電車に乗ることで、ポイントを貯められる「乗車ポイント」と呼ばれるサービスをご存じでしょうか?
具体的な名称は各社で異なりますが、近年、このサービスをJR各社や大手私鉄が相次いで導入しています。乗車ポイントのサービスは、事前に登録したSuicaやPASMOなどの交通系ICカードを使って乗車すると、ポイントが還元されるという仕組み。
ポイント還元の条件はサービスごとに異なりますが、1度簡単な登録手続きを済ませてしまえば、「電車に乗る」だけで意識せずとも少しずつポイントを貯められるのが大きなメリットになっています。そこで、主要な鉄道会社の乗車ポイントのサービスと、その貯め方を紹介していきます。
乗車ポイントの還元を受けるには、交通系ICカードが必要になります
各社で導入されている乗車ポイントのサービスで共通しているのは、公式サイトで事前に交通系ICカードの登録が必要な点(各社ともに登録は無料)。手持ちの交通系ICカードを利用しただけで、ポイント還元がされるわけではない点は注意したいところです。そして、基本的には還元方法は下記の3つのパターンに大別されます。
(1)一定額の運賃ごとにポイント還元
(2)同じ月に、同一運賃の区間を一定回数乗車すると一定割合を還元(定期券の区間は対象外)
(3)ICカード定期券を使って、混雑時を避けたオフピークの時間帯に乗車すると決められたポイントを還元
(1)(2)(3)いずれかのみ、あるいは複数実施しているサービスもありますが、主要な乗車ポイントのサービスを下記の表にまとめました。以下、各サービスごとに具体的に紹介していきます。
最初に紹介するのは、営業エリアも広いJR東日本のサービス。同社は「在来線乗車ポイント」というサービスを行っており、記名式Suica・Suica定期券を「JRE POINT WEBサイト」で登録し、そのSuicaを使って、同社の在来線に乗車するとJRE POINTが還元されます。モバイルSuicaだと運賃50円ごとに1P、カードタイプのSuicaでは200円ごとに1P還元と、前者の還元率を4倍に設定しているのが注目点です(いずれも定期券の乗車区間は対象外)。
たとえば、IC運賃483円の「東京―津田沼」を利用する場合、モバイルSuicaなら1回の片道利用で9P貯まります(カードタイプだと2P)。週2回(月8回)出社すると月間で「9P×2(往復)×月8回」=144P、年間では1,728P貯まる計算になります。
加えて同社は、同じ月に同一運賃の区間を繰り返し乗車するとポイントが還元される「リピートポイントサービス」も実施。10回の乗車で運賃1回分、10回を超えると11回目以降は運賃の10%のJRE POINTが毎回還元されます。このサービスでは、運賃が同じであれば乗車区間は違っても還元対象になるのが特徴的です。
たとえば、2023年4月にIC運賃がいずれも230円の「東京―赤羽」を4回、「東京―蒲田」を4回、「品川―川崎」を3回乗車すると、230円区間を11回乗車したとカウント。10回目に230Pが、11回目に23P(230円×10%)が還元されます。この「リピートポイント」と「在来線乗車ポイント」は同時に貯めることができます。
還元されるJRE POINTは、Suicaに「1P=1円」としてチャージ可能。このほか、Suicaグリーン券や特典チケットの交換、JR東日本の駅ビルでの買い物時など、幅広く利用できます。
JR東日本の乗車ポイントのサービス。「気づいたら結構貯まっていた」という声も少なくありません
東京都心を移動する際に利用機会の多い東京メトロは、PASMOを使った「メトポ」というサービスを2018年から行っています。事前に会員サイトで仮登録を行った後、東京メトロの券売機で本登録作業を行う必要があります。
「メトポ」のサービス内容は2023年3月1日にリニューアルされたばかり。「メトロ線の利用状況によって翌月の会員ランクが決定」→「翌月はそれに応じた還元率でポイント付与」という内容になっています。具体的な会員ランクと還元率は下記のとおり。
レギュラー:ランクスコア599以下(翌月のポイント還元なし)
シルバー:同600〜3,999(翌月は東京メトロ利用金額×2%分のポイント還元)
ゴールド:同4,000〜7,999(翌月は東京メトロ利用金額×5%分のポイント還元)
プラチナ:同8,000〜(翌月は東京メトロ利用金額×10%分のポイント還元)
メトロの会員ランクのイメージ(画像は東京メトロ公式サイトより)
ランクスコアの積み上げ方は下記の4通りです。
・PASMOチャージ残額を使った、東京メトロの利用金額1円ごとに1ランクスコア付与
・平日10:30〜16:30にPASMOで自動改札機を出場→50ランクスコア付与(1日1回のみ)
・土日祝日にPASMOで自動改札機を出場→70ランクスコア付与(1日1回のみ)
・月初時点でPASMO定期券を保有→3,000ランクスコア付与(月に1回のみ)
PASMO定期券を持っていれば、シルバー以上のランクは確実にキープできるので、保有している方はぜひ「メトポ」のサービスに登録したほうがよいでしょう。また、リニューアルを記念して2023年3月はすべてのメトポ会員は「ゴールドランク」となるキャンペーンを行っており、3月は東京メトロ利用金額の5%分のメトポを貯めることができます。メトポは券売機で「10P=10円」としてPASMOにチャージ可能なので、使い勝手もよいポイントです。
このほか、東京メトロは東西線を対象にした「オフピークプロジェクト」を実施。平日に、東西線の駅ごとに定められた対象時間帯に入場すると、10〜25P還元される仕組みになっています。
参考HP:「東西線オフピークプロジェクト」
西武鉄道もPASMOを使って同社線に乗車すると、「SEIBU Smile POINT」が貯まるサービスを2022年7月に開始。公式サイトでSEIBU PRINCE CLUBへの入会手続きや、キャンペーンのエントリーを事前に済ませておく必要があります。現状、貯め方は3パターン用意されています。
ひとつは「オフピークプラス」というサービス。平日の朝にPASMO定期券(通勤・大人)を使って、西武線の各駅で特定の時間帯(オフピーク)に入場した後、12時までに「池袋」「高田馬場」「西武新宿」のいずれかの駅で出場した場合に、ピーク前時間帯で20P、ピーク後時間帯で10Pが還元されるというもの(還元は1日1回のみ、2023年3月までは、ピーク前と後どちらも10P還元)。入場時間帯は各駅で異なり、たとえば、「所沢駅」のピーク前時間帯は6時〜7時、ピーク後時間帯は8時〜9時となっています。
参考HP:西武鉄道公式サイト(各駅の対象時間帯が記載)
もうひとつは、「おでかけプラス」というサービスで、西武線沿線の観光地やイベントに出かける際に西武線に乗車すると、ポイントが還元されるというもの(出場駅などの条件あり)。現在はプロ野球「埼玉西武ライオンズ」のオープン戦・1軍公式戦開催日に「西武球場前駅」を出場すると、10P還元されるというキャンペーンなどが実施されています。対象イベントは定期的に更新されるようなので、随時チェックするとよいでしょう。
さらに、2023年4月1日からは同一運賃区間を同一月内に5回以上利用するとポイントが貯まる「リピートプラス」がスタートします。ポイント還元率は、5回以上の乗車で2%、8回以上で4%、16回以上で9%。モバイルPASMOを利用すると3%が上乗せされ、それぞれ5%、7%、12%にアップします。3%の差は結構大きいので、モバイルPASMOの利用を検討したいところです。定期券区間内の乗車のほか、オフピーク通勤推奨のため、「池袋」「高田馬場」「西武新宿」の3駅を平日朝7:30〜8:30に出場する乗車も対象外となる点は注意しましょう。
「リピートプラス」のポイント還元のイメージ図(画像は西武鉄道公式サイトより)
現状では、貯まるSEIBU Smile POINTは、駅ビルやプリンスホテル、特急券の購入時などに充当するのが主な使い方。ただ、2023年4月1日からは、セブン銀行ATMでPASMOに「1P=1円分」(最低100Pから)としてチャージできるようになり、ポイントの利便性は大幅にアップします。
西武線でも乗車ポイントのサービスが始まっています
小田急電鉄もPASMOを使った乗車ポイントのサービス「小田急おでかけポイント」を2022年4月にスタート。貯まるポイントは小田急ポイントで、事前に同社のサービスプラットフォーム「ONE(オーネ)」への登録が必要になります。
「小田急おでかけポイント」では、同じ月に小田急線の同一運賃区間を2回以上利用するとポイントが貯まる仕組みになっており、還元率は下記のとおりです。
同一の運賃区間を2〜6回乗車:乗車回数分の運賃×0.5%還元
同一の運賃区間を7〜10回乗車:乗車回数分の運賃×4%還元
同一の運賃区間を11〜25回乗車:乗車回数分の運賃×8%還元
同一の運賃区間を26回以上乗車:乗車回数分の運賃×12%還元
たとえばIC運賃387円の「新宿―町田」を1か月に8往復(計16回)乗車した場合、
2〜6回目分として:387円×5回分×0.5%=9P還元(小数点以下は切り捨て)
7〜10回目分として:387円×4回分×4%=61P還元(小数点以下は切り捨て)
11〜16回目分として:387円×6回分×8%=185P還元(小数点以下は切り捨て)
となり255P還元される計算になります。
「小田急おでかけポイント」の還元の仕組み(画像は小田急電鉄公式サイトより)
小児用PASMOは1回目から一律2%を還元。小田急線は現在、小児IC運賃を全区間一律50円としているので、1回の乗車ごとに1ポイントが貯まることになります。定期期券区間内は対象外ですが、小田急線沿線に住んでいる方や、習い事や仕事で利用機会が多い方は、貯めるチャンスが多いでしょう。なお、サービス1周年を記念して、2023年6月末まで、エントリーや同一の運賃区間を月内に4回以上乗車などすると、最大1,400Pが還元されるキャンペーンも実施中です。
「小田急ポイント」は、小田急沿線にあるスーパーや飲食店などで利用できるほか、セブン銀行ATMやPASMOアプリを使えば「1P=1円」としてPASMOにチャージ可能です。
東武鉄道もPASMOを使った乗車ポイントのサービス「トブポマイル」を2021年10月に開始。TOBU POINT アプリにPASOMOを登録することが必要になります。「トブポマイル」の貯め方は3パターンあります。
ひとつ目は「おでかけマイル」というサービスで、東武線運賃の3%のマイルが貯まります。たとえば、IC運賃481円 の「池袋―川越」を片道1回乗車すると14マイル貯まることに。ただ、こちらは「Apple PayのPASMO」と「モバイルPASMO」が対象で、カードタイプのPASMOではポイント還元されない点は注意が必要です。
2つ目が「リピートマイル」というサービス。こちらはカードタイプのPASMOも対象となり、同一月内に同一運賃区間を8回以上乗車するとマイルが還元されます。還元率は以下のとおりです。
同一の運賃区間を8〜15回乗車:乗車回数分の運賃×4%還元
同一の運賃区間を16〜23回乗車:乗車回数分の運賃×8%還元
同一の運賃区間を24回以上乗車:乗車回数分の運賃×12%還元
たとえば、「新越谷―北千住」(片道314円)を12往復(24回利用)したときには、「314×24回×12%」で904マイル(小数点以下切り捨て)貯まります。
リピートマイルの還元の仕組み(画像は東武鉄道の公式サイトより)
3つ目は、2023年3月末まで実施される、オフピーク通勤した際にマイルが還元されるサービス。PASMO通勤定期券を使って(カードタイプのPASMOも対象)、東武線の駅を対象時間内に入場し、対象降車駅にタッチして出場すると1日につき20マイルが還元されます。
参考HP:東武鉄道公式サイト(各駅の対象時間帯が記載)
貯めた「トブポマイル」は、セブン銀行ATMで「1マイル=1円」としてPASMOにチャージできるほか、TOBU POINTにも交換可能。この場合10%上乗せされ「1,000マイル→1,100P」となります。PASMOへチャージしたほうが使い道が広がりますが、東武百貨店や東武ストアなどで使えるTOBU POINTへの交換はレートが上がるので、これらのお店をよく使うなら、TOBU POINTへの交換を検討してもよいでしょう。
東京都交通局は2011年とかなり早い時期から、PASMOを使った乗車ポイントのサービスを行っています。東京都が運営する交通機関を利用すると独自のポイント「ToKoPo」が貯まる仕組みです。サービスを利用するには、Webで申し込んだ後、PASMOを都営地下鉄の各駅に設置されたポイントチャージ機で登録する必要があります。
「ToKoPo」のポイント還元の対象となるのは、「都営地下鉄4線(大江戸線、浅草線、三田線、新宿線)」「東京さくらトラム(都電荒川線)」「都営バス」「日暮里・舎人ライナー」の4つの交通機関で、下記の3つの貯め方があります。
(1)基本ポイント:都営地下鉄、日暮里・舎人ライナー、東京さくらトラム(都電荒川線)、都営バスへの1回の乗車につき2P還元
(2)土休日ボーナスポイント:土日祝日に上記4つの交通機関を利用すると基本ポイントに加え、1日につき2P還元
(3)乗り継ぎボーナスポイント:4つの交通機関のうち、2つ以上に乗り継ぎした場合、1日10P還元
基本ポイントに関しては1日1回という上限がなく、乗るたびに2Pの還元を受けられます。貯めた「ToKoPo」は「1P=1円」としてPASMOにチャージ可能です(10P単位)。
「ToKoPo」の貯まる仕組み(画像は東京都交通局の公式サイトより)
JR西日本は、同社の交通系ICカード「ICOCA」を利用した乗車ポイントのサービスを2018年10月から行っています。こちらも、公式サイトやJR西日本管内の自動券売機などで事前に利用登録が必要です。貯まるのはJR西日本のサービスで幅広く貯めたり、使えたりする「WESTERポイント」で、貯め方は2通り用意されています。
平日の午前10時〜午後5時、もしくは土日祝日の終日、京阪神地区の対象区間を1か月間に4回以上利用すると、4回目以降は毎回運賃の30%、もしくは50%分のポイントが還元されます(還元率は区間ごとに決定)。現状では、かなり高い還元率となっていますが、2023年4月1日からは一律10%還元となります。
参考HP:JR西日本「時間帯指定ポイントの適用区間及び適用区間グループ」
もうひとつ、同一運賃区間の利用回数に応じたポイント還元も行われます。こちらはICOCAが使えるエリア全体が対象になっており、1か月間の同一運賃区間で、11回目以降の利用1回ごとに、運賃の15%のポイントが貯まります。こちらも2023年4月1日から11回目以降、10%還元に下がります。たとえば、「大阪―京橋」と「大阪―西九条」はIC運賃が170円と同じなので、この両区間を6回ずつ(計12回)乗車した場合、15%で計算すると11回目と12回目に25Pずつ、計50P貯まる計算になります。貯めたWESTERポイントは、「ICOCA」に「1P=1円」としてチャージ可能です。
JR西日本も乗車ポイントのサービスを行っています
阪神電鉄も、ICOCAを使った乗車ポイントのサービスを2022年9月に始めています。券売機での事前登録が必要です。
ポイントは阪神電鉄の路線の同一運賃区間を11回以上乗車したときに、11回目以降の合計額の10%分をポイント還元するというもの。たとえば2023年4月に、「大阪梅田―福島(片道IC運賃:160円)」を1か月に8往復(16回利用)したときには「160円×5回×10%」=80Pが貯まります。貯めたポイントは券売機で、ICOCAに「1P=1円」としてチャージ可能です。
なお、同じ阪急阪神ホールディングス傘下の阪急電鉄も2023年4月から、同様の乗車ポイントのサービスを開始することを発表。11〜30回目は利用金額の10%、31回目以降は15%分のポイントが貯まります。
JR九州は同社のICカード「SUGOCA」を使った、乗車ポイントのサービスを実施しています。ただ、従来は運賃の1%分のポイント「JRキューポ」が貯まるという内容で実施していましたが、「経営環境の変化を受けて」(同社リリース)、2021年6月に廃止。今は規模を縮小する形でサービスを行っています。
現状は、唐津線(西唐津・唐津間)および筑肥線と、福岡市地下鉄線を相互利用した場合に、乗車区間に関係なく同社のポイント「JRキューポ」が10P貯まります。ただし、SUGOCA定期券による乗車は対象外で、すべてカード残高で乗車する必要があります。
貯まったJRキューボは、ポイントチャージ機能付きの自動券売機でSUGOCAに「100P=100円」としてチャージして、乗車や買い物に利用可能です。
以上、JR各社や大手私鉄の乗車ポイントのサービス内容を紹介してきました。
コロナ禍を経て、リモートワークが一定程度浸透したことにより「出社は週に2日程度だから、定期券を購入せずにその都度運賃を支払っている」という方も少なくないでしょう。乗車ポイントは基本的に、定期券の区間外で乗車したときに還元が受けられる仕組みになっており、こうした利用方法のときこそ、メリットが大きくなりそうです。
「コツコツと自然にポイントを貯められる」という点が乗車ポイントの利点になるので、この記事も参考によく使う路線でこのサービスが導入されていないか、チェックするとよいでしょう。また、JR東日本や西武鉄道などは、カードタイプより、モバイル型のICカード利用時の還元率を高く設定しています。そうした意味で、この機会に「ICカードをモバイルに移行」ということを検討するのもアリかもしれません。
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