本連載は、文房具ライターのきだてたくが、「価格.comマガジン」の編集担当者に、便利な文房具をリモートで必死にプレゼンする様子を実況。もし紹介された製品の中で「欲しい」と思うものがあったら、それを編集担当者が実際に購入! ……という自腹買い企画です。
第26回は、「いい感じのボールペン」をテーマに、3製品をプレゼン!
「価格.comマガジン」の編集担当・マキノ(左)に対し、文房具ライターのきだてたく(右)が、プレゼン!
文房具ライターなんてやっていると、ボールペンの相談に乗ってほしいなんてことをよく言われるわけですよ
ああ、ありそうですね
ただ、それが「なんかいい感じのボールペンないですかね?」みたいな聞かれ方をするから、困っちゃうんだ。何なんだ、「いい感じのボールペン」って
要するに、「特にボールペンにこだわりはないんだけど、何かすぐれたボールペンがあるなら使ってみたい」という内容をざっくりまとめて「いい感じ」と言っているんでしょうね
分析すればそうだと思うんだけど、そしたら、じゃあどの部分がすぐれていればいいの? という問題が出てくるでしょ。書きやすいのか、見た目が高級そうなのがいいのか、すごい機能が付いてるのがいいのか
あー、なるほど。そこは人それぞれありそうだな
なので、今回はいろんな意味に対応した「いい感じ」のボールペンを紹介していこうかなと思います
いろんな意味で「いい感じ」というのも、めちゃくちゃフワッとした表現ですね
で、「いい感じのボールペン」で何を紹介しようかな……と考えた結果、なんと3か国に分かれました
えっ、海外製品もあるんですか
日本製のももちろんありますけど、今回は韓国製と台湾製のペンも取り上げます。アジア代表の「いい感じのボールペン」3種ってことで進めていきましょう
韓国も台湾も、文房具で意識したことがない国かもしれません
いやー、今の韓国と台湾は文房具がめちゃくちゃ面白いですよ。たとえば「韓国文房具」なんて、SNSのトレンドワードになってたりするぐらいで
へー、それは知らなかったな
じゃあ最初はその韓国製のボールペンで、「書き味がいい感じ」のものを紹介しましょう。「ZERO G BALL ∠15°(ゼロジーボール15度)」と言います
え、何これ。ペン先が曲がってる?
昔のコンコルド旅客機みたいな曲がり方をしてるでしょ。名前のとおり、ペン先が15度傾いているんだけど、この角度が書き味に効いてくる、ということですね
あっ、ノックしたらペン先がちゃんと斜めに出てきますね。おもしろー!
先端が15度傾いたフォルムがユニークな韓国発の油性ボールペン「ゼロジーボール15度」(インターアクト)
ボールペンで書くときの角度って大体、ペン先が紙に対して60度ぐらいになっているんですけども。理屈の上では、ペン先が紙に対して垂直に当たるのが、最も動きのロスが少ないんです
斜めだと、先端のフチが紙に当たってガリガリするとか、そういうのもありますよね
だけど、ペンを垂直にしちゃうとめちゃくちゃ握りづらいし、書きにくい。なので、ペンの先のほうだけグニッと曲げて角度を付けちゃえばいいのでは? という発想ですね
そうか! 60度+15度で75度になるってことですね
普通に握った状態でも、傾いている分だけ、ペン先は鋭角に紙に当たっています。ボールが効率よく回るためか、筆記感はかなり軽め
実際に書いてみると、この+15度というのが効果てき面な印象なんですよ
効いてますか
普通にグリップして書こうとすると、いつもより軽い力で紙に当たる感じなんですよ。本当に手を添えるぐらいの力で書けちゃうので、筆圧をかける必要を感じない。インクも低粘度油性ですごく滑らかだし、思っている以上にスムーズにペン先が動く印象ですね
とは言え、ペン先が下を向くように正確に握らないと、変な角度で傾いちゃって書きにくいんじゃないですか?
おっ、いいところを突きますね。でも大丈夫、グリップのところを見てください。ちょうど、親指と人さし指の当たる部分が、丸みのある三角軸みたいになってるでしょ。これで、指の当たる位置が自動的に決まるというわけ
なるほど、ちゃんとペン先が真下を向く位置で握れるのか。うまいこと考えられているんですね
握った際に口金が常に下向きになるよう、グリップのカットで指の当たる位置を固定する仕組み
通販のレビューを見ていると、「強い筆圧をかけたら壊れた」なんて話も出ていたんですが、そもそもこのペンは、筆圧をかけなくても書けるのがメリットなので。そこは単に使い方を間違えているだけの気もするね
適した使い方で普通に使う分には問題ない、と
1つめから面白かったですけど、デザイン的にちょっと安っぽい雰囲気なのが気になりました。僕もイイ大人なので
じゃあ、次は「デザインがいい感じ」のものを紹介しましょう。実はここ数年、文房具界隈では「台湾文房具ってオシャレでいいよね」と話題になっているんですよ
そうなんだ。そう言われると気になりますね
こちらは台湾のIWIというメーカーが作っているデザインペンで、「マルチ611」といいます
おっ、なるほど。確かにこれはシンプルでかっこいいな
ソリッドな美しさが魅力の台湾発多機能ペン「マルチ611」(IWI)
台湾って昔から、世界中のいろんな筆記具メーカーのOEMを請け負っているんですよ。で、近ごろはそこが独自製品を作り出して話題に、という流れで。IWIもそんな老舗OEMメーカーのひとつですね
ははーん。そもそも製品の技術的に間違いがないってことですか
そういうこと。加えて、今の台湾デザインって全体的に“ハイセンス・オリエンタル”って雰囲気で、目新しいんですよ。僕も台湾のストリートファッションブランドとかチェックしてますし
そんなことになっていたんですね。知らなんだー
それで、この「マルチ611」なんですが、フルメタルなのにソリッドじゃないというか、やわらかな雰囲気がとてもいい
割と高級感もありますよね
しかも、これで3,000円しないから! お得でしょ
プレゼント用にもぴったりじゃないですか。年齢性別問わずよろこんでもらえる感じで
機能面の話をすると、製品名にも出ているとおり、多機能ペンなんですね。黒・赤の2色ボールペン+シャープです
筆記の切り替えは軸中央をひねって行います。見た目優先だからか、今どのペンが出ているのかはちょっとわかりづらい
えっ!? 全然気づかなかった。軸、めっちゃスリムじゃないですか。多機能ペンの太さじゃないでしょ
直径が約10mmなので、普通の単色ボールペンと同じか、むしろ細いぐらいですね。この後、軸をひねって回すと、黒・赤・シャープと切り替わってペン先が出てきます
細い軸の中にだいぶ詰め込みましたねー
一般的な3色ペンと比較すると、「マルチ611」のスリムさが際立ちます
国産だと、多機能を細い軸に詰め込むのはパイロットが得意としている技術なんですけど、台湾メーカーもまったく負けてないよね。それでいて、デザインはこのオシャレさ。これはモテるやつですよ
なるほど、これは「いい感じのボールペン」って言って間違いないですよね。コスパもめちゃ優秀だし
最後は我らが“サムライブング”ですよね
「サムライブルー」っぽく言ってますけど、とりあえず「機能がいい感じ」のペンということで、サンスター文具の「mute-on(ミュートン)」を紹介しましょう
「機能がいい感じ」って、結局のところ、どういうことなんだろう
ボールペンの機能にもトレンドってあるわけですよね。これまでだと低粘度油性インクだったり、軸の低重心化だったり。そういったトレンドの最先端を踏まえているのが、「機能的にいい感じ」なんじゃないかなと
なるほどー。で、今のペントレンドって何なんですか?
今のボールペン界隈のトレンドと言えば、静音ノックですよ。ノックしたときの「カチャカチャ」音を抑えているの。近ごろは、どのメーカーも静音ノックのボールペンを出してきていますね
今のゲルボールペンで人気の要素を詰め込んだ「ミュートン」(サンスター文具)
あ、わかった。製品名の「ミュートン」って、英語の「無音」のミュートから来ているのかも
そう。さすがに「無音」と名乗っているだけあって、今の国産静音ペンの中では、まずトップクラスにノック音が静かです
そんなに?
従来の静音ボールペンって、ノックしたときにクリック感がないとユーザーが気持ち悪がるので、わざと少し「カチッ」と音と感触が残るように仕上げてあるんですね。対して「ミュートン」は、ガチで静音機能に全振りしているので、本当に静か
一般的なノック式とはまったく違う独自のノック機構を搭載しています。中央のオレンジ色のパーツが超静音のヒミツ!?
クリック感なし?
うん、ほとんどなし。静かなオフィスで使っても、よほど近くで耳を澄まさない限りはノックが聞き取れないと思います
そんなレベルか……! 今メーカーのサイトを見たら、ノック音が38.6dbって書いてありますね
騒音の基準値で言うと、30db台は郊外の深夜とか、落ち葉の音ぐらいですね。40db以下は「睡眠に影響を与えない音量」とされています
落ち葉の音(笑)。それは相当に静かだな
独自のノック機構でめちゃくちゃ静か。あともうひとつ、最近のゲルインクボールペンのトレンドとして、インクフローのよさがあげられます。つゆだく系なんて言い方をしますが、まぁインクがたっぷり出て、サラッサラの書き味なんですよ
つゆだく系インクでサラーッと爽やかな書き味が楽しめます
なるほど、書き味もトレンドをばっちり押さえているんだ
くっきり濃い発色のインクがたっぷり出ます。最強の静音ノックと合わせて、まさに2023年の最新鋭ボールペンって感じなので、これは買わないとだめなやつだと思いますよ
うーん、確かに三者三様というか、3モデルごとに異なる「いい感じ」がありますね。悩むなー
とりあえず、書いてみたいと思ったのはどれ?
それはもう「ゼロジーボール15度」でしょ。今までのボールペンとは明らかに違う感じじゃないですか。興味ありますよ
「ゼロジーボール15度」だと、ボール径が太めのモデルが特に筆圧少なく書けて楽しいですよ。0.7mmとか、1.0mmとかね
おっ、それはいいですね。僕は元々0.7mmぐらいの太さで走り書きするのが多いので
文房具ライターとしては、「ミュートン」で今のペントレンドを体感してみてほしいなというのもありますけどね。あと、モテたいなら「マルチ611」
あー、確かにそれもあるなー。うーん、どうしよう。考えます
結局、「2023年の最新鋭ボールペン」という言葉に惹かれて、「ミュートン」を自腹買い! ノック音、本当に静か!! 小さく「シュイッ」って音がするだけで、クリック感もゼロで今までにない不思議な感じ。ノックしてペン先を出したときに、クリップが軸に収納されるギミックも男心をくすぐりました。インクフローも抜群! ヌルヌルスルスルな筆記感が好きな人にはぴったりです。また、本体カラーのネーミングもすてき。今回は薄いブルーの「鯨の居眠り」をセレクトしましたが、「セピアの午後」「浜辺の小瓶」「象のねごと」も気になりました
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。