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母の死後、認知症の父の成年後見人になった50歳ライターの実体験

親が元気なうちにお金の話を! 入院、介護、相続の「困った」を未然に防ぐ

「私がもっと早く親とお金の話をしておけばよかったと痛感したのは、母親が病室で意識を失っていたときのことでした……」

こう振り返るのは、フリーライターの永峰英太郎さんです。永峰さんは、40代で母親の死と父親の認知症に直面。その経験から「親の老後と死」、そしてそれにまつわる「お金の問題」について数々の著作を発表しています。今年50歳になる筆者もそうですが、「お金の問題」は、”そのとき”が来るまでなるべく意識したくないのが正直なところかもしれません。しかし、これらは誰もが避けては通れない道です。まず、体験者の声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?

永峰英太郎(ながみね・えいたろう)さん。1969年東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒。業界紙・夕刊紙記者、出版社勤務を経て、フリーランスの執筆・編集業へ。ビジネスマンやスポーツマンなどの人物ルポを得意とするほか、母の末期がん、父の認知症の体験をもとにした、さまざまな本の企画・出版を手がける。「認知症の親と『成年後見人』」(ワニブックスPLUS新書)、「改訂版 70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本」(二見書房)、「親の財産を100%引き継ぐ一番いい方法」(ビジネス社)、「マンガ! 認知症の親をもつ子どもが いろいろなギモンを専門家に聞きました」(宝島社)など

「母親の看病は姉に任せっきりで、当時の私は金策に走り回っていました。本当なら、母に寄り添って見守っていたかった。現実は逆で、当時、私の頭の中には『お金をどうしよう。葬式になったらいくらかかるんだろう』という不安が一定の割合を占めていたんです。親の人生の最期で、そんな状況になるのは残念ですよね」(永峰さん)

冒頭で紹介した永峰さんの言葉に続くのがこのエピソードです。なぜ、永峰さんの頭の中は、お金の問題で占められていたのでしょうか?

息子でも「親の預金」を簡単にはおろせない

「2013年に、母親の末期がんと父親の認知症が発覚しました。精神的なショックとともに、母親の入院費用や父親を特別養護老人ホームに入所させる費用など、大きな経済的な負担が生じました」(永峰さん)

しかし、永峰さんはそれまでまったく準備をしていなかったわけではありません。その1年前、母親に初期のがんが判明した際、家族会議を開いて両親のメインバンクにどれぐらいの金額が入っているか、永峰さんと姉は把握していました。自分たちの手持ちの資金だけで厳しいときは、それを使えばいいと考えていたと言います。しかしその後、永峰さんはあるミスに思い至ります。

「キャッシュカードの暗証番号を聞きそびれていたんです。そのときすでに母親の病状は悪化し、父親も認知症で暗証番号を聞くことができませんでした。仕方なく、私が両親の息子であることを証明する書類をそろえて銀行を訪れたのですが、『お金はおろせません』と断られてしまいました。必要だったのは『息子を代理人として、預金の引き出しを委任する』という親からの『委任状』だったんです。確かに銀行の言い分は正当ですよね。いくら息子だと証明して通帳を持って来ても、親の口座から“お金を引き出す許可”を得ているかどうかは別問題ですから」(永峰さん)

銀行の課長に直談判

母親は危篤状態で、父親は認知症。どちらも委任状を書ける状態ではないこと。両親ともに預金口座を管理できないため、自分が銀行に来たこと。お金をおろせないと、両親の面倒を見続けるのが経済的に難しくなることなど、永峰さんは状況をていねいに説明します。

「しかし、いくら頼んでも、窓口の人は『できません』の一点張りでした。結局、その後に対応してくれた銀行の課長と交渉し、『事情を考慮して、私の責任で引き出しを了承します』と一定額のお金を引き出してもらうことができました。なんとか急場をしのぐことができたんです」(永峰さん)

しかし、安心したのもつかの間、今後お金をおろす際にはその都度課長と面談する条件をつけられました。これにはかなり手間がかかります。それに加え、両親の定期預金の問題もありました。

「両親の定期預金は金利も低いので、今後の出費も考えて手元に置いておこうと考えたんです。しかし、その課長も、定期預金の解約までは認めてくれませんでした。やはり委任状がない点がネックだったんです。『親の預金を引き出せない』状態になるとは、親が元気なときには考えもしないことでした」(永峰さん)

たった4ケタの暗証番号が、永峰さんを悩ませます(画像はイメージ)

たった4ケタの暗証番号が、永峰さんを悩ませます(画像はイメージ)

銀行のすすめで「成年後見人」に

翌2014年2月、闘病の末に母親が他界します。
銀行のすすめもあり、永峰さんは認知症の父親の「成年後見人」(※1)になることを決めます。成年後見人とは、簡単に言うと、父親に代わって財産の管理をする代理人を意味します。成年後見人になったことで、「預金を引き出す際の委任状」は不要になり、定期預金も解約できることに。ところがのちにデメリットも判明します。

「まず費用の問題です。子どもが親の成年後見人になると希望しても、家庭裁判所の判断で『不適任』とされる場合もあります。また、たとえ子どもが成年後見人になれても『成年後見監督人』という専門家がつくケースがあり、この家庭裁判所の判断を拒否することはできないんです。私の場合は後者で、ある司法書士が『成年後見監督人』につく形になりました。その結果、その監督人に対する報酬が月に2万円ずつ発生し、年間で24万円も支払う必要が生じました」(永峰さん)

家庭裁判所の判断に左右される

成年後見人にはいくつかの“縛り”もあったと言います。

「私の認識不足だったのですが、子どもが成年後見人の場合『暦年贈与』(※2)が原則的にできません。また、家庭裁判所に1年に一度、父親の財産の収支を報告する義務が生じるのですが、このときにもストレスを感じる場面が少なくないんです。たとえば、姉夫婦と私たち夫婦で父を囲み、レストランで食事をしたときのことです。その席の父は認知症の症状もさほど出ておらず、“いつもの父”として楽しんでいて、会の終わりには『ここは俺が出すよ』とご馳走(ちそう)してくれたんです。ところが後日、家庭裁判所にこのときの代金を含めた支出入の明細を報告した際にこんなことを言われました。『(判断力が落ちている)父親が、食事代を全額払う、と自分の意志で言ったのかが疑わしい』と。結局、父親が食べた分以外を改めて子どもたちが払いました。父が示してくれた愛情まで否定された気分で、やりきれない思いでしたね」(永峰さん)

成年後見制度を一度使うと、後見を受ける人が亡くなるまでやめることはできません。永峰さんはこれらの経験から、「成年後見制度はほかにあらゆる手段をとったあと、どうしても使わざるを得ないときに利用を検討すべき」との思いを持っていると話します。

※1 成年後見制度とは?
認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護するための制度。成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」「任意後見」といったタイプがあり、支援される人の判断能力の程度によっていずれかを選ぶ。
(上記は裁判所のサイト内「後見サイト」などより編集部が抜粋)

※2 暦年贈与とは?
暦年(1月1日〜12月31日)ごとに贈与を行い、その贈与額が年間110万円以下であれば、贈与税がかからない制度のこと。親族が成年後見人になると原則として暦年贈与はできない。

【提案】親が元気なうちにしておくべき5つの「お金の話」

上記のような経験を踏まえ、永峰さんは、親が元気なうちに「お金についてやっておくべき」ことがあると考えるようになります。これから当事者となる読者に向けて、その代表的なものを5つ教えてもらいました。

ご自身の経験を踏まえ「親が元気なうちにお金の話をしておいてほしい」と永峰さんは提案します

ご自身の経験を踏まえ「親が元気なうちにお金の話をしておいてほしい」と永峰さんは提案します

【提案1】親の資産を知っておこう

前述のとおり、永峰さんは、母親に初期のがんが見つかった際、両親の資産の把握を試みています。だからこそ、メインバンクにアプローチができたのですが、それでも「すべての資産は把握し切れていない」と言います。

「私は今年50歳になりますが、私の親世代はつきあいもあり、多くの銀行に口座を持っている人が多いと思います。私の両親も例外ではなく、普通口座以外に定期預金をあちこちに持っていました。母が他界してから3年後に知らない銀行から『定期預金が満期になりました』という通知が届いて驚いたこともあります。
また、入院中の母親が『これでお父さんとおいしいものでも食べて』と10万円渡してくれたことがありました。母親の死後『あのときの10万円』をどの口座から引き出したのか調べようと通帳の履歴を調べたのですが、まったくその形跡が見つかりませんでした。へそくりかタンス預金の類だったのかもしれません。
このほか母親の死後、財布の中から“貸金庫のカード”が見つかり、初めて貸金庫の存在がわかったこともあります。親自身でさえ忘れていた資産もあったかもしれません」(永峰さん)

もし、活用されずに眠っている親の資産があるとしたら……。遺された家族にとっても、こうした気持ちが残り続けるのは残念なことです。親が元気なうちに、一緒に資産を把握しておくのがおすすめです。

【提案2】 預金の暗証番号を聞いておこう

親の通帳やキャッシュカードがあるだけでは、たとえ子どもでも、そう簡単にはお金を引き出せないことはすでに紹介したとおりです。

「親の財産を把握するのに加えて、預金口座の暗証番号を教えてもらいましょう。私がそう考えるきっかけとなったもうひとつのエピソードをご紹介します。あるとき、病院で母に付き添っていた姉から電話があったんです。『お母さんの意識が少しだけ戻って、暗証番号を聞けたよ』と。それは母親と父親の誕生日を足した数字でした。それを聞いてATMに向かったのですが結果はエラー。たぶん、母は違う銀行の暗証番号を口にしたのでしょう。このように、親が病気で倒れてしまってからでは、一番必要なときにお金を引き出すのが難しくなります。そもそも意識が混濁した親から、必死に暗証番号を聞き出すなんて、やりたい人はいないですよね……」(永峰さん)

【提案3】 親の年金を把握しておこう

親の年金受給額を知っている人はどれくらいいるでしょうか? 永峰さんは、可能ならこれも知っておくべきと考えています。

「私の親の世代は、私たちに比べて恵まれている人も少なくありません。子どもに老後を頼りたくないと考え、将来何かあったときのために年金をひたすら貯蓄している親世代の人も多いでしょうが、いざというときにこれらのお金を使えないこともあります。ぜひ親と子どもで、年金をよりよく活用する方法を話しておくといいでしょう」(永峰さん)

幸い永峰さんは、父親の年金が振り込まれる「両親のメインバンク」を知っており、成年後見人になったことでこれを活用できています。

「父親が認知症だと知らされたとき、どうしようかと家族で話し合いました。施設に入ってもらうとしても、毎月どれぐらいの金額なら払えるのか、子どもたちが捻出できる金額だけで見積もっていてはなかなか満足いく施設が見つかりません。その悩みを解決したのが父の年金でした。父の口座には毎月約23万円の振り込みがあったのです。この金額を基準に老人ホームを探すことができたのです」(永峰さん)

親の老後の収入を把握しておけば、充実した生活のサポートがしやすくなり、介護が必要になった際に、ベストな施設を見つけられる可能性が高くなると言えるでしょう。

よりよい介護をするためにも、親の年金の額を知っておくことが大切です(画像はイメージ)

よりよい介護をするためにも、親の年金の額を知っておくことが大切です(画像はイメージ)

【提案4】 親の保険を見直そう

永峰さんは、両親の資産をチェックしていく中で、保険の内容に「もったいない」と感じることが多かったそうです。

「保険は注意が必要だと感じました。私の父は20代前半から『利率変動型積立終身保険』という名前の生命保険に加入しており、それまでで総額1,700万円以上の保険料を納めていたんです。保険の内容もきわめて複雑で、専門家のアドバイスを受けてようやく理解できたほどです。その結果、保険料と保険の内容はまったく見合わないものだと感じました。その保険を含め、父親が契約していた保険を見直した結果、月々の保険料は総額で1万5,000円ほどに半減することができました」(永峰さん)

それ以外にも、定期預金など利率のよくないものもあると言います。一度、見直す機会を持つといいでしょう。

【提案5】 親からの贈与を計画的に行おう

2015年に相続税法が改正されたのを、ご存じでしょうか? それまで、相続税の課税対象となるかどうかの目安である基礎控除額は「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」でした。これが2015年1月1日を境に「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」に改正されました。これにより、相続税を払う義務がある人が増えたのです。

「私の家の場合、改正前の基礎控除額では問題ありませんでしたが、母親の遺産の半分が父親に引き継がれた現在、相続税が発生する可能性が出てきました。姉と私に生前に暦年贈与してもらうことで、遺産として相続する額を軽減しようと話し合っていたのですが、成年後見人のところで触れたとおり、私が父の成年後見人になったため父から暦年贈与を受けることができず、身動きがとれなくなってしまいました。親が元気なうちに動きだしていたら、ほかにもやり方があったことでしょう」(永峰さん)

親と「お金の話」をしづらい? でも……

「親の老後と死」、そしてそれにまつわる「お金の問題」について、永峰さんの貴重な経験と提案をうかがってきました。「預金口座の暗証番号」にせよ「相続」にせよ、親が元気なうちに話をしておけば、その後の困難が防げる可能性が高いことが、読者の皆さんにもおわかりいただけたと思います。しかし筆者は、親子とはいえ、いや、親子だからこそ「お金の話」にはどうしても心理的なハードルが存在するようにも思います……。

「その気持ちはよくわかります。私がこの話を出すと、ほとんどの人から『そんなデリケートなことを聞けない』『遺産目当てだと思われる』という反応がありますから」(永峰さん)

しかし、親とお金の話をしておくのは、何も遺された子どものためだけではないと永峰さんは強調します。

「本質はむしろ逆で、親の老後を充実させるためだったり、穏やかに死を迎えてもらうためだったりするのが目的なんです。たとえば父親の介護です。施設に入るには当然お金が必要です。しかし、親にいくらお金があるかわからなければ、子どもの経済力で入所させられるレベルの施設しか選べません。もし親にお金があって、本当はもっと親に合った施設があったと後悔するのは、とても残念なことではないでしょうか」(永峰さん)

実際、親が入院するなど体調を崩すと、お金の話はどんどん”タブー”になっていくと言います。入院している親からすれば、お金の話が出るということは、すなわち、自分の状態がよくないということを告げられているのと同じだからです。

「親の体調が悪くなればなるほどお金について話しづらくなります。健康な状態なときにこそお金の話をするべき、と私が言う理由がそこにあります」(永峰さん)

永峰さんの体験は決して他人事ではなく、誰もがいつ直面してもおかしくない話でしょう。病床の家族を前にして、頭の中は「お金の心配」ばかり、という悲しい事態は避けたいものです。親が元気なうちに「老後の計画」を話し合うことで、その一環として「お金の話」も自然とできるものなのかもしれません。永峰さんへの取材を通じ、穏やかに親の最期を看取るために今からできることがあると教えられた気がします。

親が元気なうちに、お金の話をしておきたいものです(画像はイメージ)

親が元気なうちに、お金の話をしておきたいものです(画像はイメージ)

【永峰さんの著作】
永峰さんは、ご自身の体験をもとに数々の著作を発表しています。こちらもぜひご参考ください。

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※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。
佐野裕

佐野裕

フリーランスのライター。マネー誌、ビジネス誌などで一般ビジネスパーソンから著名人までを多数取材。ビジネス、自己啓発、副業、歴史など幅広いジャンルで記事を執筆している。「活字で活力を与えたい」と日夜奮闘中。

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