本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
第7回は、きだてさんが、綴じ具の定番「ガチャック」とダブルクリップの最新モデルを菅さんに紹介した。「ガチャック」は37年ぶり、ダブルクリップは100年ぶりという進化のポイントに驚愕の連続!
【プロフィール紹介】
●きだてたく(左)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
●菅未里(かん みさと/右)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売場企画などの活動をしている
【過去の連載記事】
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きだて(以下、き) 今回は、発売されたばかりの最新「紙を綴じるグッズ」を2点まとめて紹介しようと思います。まずはこっちから。
菅 あ、「ガチャック」ですね!
文房具メーカー「OHTO」が1981年に発売した連射式クリップ打ち出し機「ガチャック」が、新たに「3WAYガチャック」としてリニューアル
き そう、OHTOの新しい「3WAY ガチャック」という文房具なんですけど、菅さん、「ガチャック」という存在はご存じなんですよね。使ったことはあります?
菅 知ってはいるんですけど、使ったことはなかったかも。
き そっか。じゃあ一応おさらい的に説明をしときましょうか。「ガチャック」というのは、OHTOが37年前に発売した連射式クリップ打ち出し機なんですけども。
菅 37年前! そんな昔からあるものなんですね。
き 「ガチャック」を知らない人でも、この通称「ガチャ玉」と呼ばれる金属クリップはオフィスのどこかで見たことはある、という人は多いのでは。このガチャ玉を「ガチャック」から打ち出して、穴を開けずに紙束を綴じることができます。
編集・牧野 僕は「ガチャック」って詳しく知らなかったんですが、メーカーから配られる資料がこれで綴じられていることはあったので、この玉だけがいくつか机の引き出しに溜まっています。これ、どうやって紙に留めるのかな? と不思議に思っていたんですよ。
写真はリニューアル前の旧タイプ「ガチャック」。打つガチャ玉によってボディを変えなければいけなかった
き あるある(笑)。本体持っていないのにガチャ玉だけ持っている人、いるわ〜。ちなみに、旧タイプの「ガチャック」はボディが3種類ありまして。コピー用紙20枚まで留められる小ガチャ玉専用の「小ボディ」、40枚まで留められる中ガチャ玉専用の「中ボディ」、60枚まで留められる大ガチャ玉専用の「大ボディ」に分かれています。
菅 そうか。紙束の厚さによって対応する玉のサイズが違うから、ボディも使い分けなきゃいけないんだ。
き そうそう。で、使い分けが面倒だ! と言い続けてきた僕ら「ガチャック」愛用者の声がようやく届いたのか、OHTOが37年ぶりに出した解決案が、ボディひとつで3種類の玉を打ち分けられる「3WAY ガチャック」というわけ。
菅 おおー。
き 同時にガチャ玉もリニューアルしまして、サイズが「小」「中」「大」だったのが、サイズは統一して厚みだけを変えた「薄(20枚用)」「中(40枚用)」「厚(55枚用)」になりました。
横幅などのサイズは統一され、対応する紙束の枚数によって厚みを変えた3タイプのガチャ玉が登場
菅 なるほど。それでボディひとつですべてに対応できるようになったんですね。以前文房具店で働いていた時に、店頭で3タイプ並べて売っていたんですけど、玉とボディの組み合わせを間違えて買われるお客様が少なくなかったんですよ。
き それは間違えるよね。慣れてわかっているつもりでも玉を取り違えることあるし。
菅 それで返品を受け付けたことも何回かあるので、そういうトラブルがなくなるだけでもすごくいいですよ!
き じゃあ、実際に旧タイプと新タイプで20枚ぐらいを綴じ比べてみましょうか。まずは旧タイプですね。ボディ先端の口を紙束の側面に当てて、グッとスライダーを押し込んでみてください。
菅 グッ……と、あれ? 玉が出ませんよ?
き やった(笑)。そこがまさにリニューアルポイントに関係することです。
菅 (カチャカチャとボディを振ってみて)あー! そういうことか。わかりましたよ。
き さすが菅さん、気づきましたね。旧タイプは先端をいったん下に向けて、玉をスライダーの先に落とし込まないと打てないようになっているんです。“重力ローディング式”と僕は呼んでいたんですが。
菅 ということは、綴じる時はボディを下に向けて、こう打つと……。今度は上手に綴じられましたね。
き いちいち手首を下にひねってからスライダーを押し込むのは、慣れれば無意識にできるんですけど、手首の体勢がちょっと不自然なんですよね。じゃあ次は「3WAY ガチャック」のほうを試してください。
菅 あっ、なるほど〜。こっちは中にバネが入ってるのが見えます。ということは……ほら、本体を上向きにしたままで連発できますよ。
「3WAYガチャック」は向きを選ばず連射が可能に。これも作業効率アップにつながるポイント
き そういうことなんです。ボディに内蔵されたバネが玉をどんどん押し上げてくれるので、どの角度からでも玉がちゃんと出るようになりました。
菅 これ、最大で何枚いけるんでしたっけ? 55枚?
き 厚ガチャ玉で55枚ですね。じゃあ玉を入れ替えてやってみましょうか。
菅 へー! ステープラーと違って、紙の厚さでスライダーを押し込む時の抵抗感は変わらないんですね。分厚くてもさっきと同じぐらい軽い力で綴じられましたよ。これ、気持ちいいな。あと、留めたときの紙束の見た目がスマートですね。綴じ具としての位置づけは、ステープラーよりかさばるけど、ダブルクリップよりはスマート、って感じ。
厚ガチャ玉で55枚を綴じた状態。分厚い書類の束もスッキリ綴じられて、見た目も美しい
き ステープラーだと普通の10号針でコピー用紙32枚、特殊な11号針でも40枚が限界でしょ。「3WAYガチャック」なら今の通り55枚まで綴じられます。で、ダブルクリップは大サイズで120枚ぐらいいけるけど、大きすぎるレバーがジャマだったりしますよね。
菅 なるほど。まさにステープラーとダブルクリップの中間というか、いいとこどり的な存在ですね。
き あと、ステープラー留めした書類をペラペラめくっていると、紙の重さに負けて針の辺りから破れてくることあるでしょ? 「ガチャック」は広い面で留めているので、そういう危険は少ないんです。シュレッダーにかけるときも、手でガチャ玉をつまんで引っ張ればスルッと抜けるから処理がラクだし。
菅 うわー、使ってみたら「もう『ガチャック』しかないな!」って気になってきました。私も「ガチャック」を導入しよう。
き 菅さんが「ガチャック」にハマったところで何なんですが、次はダブルクリップの新製品を紹介しましょうか。
菅 はは〜ん、アレですね。アレはすごいですよね。
き あれ、菅さんはすでに使ったことがあるっぽいな……。さっきの「3WAYガチャック」は37年ぶりの改革だったんですが、今度はダブルクリップの100年目のリニューアル! プラスの「エアかる」です。
特許取得から100年以上を経て、新たに進化したダブルクリップ「エアかる」
編集・牧野 100年! ダブルクリップって100年間も形を変えていなかったんですか!?
き 驚くのはまだ早い!(笑)でも、アメリカの特許検索で調べると、1915年に特許登録されたダブルクリップが、今のものと見た目も構造もほとんど一緒なんですよ。
菅 材質なんかは、よくなっているんでしょうけどね。
1915年に米国で特許出願されたダブルクリップの図。見た目も構造も現在のものと変わらない
き でも、ずっと変わっていないとはいえ、不満がなかったわけじゃない。
菅 やっぱり、使う時に開けるのが重くて固いんですよ。力みすぎて「んぎぎ……!」ってなっちゃう。
き 機構的にはテコの原理を使って板バネ(黒いクリップ部)を開けているんですけど、それでもやっぱり重いんですよ。でも、しっかりと大量の紙を綴じるためには強い板バネを使わないといけない。結局、ググッと指に力を込めて開けるしかなかったんです。
菅 そこでオススメなのが、この「エアかる」というわけですね。
き さっきから菅さんにセリフを先に言われちゃってるな……。はい、従来のダブルクリップと「エアかる」を並べてみました。
左が「エアかる」、右は一般的なダブルクリップ。見た目にはそんなに差違はない
編集・牧野 う〜ん、見た目にはあんまり違いはないですね。レバーがちょいと長いのと、板バネの真ん中がポコッと盛り上がっているぐらい。
き じゃあ牧野さん、まずはこの従来のダブルクリップで紙100枚を留めてみてください。
編集・牧野 男でも分厚い紙束を綴じようとして開くと、「重っ! 硬っ!」てなりますよね。
き はい、その感覚を覚えたままで「エアかる」のほうを使ってみてください。
編集・牧野 うわっ、なんじゃこりゃ! なんか、フワッて開きましたよ。軽っ!
菅 メーカーのプラスによると、「開ける力が50%減」らしいです。
デジタルスケールに「エアかる」と一般的なダブルクリップを貼り付け、開く時にかかる力を計測
き これ、実際に開くために必要な力を測ってみたんですよ。120枚が留められる大サイズのダブルクリップだと、従来は4.5〜5kgぐらいなんですけど、「エアかる」は2.2〜2.5kg。確かにだいたい50%減って感じですね。
編集・牧野 いや〜、ダブルクリップとは別次元のものですよ、これ。
き なんでこんなに軽いのかということなんですが、さっき牧野さんが言っていたのが正解なんですよ。まずレバーがちょい長い。ダブルクリップはレバーの先が力点、板バネの口のとこが作用点で、板バネの角っこが支点になります。「レバーが長い=力点が支点から遠い」ということなので、テコはより力が出せます。
菅 従来のと比べてちょっと長いだけなんですけど、こんなに違いが出るんですね。
ダブルクリップにおけるテコの模式図。「エアかる」のほうがテコの力を発揮しやすくなっている
き さらに、「エアかる」のポコッと盛り上がった個所がポイント。一般的なダブルクリップは板バネの角が支点になってると言いましたが、「エアかる」のテコの支点はこのポコッとしたところなんです。つまり、支点がより作用点に近い。さらにレバー分だけ力点が遠ざかったのを合わせて、必要な力が50%減になるという仕組みです。
編集・牧野 なんか学生時代の理科の授業を思い出すな。でもこの新しい仕組みを、誕生してから100年目に考えた人、すごいですね〜。
菅 実はプラスから「エアかる」のサンプルを送ってもらったんですけども。我が家って、私宛の荷物を母と姉が先に開けちゃうんですよ。いつも女子向けの華やかな文房具サンプルが届くことが多いので、今回もそれを期待して開けたら地味すぎるダブルクリップが入っていてガッカリしたらしいんです(苦笑)。
き わははははは
女性の力でも大サイズのダブルクリップが軽くフワッと開けられる
菅 「なんでこんなのが今さら届くの?」なんて言って。「エアかる」と比較用に一般的なダブルクリップが同梱されていたんですけど、文句言いながら実際に試したら「ええっ!!」ってすごい驚いて。
き とりたてて文房具にハマっていない普通の人でもそれぐらい驚くほどのポテンシャルがあるんですよね。
編集・牧野 いや、使い比べたら、「エアかる」のほうはなんか壊れてるんじゃないの?って思うぐらい開く重さに差がありますよ。
き ただ、「エアかる」はテコの原理で開く力を軽くしているだけ。紙を留める力は一般的なダブルクリップと同じですからね。
編集・牧野 なるほどー。いや、実際に1度使ってみたら、もう前のダブルクリップには絶対戻りたくないぐらいの感じはありますね。
き そうなんですよ。だから「エアかる」のプロモーションは、無料サンプルを街頭で配りまくっちゃえばいいんですよ。1度この差を体感したら、それ以降はずっと「エアかる」を買い続けちゃうから。悪い人が悪いお薬をバラまく手法みたいですけど(笑)。
菅 ちなみに価格はどんな感じでしたっけ?
編集・牧野 一般的なダブルクリップの大サイズで10個300〜400円ぐらいに対して、「エアかる」大サイズが10個486円(税込)ですね。
き そんなにコスパが悪いという感じでもないですね。
菅 というか、この軽さでその価格差なら間違いなく「エアかる」を選びますよ。
OHTO
3WAYガチャック
紙束の厚さによって「薄(20枚用)」、「中(40枚用)」、「厚(55枚用)」の3タイプのガチャ玉(クリップ)をボディひとつで打ち分けられる連射式クリップ打ち出し機。バネによる押し出し機構でどんな角度からも紙が綴じられるなど、これまでのユーザーの不満を解消している。
プラス
エアかる
発明されてから100年を経て、大きく進化を遂げたダブルクリップの最新モデル。テコの支点位置を挟み口のほうにズラし、レバーを長く伸ばすといった新構造を採用。開ける際に必要な力を最大で50%まで減らすことに成功した。
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最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。