レビュー

インク遊びがはかどる! 「万年筆メーカーが作ったつけペン」の面白さに脱帽した

万年筆の書き心地を表現する言葉のひとつに、「ぬらぬら」というものがあります。もちろんメーカーやモデルによって個性は分かれますが、一般的に万年筆は手をリラックスさせた状態で紙の上を滑らせるように書けるので、独特の滑らかな書き心地を楽しめるのが魅力と言えるでしょう。

かく言う筆者も、パイロットやセーラー万年筆などの国産万年筆をはじめ、海外産万年筆やヴィンテージ万年筆をコレクションしてニヤニヤ眺めているオタクのひとり。万年筆の書き心地を味わいたいがために、手持ちの本や雑誌、家電の取扱説明書、果てはスナック菓子の袋の注意書きまで書き写して遊ぶ日々を送っています。

そしてその延長線上でつい、インク集めにも手を出してしまいました。あっという間にデスクの上にインク瓶の行列ができあがり、「インクが使い切れない!」「未開封のインクがあるのにまた買っちゃった!」と頭を抱える始末。しかも、インクを貯蔵する機能を持つ万年筆は、中のインクを使い切るまでほかのインクが使えないため、未開封インクは溜まるいっぽう……。どうにかできないものでしょうか。

滑らかな書き心地が楽しめる! 「万年筆のペン先」を使ったつけペン

そんななか見つけたのが、2021年12月にセーラー万年筆から発売された「万年筆ペン先のつけペン hocoro(ホコロ)」(以下、「hocoro」)と、2022年6月にパイロットから発売された「iro-utsushi<いろうつし>」(以下、「iro-utsushi」)。いずれも、インクボトルにペン先を浸すだけで使える、つけペンタイプの筆記具です。

つけペンはインクをペン先に直接付けて筆記でき、とにかく手軽に使えるのが魅力。水に浸けるだけで手早く洗浄できるので、いろんな色のインクを一度に楽しみたいときにぴったりなのです。近年ではつけペンの1種であるガラスペンが話題となり、文房具好きな人やインク集めに“沼ってしまった”人たちの間で大きなブームを巻き起こしていました。

写真上から、セーラー万年筆「万年筆ペン先のつけペン hocoro(ホコロ)」(グレー、シロ)、パイロット「iro-utsushi<いろうつし>」(樹脂軸・クリアブラック、木軸・モクメ)

写真上から、セーラー万年筆「万年筆ペン先のつけペン hocoro(ホコロ)」(グレー、シロ)、パイロット「iro-utsushi<いろうつし>」(樹脂軸・クリアブラック、木軸・モクメ)

「hocoro」と「iro-utsushi」は、つけペンの1種でありながら、スチール製の「万年筆のペン先」を採用しているのがポイント。「万年筆のペン先」ならではの書き心地と、つけペンの手軽さを兼ね備えています。

いずれも国産万年筆の3大ブランドとしてあげられるメーカーから発売されている製品とあって、「hocoro」は2022年度「グッドデザイン賞」、ならびに「文房具屋さん大賞2022」万年筆賞1位を、「iro-utsushi」は「文房具屋さん大賞2023」大賞を受賞している実力派です。

パイロットの万年筆「kakuno(カクノ)」(写真手前)と並べた様子。つけペンにはペン芯(赤枠で囲ったパーツ。一般的な万年筆において、ペン軸内のインクをペン先へ届ける役割を担います)が搭載されておらず、格段に洗浄しやすいのが特徴です

パイロットの万年筆「kakuno(カクノ)」(写真手前)と並べた様子。つけペンにはペン芯(赤枠で囲ったパーツ。一般的な万年筆において、ペン軸内のインクをペン先へ届ける役割を担います)が搭載されておらず、格段に洗浄しやすいのが特徴です

つけペンの使い方はごくシンプル。手持ちのインク瓶のフタを開けて、直接ペン先を差し入れ、インクに浸すだけです。

ちなみに、「いっぱいインクを付けたら、その分いっぱい書けるかな?」なんて欲張ってインクを付けすぎると、紙の上に「ボタッ」とインクのしずくが落ちることも。せっかく書いた内容が一瞬で無に帰すのでご用心ください。インクに浸す際は、ペン先のハート穴の位置を目安にするとよいでしょう。

写真では例として、「iro-utsushi」(木軸・モクメ)を使用。ちなみに「iro-utsushi」のペン先には、ハート穴(写真右、赤で塗った部分)の横にガイドラインとなる波線が刻まれています

写真では例として、「iro-utsushi」(木軸・モクメ)を使用。ちなみに「iro-utsushi」のペン先には、ハート穴(写真右、赤で塗った部分)の横にガイドラインとなる波線が刻まれています

紙にペン先を着地させれば自然とインクが流れていく仕組みなので、筆圧をかけずに書くのがポイントです。筆記角度は、やや寝かせ気味にするのがおすすめ

紙にペン先を着地させれば自然とインクが流れていく仕組みなので、筆圧をかけずに書くのがポイントです。筆記角度は、やや寝かせ気味にするのがおすすめ

書き終えたあとは、水の中でちゃちゃっと回すだけで、ペン先の洗浄が完了。ペン先に残った水を拭き取ったら、そのまま別のインクを使用できます。

水に浸けて軽く回すだけで、ペン先の洗浄が可能です

水に浸けて軽く回すだけで、ペン先の洗浄が可能です

洗ったあとは、やわらかい布などでやさしく水を拭き取ります ※写真では「キムワイプ」を使用しています

洗ったあとは、やわらかい布などでやさしく水を拭き取ります ※写真では「キムワイプ」を使用しています

簡単に洗浄でき、複数のインクを平行して楽しみやすいです。この手軽さが魅力!

簡単に洗浄でき、複数のインクを平行して楽しみやすいです。この手軽さが魅力!

ちなみに、紙に直接触れるペン先の先端にぷっくりとしたペンポイントがくっついているのも、「万年筆のペン先」ならでは。丸い金属の玉であるペンポイントは紙の上を滑らせる際に引っかかりを防いでくれるため、滑らかな書き心地をもたらすわけです。

また、一般的に、金属製のペン先を使ったつけペンは「使っていくほどペンの先端が磨耗していき、書ける線の幅や書き味が変わってしまう」という弱点を持ちますが、今回紹介する「hocoro」と「iro-utsushi」はこの点も改善! ペンポイントは耐磨耗性にすぐれた金属が使われているため、長く愛用しやすくなっています。

赤い丸で囲った部分に見える、ぷっくりとした金属がペンポイント。書ける字(線)の幅は、このペンポイントの形状や大きさによって決まります

赤い丸で囲った部分に見える、ぷっくりとした金属がペンポイント。書ける字(線)の幅は、このペンポイントの形状や大きさによって決まります

ここまでは「iro-utsushi」も「hocoro」も、特徴が共通しており、違いがわかりにくいかもしれません。しかし、ペン先とペン軸にそれぞれ注目してみると、まったく個性が異なることがわかります!

以下では、手ごろな価格ながら“つけペンに欲しい基本要素”を押さえている「iro-utsushi」と、“マニアなこだわり”とカスタマイズ性を備えた「hocoro」の特徴を、「ペン先」と「ペン軸」の違いを中心に紹介します。

<ペン先の違い>
万年筆の書き味をライトに楽しんでみる? しなる特殊ペンで遊んでみる?

「iro-utsushi」のペン先をチェック!

「iro-utsushi」のペン先の字幅は、万年筆「kakuno」と同じく、細字「F(ファイン)」、中字「M(ミディアム)」の2種類を用意。これは、万年筆の字幅としてもスタンダードかつ、人気のラインアップです。

ペン先にはそれぞれ「F」「M」と刻印されています。なお、写真下の樹脂軸モデルは、軸のカラーによって展開している字幅が異なります(写真のクリアブラックは「F」のみ、クリアブルーは「M」のみ。ノンカラーのみ「F」と「M」の両方を用意しています)

ペン先にはそれぞれ「F」「M」と刻印されています。なお、写真下の樹脂軸モデルは、軸のカラーによって展開している字幅が異なります(写真のクリアブラックは「F」のみ、クリアブルーは「M」のみ。ノンカラーのみ「F」と「M」の両方を用意しています)

「iro-utsushi」の字幅を5mm方眼罫ノートで比較 ※インクは、パイロット「iroshizuku<色彩雫> 天色」を使用しています

「iro-utsushi」の字幅を5mm方眼罫ノートで比較 ※インクは、パイロット「iroshizuku<色彩雫> 天色」を使用しています

細字の「F」はカリカリとした硬めの書き味で、初めて「万年筆のペン先」を体験する人にも扱いやすそう。中字の「M」は、ペンポイントが大きい分、「F」よりも滑らかで安定感のある書き心地に仕上がっていました。そして線の太さがある分、インクの濃淡も楽しみやすい!

小ぶりかつすらりとしたペン先は「kakuno」を彷彿とさせる形状で、書き心地もなかなか似ている印象でした。インクフローの安定感はやはり「kakuno」に軍配があがりますが、パイロット製の「万年筆のペン先」をライトに試せるという意味では、これ以上の製品はないのではないでしょうか。

手入れの手間を理由に「kakuno」の購入を迷っている人は、まず「iro-utsushi」から始めてみるのがよさそう。また、すでに「kakuno」を愛用しているという人にとっても、インク遊び用のサブ筆記具としてアリだと思います。

「iro-utsushi」には、ペン先を保護できる半透明キャップが付属。ペンケースに入れて持ち運びも可能です

「iro-utsushi」には、ペン先を保護できる半透明キャップが付属。ペンケースに入れて持ち運びも可能です

「hocoro」のペン先をチェック

「hocoro」のペン先は、「万年筆のペン先」らしさのある「細字」のほか、“つけペンならでは”と言える特殊なペン先「1.0mm幅」「2.0mm幅」「筆文字」の4種類を用意。ペン軸とのセットのほか、ペン先単体のみでも販売されています。

写真左から「細字」「1.0mm幅」「2.0mm幅」「筆文字」。前述したペンポイントが付いているペン先は「細字」のみです

写真左から「細字」「1.0mm幅」「2.0mm幅」「筆文字」。前述したペンポイントが付いているペン先は「細字」のみです

「2.0mm幅」と「筆文字」の裏面には、インクの保持力を高める「リザーバーパーツ」があらかじめ取り付けられています

「2.0mm幅」と「筆文字」の裏面には、インクの保持力を高める「リザーバーパーツ」があらかじめ取り付けられています

「リザーバーパーツ」は別売りでも用意されており、「細字」と「1.0mm幅」のペン先に後付けすることも可能。特にインクの消費量が多い「1.0mm幅」は、「リザーバーパーツ」を付けたほうが、インクフローが安定してキレイに書けるようになると思います

「リザーバーパーツ」は別売りでも用意されており、「細字」と「1.0mm幅」のペン先に後付けすることも可能。特にインクの消費量が多い「1.0mm幅」は、「リザーバーパーツ」を付けたほうが、インクフローが安定してキレイに書けるようになると思います

「hocoro」の字幅を5mm方眼罫ノートで比較。いちばん下の「筆文字」は、「hocoro」部分はペンを寝かせて太字で、「筆文字」部分はペンを立てて細字で書いてみました ※インクは、セーラー万年筆「ゆらめくインク 戯れ心」を使用

「hocoro」の字幅を5mm方眼罫ノートで比較。いちばん下の「筆文字」は、「hocoro」部分はペンを寝かせて太字で、「筆文字」部分はペンを立てて細字で書いてみました ※インクは、セーラー万年筆「ゆらめくインク 戯れ心」を使用

「1.0mm幅」と「2.0mm幅」はカリグラフィータイプで、縦線は太く、横線は細く書けるのが特徴。また、「筆文字」は、筆記角度を寝かせ気味にすると太く、立てると細く書けるため、線に強弱を付けて遊べます。

「1.0mm幅」「2.0mm幅」「筆文字」の3つは、ペン先がふわふわと“しなる”感覚が得られ、紙の上を滑らせるのが特に楽しかったです。こういった書き味は、ペン先の形や大きさ、素材などで決まるのですが、同製品に使われているような小さなスチール製のペン先でこのような感触を味わったのは初めての体験でした。

ただ、「細字」以外のペン先はペンポイントがないので、この書き味をいつまで保ってくれるかは気になるところ。筆圧をかけないよう、やさしく扱えば大丈夫かもしれませんが、筆者だったらつい独特のふわふわ感を味わいたくて力を入れてしまいそう……。そんな心配をするぐらい楽しい書き心地でした。

ペン先は取り外して、ペン軸内に収納可能。ペン先を外すときと、ペン軸に押し込んだときには、「カチッ」とわかりやすい手応えがあります

ペン先は取り外して、ペン軸内に収納可能。ペン先を外すときと、ペン軸に押し込んだときには、「カチッ」とわかりやすい手応えがあります

ペン先収納時の長さは119mm。細身のペンケースにも余裕を持って収まりました

ペン先収納時の長さは119mm。細身のペンケースにも余裕を持って収まりました

<ペン軸の違い>
ぽってりフォルムを気楽に持ちたい? くびれフォルムをこだわって持ちたい?

「iro-utsushi」のペン軸をチェック

「iro-utsushi」のペン軸は、クリアカラーの樹脂軸と、ハードメイプル材を使用した木軸をラインアップ。樹脂軸は「クリアブラック」「クリアブルー」「ノンカラー」の3色、木軸は「モクメ」「ブラック」の2色をそれぞれ展開しています。

全長は、写真上の樹脂軸が144mm、写真下の木軸が156mm。ちなみに木軸は一部フラット面が作られており、机の上などの平面に置きやすいです

全長は、写真上の樹脂軸が144mm、写真下の木軸が156mm。ちなみに木軸は一部フラット面が作られており、机の上などの平面に置きやすいです

樹脂軸が下に向かってぷっくりふくらんだようなフォルムなのに対して、木軸はなだらかなくびれがあるフォルム。ただ、実際に木軸を手に持ってみたところ、くびれの存在感はさほど強くなく、ゆったり持てる印象でした。

形状からもわかるとおり、重心はペン先に寄っていて、持ち心地は「軽量なボールペンを持っている」感覚に近かったです。ぷっくりしたフォルムも手伝って、これなら指を置く位置を選ばず、気楽に握れそう。「インクは好きだけど、ほかの文房具にはこだわったことがない」といった人にも向いていると思います。

樹脂軸の最大径は10.7mm。クリア樹脂と華奢なシルエットがマッチしていてかわいいです。これで1本770円(メーカー希望小売税込価格)は驚き!

樹脂軸の最大径は10.7mm。クリア樹脂と華奢なシルエットがマッチしていてかわいいです。これで1本770円(メーカー希望小売税込価格)は驚き!

木軸の最大径は12.2mm。筆者の手のひらは手首上から中指の先まで約17.5cmと大きめですが、ゆったり持てる印象でした

木軸の最大径は12.2mm。筆者の手のひらは手首上から中指の先まで約17.5cmと大きめですが、ゆったり持てる印象でした

「hocoro」のペン軸をチェック

「hocoro」のペン軸は、クッキリとしたくびれが印象的。本体カラーは「シロ」と「グレー」が販売中で、2023年3月25日から新色「クリア」と限定色「クリアブラック」が発売されています。本稿では「シロ」と「グレー」の軸を触ってみました。

本体の長さは、筆記時(写真上)が135mm、ペン先収納時(写真下)が119mm。ペン軸の先端と後端にしっかりとしたフラット面が作られており、平面に置いてもコロコロ転がりません

本体の長さは、筆記時(写真上)が135mm、ペン先収納時(写真下)が119mm。ペン軸の先端と後端にしっかりとしたフラット面が作られており、平面に置いてもコロコロ転がりません

軸はプラスチック製ですが、実際に触ってみてびっくり! よくあるツルツルした質感ではなく、ほんのりマットな質感なんです。しっとりした触り心地で、手によくなじみます。

そして、くびれ部分より後ろ、ペンの後端にしっかり太さがあるのもポイント。握ると、指のつけ根側にペンが乗っかってくるような感覚があり、つけペンに適した「やや寝かせ気味の筆記角度」と「筆圧をかけない書き方」が自然にできるようになっていました。

指を置く位置は固定されてしまいそうですが、それゆえに、持ち方に慣れるとフィット感が抜群! 普段から重たく太い万年筆を使っている筆者は、つけペンのような軽く細い筆記具はちょっと心もとなく感じてしまうのですが、「hocoro」は持っていて安心感がありました。

軸の直径は10.7mm。軸の後端(写真のブルー部分)が太くなっており、リアヘビー気味です

軸の直径は10.7mm。軸の後端(写真のブルー部分)が太くなっており、リアヘビー気味です

<まとめ>
筆記具好きのコレクションなら「hocoro」、インク好きへのプレゼントなら「iro-utsushi」がおすすめ

随所にこだわりが光る「hocoro」、シンプルに“ビジュがいい”「iro-utsushi」。インク遊びがはかどってしまう……!

随所にこだわりが光る「hocoro」、シンプルに“ビジュがいい”「iro-utsushi」。インク遊びがはかどってしまう……!

「hocoro」の魅力は、使うたびに「ここにも工夫が! こんな配慮も!?」と驚く奥深いこだわりと、豊富な種類のペン先や後付けできる「リザーバーパーツ」が用意されているカスタマイズ性。つけペン特有の持ち方に配慮されたペン軸は、ペンの持ち心地に一家言ある筆記具マニアにもぜひ触ってほしいぐらい。文房具好きなこだわり派にはこちらが断然おすすめです。ペン先を付け替えてさまざまな描写を楽しめるので、文字アートを楽しみたい人にも向いていると思います。

「iro-utsushi」の魅力は、ひと目で「もう、好きになるしかないじゃん……!」と文句すら言いたくなるデザイン性と、パイロット製の「万年筆のペン先」をカジュアルに楽しめるとっつきやすさ。そして、価格が手ごろ! インク以外の文房具にこだわりがなく、とりあえずコスパよく品質のよいつけペンを試してみたいなら、こちらで決まりでしょう。インクの小瓶と合わせてラッピングし、「インク沼&万年筆沼へようこそセット」にして人へのプレゼントするのもよいと思います。

和田 友梨(編集部)

和田 友梨(編集部)

万年筆、インク、紙を肴に飲む辛党ライター。チカチカ点滅するモニター画面や丸い押しボタン、ローレット加工を施したダイヤルなど、レトロチックなデザインにロマンを感じます。

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