ギターとアンプを軋(きし)ませるような迫力のエレクトリックギターサウンドを、ヘッドホンで楽しみたい! そんな筆者のような「ご自宅ギタリスト」の願いをかなえてくれるアイテム、アンプシミュレーター。いまやその環境はスマホとアプリでも実現可能ですが、今回はあえて「アンプシミュレーター専用単体ハードウェアこそが使いやすい!」という部分を推していきます。
自宅エレクトリックギタリストにとって、そのギターサウンドがお隣さんや家族に騒音として響いてしまうことは大きな問題です。迷惑をかけること自体がよろしくないという倫理的なこともありますし、「お隣さんに聞こえちゃってないかな?」と恐る恐る弾くのでは、ギターの楽しさも半減してしまいます。
それで出てくるのが「ギターアンプのスピーカーから音を出すのではなくヘッドホンで自分の耳にだけギターサウンドを届けよう!」という発想ですが、まさにそこで活躍してくれるのが「アンプシミュレーター」というアイテムです。
後ほど紹介するイチオシのアンシミュ、Strymon(ストライモン)「IRIDIUM」
アンプシミュレーターとは? 簡単に言うと、「ギターアンプを鳴らしたような音を、ギターアンプを通さずスピーカーも鳴らさず、音声信号の加工だけで実現するエフェクター」です。「ギター→アンプ→スピーカー」の代わりに「ギター→アンシミュ→ヘッドホン」というシステムで、ギターアンプを鳴らしているかのようなサウンドを実現してくれます。
そもそもはギターアンプを使わずにレコーディングすることを主目的に生み出されたアイテムですが、「スピーカーで音を出さなくてもギターアンプを鳴らしたようなサウンド!」という機能はヘッドホン演奏にも完璧にフィット。現在の製品の多くはヘッドホン演奏も想定した設計になっています。ご自宅ギタリストなら、ぜひ押さえておきたいアイテムです。
こんな感じに接続して使います
そのアンプシミュレーターですが、現在、その機能は実にさまざまなカタチで提供されています。いちばん手軽に思えるのは、スマホやパソコンのアプリとして提供されているものでしょう。お値段は高くても数千円、安いものなら数百円あるいは無料! 物理的な置き場所も不要です。超手軽! これで決まりだ!
アンシミュアプリの定番といえばこれ! IK Multimedia「Amplitube」
……と、それほど簡単な話ではありません。
まずギターとスマホやパソコンを接続して音声信号を入力するために、別途「オーディオインターフェイス」というアイテムも必要だったりします。ギターのアウトプットジャックからのアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換したうえで、スマホやPCのLightningポートやUSBポートに接続して届ける機器です。
なので実際の接続は、「ギター→オーディオインターフェイス→スマホ→ヘッドホン」となります。
アプリ使用時の接続例。もっとコンパクトなインターフェイス製品もあるので、サイズ感はもう少し何とかなりますが、接続のウザさは不可避
「スマホさえあればOK!シンプルで簡単!」というわけではないのです。ギターを弾くのにいちいちこの接続が必要になります。
そしてもうひとつの弱点は「操作は当然スマホのタッチ操作やパソコンのマウス操作などになる」ということです。「それの何が弱点なの?」と思うかもしれません。スマホのタッチ操作なんて慣れ親しんでるやつじゃん、と。
ですが、実際に使ってみるとそうでもないのです。アンプシミュレーターのアプリは、画面内にアンプの実機の見た目も再現した感じになっているものが一般的。なので、操作系も画面内にある実機のインターフェイスのミニチュアを操作する感じになります。アンプ実物のノブを指先でつまんで回すのと画面内の小さなノブをドラッグ操作で回すの、どちらが使いやすいでしょう?
インターフェイスとの接続ケーブルがジャマで、ちょい持ちにくかったりするのも地味にマイナス
もちろん、アプリならではの便利さもあります。たとえばノブを回すのではなくて、キーボードで数値入力して詳細なセッティングをするモードもありますし、アンプタイプとエフェクトを組み合わせたセッティングを何十何百とセーブしてそれを自在に管理できたりします。レコーディングにおいてはDAWアプリと組み合わせての使いやすさもポイントです。
ですが、ギターアンプ代わりでヘッドホン演奏用に使うことをメインに考えるなら、もっと実物のギターアンプライクな使い心地であってくれたほうが使いやすいのです。
そこで改めて、今回の推しアイテムは「単体ハードウェアの形でのアンプシミュレーター」です。最新製品にしてこの分野を代表する製品としてはStrymon「IRIDIUM」あたりでしょうか?
……っていうかこれ買いました! 買ったから自慢がてら紹介します、させてください!
というわけで改めて、筆者が購入したStrymon「IRIDIUM」! 実売税込5万円弱程度で、サイズはやや大柄なエフェクトペダル程度
アプリの場合と単体アンシミュの場合での接続の流れを改めて比べてみると、
・ギターアンプ使用時:ギター→アンプ→スピーカー
・アプリ型アンシミュ:ギター→オーディオIF→スマホ→ヘッドホン
・ハード型アンシミュ:ギター→単体ハード型アンシミュ→ヘッドホン
となります。
改めてスマホアプリを使う場合の接続例
そしてこれが単体ハードアンシミュを使う場合の接続例。もちろんギターとアンシミュの間にエフェクトペダルを入れまくってもOK!
つまり単体ハード型アンシミュなら、ギターアンプの代わりにアンシミュにつなぐだけ! 実にわかりやすいシンプルさです。なので、たとえば「日中はギターアンプから音を出せるけど夜は無理」なんて場合、夜にギターを弾き始めるときギターからのケーブルをアンプからアンシミュに挿しかえるだけでOK!
操作感は……説明するまでもなく「見ての通り」です。ギターアンプについてるノブと大体同じノブが揃っているので、アンプでの音作りと同じように、リアルにそこにあるノブをつまんで回せばいいのです。
エフェクトペダルっぽいアイテムに用意されているアンプっぽいノブを動かすだけ!ギタリストが慣れ親しみまくっている操作感!
操作感の面では、このIRIDIUMという製品は特に秀逸です。アンプの基本的なゲインとボリューム、トーン周りに相当するノブのほかに用意されている音作りのコントロールは、ノブがもうひとつとスイッチが2つだけ。小さなディスプレイを凝視しながらノブを回し、その中のパラメーターを変更して云々・・・・・・なんて操作は必要ありません。
「DRIVE」だとか「MIDDLE」だとか、慣れ親しんだ名前のノブを回してのアンプライクな音作り
ですがその追加分のスイッチとノブだけで、アンプシミュレーターとしての機能を十分に果たします。追加スイッチは「AMP」と「CAB」のふたつです。それぞれシミュレートするアンプ、シミュレートするスピーカーキャビネットを3つから選べます。
「AMP」スイッチと「CAB」スイッチ、それぞれ3ポジションです
アンプタイプはざっくり言えば「Fender」「VOX」「Marshall」それぞれの代表的なビンテージモデルをイメージさせるものです。逆に言えば、モダンなサウンドのアンプは用意されていませんが、そこはモダンな歪みペダルを組み合わせてカバーすればよいでしょう。
以下、サンプル動画は、普通にビンテージ仕様のFender「ストラトキャスター」との組み合わせ。なのでハムバッカーピックアップ搭載ギターならもっと歪ませることもできるはずです。
上記は、各アンプの基本キャラがわかりやすいGAIN12時と歪みの感じがわかりやすいGAIN3時のサンプル。フレーズはサンボマスター「朝」風→Extreme「Cupid's Dead」風。筆者の絶妙な下手さはさておき、こうやって聴き比べると、
「Fenderの音色をroundって表現するのもなるほどだな!」
「chime≒VOXって実は歪みもかっこいいよね!」
「punch≒MarshallのGAIN9時はPlexiの領域を超えてJCM的なニュアンスも出てきてるかも!」
など、名アンプの個性を改めて感じられたりもしておもしろい! なお各アンプのGAIN最大は、GAIN3時から激変することはなく、素直にもうちょい歪みが増す感じです。
前段にブースター/ドライブ系ペダルを置いてのゲインブーストもきれいにかかるので、アンプのキャラを生かしながら歪みを深めることもできます。単体での操作感だけではなくこういうところもしっかりアンプライクです。
上記の動画はKTRでブースト。フレーズはLiSAさん「紅蓮華」風。本来はダウンチューニングの曲をレギュラーチューニングで弾いているので重量感の不足はお許しを。
punch≒Marshallをブーストすると音色としてはグシャッと歪んでくれるのですが、コード感は潰れずに和音の響きはしっかり生きています。これは良質なPlexi風ハードロックサウンド!
ちなみにIRIDIUM単体でのGAIN最大とIRIDIUM側GAIN9時+KTRブーストを比べると、歪みの深さは実はそんなには変わらなかったりします。
ですが、アンプタイプpunchのGAIN最大は、シングルコイルのストラトとの組み合わせだとノイズが目立ちがち。GAIN9時+KTRブーストのほうがノイズを抑えられるのです。 なんて感じでペダルとの組み合わせを試行錯誤できるのもアンプっぽい!
キャビネットのセレクトスイッチも、アンプセレクトと同じく3ウェイスイッチですが、実は選べるキャビネットは3種類ではありません。アンプタイプごとにそれに合わせた3種類が用意されているので、3×3の9種類です。CABスイッチはAポジションにアンプタイプごとのいちばん典型的なキャビネットがセットされています。たとえばFenderデラリバイメージの「round」のAポジは12インチスピーカー一発、Marshallイメージの「punch」のAポジはいわゆる2段スタックです。「とりあえずA」が基本になります。
追加のノブのほうは「ROOM」ノブです。スピーカーで音を鳴らしたときの部屋の響き感を足してくれます。
アンプのエフェクトとしてのリバーブではなく、部屋の響きとしてのリバーブを再現
ROOMを絞り切った状態だと、アンプのスピーカーの直近にマイクを立てて収録したみたいなサウンドになります。自宅録音ならこのセッティングも使い道がありますね。
ROOMを適度に上げると、アンプが目の前にあるような距離感でギターを弾いているような自然な響きが演出されます。普段の自宅演奏では、そのあたりのセッティングが適当でしょうか。
ちなみにこの記事のサンプル動画では、ROOMは常にほんのり響く9時セッティングです。
ディスプレイとノブで細かくセッティングできるアンプシミュレーターなら、もっと多くのサウンドをセレクトできます。十数種類のアンプ、リバーブだけではない多彩なエフェクトなどです。しかし「使い切れないほどの膨大なサウンド」が本当に必要でしょうか? 個人的にはこのIRIDIUMのように「使い切れる範囲での使いやすさ」を重視した設計を好ましく感じます。
とはいえ、実はIRIDIUMにも拡張性や細かな機能も用意はされています。
たとえば頻繁に使うお気に入りのサウンドセッティングをFAVフットスイッチに記憶させておき、スイッチ一発でさっと呼び出せるという機能。別売オプション「MULTI SWITCH PLUS」を接続してスイッチの数を本体1+拡張3にすれば、呼び出せるメモリーを4つにまで増やせます。さらにMIDIで制御する場合は300メモリーまでコントロール可能です。
FAVスイッチを長押しでその時点でのセッティングを記憶させ、長押しじゃなく普通に押してそれを呼び出し
スタジオではIRIDIUMを定番アンプ「JC-120」につないで音を鳴らしたい? そんなときは「CABバイパスモード」です。キャビシミュをバイパスした状態にして、JC-120のインプットまたはエフェクトリターン端子に接続。アンプとしてのエレクトリックな音作りの部分にはIRIDIUMを使い、それを増幅してスピーカーから音を出す部分にだけJC-120を使うパターンにもできます。
あと「ROOM」機能周りでは、ルームすなわちお部屋のサイズ感の変更が可能。デフォルトはSmallなお部屋。大きなお部屋にすると響きの感じが変わります。ONフットスイッチ長押しでセカンダリー機能モードに入り、ROOMノブを回してLEDの色で選択。グリーンでSmall、アンバーでMedium、レッドでLargeとなります。
そのほか、PCアプリ「STRYMON IMPULSE MANAGER」を使ってIRファイルというデータを入れ替えることで、キャビネットの種類を変更することもできます。極端な話、「MarshallをChamp的な8インチスピーカーで鳴らす」みたいなトリッキーなことも可能です。
細かな機能や設定はほかにも用意されています。ちなみに購入前にそういうところまでチェックしたい場合、この製品もそうですが最近はウェブサイトの製品ページやサポートページからPDFマニュアルをダウンロードできる製品が多いので、それをチェックするのがおすすめです。
と、アンプシミュレーターというアイテムをStrymon「IRIDIUM」を例に紹介してきたわけですが……。ええ、わかっています。ギタリストの中には「デジタル嫌い」も少なからず存在することは。というか僕もどちらかと言えばそちら側です。アナログ回路なアンシミュというのもあるので、そちらを検討していた時期もありました。
ですが、ことアンプシミュレーターについては考え方次第ではないでしょうか? そもそも現在、アナログのアンプシミュレーターは絶滅危惧種に近い状態で、新規開発製品はごくまれにしか登場しません。進化は停滞気味ですし、アナログにこだわろうにもこだわって選べるほどの選択肢がありません。それにアンプシミュレーターはそもそもからして「シミュレーター」なんです。アナログで作ろうがデジタルで作ろうが、「本物ではない」ことに変わりはないんです。
だったら妙なこだわりを持つ必要なんてないのでは?「アンプを鳴らしにくい環境で便利だから使うアイテム。だから便利で音もよいならそれでいい」と、僕はそう割り切ってしまうことにしました。
というかこのStrymon「IRIDIUM」のおかげで「もうこれでいいじゃん! っていうかこれがいいじゃん!」と割り切れました。ご自宅ギタリストのみなさんにぜひチェックしていただきたいジャンルの、ぜひチェックしていただきたい製品です。
オーディオ界隈ライター。現在はポータブルやデスクトップなどのパーソナルオーディオ分野を中心に、下からグイッとパンしていくためにてさぐりで活動中。