スマートフォンに専用のアプリを入れ、表示されたコードや店頭のQRコードで買い物ができる「QRコード決済」。ネット系企業や携帯電話会社、流通業などさまざまな事業者が「○○ペイ」のサービスを展開し、ユーザーを獲得しようと「20%還元」などのキャンペーンを相次いで行っている。そうした中、これらの事業者と少し毛色が異なるのが、ゆうちょ銀行が2019年5月にスタートさせた「ゆうちょPay」だ。
「ゆうちょPay」は、日本の全人口に匹敵する約1億2000万のゆうちょ銀行口座を持っている人を対象にしたQRコード決済サービスだ。QRコード決済の決済方法は主に以下の3つに大別される。
前払い:クレジットカードや銀行口座から事前に入金した範囲で決済できる
後払い:ひも付けたクレジットカードなどで決済
即時払い:登録した銀行口座から即時に引き落とされる
「ゆうちょPay」の最大の特徴は、銀行口座に直結し、QRコード決済の中では数少ない「即時払い」を導入しているところにある。
こうした特徴を持つ「ゆうちょPay」の狙いや今後の展望などについて、ゆうちょ銀行の担当者に取材。それをもとに、「ゆうちょPay」のメリットとデメリットをまとめた。
ゆうちょ銀行が2019年5月にサービスを開始したQRコード決済の「ゆうちょPay」。ゆうちょ銀行の口座を持っていれば、誰でも利用できる
――「ゆうちょPay」の概要について教えてください。
ゆうちょ銀行経営企画部デジタル化推進担当グループリーダー・藤井秀樹さん:「『ゆうちょPay』は、ゆうちょ銀行の口座を持っている人が、スマホに『ゆうちょPay』のアプリをダウンロードし、名前やゆうちょ銀行の口座情報などを登録すれば、すぐに使うことができます。未成年でも利用可能で、年会費や利用料は無料です。加盟店(利用可能店舗)で決済すると、決済金額がゆうちょ銀行の口座からすぐに引き落とされます」
――利用可能な店舗はどのようなお店がありますか?
藤井さん:「サービス開始時点(2019年5月8日時点)では、加盟店の店舗数は約1万店舗でしたが、順次拡大しています。6月18日から『松屋』、7月1日から『ミニストップ』、7月9日から『東急ハンズ』で利用可能になりました。そのほか、ドラッグストア『ウエルシア』、『ヤマダ電機』などでも利用可能です」
「ゆうちょPay」が利用可能な主な店舗
【コンビニ】
ミニストップ
【家電量販店】
ヤマダ電機、エディオン、100満ボルト、ケーズデンキなど
【ドラッグストア】
ウエルシア、ハックドラッグ、ドラッグイン キムラヤなど
【ファーストフード】
松屋、松のや
【生活雑貨】
東急ハンズ
――ほかの地銀などが提供しているQRコード決済のサービスとの相互利用もできると聞きました。
藤井さん:「『ゆうちょPay』は、決済代行のGMOペイメントゲートウェイが提供する『銀行Pay』という決済サービスを基盤にしています。『銀行Pay』は横浜銀行、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、沖縄銀行が導入済みで、北陸銀行と北海道銀行も導入を予定しています。『銀行Pay』に参画する各行のQRコード決済サービスは相互利用が可能となっています。たとえば、『ゆうちょPay』をダウンロードしていれば、横浜銀行の『はまPay』、福岡銀行の『YOKA!Pay』の加盟店で支払いもできます。逆に、横浜銀行の『はまPay』利用者は『ゆうちょPay』の加盟店で支払いができます」
――ゆうちょPayの主要なサービスのひとつである、駅の自動券売機でゆうちょ口座から預金を引き出せる「キャッシュアウト」について教えてください。
藤井さん:「『キャッシュアウト』は東急電鉄と連携して、実施しているサービスです。「ゆうちょPay」の利用者は、東急線の各駅に設置されている自動券売機を使って、現金を引き出すことができます。具体的には券売機のQRコード読取機に、スマホに表示した『ゆうちょPay』のQRコードを読み込ませて、手続きを進めます。利用できるのは5時30分〜23時まで。限度額は1日あたり3万円で、手数料が1回あたり108円かかります」
――このサービスの狙いは、どこにあるのでしょう?
藤井さん:「キャッシュレス社会は進んでいくと思いますが、そのいっぽうで、キャッシュ(現金)がまったく必要ない社会になるとは考えていません。そうした意味で、キャッシュレス決済もできることに加え、ATM、窓口以外でも現金の引き出しができる、スマホならではのサービスを提供したい、というのがこのサービスの狙いです。今のところ未定ではありますが、可能性があれば、ほかの鉄道会社とも取り組みたい分野です」
東急線の券売機のQRコード読取機(右下)に、スマホに表示した「ゆうちょPay」のQRコードを読み込ませることで、ゆうちょ銀行の預金口座から現金を引き出せる
――利用可能限度額はいくらに設定されていますか。
藤井さん:「アプリダウンロード時の初期設定では、1日あたり3万円、1か月あたりも3万円に設定されています。もちろん実際に利用できるのは、口座にある金額の範囲内にはなりますが、上限額は郵送手続きなどで変更可能です。最大1日200万、1か月あたり500万円まで増やすことができます。ほかのQRコード決済よりも多いかもしれませんが、銀行口座と直結しているので、利用できるレンジを広く設定しています」
――「ゆうちょPay」のホームページを拝見していて、フリーダイヤルのサポートデスクを設けているのが印象的でした。この狙いはどこにありますか?
藤井さん:「ゆうちょ銀行のひとつのポリシーとして、新サービスを始める際は必ず電話相談の窓口を設けており、今回もその延長線として開設しています。また、『ゆうちょPay』はゆうちょ銀行の口座をお持ちの方を対象にしており、その中には高齢者も多くいらっしゃいます。そうしたことを考えると、Web上でFAQを掲載し、あとはメールなどで対応、というのは適さないと考えました」
――ゆうちょ銀行の各支店や、郵便局の窓口でも使い方などを教えてもらえますか?
藤井さん:「ゆうちょ銀行各店や全国の郵便局において『ゆうちょPay』の募集活動を行っており、基本的な使い方をお伝えすることができます。店舗のスタッフに基本的な使い方やアプリのダウンロードの方法を聞いていただければ、お答えいたします」
――現在、実施しているキャンペーンについて教えてください。
藤井さん:「『ゆうちょPayデビューキャンペーン』として、ゆうちょPayに登録した先着100万名を対象に500円のキャッシュバックを実施しています(2019年9月末まで)。原則、口座設定日の翌月末日に、登録口座に送金されます。また、『ゆうちょPay』の公式Twitterをフォロー&リツイートすると、抽選で毎月2,000名にコーヒーやアイスクリームなどのデジタルギフトが当たるキャンペーンを実施中です(2020年3月末まで)。8月からは加盟店で割引が受けられるクーポンの配信も予定しています。なお、消費増税にともって国が実施するポイント還元の事業にも参加する方向で調整しています」
「ゆうちょPay」のサービスの概要や狙いなどについて話す、ゆうちょ銀行経営企画部デジタル化推進担当グループリーダーの藤井秀樹さん
――QRコード決済のサービスはまさに「乱立状態」とも言える状態ですが、そんな中で、「ゆうちょPay」の強みは何だと考えていますか。
藤井さん:「最大の特徴は、多くの方がお持ちであるゆうちょ銀行の口座に直結している点だと考えています。事前にチャージも、クレジットカードの登録も不要。ゆうちょ銀行の口座をスマホに入れて、持ち歩いているイメージです。そういった利便性は、ほかにはない強みになると考えています。2019年5月時点でのアプリのダウンロード数は約20万ですが、3年後には1000万を目指していきます」
――今後、QRコード決済普及のためには、なじみの薄い地方や高齢者にどれだけ浸透させていくかがひとつのポイントになりそうですが、これについて展望はありますか。
藤井さん:「全国には約2万4000の郵便局の窓口、約230のゆうちょ銀行の各店舗があり、ゆうちょPayをそうしたところでサポートできます。こうした店舗網を持っているQRコード決済事業者だからこそ、スマホの世界とリアルの世界をつなぐ役割を果たせると思っています。スマホ決済は高齢の方には、始めるにはハードルが高い面があると思いますが、店舗でサポートができると思っています」
支払い方法は店舗によって異なる。店舗側が用意したQRコードを読み取る方法(上)か、自分のスマホに表示されたバーコードを店舗側で読み取ってもらう方法(下)の2種類
――加盟店(利用可能店舗)については、目標の数値はありますか?
藤井さん:「『ゆうちょPay』を使うことで、普段利用している口座から、普段利用しているお店で買い物ができる、という状況を目指しています。なので、加盟店の拡大にはかなり力を入れていきたいと考えています。具体的には、3年後の利用可能店舗数は50万店を目指します。これは最低限の目標です。全国津々浦々で使えるようにする、という意味では、全国チェーンのお店での普及に力を入れていきますが、個人商店や小規模店もしっかり開拓していきたいと思います」
――QRコード決済では、各社が高額のキャッシュバックを受けられるキャンペーンを行っているいっぽう、「ゆうちょPay」では決済時のポイント還元を行っていませんが、この点についてどう考えますか。
藤井さん:「決済時のポイント還元は行っていませんが、先ほど説明した新規入会を対象にした500円キャッシュバックのほかにも、必要なプロモーションは考えていきます。ここからは個人的な考えになりますが、QRコード決済の各事業者はかなり大胆な還元策を実施していますが、あのようなインセンティブ(ポイント還元)が響く層の方々と、必ずしもそうではない層の方々がいるのではないかと考えています。一定の層の方々はこうしたインセンティブのあるサービスを選ぶと思いますが、そうした還元策で全体が決まるとは考えていません。私たちはアーリーアダプター(新たなサービスを比較的早い段階で採用・受容する人々)というよりは、これまでキャッシュレスになじみのなかった人をターゲットにして、日本郵政グループのネットワークも生かしながら、広めていければと思っています」
「ゆうちょPay」は大きなポイント還元は実施していないものの、銀行口座直結というシンプルな仕組みはキャッシュレス初心者にはメリットになりそうだ
取材を基に「ゆうちょPay」のメリットとデメリットをまとめた。
【メリット】
・利用にあたってクレジットカードの登録が不要
・審査不要で、年齢制限もなし
・口座直結型で、限度額も自分で設定できるので使いすぎのリスクを避けられる
・東急線の券売機で現金を引き下ろせる
・電話や銀行窓口でのサポート体制が手厚い
【デメリット】
・現時点では、決済時のポイント還元策を導入していない
・現時点では、加盟店数(利用可能店舗)がほかの主要なQRコード決済よりも少ない
上記でまとめたように、「ゆうちょPay」は「使いすぎが心配」であったり、「未成年者などクレジットカードを持っていない人」が使うには適したサービスだ。また、電話のサポートデスクはもちろん、全国の郵便局の窓口で使い方などのサポートを受けられる点は、高齢者などにとっては心強いだろう。こうした点に加え、口座直結型で非常にシンプルな仕組みを採用していることからも、「今は現金派だが、キャッシュレス決済を始めてみたい」人が最初の一歩として使うサービスとして適していると言えそうだ。
ただし、各QRコード決済事業者が「20%」などの高ポイント還元策を次々と行っている中、「ゆうちょPay」はこうしたキャンペーンを行っていない。高い還元率を求めるユーザーにとっては、現時点では得られるメリットは少ない。また、「ゆうちょPay」では「普段利用している口座を利用し、普段利用しているお店で、『ゆうちょPay』で買い物ができる」(藤井さん)ことを目標にしているが、これの実現には加盟店数の拡大が絶対条件になる。「ゆうちょPay」が、キャッシュレス決済のメインプレイヤーになるには、この点が大きなカギとなりそうだ。
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