こんにちは、ギタリストの高村です。今回は「これからギターを始めたい・始めました」という初心者さんに向けて、ギターの基本的な仕組みとパーツについて解説します。ギターについて調べ始めると、「ペグ」「フレット」などギターを構成するさまざまなパーツの名前が出てきて「ピックアップ? 何それ?」みたいな感じになりませんか? そこで今回は、ギターという楽器の超基本的なことを深く知ることで、もっともっとギターを好きになってもらっちゃおうという企画をお送りします。
でも実は私、ギターはプレイ専門でして、作ったこともなければちょっとした改造にもビビってしまうくらいの門外漢です。そんな私がなぜこんな記事を書くのかと言いますと、専門的すぎる解説よりも、プレイヤー目線で語られる解説のほうが初心者さんにはしっくりくるんじゃないかと思うからです。……少なからずそう信じて、書き進めてみようと思います(笑)。
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世の中にはたくさんの楽器が存在します。そして、楽器によって音の出る仕組みが異なります。たとえばトランペットやサックスといった吹奏楽器は、名前のとおり「息を吹き込む」ことで音を鳴らします。打楽器であれば、手や道具を使って叩くことで音を鳴らします。そしてギターはご存知の通り、「ピンと張った弦を弾く(はじく)ことによって、音を鳴らす」ものです。なかでも、はじいて鳴らす楽器のことを「撥弦(はつげん)楽器」と言います。
楽器によって鳴らし方が異なるゆえに、それぞれに適した演奏スタイルというものがあります。得意分野が異なるわけですね。では、撥弦楽器であるギターにはどんな強みがあるのでしょうか?
ギターという楽器は、弦をパチンとはじいた瞬間に「打楽器のようなアクセント」が発生します。そして、はじいた際に生まれたエネルギーがなくなるまで音が伸び続けます。そういう意味では吹奏楽器のようなメロディ楽器とも言えます。では、この2つの要素にどんな魅力があるのでしょう?
パチン、と弦をはじいたその瞬間に、音が鳴る
しかし、いくらアクセントがつけられると言っても音程が存在する以上、打楽器のように土台となるリズムは刻めません。また、吹奏楽器のように伸び続けている音に自由に強弱をつけることはできません。同じ弦楽器の中には、バイオリンを代表とする「擦弦(さつげん)楽器」という種類があります。この擦弦楽器は、弓を使って物理的に音を伸ばすことが可能です。しかも、吹奏楽器のように、音を伸ばし続ける中で強弱をつけることも可能です。あぁ、うらやましい(笑)。
となると、ギターの存在価値があまりないような気がしてきますが、これは逆に言うと「打楽器的要素もメロディ楽器的要素も、両方扱える」ということでもあるのです。
そしてなんと言っても、ギターには「フレット」という金属パーツが打ち込まれていることにより、簡単に正確な音程を鳴らすことができるという、ここまでに取り上げてきた楽器にはない大きな利点があるのです。この構造のおかげで、複数の弦を正しい音程で同時に鳴らすことができるのです! これはピアノと同じように「和音を演奏できる」ということを意味しています。
詳細は後述しますが、これがフレット。これがあるおかげで、ギターは和音を鳴らしやすい構造になっています
さらに、ギターは弦楽器なので、音の発生源である弦に直接指が触れています。つまり、直接弦を揺らしてビブラートをかけたり、弦を持ち上げて音程を上げることもできてしまうのです! これはピアノにはない大きな魅力です。
まとめますと、ギターという楽器は、打楽器的な要素とメロディ楽器的な要素、さらには伴奏楽器的な要素までをあわせ持つ、本当にすばらしい楽器なのです!
ついでに言えば、ギターの重量はほんの数kgしかありませんから、可搬性にもすぐれています。そうなると、もはや無敵の楽器と言わざるを得ないのではないでしょうか!? と、ギター愛が止まらない私は、声を大にして主張したいのです(笑)。
さて、ギターがステキすぎる楽器であるということは伝わったと思いますので、ここからは細かいパーツの話に入っていこうと思います。今回は、エレキとアコギに共通する部分に話の的をしぼって、解説していこうと思います。
まずギターの仕組みを簡単に言ってしまえば、「弦をはじいたときに生まれる微弱な音を、聴く人の耳に届くようにできるだけ増幅させる」というものです。構造としては、「音を発生させる部分」と「発生した音を増幅させる部分」という2つの役割のセクションがあって、その2つが有機的に影響し合うことで、皆さんがイメージするギターの音を作り上げているのです。
それでは、ひとつずつ解説していきましょう!
まず、音を発生させるセクションから話を進めてまいります。まず、ある意味でもっとも重要なパーツからいきますが、それは「弦」と「ピック(指)」です。弦をはじかなければ音は発生しませんから、当たり前なのですが(笑)。
世の中には、多種多様なピックと弦が販売されています
弦をピックではじいたときに発生した小さな音が、その後さまざまなパーツの影響を受けながら育っていくのです。この種火のような音が気に入らなければ、その他のパーツがどんなにすばらしくても、自分の好きな音には育ちません。だからこそこだわりたいのが、ピックと弦なのです!
では、まずピックから。指弾きをする場合、指を変えることはできませんが(笑)、ピックはいくらでも試せます。安価ですし、いろいろな素材・シェイプ・厚みが存在するので、試してみましょう! 私も今までにいろいろなピックを試してきましたが、今はエレキ、アコギともにIbanezの「PAUL GILBERT PICK(ブラック)」に落ち着いています。
私が愛用するIbanezの「PAUL GILBERT PICK(ブラック)」。色はどうでもいいんじゃないかと思われるかもしれませんが、塗料の関係なのか、アタックしたときの感覚が若干異なります(少なからず私にはそう感じられます)。このピックは比較的入手しやすいのですが、ブラックは意外と手に入りにくいので、私はまとめ買いしてストックしています
次に、弦に関しても同じで、いろいろなメーカーがあり、サウンドキャラクターや演奏性に個性があります。ゲージ(弦の太さ)にも種類があるので、いろいろと試してお気に入りを見つけましょう!
弦のゲージは太いと骨太な音になり、細いとブライトなサウンドになる傾向があります。ただ、太すぎると演奏に力が必要になりますし、細すぎると頼りないサウンドになることがありますので、このあたりは好みのバランスを探すことが重要です。
私の場合、エレキではSITというメーカーの「S9.544 Rock Light」が好きで、メインギターにはこの弦を張ることが多いです。アコギには、Elixirというメーカーの「NANOWEB Phosphor Bronze Light」という弦を張ることが多いです。
ちなみにこのElixir(写真右)はコーティング弦とよばれるもので、サビにくいのが特徴です。わずらわしい弦交換の頻度を減らせるので、レッスン用に使っているアコギには基本この弦しか張っていません。このように、耐久性という観点で弦を選ぶのもありかもしれません
続いて、音の発生に大きく貢献しているパーツとして「ナット」と「サドル」があります。ナットは、ネックとヘッドの境目に取り付けられた弦を乗せる(かませる)パーツ。サドルは、ボディに取り付けられたブリッジという台座の上に取り付けられた、こちらも弦を乗せるパーツです。
この白いパーツがナットです。ナットに刻まれた溝で弦と弦の幅が確保されています
6つに分かれたパーツがエレキギターのサドルです
白い横長のパーツがアコギのサドルです
弦自体を固定するのは、このあと紹介する「ブリッジ」「ストリングポスト」いうパーツなのですが、ナットとサドルの間で弦の振動幅が決まるという意味では、ナットとサドルがよりサウンドにダイレクトな影響を与えているように私は感じています。実際、私の所有するギターの多くはナット交換をしていますが、かなりサウンドが変化しました。
安価なギターの場合、この部分の質や作りが残念なことが多く、ここを交換することでワンランク上のサウンドに化けることがあります。ただ、ナットの調整は素人には難しいのでプロにお任せするのが得策かと思います。ちなみに、素材は牛骨、樹脂系、象牙、金属製など、さまざまな素材があります。
次に、弦を張るのに欠かせない「ペグ」(およびストリングポスト)と「ブリッジ」です。
ギターは、ストリングポストに弦を通し、その先のペグを回すことで弦の張りを調整し、チューニングを行います。ペグに関しては、伝統的なスタイルのものからモダンなタイプまで、さまざまなタイプが発売されています。中にはストリングポストに何周も弦を巻く必要なく、ダイレクトに弦を固定できるタイプのものなど、かなり便利なものも増え、選択肢が広がってきています。
伝統的なスタイルのペグ
ちなみに、ペグの重量によってもサウンドが変わるということを念頭に置いておくとよいと思います。重くなると音が引き締まっていき、軽くなると広がりのあるサウンドが得られる印象です。
ちなみに、私の所有しているエレキギターの多くは、Gotohというメーカーのマグナムロックという機構をもったペグに交換しています。これは先述の弦を巻かなくてよいタイプのペグです。弦交換がとっても楽なのとチューニングが安定するのとで、とても気に入っています!
これがGotohのマグナクロックを搭載したペグ
そして、ペグの反対側にあって弦を固定しているのがブリッジです。ブリッジに関しては、エレキとアコギで素材が異なります。エレキは金属製で、アコギは木材です。弦が直接取り付けられている部分ですので、材質によってサウンドが変化します。アコギに関してはボディに直接取り付けられているため自分で変更することは難しいですが、エレキのほうは比較的簡単に交換可能ですので、こだわりたい人は交換してみるのもおもしろいかもしれませんね。
エレキギターのブリッジです。6つのサドルが乗っているこのパーツ全体をブリッジといいます。
アコギのブリッジです。サドルが取り付けられているこの茶色の木材パーツがブリッジです。
ギターをチューニングしている最中のイメージ。弦をブリッジで固定し、反対側のペグを回すことで弦の張りを調整します
続いては、「フレット」と「指板」(ネック)です。
フレットは、弦を押し付けることで音程を作り出す金属パーツです。ギターでは、このフレットとフレットの間を押さえることで正確な音を鳴らすことができ、さらに複数のフレット間を同時に押さえることで和音を鳴らすことができます。そして、指板はそのフレットが取り付けられている木材パーツのことです。
ニッケルのフレット。弦と触れる部分が削れているのがおわかりいただけますでしょうか?
フレットとフレットの間のスペースを押さえることで、正しい音を鳴らすことができます。複数のフレット間を同時に押さえれば、和音を鳴らせます
フレットは一般的にフレットにはニッケル素材を使用することが多く、弦より少しやわらかいのが特徴です。弦よりやわらかいことにより、金属同士の接触によるキンキンした音が少なく、心地よいサウンドを生みます。
ただ、弦よりやわらかいということは、「削れる」ということを意味しています。そう、弾き続けることで削れたり、凹んだりしていくのです。これはもうどうにも仕方ありません。削れすぎた場合、新しいフレットに打ち直すことで復活させることができます。ちょっと高くつきますが……。ちなみに、軽度であれば「すり合わせ」という作業で対応可能です。
このように書くと、削れないフレットってないの? と思うかもしれませんが(思わない?)、それが実はあるのです! 昨今のハイエンド系ギターのフレットには、硬いステンレスが使われることがあるのです。ステンレスはニッケルに比べて耐久性が高く、弦と擦り合わせてもほとんど削れません。
ステンレスフレットです……ニッケルとの見た目の違いがほとんどわかりません!
では、すべてのギターをステンレスフレットに……と思うかもしれませんが、実はステンレスフレットにはある問題点があるのです。それは「サウンドが硬くなる」ということです。キンキンとした音になりやすいんですね。ただ、これもほかの要素との兼ね合いなので、一概に「サウンドが硬くなる」と決め付けられないところ。実際、私がオーダーメイドで作ってもらったギターはステンレスフレットなのですが、ほかのパーツでバランスがとられているためか、全くキンキンしたサウンドになっていません。
次に指板(ネック)ですが、私の経験上、フレット以上にサウンドを決定づける部分だと思います。ここまでに話してきたほとんどのパーツはネックに取り付けられていますし、正に音の発生セクションの土台を支える部分なのです。
弦をはじくのと同時に指板が共鳴し、サウンドのキャラクターが決まります。このキャラクターは使用される木材によって、わかりやすく変わります。一般的にローズウッド材を使うと温もりが得られ、メイプル材は使うと立ち上がりの早いサウンドになるなどと言われますが、このあたりは自分で体感するのがよいと思います。
左から、ローズウッド指板、メイプル指板、高級材として名高いエボニー指板
高級材として、希少なエボニー材やハカランダ材などもありますが、サウンドというのは個人個人の好みですので、値段が高いからいいというわけでもないのです。なお、材質によって触感も異なります。なので、自分にとって弾きやすいと感じられる材質を選ぶのも重要。どんなに音がよくても、指が引っかかると感じるなら、やめておいたほうがいいと思います。弾きにくいというのは、かなりのストレスですから……。
さて、ここまでが音を発生させるプロセスの話でした。ここからは音を増幅させていくプロセスの話に入っていきます。
では、どの部分が最終的にサウンドを増幅させているのでしょうか? そう、「ボディ」です! 前項までのパーツで発生させてきた音を、ボディで響かせて音量アップさせるのです。音量アップと言うと、ただ音量を上げるだけのように感じますが、ボディ材によって増幅時のサウンドキャラクターは変化します。
左がエレキギターで右がアコギ
ボディのサイズも厚みも全然違います
エレキの場合、ボディに取り付けられた「ピックアップ」というパーツで弦振動を拾い、最終的にアンプから音を出力しますが、アコギの場合はボディから直接、音の完成形が出力されます。そのため、アコギにおいては、ボディの木材の特徴がよりダイレクトに表現されます。
ピックアップは、弦の振動を拾うパーツです
アコギのサイドやバックに使われるマホガニー材は甘いサウンドが出て、ローズウッド材は輪郭のはっきりした音が出るとか、エレキのアルダー材は枯れたサウンドでアッシュ材は歯切れのいいサウンドだ……などと言われます。
ただ、これも前述の「音を発生させるセクションで作られた音」との兼ね合いであり、ボディの材質だけで語れるものではありません。構成するパーツが複雑に組み合わさることで、そのギターのキャラクターが決まりますので、あくまでも「傾向」の話なのです。
アルダーだからといって必ず枯れたサウンドが出るというわけでもありませんし、ローズウッドだからといって必ずしも輪郭のはっきりとしたサウンドが得られるわけではありません。また指板材と同じように、希少材だからといって必ずしもいい音が出るというわけでもありませんし、安い材だからといって音が悪いとも限らないのです。
こういう部分がギター選びのおもしろさであり、ハマる要素なんですよね。そしてハマりすぎると、所有するギターの数が20本を超えていたりするのです。はい、私のことです……。
これでギターの構造について大体ご理解いただけたと思います。私自身、「この世に同じ音のギターは1本も存在しない」ということを再認識するいい機会になりました。
ぜひ皆さまも今回の記事を参考にしていただき、手持ちのギターに手を加えるもよし、新しいギターを購入する際の参考にしていただくのもよし、ご自身のこれからのギターライフにお役立ていただければ幸いです。そして何よりも、この記事を通してギターという楽器に興味を持ってもっと好きになってもらえたら、私としてはこれ以上ない喜びです。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
藤沢市のギター教室「ギターの処方箋TAKAMURA」を運営するギタリスト兼講師。ギターと機材が三度の飯より好き。過去には機材メーカーに在籍し、全国で実演セミナーを開催していたほど。