動物と激しい戦闘を繰り広げる(下)
ゲームの構造自体はごく普遍的なオープンワールドRPGのデザインであり、その点だけを見ると画期的な作品には思えないが、作品に詰め込まれた原作の世界観に対する緻密で、そして豊富なゲーム要素が本作の魅力を何十倍にも増大させている。
本作のゲームとしてのクオリティの高さを象徴しているのはやはり原作の再現度だろう。忠実に描くことを徹底的に追及した本作の作り込みは、これまで作られたあらゆる原作再現型ゲームの中でもトップレベルだ。
オープンワールドRPGの世界では、ホグワーツ城を中心に、ホグズミード村や禁じられた森など映画でもおなじみの場所を始め、周辺の村々などを含んだ広大なマップが実現されている。
複雑に入り組んだホグワーツ城の内部構造やホグズミード村の店の配置、原作ファンにはおなじみのオリバンダーの店、ハニーデュークスなど1つひとつの作り込み、そして学校や各村との距離感や周囲の風景にいたるまで、原作再現度の高さを示すポイントをあげればキリがない。この再現度に関しては、本作のゲーム体験の没入感などを支える基盤であり、ユーザーからの高評価を裏付ける重要な部分と言える。
ホグワーツ城(上)、ホグズミード村(中)、周辺の風景(下)。本作はどの部分も非常に細かく作り込まれている
ある程度ゲームを進めると、ハリー・ポッターらしく箒(ほうき)で移動できるようになる。離れた場所に行く際などは、基本的にはほうきで移動するほうが早いのだが、風景の作り込みがあまりにすばらしいため、徒歩でじっくり移動して隅々を見たくなってしまうほどだ。
本作は細部の作り込みに妥協がなく、ついつい徒歩で探索したくなるマップデザインだ
本作の作り込みはAvalanche Softwareの開発のレベルの高さだけではなく、徹底された調査と取材、そして何よりハリー・ポッターシリーズへの並々ならぬ愛情をうかがわせるほどだ。
元々、原作のハリー・ポッターシリーズ自体が、緻密な世界設定で有名であり、ゲームとして再現する際に気を配らなければならない点が多すぎる題材だ。この世界観をオープンワールドRPGという形でほぼ完璧に再現したのは、本作において最も評価されるべき点だろう。
次に、本作のゲーム性に関して述べていこう。一般的なオープンワールドRPGのデザインを基本に作られているのだが、その中で求められるあらゆる要素に対して、原作の要素が逐一絡んでいるのがプレイしていてすばらしく感じる部分だった。数をあげればキリがないが、ここからは筆者が特によかったと思うポイントを紹介しよう。
ハリー・ポッターとオープンワールドRPGをバランスよく融合させたポイントとして、代表的なもののひとつが、大量の魔法(呪文)を使い分ける自由度と、それらをあらゆる場所に散りばめたゲームデザインだ。
本作では原作同様、多種多様な魔法が登場しそれらを使い分けながらゲームを進める
原作には大量の魔法が登場するわけだが、本作では授業の課題をクリアすることで新たな魔法を習得できる仕組みが採用されており、最終的に多くの魔法が使用できるようになる。
覚えた魔法はバトルで使用できるのはもちろんのこと、フィールドに用意されたギミックを解くためのカギにもなる。単純な攻撃魔法や妨害魔法に留まっていないのが奥深い点だ。
たとえば、敵と遭遇したときに、目くらまし術を使用しながら敵に近づくことでペトリフィカストタルスを発動させ敵を無力化することができるのだが、これは一般的なアクションゲームにおけるステルスキルに当たる。
ほかにも、壊れたオブジェクトの修復にはレパロ、戦闘中のガードやパリィにはプロテゴ、周辺サーチにはレベリオなど、アクションの1つひとつに魔法を混ぜ合わせている。原作要素とゲーム性をていねいに織り交ぜているのだ。
レパロの魔法を使うとエレベーターが修復できる
目くらまし術からのペトリフィカストタルスでステルスキルが可能。魔法とアクションがうまく融合している点は、原作ファンからしても心が惹きつけられるポイントだ
また、ゲームをある程度進めるとカギ開けの魔法アロホモラを習得できるのだが、序盤はこの魔法を覚えていないため開けられない扉や宝箱がある。しかし、アロホモラを覚えた後であれば、探索できる場所がどんどん増えていき、初出時には行けなかった場所に行けるというオープンワールドRPGのテンプレ的な面白さに結びついていたりする。
本作ではアロホモラを習得するとカギのかかった扉を開けられる。また、魔法を強化すると、探索できる場所がどんどん増えていく。
バトル中に使用できる魔法薬や魔法植物などのアイテムも特徴的だ。引き抜くことで悲鳴を上げる魔法植物のマンドレイクで敵をひるませたり、幸運の薬であるフェリックス・フェリシスを飲むとアイテムを発見しやすくなったり、こういった部分も原作とゲーム性のわかりやすい融合と言える。
原作ファンにはおなじみのマンドレイクは戦闘で活躍する
もうひとつゲーム性で触れておきたいのが謎解きパートだ。ホグワーツ校内だけではなく郊外のフィールドにいたるまで、実に多くの謎解きギミックが用意されており、やり込み要素としてもかなり時間を使うことになる。マーリンの試練を始めとした謎解きギミックは、昨今の最新ゲームと比較するとかなり高難度に作られていると感じた。
先述したように、本作は魔法の種類が非常に多い。そして、謎解きギミックを解くには魔法を要するのだ。そのため、プレイ時間の浅いうちは、どの魔法をかければ謎解きギミックが解けるのかわからず、片っ端から魔法をかけていくのだが、それでも解けないことがある。そのうえに、謎解きギミックの種類も豊富なため、どうやって解けばいいのかわからない場面が頻出するのだ。
マーリンの試練をはじめ、謎解きギミックはかなり高難易度に作られているため、初見では苦労する場面も
しかし、難しいがゆえに、謎を解けたときの快感は格別で、謎解き好きの自分としては苦労するかもしれないとわかっていても、見かけるとついつい寄り道してプレイしていた。
なかには、初めて見つけたときにまったくわからず放置し、それから10時間以上プレイしても解き方がわからず、その後にヒントを見つけて正解にたどり着いたこともあった。扉が開いた瞬間は、言い表すことが難しいほどの達成感を得られた。
オープンワールドRPGでは、好きなようにカスタマイズできる拠点が用意されていることがあるが、こちらにもハリー・ポッターらしさが詰め込まれている。「必要の部屋」と呼ばれる拠点は、部屋のレイアウトを自由に変えられるほか、魔法植物や魔法薬などのアイテム作り、魔法動物の飼育などができるようになっている。ただ単にカスタマイズできるだけではなく、冒険に役立つアイテムを作れるようになるなど、ゲームを進めるうえで欠かせない存在なのだ。
「必要の部屋」はアイテムの調合など一度に行えるようになるので、ゲームが進むほど設備を整えていくのが重要になる
「必要の部屋」で個人的に最も気に入ったのは魔法動物の飼育。外で保護してきた魔法動物を育てて繁殖させることができ、かわいらしいものからカッコイイものまで、好きな魔法動物を集めて自分だけの箱庭を作れる。
魔法動物たちは、毛繕いをして餌を与えると装備アップグレードに必要な素材をくれるので、そういう意味でも積極的に集めていかなければならないのだが、やがて、魔法動物たちを愛で、その愛らしい表情を見ること自体が目的になってしまうほど、本作の中で癒やしになる要素だと思った。
「必要の部屋」の飼育できる魔法動物たち
本作は、このようにオープンワールドRPGとして求められるゲーム性と原作の要素を非常に巧みなバランスで融合されており、オープンワールドRPGとして違和感なく遊び進められつつも、随所に魔法界での生活を堪能できる感覚を絶やさず埋め込んでいる。この部分は本作において特筆すべきポイントだろう。
本作は1800年代の魔法界を舞台に、ゲームならではの展開で描かれる物語体験も大きな魅力のひとつだ。古代魔術のカギを握る主人公が、その秘密をホグワーツの教師、フィグ先生と探っていくのがメインストーリーとなる。
そして、古代魔術を手中に収めようとするゴブリン・ランロク、魔法使いルックウッド達と敵対しながら、物語はやがて先人の魔法使いと魔女たちも関わる真相へと迫っていく。
本作では古代魔術を手中に収めようとするランロク(上)、ルックウッド(中)達と敵対しながら、過去の魔法使いたち(下)も関わって物語が展開していく
自分だけのキャラクターを作り、好きなホグワーツ寮で学生生活を送るのも原作ファンとしては楽しいが、最大の魅力は緻密かつ広大に作られた魔法界の生活の中で発生するイベントの数々や、本作の中でしか出会えないキャラクター達との出会いだ。
原作から100年以上前という設定上、ロンやハーマイオニーといった原作のキャラクターは登場しない。しかし、メインストーリーで出会う重要なキャラクターだけでなく、サイドクエストで交わるキャラクターたちとのイベントにおいても、物語体験に大きく引き込まれる仕掛けが用意されている。
原作でおなじみのドラゴンやケンタウロス、闇の魔術など、原作でも大きく取り上げられたキャラクターの過去や、それぞれが抱えている問題を解決しながら、敵組織に対抗していく物語は非常に印象的だ。ドラマチックなシーンの連続と各キャラクターの内情や思惑が明かされていく展開は、ゲームならではのオリジナリティとして楽しめた。
ドラゴン(上)やケンタウロス(中)、闇の魔術(下)など原作おなじみの要素がふんだんに登場
加えて、課題をクリアすると新たな魔法を教えてくれるホグワーツの先生や「必要の部屋」などで主人公のお世話してくれる屋敷しもべ、ゴースト、ポルターガイスト、ゴブリンなど、彼らとの出会いも、本作ならではの体験だ。原作に登場したキャラクターと同じ名字を持つキャラクターも登場し、原作とのつながりをついつい探りたくなってしまうような場面もある。
薬草学のガーリック先生(上)、屋敷しもべのディーク(中)、ポルターガイストのファスフォディア(下)
本作のストーリーは、1800年代という舞台設定にしたことにより、いい意味で原作に囚われ過ぎていないのがいい。より自由な展開の中で、原作を知っているプレイヤーが興味を持ってしまう仕掛けも用意するという、オリジナル作品だからこそできることを実現していると感じた。
「ホグワーツ・レガシー」は、原作の設定やファンの心理を非常に重んじながら作られたゲームであり、プレイしながら開発陣達の原作へのリスペクトを感じずにはいられない作品だった。
本作はオープンワールドRPGとして特段画期的なゲームシステムを取り入れたわけではないが、すでに親しまれているオープンワールドRPGのシステムと、緻密に作られたハリー・ポッターシリーズの世界設定を絶妙なバランスで調合させており、その完成度は間違いなく現代ゲームとして最高峰と言っても差し支えないレベルだろう。
プレイヤーがオープンワールドRPGを通して、ハリー・ポッターの世界に浸りつくせる没入感こそが本作の醍醐味だと思う。原作ファンなら高確率で楽しめる作品なのは間違いなく、原作をある程度知らなくても、本作を入り口にして原作にも興味を持てるくらいゲームとしての面白さも備えている。
本作はPS5版とXbox Series X/S版、PC版がすでに販売されているが、2023年4月4日にはPS4版とXbox One版が、2023年7月25日にはNintendo Switch版が発売される予定だ。次世代機を持っていない人も、機会があればぜひ手にとっていただきたい。
YouTubeを中心に活動するゲーマー。PSやPCのソフトを中心にゲーム紹介をする機会が多く、同分野を専門に活動しています。プライベートでは任天堂などの作品も頻繁に遊びます。