昨年2018年は、1年を象徴する漢字に「災」が選ばれたことからもわかるように、風水害や地震災害が目立った年でした。災害は、いつ、誰の身に襲いかかってもおかしくないということを、あらためて意識させられる1年だったと感じています。
実際に被災された方々からの貴重な体験談を見聞きすると、「水」の確保が重要であるとわかります。まず、人が生きていくためには1日あたり2.5Lの飲用水が必要とされています(食事と飲み水の合計。厚生労働省Webサイト「健康のため水を飲もう」推進運動より)。飲用水とは別に、トイレを流したり、食器を洗ったり、身体を清潔に保ったりするための生活用水も必要です。
生活用水も重要ですが、なによりも肝心なのは飲用水の確保です。災害時に水を確保するための手段として「湯船に水を貯めておく」方法がよく紹介されますが、貯めておいた水は生活用水としては使えても、飲用水の代わりになるとは限りません。
時間が経って細菌が繁殖した水をそのまま飲むことはすすめられませんし、電気やガスが使えなければ煮沸もできません。備蓄しておいたペットボトルなどの飲み水が尽きてしまえば、目の前に水があっても飲めない、そんな状況に陥ってしまう可能性もあるのです。
そのままでは飲めない水を、なるべくエネルギーを使わずに、飲めるようにする。災害時に命をつなぐ飲用水の確保に役立つのが、簡易的な浄水器です。そこで筆者は、アーバンテックの携帯用浄水器「スーパーデリオス」を購入してみました。
スーパーデリオスはボトルタイプの携帯用浄水器です
スーパーデリオスの外観は、マヨネーズやケチャップの容器に似ています。ノズルがあるフィルター部には、繊維状活性炭と中空糸膜フィルター(精度0.1ミクロン)が組み込まれています。
活性炭によって汚れや臭いが取り除かれるだけでなく、中空糸膜が細菌を除去するため、本製品でろ過した水は飲用水として飲むことはもちろん、傷口の洗浄にも使えるとされています。
スーパーデリオスの外観。高さは500mlのペットボトルよりもやや大きめですが、ボトル部分は柔らかいので丸めることも可能です
ボトル部分の容量は300ml。取扱説明書によれば、およそ18秒で汚れた水をろ過できます。フィルター部の使用可能量は200L(660回に相当、岐阜市の水道水における数値)で、別売りのフィルターと交換して使い続けることが可能です。
ボトル部分は柔らかいポリエチレンでできており、丸めたり潰したりしてコンパクトに持ち運ぶことができます。
ボトル部とフィルター部にはネジが切られているので、ひねるだけで簡単に取り外せます
フィルター部のボトル側。中央にある4つの丸い穴から汚れた水が入ります
スーパーデリオスでろ過できるのは、簡単にまとめると「ウイルスよりも大きな細菌や、水に溶け込まない不純物」です。もとは飲める水だった汲み置きの水道水や、魚などが生きている川などの水は、ろ過して飲むことが可能です。
いっぽう、薬品が溶け込んでいるかもしれない排水や、強い酸性またはアルカリ性で生き物が住めないような川や湖の水、生き物が住んでいても塩分が溶け込んでいる海水などは、溶け込んだ成分をろ過できないので飲めません。
ろ過できる水とできない水の一覧(製品パッケージの説明をもとに作成)
汚れだけでなく細菌まで除去してくれるというスーパーデリオス。その浄水能力を実際に試してみようと思います。
とはいえ、筆者宅の周辺には手頃な湖沼がありません。河川や用水路もしっかりと護岸されていて、水面に近付きにくい状態です。冬場は水田に水も張られていないので、屋外でろ過できそうな水を確保するのが意外と難しいことに気付かされました。
そこで、家庭菜園にも使っている庭土を少々ペットボトルに入れ、水道水を注ぐことで汚れた水を作り、本製品でどこまでろ過できるのかを試してみました。
庭の土を使ってわざと濁った水を用意しました
本製品のボトル部からフィルター部を外し、ペットボトルから泥水を注ぎ込みます。ボトル部を直接川などに沈めて水を入れても問題ありません。
再装着したフィルター部のキャップを跳ね上げ、ノズルをコップなどの容器に向けます。マヨネーズやケチャップを容器に絞り出す要領でボトル部に力を入れると、ノズルからろ過された飲用水が出てきます。
なお、フィルター部をセットしたら、キャップを開ける前に表面の水分を拭き取っておきましょう。浄水前の水が付着していると、ろ過をしようと本製品を傾けたときにこぼれ落ちて、浄水後の飲用水に混ざってしまう可能性があるためです。
ボトル部を握り、フィルター部先端のノズルから水を押し出します
すると写真のように、泥汚れの濁りや不純物などが一切見られない、汚れる前の水道水と見分けが付かない水が得られました。実際に飲んでみましたが、細かな砂粒が混じっているようなこともなく、泥臭さもまったく感じません。
もとの水道水と変わらないクリアな水になりました
なお、本記事では浄水効果をわかりやすくするために泥水をそのままろ過しましたが、不純物の多い濁った水をろ過すると、フィルターの浄水能力が早く失われてしまいます。
実際に使用する際は大きな不純物が沈殿するまでなるべく待ち、上澄みの水をろ過することで、フィルターの寿命を延ばせます。
庭土を入れて撹拌してから10分ほど放置した状態。フィルターを長持ちさせるには、なるべく不純物が沈殿してからろ過するように心がけます
続いて、非常時の備えとして役立つ「アルファ米」の保存食を調理してみました。
アルファ米とは、一度炊いたお米を乾燥させて水分を除いたもの。お湯や水を注ぐと、再び食べられる状態に戻ります。電気やガスが使えずに食事の煮炊きができない状況でも、アルファ米と水さえあれば、食事を摂ることができるのです。
アルファ米を使った保存食はいろいろありますが、今回は尾西食品の「ごはんシリーズ」から「山菜おこわ」を選んでみました。
ろ過した飲用水を使ってアルファ米の山菜おこわを調理してみます
尾西食品のごはんシリーズの作り方は、カップラーメンなどのインスタント食品とほぼ同じです。
「山菜おこわ」の場合、パッケージを開封して「調味粉末」「脱酸素剤」「スプーン」を取り出し、調味粉末をパッケージのなかにふりかけます。内側の線までお湯または水を注ぎ、よくかき混ぜたらパッケージのチャックを閉めます。熱湯なら15分、15℃の水なら60分待てば完成。今回は水で作るので、60分待ちました。
必要な水の量は製品によって異なりますが、山菜おこわは110mlでした。スーパーデリオスによる一度のろ過で2つ作れる計算です。
スーパーデリオスからろ過した水をダイレクトに注ぎ入れます
注水線まで水を入れたらチャックを閉めて60分待ちます
チャックを開けると、漂ってきた美味しそうな香りに思わず「おおっ!」と声を上げてしまいました。パッケージの中には、まるで炊きたてのごはんをそのまま詰めたような、ふんわりとしたおこわが出来上がっています。
驚きの60分後。山菜おこわが出来上がっている!
スプーンが付いているので、食器がなくても食べられます
実際に食べてみると、わずかに芯が残っている食感はあるものの、一度乾燥させたおこわを食べているとは思えない美味しさ。自宅で調理した山菜おこわをお弁当に詰めて、時間が経ってから食べているような雰囲気です。心身ともにダメージを負うであろう災害時には、お腹を満たすだけでなく、心の救いにもなるだろうと実感しました。
もちろん、汚れた水に混じっていた砂粒などが混入することもなく、土や泥の臭さもありません。スーパーデリオスでろ過した水でも、問題なく調理することができました。
大まかな不純物だけでなく、濁りや臭い、さらには細菌まで除去してくれるスーパーデリオス。フィルター部が軽量かつコンパクトに作られていますし、使わないときはボトル部を潰したり丸めたりして体積を減らせるので、非常持出袋のすき間に追加するのも難しくありません。災害に限らず、登山やハイキングでの万一に備えて持ち歩くのもいいでしょう。
人は体内の水分を2割失うと命を落とす恐れがあるとされています。被災時や遭難時に飲用水を確保しやすくするために、本製品のような携帯浄水器をひとつ常備しておくと安心です。
信州佐久からモバイル情報を発信するフリーライターであり2児の父。気になった格安SIMは自分で契約せずにはいられません。上京した日のお昼ごはんは8割くらいカレーです。