本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
きだて 今回は、イチオシの細字サインペンを紹介するんですけども……。ここしばらく、細字サインペン業界がアツいことになってるんですよね。
菅 確かに、いろいろと発売されていますよね。
きだて 周囲の話を聞いていると、特にクリエイター系の人たちがボールペン代わりの日常筆記具として使っているケースが多くてね。ノートとかメモをサインペンで取るとか。
菅 ほほう。
きだて ペン先が紙に当たった感触がボールペンよりやわらかいとか、インク色がやたら豊富だから個性的なカラーを選べるとか、理由はさまざまなんですけど、とにかく「サインペンのオススメ、何?」ってよく聞かれるんですよ。
菅 私も割と使いますね。大きいノートにアイデアを書き出すときとか、サインペンでやってます。
きだて スケッチブックぐらいの大きな紙に太字サインペンでガーッと書く、というのは以前から人気ですもんね。で、最近はA5〜B5の普通のノートにも0.5mm前後の細字サインペンを使うんですよ。それだと筆記線の太さがほぼボールペンと同じだし。
きだて で、そのいろいろと発売されている細字の中でも特に注目株と言えば、三菱鉛筆の「EMOTT」ですかね。なんと全40色というボリューミーなラインアップ。
サインペンぽくないシンプルな白軸が独特な三菱鉛筆「EMOTT」
菅 はい、私これすっごい好きで。このピンク系の紫っぽい色と、あとは黒を使っています。
きだて そうそう。実は「EMOTT」って軸に色の名前じゃなくて色番号しか書いていないので、とっさに「何色」って言えないんですよね。
編集・牧野 しかも、微妙な中間色っぽいのがいっぱいあるし。
きだて ちなみにこの色番号は、三菱鉛筆の色鉛筆で使われてる色番号だそうですよ。
菅 へぇー!
きだて で、こういったカラーの豊富なサインペンって、これまではだいたい太字と細字がペンの両端に付いたツインタイプが主流だったんですが、「EMOTT」は0.44mmの細字のみ。
40色勢ぞろい。5本セットは立てて保管できるスタンド付きなのもうれしいポイント
菅 あと、私はこのボディの細さも好きなんです。ちょっと高級な色鉛筆っぽい雰囲気で。
きだて オシャレですよね。軸は真っ白で色表示の帯が少し入ってるだけ、っていうのもセンスよくて。
菅 軸もキャップも四角いから、机の上から転がり落ちたりしにくいのもいい!
編集・牧野 そもそも細字サインペンってあんまり使ったことないんで、書いてみたいっす。
きだて どうぞ、書いて書いて。
編集・牧野 ……へー! なんか気持ちいいですね! 何だろ、この感じ。
たっぷりなインクフローで、サラッと細字が書けるのが特徴
きだて サインペンで使われる「プラペン芯」って、先ほども言ったように紙への当たりが独特のやわらかさで、クセになるんですよね。線の太さもほぼボールペンと一緒でしょ。インクフローが多めなので紙によってはちょっとにじんで太るけど、でも6mm罫の中でも文字が潰れずにちゃんと書けるし。
編集・牧野 そうですね。問題なく使えそうです。
きだて インク色がベーシックカラー、渋いダークカラー、明るいライトカラーに分けられるんですけど、このダークカラーが日常の筆記用にすごくいい。文字の視認性がよいことに加え、ほかに使ってる人があまりいない色が選べるし。
編集・牧野 ……この色もいい色だなぁ。えー、色選ぶの楽しいー!
菅 軸の色表示と、実際のインク色がちゃんと同じなのもいいんですよ。たまに「全然軸の色表示とイメージと違うじゃん!」って製品もありますよね。
きだて やっぱりその辺は気をつかっているんでしょうね。しかも、色と見た目のオシャレさだけにこだわったのかと思ったら、ペンとしての性能的にもかなりこだわって作ってあって。
編集・牧野 え、オシャレペンってだけではないんですか?
きだて 従来の「プラペン芯」って、書き味がやわらかい分、使っているとすぐ先端が潰れちゃうんですね。で、どんどん字が太くなっちゃう。
菅 あー、そういうのありましたね。
きだて ところが「EMOTT」はですね……、ペン先の部分を見てもらうとわかるんですが、先端だけチロッと色が付いていて、あとは白いでしょ。これ、従来の「プラ芯」の周囲を丈夫な白い樹脂のアウターパーツでくるんであるんですよ。
先端からわずかに見えている赤い部分が従来のペン芯
編集・牧野 はー! そうなってるんだ!
きだて さらに中がスプリング状の構造になってるので、強く筆圧をかけるとサスペンションが効いてペン芯が引っ込むんです。だから、グリグリと書いても先端が潰れにくくなってるという。
「EMOTT」の内部構造図。ペン芯がアウターパーツで保護されているのがわかる
菅 よくできていますよねー。これ、文房具売り場でも助かるんじゃないかなぁ。
きだて あ、試し書き用のサンプルが長持ちするってこと?
菅 というより、けっこうお客さんから「ペン先潰れちゃうんだけど」って言われるんですよ。そういうときに「じゃあこれがいいですよ」って言えるサインペンがなくて……。
きだて なるほどねー! メーカーがちゃんと「頑丈」をうたっているからオススメしやすいもんな。
きだて 次に紹介するのが、意外と多い「消えなきゃ困るんだよ」という“フリクション原理主義者”に使ってほしい「フリクションファインライナー」。消せるボールペンでおなじみ「フリクションボール」の細字サインペン版です。
こすって消せる細字サインペン「フリクションファインライナー」
菅 これ、シリーズのほかの製品の認知度からしたら、あんまり知られていないですよね。
きだて 2018年末に発売されたので、まだそんなに古い商品でもないんですけど。確かにあまり知られていない気はします。
菅 あ、もうちょっと古いと思ってた。割と最近ですね。
きだて 機能的には、まず「フリクションインキ」ということで、こすると消えます。で、ペン先は0.4〜0.5mm相当で細く書けて、さらにこの「プラペン芯」がものすごく頑丈に作られていて潰れない!
先端の溝でインクを供給する特殊なペン芯。頑丈で摩耗に強いのが特徴だ
編集・牧野 おお。これも頑丈がウリなんですね。確かに書いてみると、「EMOTT」よりも書き味が硬質な気が。
きだて うん、それはあると思います。なんで、「プラ芯」のやわらかさが好き、という人はちょっと違和感があるかもしれませんが、でもまぁ許容範囲内かな、と。
菅 硬いんだけど、だからといってそれが引っかかる感じはしないですね。ギシギシしないというか。
きだて 文字を消したいときはキャップ先端のラバーでこすると消えます。まぁ、「フリクション」を名乗る以上、もうこれぐらいの消字性能は当たり前と言えますけども。
キャップのラバーでこすれば消える、おなじみの「フリクションインキ」
菅 さっきの話にちょっと戻るんですけど、フリクションってノック式ボールペンの認知度が高すぎて、意外とそのほかのシリーズが知られていないと思うんです。たとえば「フリクションの蛍光ペンなんかあるの?」みたいな。
きだて あー、それはそうかも。「フリクションスタンプ」は別ジャンルとして認知されているかもしれないけど、シリーズのほかの筆記具は確かに知られていないか。
菅 もうちょっとほかのシリーズが存在することを知らしめていかないとダメだな、と。それにしても、細字サインペンつながりで、これが出てくるとは思わなかったですけど。
きだて 一応ジャンル的にはありかな、と思って。
菅 店頭だと、「サインペン・水性カラーペン」の棚に置いていないのが原因かもしれません。「フリクション」は「フリクション」シリーズとして別の棚にひとつにまとめられているから。
きだて あー、そうか! パイロットはそういう売り方をしてるんだよね。「フリクション」は全部1か所に固まってるんだ。
菅 だから、サインペンを買いに来た人の目にとまらない。で、「フリクション」の棚だとみんなボールペンだけ見ちゃって、これに目がいってない可能性が……。
ややカリッとした書き味でシャープな線が引ける
きだて なるほどなー。そりゃ認知度低いわけだ。インクフローはほかの細字サインペンより渋めで書き味も硬いけど、でもその分だけ、にじみも少なく細い線が書けるし、なにより消えるしで、いい製品だと思うんだけどなー。
きだて 最後に紹介するのが、実は僕が今1番気に入っているサインペン。呉竹「ZIG クリーンカラードット」です。
菅 私もこないだ買っちゃいましたー!
細字+ドット芯(太字)のツインタイプの「ZIG クリーンカラードット」
きだて 今回、細字サインペンというくくりで紹介したんですが、こいつは細・太のツインタイプで、しかも気に入っているのは太字芯のほうだから、ちょっと変化球なんですけど……。でも、ホント、イイの!
編集・牧野 ここに来て最後に太字!(笑)。でも、一応細字も使えるんですよね?
きだて うん。細字側は0.5mm相当のごく普通の「プラペン芯」で、当たりがやわらかくて気持ちいいやつです。ペン先の頑丈さは特にうたっていません。これの最大のポイントは太字!
菅 もうね、この製品のプレスリリースを見てから、ずっと実物触るのを楽しみにしていたんですよ。
きだて 俺もー! この超ぶっとい繊維系のペン芯がね、まず普通に極太のラインが引けるでしょ。で、さらに商品名に「ドット」って入っている通り、真上から紙に太芯をスタンプすると……、ほら、きれいなドットが描けます。
太いラインときれいなドットが楽しめる特殊な太芯
編集・牧野 あら、楽しい!
きだて このドットが押せる芯はすでに他社製品でもいくつか存在するんですけど、その他社製品のドット芯って形が円筒型なんですよ。先端がフラットな円筒。
菅 そうですよね。
きだて ところが、「ZIGクリーンカラードット」は先端が丸くなった球型なんですね。円筒の芯だと、常に同じ大きさのドットが押せるんですけど、本当に垂直に紙に当てないときれいな形にならない。
菅 あれが意外と難しくて……。書道やってんのかというぐらいの集中力で、背筋をピンと伸ばして押していました。
きだて 対して、球型のドット芯は、多少ナナメから押しても確実に丸いドットが作れるんです。簡単。
菅 そう、ホント、それ! 失敗しないの。あと、芯に弾力があるから、押す強さでいろんな大きさのドットが作れるんですよね。
きだて ね。ドットの大小が変えられるのがけっこうおもしろくて。適当に大きさと色を変えてポンポン押しているだけで、ちょっと見栄えのするビジュアルが作れるという。
菅 失敗しないから、作例作りも気がラクなんですよね(笑)
ドットの色とサイズを変えて押すだけで、きれいな模様ができ上がり!
きだて 文房具ライターあるあるだ。わかるー(笑)
菅 ……わー、きだてさん上手!
きだて 楽しすぎて、いろいろ描いたもんね。ほら、ぐっと押しつけてからスッと横にずらすとティアドロップ型も描けるから……ほら、お花も簡単に。
編集・牧野 おー、葉っぱも描けるんだ。これは絵心のない人でもいけそうですね。
ちょっとコツをつかめば、かわいいお花もこの通り
きだて 最近はバレットジャーナルとか、手帳の紙面をカラフルにかっこよくするのが流行しているけど、でもどうしたって絵のウマい人が「Instagram」とかで幅をきかせる世界でしょ。絵とセンスに自信のない人は指くわえて「いいなー」って言うだけで。でもこれさえ使えば、誰でもオシャレ手帳が作れる!
編集・牧野 うん、いいですね。楽しい! 適当にポンポンしてるだけでいいんだ。
きだて あと、呉竹のホームページにあったんだけど、写真の上にトレーシングペーパーをのせて、上からなぞるようにポンポン押していくと、点描画も簡単に描けちゃうって。
菅 わー、それ楽しそう! やってみたい。
きだて ドット打つのに失敗しないので、たぶん思ったよりも簡単にできると思うよ。
編集・牧野 それは僕もやってみたいです!
きだて あとは、もうちょっとカラーバリエーションがあればさらに楽しいのになー、とは思うけど。12色しかないんだよね。
菅 呉竹さん、ドット芯じゃないサインペンの「ZIGクリーンカラーシリーズ」はもっと色数ありますよね。
きだて そう。だから人気が出たらもっとカラーバリエーションが出るんじゃないかな。
菅 期待ですね!
きだて ダークカラー系の色が出たら、ドット点描画ももっとおもしろそうでしょ。大人の塗り絵ならぬ大人の点描画とか流行りそうな気がするよ。
菅 いいかも。有名な絵画を上から好きな色で「ドット押し」したり。(クロード・)モネとか(ジョルジュ・)スーラとかを自分でリメイクするの。
編集・牧野 誰でも「草間彌生(やよい)の絵が描ける!」とか。
きだて いいなー、それ(笑)。
きだて ということで、今回はお気に入りの細字サインペンを紹介してみましたけれど、どれも独特の機能があっておもしろいんだよね。
菅 私はやっぱり「ZIGクリーンカラードット」ですね。4色買っただけで我慢してたけど、改めて全色買っちゃいそうだな。
編集牧野 わかります。僕ももっと遊びたい。
きだて 「ZIGクリーンカラードット」、想定以上にウケたなー。でも「EMOTT」と「フリクションファインライナー」は日常筆記具として超優秀ですからね。もっとインク色を楽しみたい人とか、ボールペンに飽きたという人は試してみてほしいな。
編集・牧野 (黙々と「ZIG クリーンカラードット」で遊びながら)はい、信号機が描けました!
きだて それシンプル過ぎね?
編集・牧野渾身の一作「信号機 with ZIGクリーンカラードット」
三菱鉛筆「EMOTT」
40色というボリューミーなラインアップとオシャレなデザインのスリム白軸がポイントの細字サインペン。従来の弱点だった潰れやすい「プラペン芯」をアウターパーツでくるむことで解決し、長期間書き続けられる。
パイロット「フリクションファインライナー」
摩擦でインクが消える「フリクション」シリーズの細字サインペン。堅牢な「プラペン芯」は強い筆圧をかけても潰れにくく、カリッとした書き味で繊細かつ一定の線を引き続けるのに向いている。「フリクションインキ」用の消し具はキャップ先端に搭載。
呉竹「ZIG クリーンカラードット」
プラペン芯の細字と繊維芯の太字/ドット芯を搭載したツンタイプのサインペン。球型のドット芯は弾力を生かして強く押しつけると大きなドット、ちょんと先端で押すと小さなドットと描き分けることができるので、誰でも美麗なドットパターンが作れるのがポイント。
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。