両手に荷物を持って帰宅した際に、カバンから無理矢理カギを取り出してカギ穴に差し込んで回して……、あー!腕が痛くなった!ということが最近何度かありました。たまに、カギがカバンの中のどこにあるか見当たらず、一度荷物を床に置かなければならなかったことも……。
両手がふさがっていると、カギを探すのもひと苦労ですよね……
時代は令和なんだから、もっと便利にスマートに、何とかならないの?!と思っていたとき、「スマートロック」なるものがあることを知りました。なんと、既存のドアのカギ穴に上から被せるようにして取り付けるだけで、スマホでカギの開閉ができるというすぐれもの。
カギの開閉を遠隔操作で行うことも可能なので、自宅を離れたあとに「カギ閉めたかな……」と不安になって戻る、ということもしなくていいらしい!
しかし、安全面で問題ないのか? 色々な製品が出ているけどどれを選ぶべきなのか? 気になったので、詳しい識者の方に聞きに行きました!
「スマートロック」に特化した専門家はなかなかいないのでは……と思いきや、いらっしゃいました! これまでさまざまな家電を使い込み、時には分解しながらその性能を知り尽くした家電ライターの藤山さんです!
家電ライターの藤山さん
藤山哲人氏
これまで数多くの家電を使い込み比較してきた家電ライター。「家電Watch」「DIME」「文春オンライン」など多数の媒体で執筆。TBS系「マツコの知らない世界」に6回出演。
―――藤山さん、さっそくですが、スマートロックを使ってみたいのですが色々教えてください!
はい!スマートロックは近年、ホテルなんかでも主流のカギになってきていますよね。スマートロックには3種類あって、ホテルで使われているようなカードキーなどをかざして開けるのはFeliCa(非接触ICカード技術方式)タイプ、そしてスマホなどで開けることができるのがBluetoothタイプ、あとは、暗証番号で開けるタイプがあります。
―――いろいろなタイプがあるんですね。藤山さん的にはスマートロックはどんな人におすすめですか?
まずはひとり暮らしの人ですね。たとえばカギを閉め忘れたときに、家族がいれば「カギ閉めておいて!」ができますが、ひとり暮らしだとどうしようもない。そんなときにスマートロックがあれば遠隔操作でカギを閉めたり、そもそも今、カギが開いているのか閉まっているのかを確認したりできます。ほかには、玄関のドアではなく部屋のドアにカギを付けたい人にもおすすめです。
―――普通のカギと比べて、スマートロックはどのような点が便利ですか?
まずはスマホでカギを開けられることです。スマホを操作するのが難しい場合であっても、設定で「半径〇メートル以内に近づいたらカギを開ける」なんてことも可能です。
さらに、カギの開け閉めをした記録が残るので、会社にいる親御さんが「何時に子どもが帰ってきたな」と確認するとか、遠方に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんの帰宅を確認することもできます。
―――それは便利ですね。では逆に、スマートロックにデメリットってありますか?
Bluetoothのタイプの場合、専門知識があればカギの情報を盗み取れてしまう恐れがあるところですね。まぁ現実的には、スマホで操作して通電した瞬間に電波の飛んでいる範囲内にいる必要がありますので、近くで不審な動きをしていると気づかれてしまいますし、普通のカギだってピッキングの恐れもあるので、そこまで心配する必要はありません。どうしても不安な場合はカギを2つ付けるとか、暗証番号タイプのものにすればいいと思います。また、FeliCaタイプのものであれば、カギ情報の電波が届く範囲が30cm程度と微弱でなので盗み取るのは難しく、心配はないと思います。
―――なるほど……そこまで心配する必要はないとはいえ、不用意にスマートロックを使用していることを不特定多数の人に知られないようにしたほうがいいかもしれませんね。気になるのは設置方法なのですが、難しいですか?
どのメーカーのものも、まったくのド素人でも付けられますよ。ただ、両面テープなどでドアに貼り付けるため、設置前にドアをアルコールなどでしっかり拭いておくと粘着力が弱まらず、しっかりと取り付けることができます。
―――どんなドアでも設置できるんですか?
多くの商品にはどんなドアの形状にも合わせられるようにアダプターが付いています。アダプターを使えば、ほとんどのドアに使用可能なことが多いですね。気になる人は、購入前にその商品のホームページなどで確認すれば安心です。
―――スマホで開けられるのは便利ですが、もしスマホの充電が切れてしまったら、ドアが開けられなくなるんでしょうか?
そうですね。その場合は普通にカギで開けてください。なので、カギも念のため持ち歩いたほうがいいです。また、スマートロックは電池を使用していますから、1年に1回ほど電池交換をする必要があります。
―――スマホとスマートロックどちらかの電池が切れても作動しなくなるのですね。ひと通りスマートロックについて聞いてきましたが、種類がたくさんあってどれを選べばよいのかわからなくて……結局どれがいちばんいいんですかね?
では、今回は主要な4種類のスマートロックをご紹介します。
まずは「SADIOT LOCK2」です。2022年の11月に発売されたばかりの新商品ですが、とにかくデザイン性がいいですね。スマートロックの多くは3Dプリンターで設計したような、デザイン性のないものが多いのですが、「SADIOT LOCK2」はデザイン性を重視した美しい形状です。また、LED部分がバー状になっていてオシャレです。
「SADIOT LOCK2」は電池フタが2か所ある
メーカーはミネベアミツミとユーシン・ショウワ。ミネベアミツミは、ベアリングを中心に電子部品から航空・宇宙製品の軸受け(回転部を支持する部品)など、幅広い分野に使用される部品を作っている会社で、「回転」に強い。そしてミネベアミツミグループのユーシン・ショウワはカギの総合メーカー。ということで、この2社のコラボは非常に信頼性が高いんです。比較的安価で、しかもカギが開くまでの速度が他社製品と比べていちばん速いところがすばらしいですね。
ちなみに公式サイトによると、「SADIOT LOCK」は全デバイスにセキュリティチップを搭載し、通信を暗号化しているため、万が一ハッキング(通信を傍受)されても情報を抜き取られないような仕組みになっているのだそう。このセキュリティチップが搭載されているのは、スマートロックのなかでは「SADIOT LOCK」だけというのもポイントが高いですね。
気になった点は、電池交換時に2か所を開けなければならないところ。ドアへの取り付けの状況によってはドアを開けた状態で電池交換しなければなりません。できるだけ人に見られないように電池交換をするためには注意が必要です。
【藤山さんの評価】
デザイン:◎
性能の信頼度:◎
価格:〇
使い勝手:△
続いては「Qrio(キュリオ)」です。機能性は高いし知名度もありますが、高額ですね。電池を他社製品の倍(2か所)使用するため、電池の持ちがよい……と思いきや、強い電波を発するために電池の持ちは結果的にそこまでよくないのがデメリットです。個人的には、あまりおすすめではありません。
キュリオ「Lock Q-SL2」の電池ブタ
【藤山さんの評価】
デザイン:〇
性能の信頼度:〇
価格:×
使い勝手:×
そして、「SwitchBot」(スイッチボット)です。サイズは少し小さめで、サムターン(回転式つまみ)が360度回転するので取り付けが比較的しやすいのが特徴です。同社の他デバイスと組み合わせて使用すれば、IFTTTを使って人感センサーで人が近づいたらカギが開くとか、声で操作できるとか、スマートホームをDIYできます。 それだけのことをしようとすると、セットアップは機械にそれなりに強い人でないと難しいですが、スマートロックだけを使うのであればそこまでの複雑さはないですよ。
「SwitchBot」
【藤山さんの評価】
デザイン:△
性能の信頼度:〇
価格:〇
使い勝手:〇
最後に「SESAME4」です。ご紹介したなかでは最も安価でサイズも小さく、そして最も汎用性が高い商品です。デザインは微妙ですが……。 電波が弱いのでセキュリティ面でも比較的安心ですし、電池2本で約1年持ちます。サムターンの汎用性も高いですし、設置時の高さ調節の自由がきくところもいいですね。いちばんのおすすめです。
「SESAME4」
【藤山さんの評価】
デザイン:△
性能の信頼度:◎
価格:◎
使い勝手:◎
―――同じスマートロックでも、それぞれの特徴がけっこう異なるんですね!では私は、おすすめの「SESAME4」を使ってみます!
ということで、藤山さんがイチオシしてくれた「SESAME4」を購入し、使用してみました。
セット内容はシンプル。本体と取り扱い説明書、取り付けるための3Mの両面テープに、ドアとの高さ調節をするためのアダプターです。
「SESAME4」のセット内容
取り扱い説明書には文字がなく、ビジュアルと感覚で取り付けができるようになっていました!
「SESAME4」の取り扱い説明書
本体の裏側は下の写真のようになっていて、ここにドアのサムターンをかませるというシンプルなもの。
見た目でイメージしやすい構造
電池ブタはスライドすれば開くようになっています。電池が「CR123A(3V)」(リチウム電池)2本というのがちょっと珍しい……。
電池フタはスライド式
さっそくドアに取り付けていきましょう。サムターンと本体を、しっかりとかみ合うように合わせます。我が家のカギは少し太いようで、出荷時の状態ではかみ合わせることができませんでした。
サムターンと本体をかみ合わせようとするも……
そこで、かみ合うようにネジで広げていきます。小さなネジを使った細かい作業なので、ネジ山をつぶさないように閉めるのがちょっと大変でした。
ネジが小さいので、ネジ山が潰れそうになるのがちょっと怖い
無事、かみ合う幅に広げることができました……。
サムターンと合う幅に調整完了
いよいよセット。しかし今度は、本体上部がドアに接しないことがわかったので……。
本体とドアまでの距離があるので、アダプターを付ける
アダプターでドアにしっかり密着するようにセットしました。3Mの両面テープで貼り付けるのですが、しっかりと30秒押し続けることで、グラグラすることなく接着できました!
(注意:一度はがすと粘着力が70%低下するので、位置を変更する場合などは、その都度新しい3Mシールと交換する必要があります!)
アダプターを付けると、ドアにしっかり設置できました
セットが完了しました!
大変そうに見えたところもあったかもしれませんが、15分もかからず、カンタンです。
大がかりな工事などが必要なく、今あるドアにセットできるのはいいですね!
15分ほどで設置完了!
続いて、アプリをダウンロードします。施錠と解錠の状態に本体をセットして、アプリに登録。アプリも、感覚的に操作できるのがいいですね!
アプリも感覚で設定できる
さらに細かい設定も可能です。解錠・施錠のたびに通知が届くようにしたり、オートロック機能を付けたり、自分以外の人でもスマホでカギを開けられる設定も可能です。
このように、細かいカスタマイズも可能
アプリの設定が終わったら、試してみましょう。
アプリでこの状態のときはカギが閉まっていて……。
カギが閉まっている
この状態のときは開いている!
カギのイラスト部分をタップすると、1秒ほどでカギの開閉が可能です。
タップひとつでカギが開いた!
動いているところはこんな感じです!
さて、「SESAME4」を1週間ほど使ってみての感想ですが、やはり便利! 今まであまり意識したことはありませんでしたが、カギ穴にカギを差し込んで回す……というのは地味に時間がかかることだったんだな、と実感しました。荷物が多くても急いでいても、ワンタップでカギが閉まるのはやはり便利です。ドアの1mくらい前からスマートロックで開けておけば、ドアの前に到達してすぐにドアを開けられます。これは、せっかちな私にとっては結構快適でした。
そして便利なのが「手ぶら解錠機能」です。この機能をオンにすると、指定した範囲(1〜500m以内)をスマホが離れるとカギは自動で閉まり、近付くと自動で開きます。両手が荷物でふさがっている状況で近付いただけでカギが開き、ドアを開けるだけで家には入れるのはかなり楽でした。
手ぶら解錠の設定画面
近づいたので解錠しました!の画面
ただこの機能、実際はちょっと不安だったというのが本音です(カギが本当に閉まったかどうかは、離れてしまうと実際に触って確認することができないので……)。
平和な土地ではアリかもしれませんが、不特定多数の人が多く往来する地域では少し不安が残るので、スマホを操作して開けるのが、筆者個人的に許容とラクさのバランスがいいラインの気がしました。
そしてもうひとつ。スマートロックを付けたからといって、まったくカギを持たずに出るのは危険です。本体の電池切れやスマホの充電切れなどの場合には、今までどおりにカギで開け閉めを行う必要がありますから、完全にスマホだけで手ぶらで出かける……は叶いませんでした。
改善してほしいポイントとしては、アプリを使用するためには常にスマホの「位置情報」をONにしておかなければならないこと。「位置情報」がOFFの場合は下記のようになり、スマートロックとしてはまったく使用できません。
位置情報がOFFのときはまったく感知しない……
常に位置情報をONにしている方であれば問題ないかもしれませんが、私は電池の消耗を避けるために必要なときだけ位置情報をONにするため、少し不便さを感じました。
また、位置情報をONにしていたとしても、ドアから2〜3m以上離れると接続が切れてしまいます。これだと、スマートロックのメリットでもある「外出先でドアを閉めたかどうか確認する」ができないな……と感じました。
この点、藤山さんに聞いてみました。
デフォルトのスマートロックはセキュリティ確保のために通信距離の短いBluetoothでスマホと通信するため、ドアから離れるとスマートロックとスマホ間の通信が途絶えます。各社Bluetoothの鍵情報をWi-Fiに変換して自宅のブロードバンドルーターからメーカー各社のサーバに送信する「Wi-Fiオプション」を別売しています。これを使うと、出先からはスマホの4G回線などを経由してメーカー各社のサーバと通信し、そこから自宅の鍵の状態を見られるほか、施錠・解錠の操作が可能になります。「SESAME」の場合、次のオプションを購入すればそれらの機能が使えます。
家の中にいて、夜寝る前にベッドの中で「カギ閉めたかな……」と不安になったときには確認できたので、今後は外出先からもできるといいなと思います。
いくばくかの不便さはあったものの、トータルではスマートロックはかなり快適でした。特に、いつも荷物が多くカギがとっさに出てこないことにストレスを感じている人や、お子さんのいる人、そして、筆者のようにせっかちな人には特におすすめできると思います!
恋愛・就職・食レポ記事を数多く執筆し、社長インタビューから芸能取材までジャンル問わず興味の赴くままに執筆するフリーランスライター。Twitter:@KA_HO_MA