あれこれ通信
「プルーム・テック」の専用カプセルを製造するJTの東海工場に潜入

生みの親が語る、低温加熱式タバコ「プルーム・テック」誕生秘話

日本タバコ産業(JT)は、加熱式タバコの「プルーム・テック」「プルーム・テック・プラス」の専用カプセルを製造する東海工場の内部を報道関係者向けに公開した。「プルーム・テック」製造開始以来、マスコミ向けに工場を公開したのは初めてのこと。「プルーム・テック」の生産ラインは、2016年に稼働が開始されて以来、毎年刷新して世代を重ね、すでに第3世代まで進化。十分な準備が整い、2019年6月17日からの「プルーム・テック・プラス」全国販売に備えている。

JT東海工場。背後にある建物が工場

JT東海工場。背後にある白い建物が工場だ

におい、煙……「プルーム・テック」はいかにこれをなくしたか

「プルーム・テック」と「プルーム・テック・プラス」は、低温加熱方式を採用した加熱式タバコだ。この開発に携わったタバコ事業本部R&Dグループの開発責任者である山田学氏によると、開発の経緯は「10年前にさかのぼる」という。

「プルーム」シリーズ開発責任者の山田学氏

「プルーム」シリーズ開発責任者の山田学氏

もともと愛煙家だという山田氏は、JTに入社後、結婚してからは自宅でタバコを吸わなくなったそうだ。「吸う人と吸わない人の共存は非常に難しい」(山田氏)からで、喫煙者は味わいや煙を大事にするいっぽうで、非喫煙者はにおいや煙を迷惑に感じる。

ただ、喫煙者の減少に加え、以前は8mg以上の高タールタバコの消費が多かったのに対し、最近は6mg以下の低タールタバコの消費が増加。さらにタバコ本来の味とは異なるメンソールタバコが伸びており、喫煙者の嗜好も変化してきたという。

「これを共存の突破口に」と、JTは開発を進めてきた。ずっとそのチャレンジに携わってきたというのが山田氏だ。最初に取り組んだのが、タバコの「におい」の削減。紙巻きタバコながら、においの削減を狙ったのが「D-spec」シリーズだ。タバコのにおい成分の中で、「特にくさいという成分を特定してマスキングするようにした」という。タバコ葉を包む巻紙に工夫をしたそうで、味わいを減らさずに副流煙のにおいを削減することを目指したもので、現在も「ピアニッシモ」などの「LSS(Less Smoke Smell)」製品で活用されている。

山田氏が携わった「D-spec」。巻紙に香料を塗布することで、においの低減を図った

山田氏が携わった「D-spec」。巻紙に香料を塗布することで、においの低減を図った

ただ、これでもタバコに対する課題を払拭することができず、さらに取り組んだのが「煙」の削減。「いっそのこと燃やさなければいい」ということで開発したのが「ZERO STYLE」だ。

特殊な処理をしたタバコ葉の原料をカートリッジに詰めて吸い込む方式で、火を使わないために煙も出ないタバコだったが、定着しなかった。やはり吸いごたえがなく、「煙」が欲しいという声に対応できなかった。

続いて山田氏に関わった「ZERO STYLE」。燃やさないので煙も出ない

続いて山田氏に関わった「ZERO STYLE」。燃やさないので煙も出ない

火で燃やす以外の煙が必要となり、着目したのが当時海外で出始めていた電子タバコだ。これはニコチンを溶け込ませたリキッドを蒸気化して吸い込み、蒸気を吐き出す、という仕組みで、煙を吸ったような感じがあり、ニコチンやフレーバーも味わえる。ただ、日本ではニコチン入りのリキッドを販売できないため、これを可能にする研究を進めたという。

当時、海外で出始めていたのが電子タバコ。蒸気(ベイパー)を発してニコチンを吸引する

当時、海外で出始めていたのが電子タバコ。蒸気(ベイパー)を発してニコチンを吸引する

さて、JTではタバコの成分を研究するために、「水蒸気蒸留」という手法が使われていた。沸点以下の温度で蒸留するという方法だが、山田氏はこの水蒸気が電子タバコの蒸気と似ていることから、これを「ZERO STYLE」と合わせることを思いついたという。

水蒸気蒸留をヒントに「ZERO STYLE」と組み合わせた新しい加熱式タバコを考案した

水蒸気蒸留をヒントに「ZERO STYLE」と組み合わせた新しい加熱式タバコを考案した

原料となるタバコ葉は「ZERO STYLE」で培ったカートリッジ方式で、電子タバコの要領で蒸気を発生させるプロトタイプを山田氏が組み上げた。電子タバコのリキッドは水ではないため、厳密には水蒸気蒸留ではないが、それでも低温で蒸気を発生させてカートリッジを通して吸い込むことができたという。

ただ、この時はあくまで自作の基板上で実証しただけで、これをいかに小型化するかの研究を開始したという。「ZERO STYLE」の方式だと容量が多く必要になるため、紙巻きタバコとは異なる原料を選び、刻みタバコにして詰めてみたが、「10回ぐらい吸うと味がしなくなる」という決定的な弱点があったそうだ。

山田氏が最初に制作した加熱式タバコの原型。基板は手のひらサイズだったという

山田氏が最初に制作した加熱式タバコの原型。基板は手のひらサイズだったという

そこで、多孔質の顆粒にして特殊な処理を行ったところ、味を長持ちさせながらも効率的に味が引き出せた。蒸気を発生させる液体も、効率よく香味を引き出せるかの研究を重ねたそうだ。

開発当初、タバコ葉は細かく刻んだものだった

開発当初、タバコ葉は細かく刻んだものだった

「プルーム・テック」に採用されているタバコ葉は顆粒状にしている

「プルーム・テック」に採用されているタバコ葉は顆粒状にしている

さらに、タバコ葉の顆粒を封入するカプセル形状も、最初は薬のゼラチンカプセルからはじめ、最終的に現在の形に行きついた。さらにバッテリー形状も研究していき、メンソールを含めてさまざまなフレーバーも楽しめるようにしたのが「プルーム・テック」だ。

カプセルの形状も工夫を凝らした

カプセルの形状も工夫を凝らした

ただ、「プルーム・テック」は「タール1mgのタバコ(ユーザー)がターゲットだった」と山田氏が認めるとおり、高タールの喫煙者には物足りないという声もあった。そこで中タール(5〜6mg)の程度を想定して出力、リキッド、タバコ葉を増やして吸いごたえを高めた「プルーム・テック・プラス」を開発したそうだ。

そうして生まれたのが「プルーム・テック」と「プルーム・テック・プラス」。「低温加熱式」という新しいタバコのジャンルとなった

製造の苦労、そして「30年を3年で」

そうして開発された「プルーム・テック」シリーズだが、製造には新製品ならではの課題があったという。そもそも、紙巻きではなく、プラスチックカプセルにタバコ葉の顆粒を詰めるという仕組み自体が従来とは異なるが、従来の製造工程では、原料となるタバコ葉を風の力で送って充填する風送の技術が使われていた。しかし、「プルーム・テック」では風を使うとタバコの風味などが飛んでしまいやすく、処理列を増やすことで対策を図った。

東海工場で生産されているタバコ製品。刻みタバコから紙巻きタバコ、「プルーム・テック」シリーズと幅広い

東海工場で生産されているタバコ製品。刻みタバコから紙巻きタバコ、「プルーム・テック」シリーズと幅広い

「プルーム・テック」の製造工程。上段の原料加工工程は別工場で行い、東海工場は製品工程を担当する

「プルーム・テック」の製造工程。上段の原料加工工程は別工場で行い、東海工場は製品工程を担当する

こうした製造機械は、従来開発・製作に3〜5年をかけ、1年間の評価を行い、そこで機能の注文や改造を行い、実機を発注して導入して、従業員の訓練を経てようやく営業運転に入るという。これが、10年ぐらいかかるのが一般的だったそうだ。

ところが、「プルーム・テック」では2016年に初代の機械を導入したが、この時の生産能力は紙巻きタバコ換算で1分間に240本相当だった。これを同年中には480本相当まで倍増させた。翌2017年には第2世代の製造機械を導入。これは初期機械の10倍の処理能力となっており、1分間に2,800本相当の「プルーム・テック」を製造できた。

「プルーム・テック」の製造機械は第3世代となり、処理性能を大幅に向上させている

「プルーム・テック」の製造機械は第3世代となり、処理性能を大幅に向上させている

そこからさらに2018年には第3世代を導入。これは初期の40倍、1分間に1万本相当の処理性能にまで進化した。もともとタバコ機械を自ら製作してきた経験のあるJTは、そうした知見をメーカーとも共有しながら製造機械を急速に進化させてきた。

この結果、「10年に一世代」が一般的だったタバコ製造機械において、「これまで30年間かかってきたものを3年間で実現した」と、東海工場の渡部克彦工場長は胸を張る。

東海工場の「プルーム・テック」の製造工程

東海工場の「プルーム・テック」の製造工程

東海工場の内部。ややガランとした印象もあるが、既存設備の他工場への移行などを行っているそうだ

東海工場の内部。ややガランとした印象もあるが、既存設備の他工場への移行などを行っているそうだ

「プルーム・テック」のカプセルの材料。カプセルにタバコ顆粒を充填し、エンドピース、フィルターを装着してさらにパッケージ化する

カプセルを小箱に封入し、さらにそれをカートンにして段ボール詰めするまでが東海工場の担当

カプセルを小箱に封入し、さらにそれをカートンにして段ボール詰めするまでが東海工場の担当

充填されたカプセルが次々と整理されている

充填されたカプセルが次々と整理されている

カプセルをさらにパッケージとして封入していく

カプセルをさらにパッケージとして封入していく

さらにカートリッジとセットになる

さらにカートリッジとセットになる

カートリッジとカプセルが同時に小箱に封入され、折りたたまれる

カートリッジとカプセルが同時に小箱に封入され、折りたたまれる

パッケージがカートン化され、重量チェックを経て完成する

パッケージがカートン化され、重量チェックを経て完成する

こうした電子タバコ・加熱式タバコ市場は「これまでのやり方がまったく通用しない」と山田氏。そうしたなか、「スピードを第1にして、まずはやってみる、走り出してみる。間違えたらやり直す」と仕事の仕組みを変えて取り組んできたのだという。

JTはこれまで国内に35あった工場を4工場まで削減しており、タバコ市場は急速に縮小している。そうした状況下で、加熱式タバコは新たな嗜好品のひとつとして注力していく。関西工場でも生産が始まり、「プルーム・テック・プラス」全国販売に向けて、万全の体制で生産を行っていきたい考えだ。

小山安博

小山安博

編集者からライターに転身。PC、デジカメ、スマホ、セキュリティ、決済などのジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。

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