本連載は、文房具ライターのきだてたくが、「価格.comマガジン」の編集担当者に、便利な文房具をリモートで必死にプレゼンする様子を実況。もし紹介された製品の中で「欲しい」と思うものがあったら、それを編集担当者が実際に購入!……という自腹買い企画です。
第23回は、「こだわりの強い高級筆記具」をテーマに、3製品をプレゼン!
「価格.comマガジン」の編集担当・マキノ(左)に対し、文房具ライターのきだてたく(右)が、プレゼン!
実は2023年2〜3月にかけて、筆記具がちょっと面白いことになっていたんですよね
面白いことって言われても、何が何やらなんですけども。具体的にどういうことになったんですか?
あの時期って、新入学や卒業プレゼントによさげな“お値段高め筆記具”が発売されがちなんですが、今年はそういった新製品が妙にピーキーだったというか……こだわりポイントが極端にトガっていたというか
へー、何だか興味深いじゃないですか
こだわりの強い筆記具って、もらうとうれしいのは当然なんですが、逆にプレゼントするほうとしても、「ここがね、こうなってて……」みたいなウンチクを語るのが超楽しいんですよ。なので、贈るほうと贈られるほうがWin-Winなんです
いいですね。そういうの好きな人も多そうだし。僕は贈るんじゃなくて自分用に買いますけども
それもまたヨシですよ
この連載のせいで延々と私物の文房具が増えていくんですよね……
まぁまぁ。結果として便利になるんだから、プラマイで言うとプラスしかないじゃん
マキノさんは、トンボ鉛筆の「Z00M(ズーム)」シリーズって知ってます?
いや、知らないです
1980年代の中頃から発売されているシリーズなんですが、デザイン的に少し変わってるというか。いわゆるデザイナーズアイテム感のある、オシャレ系のペンなんですよ
1980年代ですか。だいぶ前からですね
リブランディングされた最新シリーズ「ZOOM C1」(トンボ鉛筆)。ボールペン(0.5mm、0.7mm)のほか、シャープペンシル(0.5mm)も展開しています
そう、古いんですよ。なので今回、「シリーズをリブランディングしよう」という流れになって、3点ほど新製品が発売されたんですね。そのなかでも、いちばんお高くて面白いのが、「ZOOM C1」です
ほほう……
最大のポイントは、このノックのとこ
えっ、何これ。ノック、浮いてますよね。どうなってんすか?
ね、変でしょ、これ(笑)
浮遊感のあるノックパーツが最大のポイントです
透明パーツを挟んでるとか?
そう見えるような角度があるんですけど、実は、クリップパーツで軸本体とつながってるだけなんです
じゃあ、本当に“浮いている”んだ! わーすごい、オッシャレー!
トンボ鉛筆は「空白をノックする」みたいなカッコよさげなこと言ってますけどね。デザインでうまく浮遊感を出してるんですよ。しかもデザインだけじゃなくて、軸の素材も割とピーキーでして
軸の素材ですか。普通に金属軸っぽく見えるんですけども
うん。金属は金属なんですけど、「ジュラルミンA2017」っていう、ロケットや飛行機の部品にも使われる、すごい軽くて頑丈な合金を使ってるんです
「ジュラルミンA2017」に難度の高いアルマイト加工を施した、非常に手間のかかっているボディ
ジュラルミンって、ペン軸には使われないんですか?
過去になかったわけじゃないんですけどね。でも、加工が異様に難しいので、好んで使いたがるメーカーはないと思いますよ
そこまでして、なんでジュラルミンを使うんですかね
そりゃやっぱり、デザイナーのこだわりの部分なんじゃないですかね。あと、「ジュラルミン製」って響きだけでも、ちょっとカッコいい気がしません?
うーん、それはわかる
あと、書き味もいいんだ。低粘度油性インクを搭載してるんですが、先端ボールがハメ込まれている「座」という部分が、従来モデルよりちょっと広く(約102%)なってるんです
「ZOOM C1」用低粘度油性リフィルは、滑らかながら落ち着いた高級感のある書き味です
そう聞いてもよくわかんないな。何が違ってくるんですか
これのおかげで、筆記角度によってボールが「座」からズレにくくなったので、インクの量が安定しました。つまり、線幅が常に均等になるという……いや、正直なところ、だいぶ感覚的な話だと思うんですけどね
そこもまた、こだわりなんですかね。こだわり強いなー
次は、三菱鉛筆から発売されたシャープペンシルを紹介しましょう
三菱鉛筆のシャープと言えば、「クルトガ」シリーズですよね
そう。今回紹介するのは「クルトガ ダイブ」と言うんですが、これが「クルトガ」シリーズの最高級モデル……というか、あまりにも独特すぎて“孤高の存在”っぽくなってるんですよ
何ですかそれは。また気になるの出てきたな
「クルトガ」シリーズの最高級モデル「クルトガ ダイブ」(三菱鉛筆) ※写真は2022年発売の限定版
実はこちらは昨年2022年に限定発売されたものなんですが、定価で5,500円(税込)という価格にも関わらず、マニア間ですごい争奪戦が起きたほどの超人気作。で、今年2023年3月に、ついに継続販売されることになりました
これってキャップ式なんですか?
そう。キャップ式のシャープペンシルという、ちょっと変わったやつですね。キャップを外すと……今、ペン先からちょっとだけ芯が出てるの、わかります?
はいはい、ちょうど書きやすそうなぐらいに芯が出てますね
ノックボタンを押して、この芯を軸本体に戻します。さらに、キャップを被せます。……で、もう1回、キャップを外しますね
え、きだてさん、何がしたいの?
ほら、見て見て。ペン先見て
……? あれ、もしかして、芯が出てます? さっき戻したのに
キャップを外すたびに常に最適な長さの芯が出る、非常にユニークなギミック
実は「クルトガ ダイブ」は、キャップを外すと、ちょうどいい長さの芯が自動で出てくる機構を搭載してるんです
へぇー! 面白いギミック
さらに、書き始めると、芯が減った分だけオートマチックで繰り出されます。だから、芯が1本なくなるまで、ずーっと書き続けられる
ノックボタン、いりませんね
だって、書くときにキャップを軸後端にかぶせたら、もうノックボタンを押せなくなるでしょ。三菱鉛筆の「ノックなんか意地でもさせねぇ」という決意の表れですよ
キャップを軸後端に装着すると、ノックは当然できなくなります。でも、オートマだから問題なし!?
そういえば、前にこの連載で僕が買った「オレンズ AT」(ぺんてる) もオートマでしたよね
オートマはオートマなんですけども、実はちょっと方式が異なります。「オレンズ AT」のオートマは、芯をカバーする金属パイプが紙に触れて押し下げられて、それがバネで元の位置に戻るときに一緒に芯も押し出される、というものです
はい、なんかそういうようなことは聞きました
ただ、それだと、パイプのカドが紙に当たって、ちょっと「ガリッ」となっちゃう。あれが気になるという人もいるんです
でも、それは仕方ないのでは
「クルトガ ダイブ」はひと味違うんですよ。書いていると芯が減るでしょ。その減りを先読みするように、自動的にパイプも短くなっていくんです
えっ、どういうことですか、それ。怖っ。何だかとんでもない技術が詰まってません?
芯の減りとともにパイプも後退するため、「ガリッ」とした引っかかりを感じずに筆記が続けられます
で、ある程度短くなると、一気にパイプが伸びて、同時に芯も出る。これが「クルトガ ダイブ」のオートマ機構です
不思議ー!
「クルトガ」って、ペン先が紙に触れるたびに、少しずつ芯を回転させて、片減りを防ぐシャープペンシルですよね。その回転させるエネルギーを使って、パイプを少しずつ引き込みながら、いいタイミングでシュパッと伸ばす! ということをやってるんです
そう聞いても、何をどうやってんのか、全然わかんないっす
あまりにも機構が複雑すぎて、僕もわかりやすく説明する自信はないです(笑)
最後はまたボールペンに戻って、ゼブラの「サラサナノ スモークカラー」を紹介しましょう。2023年3月9日からの数量限定発売です
「サラサナノ」って、一昨年ぐらいに発売されたボールペンですよね
ゼブラ「サラサナノ」から数量限定で発売された新色「スモークカラー」の4色!
そう。ゲルの0.3mm径という超極細タイプなんですが、軸の内部に「うるふわクッション」というサスペンション機構を備えてるので、紙の繊維などの細かな凹凸も気にせず滑らかに書ける、というものでした
そうそう、細いゲルインクのペンって、ガリガリしがちなんですよね。それが気持ちよくサラサラと書けるという
ノック部に備えた「うるふわクッション」の効果で、極細ゲルなのにガリガリ感なくサラサラ筆記できます
今回は、その「サラサナノ」にインクの新色が入りましたよ、ということなんですけども
それは普通でしょ。全然ピーキーじゃない気が
いや、めちゃピーキーですって。ほら、この新色で書いたやつを見て
見てと言われても……。何か書いてあるのはわかるんですが、色が薄すぎてよく見えないですって
「何か書いてあるな……」とギリギリ認識できるぐらいの超マイルドカラー
そう、それ! この「スモークカラー」のインクは、とにかく薄くて見えづらいのがポイントなんだ
えっ、それに何のメリットがあるんですか。完全に意味不明ですよ
ほら、たとえば、カフェとかで手帳を開いて、プライベートなことを書くときとか。周りに見られるのがなんかイヤなシチュエーションってあるじゃないですか
まぁ、確かにそういうときありますよね
そんなときに、この「スモークカラー」が最適なんですよ。「書いてる自分にだけギリギリ読み取れて、周りからはまず見えない」という、絶妙な薄さにチューニングされてます
うわー、めちゃくちゃこだわったことをやってた!
本来は「サラサ」シリーズって、くっきりとした鮮やかな発色がウリのひとつなんですよ。わざと薄い色を作るなんて、社内でも相当にもめたと思うんですよ
でしょうね。僕がゼブラの社長だったら止める気がします
まぁ、普通はそうよね。おそらく、「読みづらさ」をテーマに作られた世界初のボールペンでしょう。全部で4色あって、「スモークピンク」と「スモークブルー」はまだギリ読めるんですが、「スモークカーキ」はかなりキツいし、「スモークオーカー」に至っては……
うーん、読めません!
比較用のブラックインクと比較すると、あまりのアッサリさに驚きます
これも、若い人なら問題なく視認できるのかもしれませんけど、僕らアラフォー/アラフィフ世代の網膜には厳しいです。ほら、音の世界でも、若い人にだけ聞こえる音ってあるでしょ
モスキート音ってやつですね。そうか、これはいわゆる「モスキート色」なんだ。おじさんおばさんに見えないインク
たとえば社内でも、横から手帳を盗み見てアレコレ言ってくるおじさんって、いそうじゃないですか。その対策としては正しいと思いますよ
ところで「サラサナノ」って220円(税込)ですよね。別に高級筆記具ではないような……?
何言ってんですか。そもそも「サラサ」は、いわゆる「100円ボールペン」じゃないですか。その倍もするんだから、ゼブラとしてはかなり高級ラインでしょ
うーん、そうかなあ
どうですか。今回はこだわり強めな高級筆記具をまとめてみましたけども。気になるのはありましたか?
個人的には「ZOOM C1」ですかね。大人のペンって感じでかっこいいし。僕も40代になったことで、いつも安いボールペンばかり使うのもナニかなぁ、と
そうね。ちょっと落ち着いた高級ラインのペンは持っておくといいかもね
会議のときとか、人前で使うのに恥ずかしくない1本が欲しいな、という気はしてたんですよね
そういうことなら「ZOOM C1」はドンピシャじゃない? 落ち着き感があるし、そのうえ「ノックが浮いてる」という特殊なビジュアルも話のタネになりそうだし
「軸のジュラルミンが……」とかも言えますしね。今のご時世でこういう言い方をするのもよくないかもですけど、男子って大体ジュラルミンが好きじゃないですか
なんだ、その決めつけは(笑)。でも、自腹で大丈夫? 「ZOOM C1」は定価で7,700円(税込)もしますよ?
うーん、考えます!
悩みに悩んで、7,700円の「ZOOM C1」を自腹買い! 自宅に商品が届いて、まずやはり浮いているノック部にビックリしました。元々知っていたのに、何だかマジックショーを見ているかのような“違和感”が楽しめます。そして、手に持ってまたビックリ。見た目の重厚感からは想像できない軽さです。また、ボディのサラサラ触感も高級感を演出しています。最後に書いてビックリ。“ちょうどよいヌルヌル”な書き味で、ちゃんとした筆記から雑な走り書きまで気持ちよく文字が書けます!
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。