本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
第11回は、きだてさんが2種類のカッターを菅さんに紹介。両モデルの機能性だけではなく、知る人ぞ知るカッターの豆知識に、目からウロコが落ちるはず!
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きだて 今回はカッターナイフの子ども用と大人用から、それぞれ優秀なヤツを紹介しようと思って持ってきました。子ども用カッターは、2018年の「第27回日本文具大賞」で機能部門グランプリを獲った製品ということで、今注目度が高いヤツ。
菅 「キッター」ですね。
きだて 「日本文具大賞」の結果発表前、事前エントリーの情報が“卵に棒が刺さってる”みたいな写真だけで、どういうものなのかピンとこなかったんですよね、これ。
菅 そうそう。「これが子ども用カッターです」と言われて、何が出てくるんだろう? とすごい興味はひかれたんですけれども。
きだて で、いざ発売された実物を触ってみると、なるほど、確かに子どもが使うということで安全性についてしっかりと考えられている……というか、子どもにカッターナイフの使い方を学ばせるという点において本当によくできているんですね。
きだて じゃあ改めて、オルファの「キッター」の魅力を紹介しましょう。今言った通り、子どもにカッターの使い方を学んでもらうための“マイファースト・カッター”的な道具です。
エッジの少ないやわらかなフォルムが特徴的なキッズ用カッター「キッター」
菅 とはいっても刃物なんで、保護者がきちんと見守りながら使うのが前提ですよね。
きだて それはもちろんそうですね。ただ、保護者が一瞬目を離したスキに大ケガ、みたいな事態ができるだけ起きにくいようになっています。まず肝心の刃の部分がこんな感じですから。
折り目ごとにプラスチックで包まれた「キッター専用刃」
編集・牧野 えっ、何ですかこれ。プラスチックの板じゃないですか。
きだて 「キッター専用刃」は、金属の刃が黄色いプラスチックでブロックごとにコーティングされているんですね。で、面白いのは、新品の状態から使用できる状態にするためには、まずこの先端を折ることから始めなきゃいけないんです。
菅 今、大人でもカッターの刃を折ったことがない人って結構いるんですよね。文房具店の店員さんでも、折らずにさびてしまったカッターを使ってるのを見たことがあって、「ひ〜っ!」って。
きだて カッターの刃って皆さんが思ってる以上に早く劣化して切れ味が落ちるから、それはよくないなぁ。
菅 切れない刃物って、切る時に力が入り過ぎてとても危ないですから。「折る刃」転じて「オルファ」の社名になってるぐらいだし、折らなきゃ。
きだて そう。だから「カッターって、刃を折らなきゃ使えないんだよ」ということを子どもの時からしっかりと刷り込むために、まず、折る。
菅 私まだ「キッター」ちゃんと触ってないんで、やらせてください。
きだて はい、じゃあ菅さんどうぞ。卵形のベースが刃折り器になってまして、ここに刃の先端を挿し込んで、山折り、谷折りと動かすとポキッと折れます。
卵形の刃折り器を使えば、子どもの力でも無理なく安全に刃を折ることができる
菅 はい、折れました。カドのところにちょっとだけ金属の刃が出てきましたよ。……これだけ?
刃の露出はわずかこれだけ
きだて そう、むき出しの刃はこれだけ。これだと身体に触れてもズバッと深く切れちゃうことはあんまりないかな。でも紙は切れるので、試してみてください。
菅 うん、コピー用紙は普通に切れますね。
きだて コピー用紙や画用紙ぐらいなら、何の問題もなく切れます。段ボールほどの厚さになるともうダメですけども。
紙を切る感覚は、一般的なカッターナイフとほぼ変わらない
編集・牧野 ちなみにこれ、どれぐらい刃を出すのが正解なんですか?
きだて そうそう、普通のカッターって、切る時にどれぐらい刃を出していいのかわからないってのもありますよね。「キッター」だと、スライダーをカチッと1クリック押し出すのが適正。で、カチカチッと2クリック押し出すと、刃を折る時のためのポジションになるんです。わかりやすいでしょ。
菅 ほんとだ、2クリックでちょうど黄色いプラスチックのブロックの境目が外に出てきますね。確かにわかりやすい。
きだて もうひとつ面白いのが、普通のカッターナイフってオートロック機構が付いているのは知っています?
編集・牧野 オートロックってどういうことですか?
きだて スライダーを動かさない限り、刃がボディに引っ込まないようにロックがかかっているんですよ。だから刃を出した状態で突き立てても刃が戻らない。
菅 そうですね。刺さっちゃう。
きだて 「キッター」はこのオートロックがあえて搭載されてないんです。なので、どこかに突き立てると……、ズルズルッと刃がボディの中に戻っちゃう。
先端を突き立てても、ロックがかからず刃は内部に収納されていく
菅 これ、結構「お〜」ですよね。
きだて そもそも刃の先端がまっすぐフラットなので、刺さらないんですけどね。
編集・牧野 それもそうか。
きだて 菅さん、姪っ子さんが今おいくつでしたっけ?
菅 2歳です。
きだて おっ、じゃあ来年ぐらい、そろそろ“ファーストカッター体験”、いいかもしれないよ。
菅 おおー、確かに。いつも私がカッターを使っているのは見ていますからね。さすがに大きいカッターを渡すのは怖いですが、これなら安心かも。あと、刃を折る習慣は姪っ子にきっちりと刷り込んでおきたいですからね。
きだて 大事なことですよ。
きだて いっぽう、カッターの使い方なんかもう知ってるわ! という大人に使ってほしい、めちゃくちゃ切れるヤツも紹介します。今僕が1番気に入ってるすごいカッター。
菅 それは気になりますね。
きだて オルファの「スピードハイパー AL型」というカッターなんですが、肝心なのは刃のほう。「スピードブレード」という特殊刃です。
市販品としては最強の切れ味を持つカッターナイフ「スピードハイパー AL型」(上)と替え刃の「スピードブレード」(下)
菅 刃に「SPEED BLADE」って書かれていますね。かっこいい。
きだて カッターの刃って、オルファもNTもそのほかのメーカーもだいたい、通常刃より鋭角に研いである“黒刃”という製品をラインアップしているんです。
菅 私もカッターは基本的に黒刃を使ってます。お客さんにギフト包装する時なんかも、黒刃のカッターでラッピングペーパーをスパッと切っていました。
きだて 切れ味いいですもんね。で、この「スピードブレード」なんですけれども、その切れ味のいい黒刃の上にさらにフッ素コーティングが施されているんです。
菅 おおー!
きだて で、刃にフッ素加工が施されていると何が起きるのかといいますと、何と段ボールがコピー用紙ぐらいの軽い感じで切れちゃいます。
編集・牧野 いやー、それはさすがにウソでしょう(笑)。
きだて さぁ、どうかな(笑)。試しに菅さん、段ボール切ってみてください。
菅 ……うわー! 何これすごい! 切り込む感じがめっちゃ軽いですよ。サク〜ッて!
軽い力でも抵抗なく段ボールが切れる
編集・牧野 えっ、僕にも切らせてくださいよ。……うぉーっ! ほんとだ、いつも使ってるのと違う!
きだて フッ素コートのおかげで、なめらかに刃が入っちゃうんですよ。メーカーも「段ボールカット時の切断抵抗値が従来の約1/2」ってうたっているぐらいですから。
菅 これはほんと、驚きですねー。
きだて はい、切り口を見てください。段ボールって断面が波状になってるでしょ。切れ味の悪いカッターだと、そこを押し潰しちゃうんですけども……。
菅 あっ、全然潰れていない! めちゃくちゃ切り口がきれいです。機械で切ったみたい。もう1回切りたい!
切り口は潰れずにシャープ。曲線切りも自在だ
きだて 菅さんがハマりましたね。これだと段ボールの曲線切りも簡単ですよ。
菅 (シューーッ)……おおー!
きだて (笑)。ただ、切れるだけあってデメリットもあるんです。切っているとあっという間にフッ素コートが剥がれてくるので、この切れ味を維持するためにはボキボキと折っていかなきゃいけないんです。だから、コスパはかなり悪いですね。段ボールだと3〜4カットしたらもう最初の切れ味はないです。
編集・牧野 え〜、それはかなり燃費が悪いですね。
菅 いやー、でも、この切れ味を味わっちゃうとねー。
きだて そうなんですよ。今段ボールを切るとしたらこれ以外使いたくない、ってぐらいにハマっています。
菅 子どもに「夏休みの工作を手伝って」って言われたお父さんが、このカッターを取り出してきて、スパスパスパッ! と切っちゃう。そうなるともう「お父さん、かっこいい……!」って。
きだて 父親の威厳が保てるカッター。
菅 これはかっこつけられるカッターですよ。
菅 ……あっ、なんかさっきより切れ味が落ちてきた気がします。
きだて 菅さん、さっきからずっと切っているもんな(笑)。じゃあ刃を折りましょうか。
菅 おっ、「ポキステーション」ですね。私も使っています。これはもっといろんな人に使ってほしいなーと思っていて。
きだて じゃあ、ついでにこれも紹介しておきましょうか。今回は冒頭から「刃を折るのは大事」って言っていたわけだし。これは、オルファから発売されている、刃を折る専用の道具ですね。
安全にカッターの刃が折れる「ポキステーション」
編集・牧野 へー、こんな道具もあるんですね。
きだて これは使ったほうがいいですよ。まず、挿し込み口をL刃に合わせて。
編集・牧野 なるほど。ここでS刃とか刃のサイズに合った挿し込み口が選べるんですね。
きだて 次にその挿し込み口を横にスライドさせるとレバーが出てきます。そうしたら、悪くなった刃を挿し込んで、レバーをグッと押し込む。
編集・牧野 おおー、パキンッて折れた! これ簡単だ。
レバー操作で、厚いL刃もあっけないほどに簡単に折れる
きだて 爪切りみたいな感じでしょ。
菅 折れた刃はそのまま中に収納されるし、これなら「刃を折るのが怖い」っていう人も安心して使えますよ。
編集・牧野 確かにそうですね。恐怖感はなかったです。
きだて 道具って、ちゃんと“100%性能を発揮できる”状態で使わないともったいないですからね。だから、子どもは「キッター」で折ることを学んで、大人は高性能カッターと刃を折る専用ツールを併用する。大事なことですよ。
これまでになかった安全設計のキッズ用カッターナイフ。小さな子どもが思いのままに切ることを楽しみながら、さらにカッターナイフの基本的な使い方を学ぶことができるよう随所に工夫が施されている。実勢市場価格は1300円(税込)前後。
鋭角に研がれた切れ味のいい特専黒刃にフッ素コーティングを施した「スピードブレード」を搭載したL刃カッターナイフ。段ボールカット時の切断抵抗は従来の1/2と、すさまじい切れ味を誇る。
カッターナイフが安全に折れる専用ツール。カッターを挿し込んでレバーを押すだけで、刃が飛び散る心配もなく確実に折ることができる。廃棄する刃はそのままケース内に落ちて収納されるので、安全性は抜群だ。
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。