連載
身近なお金の失敗談

事業の失敗で借金3億円! 10年がかりで再起した男が失敗から得た教訓とは?

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お金にまつわる失敗談は枚挙にいとまがなく、誰しも痛い目にあう可能性がある。本連載では、過去(もしくは現在進行形で)、お金で手痛い思いをした人々を直撃。リアルな体験談を根掘り葉掘り聞き、その経験から得た反省や学びを語ってもらう。彼らの話が、お金で大きな失敗をしないために役立てば幸いである。

今回お話を伺ったのは、個人で建築・解体業を営むUさん(59歳・関東圏在住)。表情は温和で物腰もやわらかく堅実そうなイメージ。お金で過ちを犯すタイプには見えない。しかしUさん、50歳間近で突如、約3億円の負債を抱えてしまい、自己破産を経験したという。

Uさん。普段は冷静な口調だが、自己破産した過去に触れる際は表情に悔しさがにじむ。一体何があったのか?

Uさん。普段は冷静な口調だが、自己破産した過去に触れる際は表情に悔しさがにじむ。一体何があったのか?

(※人物の特定を避けるため、エピソードの一部を加工しています)

50歳を目前に3億円の借金…、自己破産で人生のドン底に

Uさんは、ギャンブルで借金を背負ったのではない。事業によるもので、大口の取引先から不渡りを出されたことが原因だ。

「40代後半で建築関連の会社を立ち上げた当初は順風満帆でした。顔が広かったので仕事に困らず、自分と家族を食べさせていくには十分な収入でしたから」

いま思えば、その頃の仕事量や収入くらいが「自分の身の丈に合っていた」とUさん。状況が変わったのは40代最後の歳を迎えたころだ。突如ある会社(仮にA社とする)から“大きい仕事”が舞い込んだ。

「可愛がっていた大工がいてね、彼がA社を紹介してくれたんです。飲食からアミューズメント施設まで手広く手掛けている会社で、商業ビルの外構工事から造成工事まで一手に引き受けることになった。そうしたら、そこの代表に気に入られて、どんどん仕事を頼まれました。A社が建てるビルの外構工事の7割はうちがやっていたと思います。1棟につき1億円くらいの規模の仕事で、最初は良かったんですよ。金払いもちゃんとしていましたし。でもね・・・」

Uさんの経営する会社は、A社が開発する商業ビルの造成工事や外構工事を一手に引き受けていた

Uさんの経営していた会社は、A社が開発する商業ビルの造成工事や外構工事を一手に引き受けていた。写真はイメージ

「あの日」の衝撃はいまでも忘れられないとUさん。その知らせは、家族旅行で訪れていたハワイに届いた。

「いきなり羽振りが良くなったもんで、友達や家族を連れてハワイで豪遊していたんです。そしたら、メインバンクの支店長から電話があって、すぐに銀行に来てくれと。『まさかA社が不渡りを出したんじゃないでしょうね?』って冗談で軽口をたたいたら『そのとおりです』って。当時、未回収の手形が3億円あったので、『ああ…もう終わったな』と」

その後、しばらくは踏ん張ったものの、3億円もの負債は如何ともしがたく自己破産。自宅や土地、車を含むすべての資産が競売にかけられ、一家は追われるように地元を離れた。

「断定はできないけど、計画倒産なんじゃないかと疑っていました。最後のほうはA社からの支払いもずっと滞っていて、手形を乱発していましたから。死ぬほど働かされたんですけどね…。当時は24時間のうち20時間は現場にいて、オールナイトで仕事した。雪の中でも作業しましたよ。下請けには非常に厳しい会社でしたね。そんなふうに現場に張り付いていると、いろんな情報も入る。この会社、危ないんじゃないかって何度も思いました。でもね、『いまここでやめると売掛金が回収できなくなる』と思って立ち止まれなかった。あのときもう少し自分を強く持っていればと、いまも悔やんでいます」

1日20時間も働いたにもかかわらず、経営していた会社は3億円の借金を抱えて倒産。自己破産によって、家や車など、すべての資産がなくなった。写真はイメージ

債権者を集めて訴訟に持ち込むも、結果は……

しかし、このまま泣き寝入りはできない。Uさんは、数十社に及ぶ債権者を束ねて組合を作り、A社に対して訴訟を起こした。

「でも、負けました。ない金をみんなで集めて、立派な弁護士にお願いしたんですけどね。A社は企業訴訟のスペシャリストを立てて、ガチガチに戦略を固めてきた。『何とか奮起しようと頑張ったけど、マイナスを埋めきれずに民事再生法に頼った』と。裁判官っていうのは予断を持たず、両者から提出された書類しか見ない。我々が寒空の下、徹夜で働き続けたことなんて関係ない。悲しかったですね…」

裁判において、Uさんにはいまも脳裏に焼き付いて離れない苦々しい記憶がある。それは、とある人物の信じられない行為だ。

「最後の証人尋問に臨んだとき、俺にA社を紹介した、可愛がっていた大工が相手側の証人として出廷していました。信じられないことに、彼はこう言ったんです。『私はUさんなんて紹介してない。見たことも会ったこともありません』って。もうね、怒りで全身が震えましたよ」

人生のドン底でも、仲間に支えられてはい上がる

楽しい旅行から一転、人生のドン底を味わうこととなったUさん

楽しい旅行から一転、人生のドン底を味わうこととなったUさん

しかし、Uさんにとって救いだったのは、共に裁判を闘った仕事仲間や友人たちが、その後も離れず支援してくれたこと。

「裁判に負けた直後は、まったく別の業界でサラリーマンをやろうと思っていました。でも、以前と変わらず、『解体の仕事があるから見積もりをしてくれ』って連絡をくれる仲間がいたんです。なら、また頑張ろうって。妻にもずいぶん苦労をかけたから、早く復帰して100円でも200円でも家に持って帰ろうと思った。そこから10年弱、コツコツやってきて何とか軌道に乗ってきました。自己破産以来、家族もぎくしゃくしていたけど、あと2年もすれば妻や子どもたちの笑顔を取り戻せるんじゃないかな」

一度破産してしまうと、その後はお先真っ暗。世を忍び、ひっそりと余生を消化する。一般的にはそんなイメージではないだろうか。だが、いまのUさんに悲壮感はまるでない。むしろ、人生まだまだこれからとばかり、さまざまなことにトライしている。

「友人が埼玉に山林を持っていたから、そこを借りて『DASH村』(※日本テレビ『ザ!鉄腕!DASH!!』の人気企画)を作ろうと思ったんですよ。パワーショベルで畑を耕して、寝泊まりしながら自給自足しようと。鶏舎を建てて烏骨鶏(ウコッケイ)を飼い、その卵を道の駅で売ったら儲かるかなとか。まあ、それは事業というより遊びとしてね。遊びがないと、張り合いがないでしょ。いつまでもマイナスのことを考えていたって仕方ないから、いつも何か楽しいことを探しています。友人からは、こんな能天気な破産者はいないってあきれられますけどね」

確かに能天気…、いや前向きだ。聞けば、人生において師と仰ぐ人物が3人いるという。

「映画『男はつらいよ』の寅さん(車寅次郎・主人公)、マンガの『こち亀(こちら葛飾区亀有交番前派出所)』の両さん(両津勘吉・主人公)、そしてタレントの高田純次さんです。彼らの、いい加減で破天荒な生きざまに憧れます。僕も何かもう一花、面白いものを残して死にたいと思っている。子どもたちに『アホな親父が最後にこんなことやったよ』って、葬式であきれてもらうのが理想ですね」

身の丈に合わない欲を出すと、必ずしっぺ返しをくらう

そんなUさんだが、最後に失敗から得た教訓を真面目に語ってくれた。

「まず、注意深くなりました。危なそうな話には飛びつかなくなった。特に、『簡単にもうかる』などの景気のよさそうな案件は要注意。話を持ってきた会社のことを探偵並みに調べまくって、絶対に安心できると確信を持てなければやらない。なんせ、高すぎる授業料を払いましたからね…」

また、失敗以降、心がけていることがある。それは「身の丈に合った仕事をする」というものだ。

「個人事業主や経営者に言いたいのは、規模が大きい仕事にホイホイ飛びつかないこと。身の丈に合わない欲を出したら、その分だけしっぺ返しを必ずくらいます。年商1000万円の会社に3億円の依頼が来たとしたら、それはほかがやらないブラックな案件かもしれない。あるいは、小さい会社だからと、だまそうとしているのかもしれない。この世には怪しいブローカー、ペテン師がうようよいます。器量を超えた1億円の仕事をやるより、100万円の仕事を100個やったほうがいい。山師になってはダメですよ」

そう語るUさんの顔は生き生きと明るく、失敗を糧に「いい仕事」ができている充実感がみなぎっていた

そう語るUさんの顔は生き生きと明るく、失敗を糧に「いい仕事」ができている充実感がみなぎっていた

取材を終えて…

ちなみに10年前、A社に訴訟を起こした仲間たちはいま、Uさん同様、地道に頑張っているという。Uさんいわく「地獄を味わった人間は強い。必ずはい上がってきます」。自身もドン底にあったUさんだからこそ、その言葉は重く、説得力がある。再起のカギはUさんのように、必要以上にふさぎ込まず、あっけらかんとしていること。そして、同じ轍をふまぬよう、注意深く物事を見定めることなのかもしれない。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
ツイッター: @noriyukienami
ホームページ:https://www.yajirobe.me/

※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。

榎並紀行

榎並紀行

1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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