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認知症700万人時代。2025年には、65歳以上の高齢者5人に1人が発症

「家族が認知症に」そのときに備えて知っておきたいお金と保険の話

認知症高齢者の増加が、身近な問題として社会問題になりつつあります。家族の介護のために、仕事を辞めざるを得ない「介護離職」という言葉もよく聞かれるようになってきました。
親や配偶者、あるいは自分自身が認知症になったらどうしたらいいか、お金はどれくらいかかり、そのお金の備えはどうすればいいか。そんな不安を感じている人もいることでしょう。でも、「知ること」と「備えること」で不安は緩和されます。認知症に関する公的制度とお金、保険について、わかりやすく解説します。

2025年には、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に

「2025年には認知症の高齢者が730万人に」
厚生労働省が2015年にこんな推計値を発表しました。730万人と言うことは、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症を発症する計算になります。2012年時点の認知症患者は約462万人で、65歳以上の約7人に1人だったので、急速に増えていることがわかります。

認知症と介護は密接に関係しています。
厚労省が2016年に調査した「国民生活基礎調査の概況」によると、公的介護保険(以下、介護保険)で要介護認定者(要介護1〜5)になった原因の第1位は「認知症(24.8%)」、2位は「脳血管疾患(18.4%)」でした。2013年の同調査では、1位は「脳血管疾患(21.7%)」、2位は「認知症(21.4%)」でしたから、わずか3年で逆転したことになります。割合についても、2013年の21.4%から24.8%と増加しました。高齢化が急速に進む今、身近な人が認知症になり介護するという状況は、誰にでも起こりうる可能性があります。

家族が「認知症かも」と思ったら、病院への受診をうながそう

「最近、もの忘れがひどくなった」「同じことを何度も言ったり聞いたりする」。
こうした症状が見られ、親や配偶者が認知症かもしれないと思ったら、早期診断・早期治療のため、早めに医療機関を受診することをうながしましょう。受診する科は、精神科、神経科、神経内科、老年病内科、老年内科などですが、「もの忘れ外来」という名称で認知症専門の診察を行っている病院もあります。いきなり、専門外来を受診してもかまいませんが、持病や健康管理で診察してもらっている「かかりつけ医」がいれば、症状を説明して専門医を紹介してもらうといいでしょう。

「認知症を発症しているかもしれない」と思って病院を訪ねると、診察と検査が行われます。
診察は本人への問診、家族からの聞き取り、簡単な認知機能のテストなどです。検査はMRI・CT検査、血液検査など。症状によっては、別の検査も追加されます。そして、認知症と診断されると、薬物治療や、薬物を使わない非薬物治療がスタートします。

認知症の診察・検査・治療にかかる医療費は、原則、公的健康保険が適用されるので、69歳以下で3割、70歳以上は所得によって1〜3割の自己負担となります。ただし、認知症は完治が難しく、治療は長引く可能性があります。
また、高齢になると持病がある人も多く、その医療費に認知症の医療費もプラスされることになります。そして、介護が必要になると、介護保険の自己負担も発生します。

「介護が必要」と感じたら、まずは介護認定を受けよう

両親や、自分の夫、妻が認知症で介護が必要だと感じる状態になったら、介護保険の介護認定を受けましょう。介護認定を受ける手順は以下のとおりです。
(1)住民票を登録している役所や地域包括支援センターへ行って、介護保険の申請をする
※申請は本人でも家族でもOK。65歳以上の場合は「介護保険被保険者証」の持参を
(2)自治体の担当者(調査員)が自宅を訪問して本人に面談
(3)自治体担当者の面談などを踏まえ、コンピューターによる1次判定
(4)主治医が作成する「主治医意見書」とあわせた、市町村の審査会の2次判定で決定

介護度は「要支援1」から「要介護5」までの7段階で判定される

認定の通知は、申請した日から原則30日以内に行われます。こうした手続きを経て、非該当(自立)、要支援1・2、要介護1〜5の認定が決定します。要介護度別の身体のおおまかな状態は以下のとおりです。
【要支援1】食事や入浴などの基本的な日常生活はひとりで行えるが、それよりも複雑な「手段的日常生活動作(買い物・金銭管理・内服薬管理・電話利用)」のどれかひとつで一部見守りや介助が必要
【要支援2】要支援1に加え、歩行状態が不安定な人
【要介護1】手段的日常生活動作でどれかひとつ、毎日介助が必要となる人
【要介護2】日常生活の一部に、毎日介助が必要になる人
【要介護3】自立歩行が困難な人で、つえ・歩行器や車いすを利用している人
【要介護4】移動には車いすが必要となり、常時介護なしでは、日常生活を送ることができない人
【要介護5】ほとんど寝たきりの状態で、意思の伝達が困難。自力で食事が行えない状態の人
(公益財団法人「長寿科学振興財団」のHPをもとに作成)

介護度によって、利用できる介護サービスは違ってくる

介護保険では、介護度の度合いによって利用できるサービスが異なります。介護認定を受けたら、ケアマネージャーと相談して、ケアプランを作成し、どのサービスを受けるか決めましょう。介護保険サービスは以下の3つに分かれます。

在宅(居宅)サービス
在宅生活を送る介護者に対して、ホームヘルパーらが居宅を訪問したり、介護老人保健施設などに通い、リハビリを受けたりするサービスです。「訪問介護」「訪問入浴介護」「訪問看護」「通所介護」などがあり、「要支援1」以上の人が利用できます。

地域密着型サービス
介護度が重くなっても、住み慣れた地域で生活できるように創設された介護サービスです。居宅でサービスを受ける「訪問介護」や、グループホームに入居してサービスを受ける「共同生活介護」などがあります。「要支援1」以上の人が利用できますが、受けられるサービスは介護度によって異なります。

施設サービス
介護保険施設に入所して、24時間体制で介護サービスを受けられます。介護保険施設は主に以下の3つがあります。
・「特別養護老人ホーム」…常に介護が必要で、自宅での介護が難しい人が対象(要介護3以上の人が対象)
・「介護老人保健施設」…リハビリに重点を置き、在宅復帰を目指す施設(要介護1以上の人が対象)
・「介護医療院」…医療の機能と生活施設の機能をあわせ持った施設(要介護1以上の人が対象)

これらの施設に入所した場合は、介護保険サービス費用の1〜3割に加え、食費、居住費、日常生活費などを自己負担します。上記の公的施設に入所できなければ、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などに入所するか、いったん入所して公的施設の空きを待つかします。こうした民間の施設に入所しても、介護サービス(在宅サービス)を受けられますが、公的施設に比べて施設費用は高くなる傾向があります。

介護サービスは所得に応じて、かかった費用の1〜3割を自己負担します。介護サービスのうち、在宅サービスと地域密着型サービスは、要介護度に応じて1か月当たりのサービス支給限度額が設けられています(表参照)。支給限度額を超えて利用したサービスは、超えた分の全額が自己負担となります。ただし、自己負担額が一定の上限を超えたとき(上限額は所得によって異なります)、申請をすると「高額介護サービス費」や「高額医療合算介護サービス費」として払い戻される制度があります。

在宅サービスと地域密着型サービスの月額の支給限度額(出典:生命保険文化センター「介護保障ガイド」を参考に筆者作成)

在宅介護の平均費用は毎月5万円

在宅介護の費用は上記で見たように、介護保険サービスの自己負担分と、医療費やおむつ代などの費用に分かれます。公益財団法人「家計経済研究所」が2016年に、親と同居しながら介護をしている人を対象に調査を実施した結果、在宅介護の平均費用は毎月約5万円でした。そして、介護度別の費用は以下のとおりになりました。
要介護1:3万3000円
要介護2:4万4000円
要介護3:5万9000円
要介護4:5万9000円
要介護5:7万5000円

認知症が重度の場合、在宅介護費用は月13万円になる家庭も

この調査では、認知症の有無による影響も調べています。「要介護3」で認知症の症状がない場合、費用は「5万円」ですが、認知症の症状が中度になると「7万4000円」になります。「要介護4もしくは5」で認知症の症状が重度の場合、1か月の費用が平均「13万円」になる家庭もあったといいます。

認知症保険は「生保」と「損保」の商品で大きく内容が異なる

認知症に関連した保険は、生命保険会社と損害保険会社が取り扱うもので、大きく内容が異なります。生命保険会社が提供する保険は、主に認知症になっていない人を被保険者(保険の対象者)として契約でき、認知症が発症したときに、給付金が支給されます。いっぽう、損害保険会社は、すでに認知症を発症した人も契約することができ、その人が行方不明になったときや他人にケガを負わせたときに保険金が支払われる商品です。

「生保」の認知症保険は発症した後の介護費や医療費をカバー

生命保険会社が扱う認知症保険は、比較的新しいということもあり、商品ごとに大きく内容が異なります。以下のポイントに気を付けて選ぶとよいでしょう。

(1)保険金給付の条件:認知症と診断されたからと言って、必ず保険の対象になるとはかぎりません。保険会社によって、「要介護1以上に認定」など、給付の条件は異なるので、確認しましょう。
(2)保険金給付のタイミング:発症後すぐには、保険金が給付されない保険商品もあります。「認知症の症状が180日以上継続していること」などの条件を定めていることもあるため、よく確認しましょう。
(3)「一時金」タイプか、「年金」タイプか:所定の条件になったときに、一括でまとまった保険金を受け取るタイプか、一定期間あるいは一生涯「年金」として受け取るタイプがあります。両方を備えている商品もありますが、自らの貯蓄や年齢などを考慮して決めましょう。

また、医療保険または生命保険に、認知症を保障する特約を付けられる商品や、医療保険の介護特約に認知症を保障する特則を付けた商品もあります。
「認知症保険」そのものに加入する場合も、あるいは特約として入る場合も、契約できる上限の年齢は会社によって「70歳」「75歳」などと定められています。そして、年齢が高くなるほど保険料は高くなります。

最近では、認知症の早期発見や早期治療など、「予防」に力を入れた商品も登場してきました。たとえば、認知症の前段階のMCI(軽度認知障害)と診断されると保険金が出る商品です。こうした商品設計にすることで、加入者が早めに専門医の治療を受け、早期発見につながる可能性が高まります。

「損保」の認知症保険は、他人に損害を与えた場合に補償

認知症の男性が2007年、徘徊(はいかい)中に列車にはねられる、と言う事故がありました。鉄道会社は介護する家族に損害賠償を求める裁判を起こしました。最高裁は2016年、「家族に賠償責任なし」との判断を示しましたが、一審では720万円、二審では360万円の賠償を家族に命じる判決が出ていました。今後、同様の事故が起こった場合、家族が責任を求められるケースが出ないとは限りません。

損害保険会社はこうしたリスクに備え、生命保険会社とは異なる認知症保険を販売しています。特徴は、40歳以上で認知症の診断を受けている人、または、その家族が加入できる点です。つまり、認知症になってからでも入れるのです。

補償される例として以下のようなものがあります。
(1)徘徊して行方不明になったときの捜索費用
(2)他人にケガを負わせたり死亡させたりした場合の見舞金
(3)水道から水を出しっ放しで、下の階に漏水してしまった
(4)お店でトラブルになり、店内の商品を壊してしまった
また、認知症の人が運転して起こした事故の被害者を迅速に救済する特約を付けられる自動車保険も登場しています。

認知症保険に加入したら、そのことを身近な人に伝えよう

認知症保険について気をつけなければならないのは、認知症保険に入っていても、認知症を発症すると、本人が加入していたことを忘れてしまうケースも少なくないことです。そうした事態に備えて、本人に代わって家族などが保険金を請求できる「指定代理請求人」を決めておくとよいでしょう。そして何よりも、自分が認知症保険に入ったことを、家族など身近な人に伝えておくことが大切です。

まとめ

2025年という近い将来、高齢者の約5人に1人は認知症という未知の社会がやってきます。もはや、認知症は他人(ひと)事とは言えません。自分事としてお金の備えもしておきたいものです。

生命保険会社の認知症保険はそのお金を準備する方法のひとつです。特約・保険の数が増え、保障範囲もMCIまで広がるなど、選択肢が広がっています。しかし、認知症のリスクは高いだけに、その分が保険料に反映され、割高なことは否めません。

そのことを承知のうえ、保障内容と保険料を調べ、加入するかどうか、加入するとしたら加入プラン(認知症以外の保障を付けるかなど)をどうするか考えるといいでしょう。終身保障タイプは保険料の払い方が終身払いしかない商品もあり、その保険料を亡くなるまで払い続けられるかも検討しておきましょう。

いっぽう、損害保険会社の認知症保険は他人への賠償に重点を置いており、保険料は月1,500円程度とリーズナブルです。火災保険や自動車保険に付けてある個人賠償責任特約が認知症の補償に対応している場合もありますので、確認してみましょう。対応していない場合は単独に認知症保険に入るといいでしょう。

※本記事は、執筆者個人の見解です。

小川千尋

小川千尋

ファイナンシャルプランナー。1994年に資格取得後、独立系FPとして活動。ウエブや雑誌などでマネー関係の記事執筆やセミナー講師、個人相談などを行う。

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