ボードゲーム説法
第2回

「ドイツゲーム」とは? エポックメイキングな名作と共に歴史をたどる

本連載は、曹洞宗三峯山洞松寺の住職を務めながら、ボードゲームジャーナリストとして活動する小野卓也さんが、人気のゲームを紹介しながら仏の教えを説く、ありがたい連載。聞き手は、「ボードゲーム王選手権2018」優勝者の本稿筆者、河上拓。第2回となる今回は、「ドイツゲーム」の歴史を、時代を変えた名作ゲームを紹介しながらたどります。

【PROFILE】(写真/小関一成)
小野卓也(おのたくや)……1973年生まれ。ボードゲームジャーナリストとして活動する曹洞宗洞松寺(山形県長井市)の33代住職。国内最大のボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」を運営。国際賞「インターナショナル・ゲーマーズ・アワード」でアジア人初の審査員を務める。著書に「ボードゲームワールド」(スモール出版)など

そもそも「ドイツゲーム」って何?

河上 前回の連載第1回では、まったく触れずに話を進めていましたけど、本連載での「ボードゲーム」って言葉は、ドイツで1990年代にブームになった「ドイツゲーム」のことを指していることが多い、というか、ほとんどそっちの意味合いで使ってますよね。もちろん、「人生ゲーム」や「オセロ」なんかも入れた広義として使っている場合もたまにあって、そこが非常にわかりにくいんですけど。

小野 そうなんですよね。でも実際には「ドイツゲーム」のことを指しています。

河上 しかし、ボードゲームをジャンルとして扱うときは説明が大変なのもあって、とりあえず広義で進めちゃいがちですよね。実際、連載第1回でも注意書きとして、「アナログゲームの総称として使う」って書いてしまってますし。なので今回は、「ドイツゲーム」について話してもらおうかなと思ってます。

小野 でも、「ドイツゲーム」って言葉も結構クセもので、「ユーロゲーム」とか「近代ボードゲーム」とか、ほかにも同義語があったりして複雑なんですけど。まあ、ドイツで発展した歴史があるので、「ドイツゲーム」でいい気がするんですよね。

河上 では、「ドイツゲーム」とは、どんなゲームのことを指す言葉なのかという説明からお願いします。

小野 必ず運の要素が入っていて、初心者から熟練者まで実力差があまり出ない設計がされている。あと、ほかの誰かの行動が自分の行動に影響を与えていく「インタラクション」の要素が入っているのが特徴です。そういったゲームが1990年代にドイツ国内でブームとなり、世界に広がったことで「ドイツゲーム」と呼ばれるようになりました。

河上 つまり、デザイナーがドイツ出身だったり、ドイツの会社が作っているドイツ産ゲームだったりすることだけで「ドイツゲーム」って呼ばれるわけじゃなくて。それ以外にも、さっき小野さんが言った定義に当てはまるものは「ドイツゲーム」と呼ばれていると。

小野 最近は業界がグローバル化していて、ヒットタイトルを生むゲームデザイナーもいろんな国から出てきているから、すごくややこしいんです。だから、別の言葉、「ユーロゲーム」とか「近代ボードゲーム」とも言われています。でも今も世界最大の見本市が開かれていたり、「ドイツ年間ゲーム大賞」が業界での最高峰の賞だったりと、ドイツはボードゲーム界の中心であり続けている事実があります。

河上 つまり、「ドイツで発展したボードゲーム」の流れをくむゲームのことを全般的に「ドイツゲーム」と呼ぶってことでいいですよね。

小野 そうですね。ではここからは、あくまで私の視点になりますが「エポックメイキング」となった作品をあげながら「ドイツゲーム」の歴史を紹介していきますね。

米国生まれの経済ゲーム「アクワイア」

「ドイツゲーム」の要素を持った最初のゲームは、1962年、実はドイツではなく米国で誕生した「アクワイア」というゲームになります。

「アクワイア」は硬派な経済ゲーム。何度もリメイクされているが、写真のパッケージのものは現在、日本のショップでは販売されていない

河上 ホテルチェーンのM&Aをテーマにした経済ゲームですね。作者のシド・サクソンは、日本で現在売られているゲームで言えば、ダイスゲームの「キャント・ストップ」や「アイム・ザ・ボス!」を手がけている人です。「アクワイア」はタイル配置と株の購入によって高度な駆け引きが楽しめる。今も世界中で遊ばれている人気ゲームです。

「キャント・ストップ」は、傑作ダイスゲーム

「キャント・ストップ」は、傑作ダイスゲーム

毎手番4つのサイコロを振って、出た目で2つの数字の組み合わせを作り、対応するコースのコマを進める。1手番で進めるコースは3つまで。何度でもサイコロは振れるが、対応する組み合わせができなければその手番進めたコマを戻さなければならない

「アイム・ザ・ボス!」は、手札のカードを使いながら交渉を無理やり成立させていくゲーム。6人まで遊べて、人数が多いほど盛り上がる

小野 毎手番、タイルを配置して株を買うだけなんですが、ちょっとほかでは味わえないような駆け引きが楽しめます。

河上 株券には限りがあるのに、「1回に3枚しか購入できない」というルールが効いているんですよね。4人で遊ぶことで株の総数が意味を持ってくる。僕は普段プレイ人数はあんまり気にしないんですけど、遊ぶ機会があるならぜひ4人で遊んでほしいゲームですね。

小野 ゲームが進むとホテルチェーンが吸収合併されていくんですが、自分のホテルチェーンを吸収されて売り飛ばしたほうがもうかることもあるんですね。その売りどきがとても悩ましい。「四苦八苦」っていう言葉がありますよね。

河上 とんでもなく大変だとか、苦しいという意味の四字熟語ですよね。

小野 人には、「四苦」、つまり生、老、病、死の4つの苦しみがある。その「四苦」にさらに4つの苦しみを加えたものを「八苦」と言います。

河上 4+8で、12ではなく、全部で8つなんですね。

小野 そうです。仏教では、苦しみとはその8つからなる、という考えがあるんです。で、「八苦」の中に、「求不得苦(ぐふとくく)」という、「求めているものが得られない苦しみ」というものがある。その原因は何だと思います?

河上 へ? 何だろう……。欲しいものが手に入らないってことですよね。え〜っと……、欲しいと思うこと?

小野 そうです。つまり煩悩ですね。「アクワイア」においても、ゲーム中、何度も「求不得苦」を感じます。大きい会社、大きな利益を求めれば求めるほど、勝てないようになっている。欲張り過ぎず、どこかで手放して煩悩を抑える。「この辺にしておこう」ってあきらめることで勝てるチャンスが広がるんです。

河上 確かに、手番の終わりに毎回タイルを引くときに、「あのタイルさえ引けばすべてがうまくいく!」って場面が何度も訪れるんですよね。で、そこに執着するとほぼ負けてしまう。

小野 さらにゲームが進むにつれて、ほかの誰かが自分の欲しいタイルを持っていて出さずにいる可能性も高くなってきますしね。だから、もちろん「求める心」がないと勝てないんですけど、それが自分の中でふくれ上がってしまって、コントロールできなくなると自分の首を絞めるんです。

河上 確かに、葛藤が常にありますよね。

小野 まさに“苦しみを乗り越えるヒント”がもらえるゲームです。

河上 でも遊び出すと、ホントに止まらないくらい中毒性がある。こうして話していると、やりたくなってきました。

小野 だけど残念なことに、現在、日本で流通していないんですよね。

河上 まず日本だと手に入れる際に「求不得苦」を味わうことになるっていう(笑)。

「アクワイア」のゲーム風景。写真はコマが木製の3M版。比較的手に入りやすい2016年発売のハズブロ版は、ボードが10×10マスに変更されており、プレイ感が異なる

ニンジン補充のために後退も必要な「ウサギとハリネズミ」

河上 で、話を戻すと、米国で生まれたゲームが「ドイツゲーム」の原点っていうのもヘンな話ですよね。

小野 でも「アクワイア」は運の要素もあり、「インタラクション」も存在する、見事なまでに「ドイツゲーム」なんですよね。しかも1時間ほどで決着がつき、そんなに複雑なルールじゃなくて、面白みがどこなのか割とわかりやすい。

河上 図らずも、のちに「ドイツゲーム」と呼ばれるゲームの原点が米国で生まれた。

小野 作者のシド・サクソンは、そんなつもりはなかったと思うんですが(笑)。「アクワイア」は米国でウォーゲームや経済ゲームを遊んでいた層の人たちの間でヒットします。そして海を渡って欧州でも販売されます。ただ、そこまで話題になったわけでもなく、ゲームマニアの間で少し評判になったぐらいでした。

小野 そのあと、英国で「野ウサギとカメ」というゲームがヒットします。

河上 「ウサギとハリネズミ」の英国版ですね。発売は1973年ですから、「アクワイア」の登場からちょうど10年後になります。

「ウサギとハリネズミ」は、カードで進むすごろく。ときに後退してニンジンを補給しながら、ゴールを目指す。「順位の10倍を超えるニンジンを持っていたらゴールできない」というルールも効いており、駆け引きを生む

河上 このゲームのデザイナー、デビッド・パーレットは「アクワイア」で遊んでいたんですかね?

小野 「アクワイア」は欧州でも発売されていますが、そこまで大ヒットはしていないですからね。「アクワイア」の影響を受けたというよりは、どちらかといえば私は同時多発的に生まれたと見ています。

河上 あくまで原点だというだけで。

小野 ただ、そのあとの「ドイツゲーム」シーンを支えることになるデザイナーたちが、影響を受けたゲームとしてよく「アクワイア」をあげているのは確かですから、パーレットも遊んでいた可能性は高いですね。

河上 トップデザイナーのひとりである、ライナー・クニツィアも特に好きなゲームのひとつとして「アクワイア」をあげたりしてますし。

「ウサギとハリネズミ」のルールは、簡単に言うとカードでコマを進めるすごろくです。エネルギーとなるニンジンを補充するには、コマをうしろに下げなければいけない。

小野 このゲームでは、その下がるタイミングの駆け引きが実にうまくまとまっています。

河上 バランスの妙というか緻密に作られている。最近、リメイク作品の「八十日間世界一周」が発売されましたが、今遊んでも面白さはまったく色あせてないですからね。

「八十日間世界一周」は、第1回「ドイツ年間ゲーム大賞」受賞作「ウサギとハリネズミ」を古典的名作小説の世界観でリメイクした作品

小野 「急がば回れ」、仏教的に言うと「静慮(じょうりょ)」って言葉が思い浮かぶゲームです。静慮は立ち止まって瞑想すること。活動を停止して心を静めることで世間が見えてくるという教えですね。人生でも悩んだり、疲れたりしたときはちょっと立ち止まって、ひと休みしながら周りを冷静に観察してまた進むとうまくいく。

河上 このゲームが、英国で発売されてから4年後の1978年にドイツにも入ってきた。ちなみに英国版のカメがドイツ語版でハリネズミに変わってますね。

小野 「イソップ物語」の「ウサギとカメ」から、グリム童話の「ウサギとハリネズミ」に変わった。なじみのある物語のタイトルになったんですね。

河上 グリム兄弟はドイツ人ですもんね。

小野 あと、カメがドイツではあまりメジャーな動物ではなかったのも理由だと思います。

河上 ハリネズミはヨーロッパで害獣として、日本でいうモグラのようなイメージで浸透していますしね。ゲームの内容的には、カメもハリネズミも競争には参加せずに、ウサギだけで競争してるんですけど。

小野 で、その「ウサギとハリネズミ」が、1979年に創設された「ドイツ年間ゲーム大賞」の第1回大賞を取ったことで注目されることとなりました。

河上 ドイツでは、それまでボードゲームを遊ぶ文化はあったんですか?

小野 そういった新しいゲームを遊ぶ人は非常に少なかったですね。それが「ウサギとハリネズミ」が大賞を受賞したことで注目されるようになりました。そして、それにならったゲームがドイツでも作られるようになっていった。

賞の選考委員は、第1回から、メーカーとは距離は置いた新聞記者だったり、普通のファンだったり、ゲーム会の主催者といった“とんがった人たち”。そんな彼らが「ボードゲームジャーナリスト」として面白いゲームを選びました。

河上 ゲームメーカーが主催する販売促進イベント的なものではなく、ゲーム好きが集まって賞を作ったからこそ信憑性があって、話題にもなった。30年経った今も続いていて、現在は業界最高峰の賞となっていますよね。大賞に選ばれれば、40〜50万セットが売れると言われています。で、この「ドイツ年間ゲーム大賞」も、ドイツって言ってるのに、第1回を受賞してるのが、英国産ゲームというのも面白いですね。

「ウサギとハリネズミ」のパッケージ。「ドイツ年間ゲーム大賞」受賞ゲームには、ひと目でわかる赤ポーンのマークが印刷される

ドイツでなぜボードゲームが流行ったのか

小野 「ドイツ年間ゲーム大賞」は、「ドイツ」って名に付いていますが、国籍を問わずゲームを高く評価するという名目で始まった賞なんですよね。「アクワイア」も第1回にノミネートされています。でも、そこから、ボードゲームはドイツに定着し、そのあとドイツはボードゲーム大国と言われるほど、ボードゲームに夢中になっていきます。

河上 何が適していたんですかね。

小野 よく言われるのは日照時間ですね。年間日照時間が少ないと、インドアの趣味が充実するっていう説。ドイツはフランスやイタリアなどと比べれば日照時間が短いので、そういう下地があったんだろうと言われています。

河上 でもそれだと、北欧とか英国でもっと盛り上がってるはずですよね。

小野 そうなんですよ。だからそれは決定的な要因ではないと思います。ドイツのほかの特徴として、紙や木製品の生産国としての利点もあげられますね。

河上 モノ作り大国と呼ばれるほどの技術があったのは、確かに大きいですよね。生産体制も整っていた。

小野 あとドイツでボードゲームは出版社から発売されています。知育的な絵本のようなイメージが強い。コマがプラスチックでなく木製なのも、その影響があると思います。

河上 孫と一緒に遊ぶために祖父母が買い与えるものとして浸透していますよね。買い与えやすく、それを遊ぶことに大人が肯定的だったというのもヒットの理由のひとつかもしれませんね。

小野 現在も大手出版社は、そのようなファミリー層をメインターゲットと考えていますし。あと、もうひとつ下地として、「イライラしないで」というすごろくゲームが国民に浸透していた。もともとはインド発祥のゲームが英国で形を変えたものなんですが、第一次世界大戦のときに戦地に慰問のためにこのゲームを送ったことで戦後、兵隊さんがドイツに帰って来たときに、一気に国内に広がったと言われています。

「イライラしないで」は、4つのコマすべてをゴールさせるすごろく。相手に踏まれると、待機ゾーンに戻るため、どのコマを進めるかが重要になる

河上 日本でいうと軍隊カレーからカレーが広がったみたいな感じかな。「イライラしないで」自体はサイコロを振ってコマを進めるすごろくですよね。同じ場所に止まったら相手を振り出しに戻せる。コマがいくつもあって、どれを動かすか選ぶといった駆け引きはそれなりにありますが、現代のボードゲームから見ればホントに単純なゲームです。

それが定番として第一次大戦が終わった1918年ころから普及しました。ドイツ人なら知らない人はいないっていうくらいにポピュラーなもの。日本でいうと何でしょうね。将棋とか囲碁なんかの伝統ゲームというよりは、「人生ゲーム」的な感じですかね。

小野 伝統ゲームより歴史は浅いし、「人生ゲーム」よりは古いですから……、「オセロ」! そう、「オセロ」が近いですね。

河上 なるほど。そんなゲームが浸透していたところに、そのアップデート版みたいなカードでやるすごろくが出てきた感じですかね。そういったゲームが受け入れられる土壌があった。

小野 「ウサギとハリネズミ」が「ドイツ年間ボードゲーム大賞」を取ってヒットしたことで、そこからメーカーが新しいものをどんどん作るようになりました。

河上 米国や英国で生まれた新しいボードゲームが海を渡って、賞の発足をきっかけにドイツでブームになっていく。

小野 まさに「輪廻(りんね)」ですね。国を超えて、ボードゲームの魂みたいなものがゲームからゲームへ輪廻していったような気がします。

合掌。

---
というわけで、今回はここまで。
次回は激動の1980〜1990年代を振り返ろうと思います。

河上拓

河上拓

「日経エンタテインメント!」から「月刊ムー」まで、エンタメやホビーを中心に幅広く活躍するマルチライター。トランスフォーマーなどの変形玩具、海外ボードゲームに詳しい。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
「価格.comマガジン」プレゼントマンデー
ページトップへ戻る