人気漫画の枠を超え、そのブームがひとつの社会現象となっている「鬼滅の刃」。この5月についに最終回を迎え、まだまだ“鬼滅ロス”から立ち直れずにいる人も多いでしょう。ここでは、年間1,000冊以上の漫画を読む漫画コンシェルジュ・小林琢磨がその魅力を振り返るとともに、「鬼滅」好きなら絶対ハマる、次に読んでほしい漫画5作品を紹介します。
(C)吾峠呼世晴/集英社
「鬼滅の刃」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて2016年から連載されていた少年漫画。大正時代を舞台に、家族を鬼に殺された少年・竈門炭治郎(かまどたんじろう)を主人公に描く壮大な和風剣戟スペクタクルで、唯一生き残ったものの鬼に変貌してしまった妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻し、鬼を討つために奮闘する炭治郎の姿が描かれています。
コミックス最新20巻の特装版を含む初版の発行部数は280万部で、電子版を含むコミックスのシリーズ累計発行部数は6,000万部を突破。まさに人気絶頂となりましたが、2020年5月18日の「週刊少年ジャンプ2020年24号」(集英社)に最終話が掲載され、物語は約4年3か月続いた連載に幕を下ろしました。
(C)吾峠呼世晴/集英社
2020年5月13日に発売された20巻。通常版のほか、オリジナルポストカードが同梱された特装版も発売されています
「鬼滅の刃」は、普段それほど漫画を読まない人にも読まれ、子どもから大人まで、そして学生からビジネスパーソンまで、幅広い世代・読者層から支持されていますよね。読んだことはないけれどタイトルだけは知っている、という人も多いはず。だからこそ国民的漫画と言える作品へと成長し、社会現象にまでなりました。
本作のブームの特徴は、テレビアニメから原作漫画への逆流入が起こったことでしょう。アニメは2019年4〜9月の期間で放送されましたが、アニメ放送が開始された2019年4月のシリーズ累計発行部数は約350万部でした。この数字でも十分ヒット作と言えるのですが、“国民的”な作品かと言えば、そこまでではない。もちろんこの時点では、です。
これまでは、「爆発的にヒットした漫画がアニメ化される」という流れが主流でした。同じく国民的漫画と言える「名探偵コナン」しかり、「ワンピース」しかり、「進撃の巨人」しかり。でも「鬼滅の刃」は、アニメで人気に火がつき、それがコミックスの売り上げを後押しし、ついには電子版を含むコミックスのシリーズ累計発行部数が6,000万部を突破したという逆流現象を起こしたのです。
「鬼滅の刃」の魅力は、まずは何と言っても、主人公の少年・炭治郎の人間性ですよね。心やさしき少年で、もうとにかく“いい奴”なんです。近ごろの漫画にしては珍しいくらいに。し烈な戦いの末に倒した鬼の手をぎゅっと握りしめたり、鬼の武器を亡骸に添えたり。炭治郎の優しさには敵・味方の分け隔てがありません。鬼を倒すにはその首を切らなければならないのですが、こうした炭治郎のやさしさが、グロテスクな描写を中和し、作品全体を明るくしていたと思います。
また、自分自身を“鼓舞”する炭治郎の姿に勇気をもらった読者も多いのではないでしょうか。剣術などの鍛錬を積みながら仲間と協力して敵を倒していく、言わば「週刊少年ジャンプ」の王道のストーリーですが、戦いのたびに炭治郎はみずらを励まし、鼓舞します。「あきらめるな!」「負けるな!」「考えろ!」と。逆境に心が折れそうになっても、みずらを奮い立たせ、前進し続けるそのセリフや姿勢が、そのまま読者へのメッセージにもなっているんです。
(C)吾峠呼世晴/集英社
作中の多くのセリフは炭次郎自身だけでなく、読者をも励まし勇気づけるメッセージに。多くの人の共感を呼んだポイントのひとつです
そのほか、我妻善逸(あがつまぜんいつ)や嘴平伊之助(はしびらいのすけ)をはじめとする仲間たち、敵の親玉・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)、その配下である十二鬼月(じゅうにきづき)の鬼たちなど、キャラクター造形の巧みさも魅力ですが、主要キャラクターが時にあっけなく死ぬというシビアな展開も話題を呼びました。読者に迎合したかのようなご都合主義の展開が少なく、「人間はすぐには強くなれない」とか、「失ったものは元に戻らない」とか、そういう“リアル”がきちんと描かれています。
連載の終わり方にもその姿勢は貫かれていて、物語を無理に引き伸ばすこともなく、書くべきことを書き切って終わりました。連載漫画においてこれほど潔い完結は珍しく、そういう意味でも、「鬼滅の刃」は王道を今の時代に合わせてアップデートしてみせた、“新時代の王道”と言えるのではないでしょうか。
(C)吾峠呼世晴/集英社
「主人公以外のキャラクターも魅力的」というのは、ヒット作の必須条件と言えます
ここからは、「鬼滅の刃」にハマった人にこそ読んでもらいたい漫画を紹介していきます。「鬼滅の刃」とリンクするポイントがある漫画を、5作品ピックアップしました。
2007年に「月刊コミックブレイド」(マッグガーデン)にて連載がスタートし、その後「MAGCOMI」に連載の場を移した妖怪ファンタジーバトル漫画で、「子どもが仲間とともに成長していく」姿に心を打たれます。乱世の戦国時代を舞台に、闇(かたわら)と呼ばれる魑魅魍魎(ちみもうりょう)の妖怪たちを退治していく王道の少年漫画でありつつも、人間が持つ心の闇や冷徹さ、業の深さにもしっかりと焦点を当てています。クライマックスも素晴らしいので、ぜひ最後まで読んでみてほしいですね。
(C)水上悟志/マッグガーデン
あらすじ
時は永禄、戦国時代…。妖狐・たまと仙道・迅火の"義姉弟"が、乱世にはびこる巨悪を討つ!! 気鋭・水上悟志が挑む戦国冒険ファンタジー、遂に登場!!! (マッグガーデン作品ページより)/単行本は全17巻刊行。
言わずと知れた大人気漫画で、2001年から2010年まで「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)に連載されました。作品自体の魅力はもちろん、テレビアニメのクオリティがとても高くて、こちらもファンがアニメから漫画へと流入しました。錬金術が存在する架空の世界を舞台としたダーク・ファンタジーでありながら、雰囲気が暗くなりすぎない巧みな構成は「お見事」と言うよりほかにありません。死生観や人間の定義を考えさせられる奥深さがあるので、読んだことがない方はぜひ読んでみてください。すぐに「ハガレン」の虜になると思いますよ。
(C)Hiromu Arakawa/SQUARE ENIX
あらすじ
兄・エドワード・エルリック、弟・アルフォンス。2人の若き天才錬金術師は、幼いころ、病気で失った母を甦らせるため禁断の人体錬成を試みる。しかしその代償はあまりにも高すぎた…。錬成は失敗、エドワードはみずからの左足と、ただ一人の肉親・アルフォンスを失ってしまう。かけがえのない弟をこの世に呼び戻すため、エドワードは自身の右腕を代価とすることで、弟の魂を錬成し、鎧に定着させることに成功。そして兄弟は、すべてを取り戻すための長い旅に出る…。(スクウェア・エニックス作品ページより)/単行本は全27巻刊行。
人気RPG「ドラゴンクエストシリーズ」の世界観・設定を元にした漫画で、本作品もまた、少年漫画史に燦然と輝く傑作です。主人公・ダイの成長と、仲間たちとの絆を描いた少年漫画の王道的シナリオ、そして、「週刊少年ジャンプ」の過去の名作に触れてほしいという思いからピックアップしました。主人公がいい奴で、冒頭からラスボスが出てきて、物語が進むにつれて魅力的な仲間が増えていって……。やっぱり“王道”は素晴らしい!
(C)三条陸、稲田浩司/集英社 (C)SQUARE ENIX CO., LTD.
あらすじ
モンスターが平和に暮らすデルムリン島。その島で唯一の人間・ダイは、魔法が苦手だが勇者に憧れている少年。ある日、島を訪れた“勇者育成の家庭教師”アバンに才能を認められ、ダイは勇者になる特訓を開始! だが、そこへ復活した魔王が出現し⁉(集英社作品ページより)/単行本は全22巻刊行。
1998年から2010年まで、「月刊少年マガジン」(講談社)に連載された海洋冒険活劇漫画です。人類の文明が一度滅亡し、近世レベルまで技術が回復した未来を舞台としていますが、壮大な「歴史もの」仕立ての世界観や、主人公であるファン・ガンマ・ビゼンの底知れぬ強さが印象的です。怠け者と自称しつつ、多くの物を惹きつける不思議な魅力を持ったファン・ガンマ・ビゼン。その緻密なキャラクター描写に着目して読んでみると、作品をより一層楽しめるのではないでしょうか。
(C)川原正敏/講談社
あらすじ
陸に領土を持たぬ海の一族、その守護神”影船”を操る謎の男ファン・ガンマ・ビゼンの正体とは!?川原正敏が描く壮大なる海の冒険浪漫、満を持してここに発進!(講談社作品ページより)/単行本は全45巻刊行。
必殺技の技名を叫んでから攻撃する、といった王道のエッセンスをきっちりと押さえつつも、ケレン味溢れるスケールの世界観がスタイリッシュに描かれています。一歩間違えれば即座に世界が終ってしまうような、強大な超常の存在を相手に奮闘する者たちのアクションは見応えがあるので、高校生や大学生、そして大人もワクワクしながら読み進められはず。ぜひ手に取ってみてください。
(C)内藤泰弘/集英社
あらすじ
紐育崩壊後、一夜にして構築された都市。異界と現世が交わるこの魔都に於いて世界の均衡を保つ為に暗躍する秘密結社が存在した!!(集英社作品ページより)/単行本は全10巻刊行。
先日原作漫画の連載は終了したばかりですが、個人的には、次回作に期待せずにはいられません。覚悟はしていましたけど、想像以上につらいんですよ、鬼滅ロス……。
ただ、今後は「柱」のひとりである「煉獄杏寿郎」(れんごくきょうじゅろう)を主人公に据えたスピンオフ作品、「煉獄外伝」の掲載が予定されているほか、2020年10月には、劇場版アニメ「鬼滅の刃 無限列車編」の公開が控え、残る単行本やアニメBD/DVDの発売、さらに、モバイル向けゲーム「鬼滅の刃 血風剣戟ロワイアル」、プレイステーション 4向けのゲーム「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」などの展開も予定されています。
人気はまだまだ衰えず、「鬼滅」ワールドはますます広がっていくことでしょう。そうした展開に期待しながら、皆さんもこの鬼滅ロスをなんとか乗り越えてください。ああ、でも、だけど、やっぱりちょっと寂しいなあ……。