ボードゲーム説法
第1回

住職による「ボードゲーム説法」始動! 18年のトレンド作品を「ありがたいお言葉」と共に

曹洞宗三峯山洞松寺の住職を務めながら、ボードゲームジャーナリストとして活動する小野卓也さんが、話題のゲームを紹介しながら仏の教えを説く、ありがたい(?)新連載がスタート。聞き手は「ボードゲーム王選手権2018」優勝者の筆者、河上拓。記念すべき第1回となる今回は、簡単なルールで盛り上がるイチオシのボードゲームを紹介しながら、2018年のゲーム業界を振り返る。

なお本連載において、「ボードゲーム」という言葉は、「人生ゲーム」のようなボードゲームや、「UNO」のようなカードゲームも含めた“アナログゲーム”の総称として使う。

【PROFILE】(写真/小関一成)
●小野卓也(おのたくや)……1973年生まれ。ボードゲームジャーナリストとして活動する曹洞宗洞松寺(山形県長井市)の33代住職。国内最大のボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」を運営。国際賞「インターナショナル・ゲーマーズ・アワード」でアジア人初の審査員を務める。著書に「ボードゲームワールド」(スモール出版)などがある

イチオシのトレンドゲームを、説法を交えて紹介!

河上 連載第1回は、ちょうど新年が始まったタイミングということで、2018年のイチオシゲームを紹介しながら、同年のボードゲーム業界を振り返っていただけますか。

小野 わかりました。ひとつ目は「もっとホイップを!」です。このゲームもそうですが、2018年は簡単なルールで楽しめて短時間で終わるシンプルな新作が多かった気がします。

「もっとホイップを!」は、日本のボードゲームの輸入卸会社「ニューゲームズオーダー」が名作ドイツゲームをリメイクしたゲーム

河上 いきなり話がそれますが、2018年の「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した「アズール」もそう。今、初心者も遊べてじっくり考えるところもあるという間口の広いゲームが支持されていますよね。

小野 「アズール」は、新たな定番ゲームになると見ています。新たなスタンダードが生まれた気がするんです。この業界ではほぼ10年スパンでそのようなゲームが出てくるんですが、同作品が発売されたのが、「ドミニオン」(※1)が発売された2008年からちょうど10年目の2018年。その観点から見ても、新たなスタンダードが誕生したと言えると思います。

※1「ドミニオン」……2009年、世界的ゲーム賞にて史上初の3冠を達成した、デッキ構築型カードゲーム。ホビージャパンより日本語版が発売されており、拡張版も多数ラインアップされる

河上 確かにここ数年で、ファミリー向けゲームとマニア向けゲームに完全に二分しつつあった流れが、「アズール」の登場で変わった気がしますね。

小野 「アズール」は運の要素が少なめで、ゲーマー同士で遊ぶとガチガチの展開になるんですけど、初心者がフィーリングで遊んでもそれなりに楽しめるゲームです。2018年10月に行われた世界最大のボードゲーム見本市「エッセン・シュピール2018」でも、そういったゲームが一気に増えていました。

2018年、世界中で絶賛された「アズール」。「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した

2018年、世界中で絶賛された「アズール」。「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した

シンプルなルールに、豪華なコンポーネント。手触りを重視した見栄えのいい厚めのタイルが特徴だ。日本語版が発売され、日本でも話題となった

ケーキの“切り分け問題”がゲームになった!

河上 当時の絶版ゲームのリメイクや再版も、「アズール」のリリース以降増えた気がします。話を戻すと、「もっとホイップを!」もそのひとつですよね。2009年にドイツで発売された名作ゲームを、日本のメーカー「ニューゲームズオーダー」がリメイクしました。

小野 「もっとホイップを!」は「ケーキの切り分け問題」がテーマなんですけど、毎回いろんな種類のケーキが集まってできたホールケーキを切り分けるゲームです。みんなの分を切り分ける人(親)が、いちばん最後に自分の分を取るわけなんですが、何が欲しいかというのが人によってちょっとずつ異なる。ほかの人はいらないけれど、自分は欲しいものが残るように切り分けられたら最高なわけです。

写真のようにホールケーキ状になったタイルを、「親」が切り分けていく。取ったケーキそれぞれに描かれた「ホイップの数」か「数字」が点数として得られ、その点数が多い人が勝ち。このゲームのミソは、ケーキを取った際の“行動の選択”だ。「食べる」を選択した場合は「ホイップの数」(数が比較的少ない)が点数に、「残す」を選択肢した場合は“最終的に自分がその種類のケーキをいちばんたくさん持っていた場合”に限り「数字」(数が比較的大きい)が点数に換算される

河上 不均等に分けると、いちばん損なのが残って自分に回ってくる。だから、いや応なく均等に分けなければならない。だからすごく悩ましい。自分の利益を考えながら、ちょうどいい妥協点を探っていくという、まさに考えるゲームですね。

人の幸せを自分の幸せとするという発想

小野 大人でもキリがないほど思考できるゲームなんですけど、やっていることはシンプルに切り分けて取るだけなので、子どもでも純粋に自分が食べたいケーキを取ったりしながら、ゆるく遊ぶこともできます。

ところで、この「ケーキの切り分け問題」は、仏が説いた言葉「仏語」で、「利他行(りたぎょう)」に当たります。これは、現代の日本で普及している「大乗仏教」の基本的な修行のひとつで、人の幸せを自分の幸せとするという発想のこと。

河上 他人のために命を投げ出す的なことですか? 

小野 そこまで大げさじゃなくてもいいんです。しかも、そのときに自分もうれしい。

河上 うれしい? 

小野 はい。そこがポイントで、自分が損しているという感覚を持っているうちは、愚かだという教えなんです。

まあ、実際は「身を投げうつ」とか、そんな大げさなものではなくて、たとえば人に何かをおごるとか、そういったものでもいいわけです。でも、誰かに夕飯を振る舞ったときに、見返りとか考え出すと、途端に苦しくなってくる。ですので、自己満足でやっていると思うぐらいがちょうどいいということです。まさに「もっとホイップを!」も同じで、人に取らせまいと思うから、とても苦しいゲームになる。

河上 ゲーマー同士で遊んだ場合、どうしてもお互いに損得を考え出して、ヒリヒリしたゲームになりがちですよね。面白いんですけど、人を選ぶというか……。結構シビアなゲームになりますよね。

小野 でもそうせずに、みんなは何を欲しいのだろう?って考えて、この人にはこれ、この人にはこれって、喜びそうなものを切り分けていくと、割と簡単に分けられます。そうすると自分のところに来る残りものもそこそこいいケーキになる。おのずとWin-Winの関係になってくるんです。

河上 確かにその遊び方だと、あまりギスギスせずに楽しめそうですね。

小野 はい。発想の転換ができれば、途端にこのゲームは幸せなゲームになるんです。

短時間でじっくりと考える推理ゲーム

小野 2つ目のゲームは、「トリックと怪人」です。

河上 2017年秋の「ゲームマーケット」で話題となった同人ゲームが、2018年の秋に新版として発売されたんですよね。それも発売元は、「海底探検」「ナインタイル」などの小箱ゲームで有名な「オインクゲームズ」!

「トリックと怪人」。話題の同人作品を、小箱ゲームのヒットメーカー「オインクゲームズ」がデザインを一新して発売した

小野 このゲームは、相手の出しているカードを読み合う推理ゲームなんですけど、ブラフゲーム的な要素も入っているのがポイントです。それぞれのカードに特殊効果的なものがあるんですが、カード数も11枚と少ないですから覚えることも少ない。簡単なルールで、じっくりと考える場面のある珍しいゲームです。

シンプルなルールの短時間ゲームでありながら、深い読み合いが楽しめる

シンプルなルールの短時間ゲームでありながら、深い読み合いが楽しめる

河上 偽ってカードを出す人がいたり、カードの効果で思わぬどんでん返しが起こったりと、毎回、ドラマチックな展開になる。

小野 プレイ時間は短めなので、同じメンバーで続けて遊ぶと、さらに読み合いが白熱していく系のゲームです。プレイ中に徐々に自分の存在が相手に伝わり、正体が予想されていくのですが、このゲームのような「他によって自分が何者であるかが決まっていく」ことを「仏語」で「依他起性(えたきしょう)」と言います。他人に依存して生まれている存在のありようですね。

自分への執着は実体のないものへの執着に過ぎない

河上 人間関係が人格を形成するってことですか。

小野 というか、自分というものは最初から存在しているのではなくて、他者との関係性において現れ出てくるという考えですね。自分への執着は、実体のないものへの執着に過ぎない。その教えを強く感じるゲームですね。

河上 「トリックと怪人」は、今年の「ゲームマーケット大賞2018」で、900タイトルの国産ゲームの中から優秀作品に選ばれたことでも話題になりました。このゲームもそうですが、ゲームマーケットで少量販売され、一部の好事家の間でのみ話題になっていたゲームが、ほんの数か月で商品化されて一般流通するという展開も多くなりましたよね。

小野 ちょっと数年前だと考えられなかった現象です。あともうひとつ、近年の傾向として、勝敗というよりも、みんなで楽しい時間を過ごすことをメインとしたパーティーゲームの存在感が大きくなってきています。日本でも、2017年に発売された「ボブジテン」を筆頭に、昨年2018年は「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」、それにのちほど紹介する「はぁって言うゲーム」が人気となっています。

ひと言で演技する爆笑パーティーゲーム

小野 「はぁって言うゲーム」は、「トリックと怪人」と同じく、もともと同人作品として出たものが、そのあと「ベストアクト」という名前で「ジェリージェリーゲームズ」によってリメイクされて商品化されました。さらにそのあと、また「はぁって言うゲーム」というタイトルに戻って、今度は「幻冬舎」から発売されました。

ひと言でシチュエーションを伝えるパーティーゲーム。秋に発売となった幻冬舎版は、発売後すぐに売り切れとなり、増刷がかかった

河上 幻冬舎版は、「ベストアクト」からお題が大幅に変わっているんですよね。セクシーな内容のお題がなくなって、家族でも遊びやすくなりました。逆に大人だけで遊ぶなら「ベストアクト」が盛り上がるかもしれませんね。

小野 ゲームの内容はすごく簡単です。たとえば「はぁ」なら、「なんで?」の「はぁ」、力をためる「はぁ」、感心の「はぁ」など、お題カードに書かれた「はぁ」をひとつ言って、他のプレイヤーに、どの「はぁ」だったのか当ててもらう。演技力が試されるんですけど、演技が得意でないほうが盛り上がるというか。

河上 「そんなんじゃわかんないよっ!」という笑いが生まれるんですね。

各プレイヤーが共通の台詞を「与えられたシチュエーション」で演じていく

各プレイヤーが共通の台詞を「与えられたシチュエーション」で演じていく

小野 このゲームで遊ぶと、「不立文字(ふりゅうもんじ)」という「禅語」が思い浮かびますね。禅宗の「真実は、言葉では伝わらない」という教えです。

河上 それ、まさにこのゲームの内容を表していますね。

小野 正解を当てるには、“言葉の外にあるもの”が手がかりになる。表情であったり、イントネーションだったり、声の高さだったり。

河上 話し手が醸し出す雰囲気なんかも重要ですよね。ジェスチャーなんかは禁止ですけど、表情まではOKなんですよね。

小野 このゲームで必要なそれらは、普段のコミュニケーションでも大事な部分です。で、我々はそういった言葉の外にあるものを求めて、ボードゲームをプレイしているところってあると思うんです。

リアルを見失ってはいないだろうか

河上 人間同士で向き合って遊ぶことで感じられること、っていうのは確かにありますよね。

小野 いろんなものが反映されますからね、その人の人間味とか、これまでの人生の生き方とか。

河上 そんなものまで見えますか(笑)。

小野 で、そういうものが、ボードゲームのプレイ中に垣間見られることもある。それが「リアル」ってことなんですね。そのリアルを見失ってはいないだろうか。

河上 何ですか、急に(笑)。

小野 いや、今の世の中がね。それがないからSNSなどでは、いろいろともめごとが起きたりするわけで。

河上 確かに2018年は、ボードゲーム界もいろいろともめごとがありましたよね。特にゲームを作ったり、売ったりしてる人たちのSNS上でのもめごとが目立ちました。なかには、会って話せばすぐに解決するような話を、なんでわざわざSNS上でしてこじれてるんだ?っていうようなイザコザもあったり。

小野 もう、見ていて辛くなるというか。

河上 よく「コミュニケーションを育む」とか言ってる割に、関係者が皆どんだけコミュニケーションが苦手なんだ!っていう(笑)。そういう人たちにこそ、この「はぁって言うゲーム」で気づいてほしいと。

小野 リアルにこそ真実がある、ということを知ってほしいですね(笑)。禅宗では、真理は文字では伝えられないといいます。別に真理を求めているわけではないんですが、みなさんが普段の生活で、最近モノ足りないなって思っていることって、意外とそこなのではないでしょうか。

河上 そんな文字とか言葉では表せない何かを、特にこのゲームでは感じることができるってことですね。

小野 「はぁって言うゲーム」だけではなくて、今回紹介したゲームはすべてそういったリアルを感じられると思います。お互いの仕草とか、表情を見て考えながらプレイする面白さがある。ルールも簡単ですし、ぜひ顔をつき合わせて、自分のありのままを出して遊んでみてほしいですね(合掌)。

河上拓

河上拓

「日経エンタテインメント!」から「月刊ムー」まで、エンタメやホビーを中心に幅広く活躍するマルチライター。トランスフォーマーなどの変形玩具、海外ボードゲームに詳しい。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
価格.comマガジン タイムセール
「価格.comマガジン」プレゼントマンデー
ページトップへ戻る