対象店舗での買い物で最大5%還元となる、政府の「キャッシュレス・ポイント還元事業」。同事業がスタートした2019年10月1日を境に、キャッシュレス決済が拡大しています。報道によると、コンビニのローソン(フランチャイズ店舗のため2%還元)では、2019年9月までのキャッシュレス決済比率が20%(件数ベース)だったのが、10月は速報値で26%に上昇(前年同月比では70%増)。セブン-イレブンやファミリーマートでも同様の傾向を見せています。消費者が現金払いよりお得な決済手段を選んでいることの現れと見られます。
このキャッシュレス決済、主流の「クレジットカード」や還元キャンペーンで話題を集める「スマホ決済」をイメージする方が多いと思いますが、買い物をすると、自分の銀行口座から即座に引き落とされる「デビットカード」という方法もあります。もちろんデビットカードでも、同事業のポイント還元を受けられます。
デビットカードはキャッシュレス決済の中で比較的地味な存在でしたが、じわりと浸透してきています。金融システム開発の「インフキュリオン・グループ」の2019年の調査では、ブランドデビット(デビットカードの一種、詳細は後述)の利用率が5年連続増加、18年と比べても2割近く増えています。
そこで、ここでは価格.comマガジンでもおなじみ、クレジットカードや各種ポイントに詳しい、株式会社「ポイ探」代表の菊地崇仁さんにデビットカードのメリットや利用する際の注意点、おすすめのデビットカードについて聞きました。
(本記事内の価格表記は基本的に税別です)
〈取り上げる5枚のデビットカード〉
【1】Sony Bank WALLET:取引実績に応じて0.5〜2%還元
【2】楽天銀行デビットカード:常に1%分のポイント付与
【3】GMOあおぞらネット銀行Visaデビット:0.6〜1.5%還元
【4】ミライノデビット PLATINUM:空港ラウンジなどの多彩なサービスが付帯
【5】タカシマヤプラチナデビット:タカシマヤで最大10%還元
菊地崇仁さん
北海道札幌市出身。98年に法政大学工学部を卒業後、日本電信電話株式会社(現NTT東日本)に入社。02年に退社後、友人と起業したシステム設計・開発・運用会社を経て、06年にポイント交換案内サービス「ポイ探」の開発に携わり、11年3月代表取締役に就任。以後、ポイント、クレジットカード、マイレージに関する豊富な知識を生かし、テレビや雑誌などでも活躍中。
――デビットカードはそもそもどのような決済手段なのでしょうか? (編集部、以下同)
(菊地さん、以下同)デビットカードは主に銀行が発行し、預金口座とひも付いているため、決済を行うと即座に口座から引き落としがなされる決済手段です。決済をすると一時的にカード会社が立て替え、後日利用者に請求するクレジットカードとは、この点が最も大きな違いになります。
――デビットカードにはどんな種類がありますか?
デビットカードは2種類に大別されます。
ひとつは2000年に日本で初のデビットカードとして登場した「Jデビット」。こちらは、日本独自のサービスで、普通預金のキャッシュカードをそのままデビットカードとして使えます。しかし、利用可能店舗が国内45万か所にとどまるなど、利用できるお店が限られており、ユーザー数も伸び悩んでいるのが実態です。
いっぽうで、現在利用者が伸びているのは2006年に登場した「ブランドデビット」のほうです。こちらは全国の金融機関がクレジットカードの国際ブランドである「Visa」や「JCB」などと提携して発行しています。「Visaデビット」なら世界中のVisa加盟店で、「JCBデビット」なら国内外のJCB加盟店で使え、日本国内でしか使えない「Jデビット」に比べて利便性が非常に高いカードと言えるでしょう。今回はこの「ブランドデビット」を中心に説明していきます。
デビットカードの利用者数が少しずつ伸びている
――デビットカードの特徴はどこにあるのでしょう?
よく言われていることですが、デビットカードの一番のメリットは使いすぎのリスクが低く、家計管理がしやすい点にあります。先ほども説明したとおり、使えるのはあくまで口座の預金額の範囲内で、即座に引き落としされます。預金額とは別に、自分で1日あたり、あるいは1か月あたりの上限額を設定できるカードも多くあります。決済すると、すぐに登録したメールアドレスに通知が届くような設定も可能なので、利用の実態が見えやすくなっています。
もうひとつは入りやすさです。
クレジットカードの会員は原則18歳以上と定められていますが、デビットカードは15歳以上、あるいは16歳以上としていることが一般的です。そして、入会にあたって、年収や借入金などの「審査」は原則ありません。クレジットカードの審査を過去に通らなかった経験のある方でも、入会しやすいメリットがあります。
また、ブランドデビットならば海外の加盟店でショッピングできるほか、自分の口座に日本円で残高があれば、海外の現地ATMでその国の通貨を引き出すこともできるので、両替の手間を省くことができます(所定のレートに、3%程度の海外事務手数料が必要)。ただし、海外ATM利用にあたっては、カードごとに1日あたりの限度額が定められていますので、旅行前に確認しておくとよいでしょう。
海外のATMで現地通貨を引き出せるのが、デビットカードのメリットのひとつ
――いっぽうで、デビットカードを利用する際の注意点やデメリットはどういった点でしょうか?
繰り返しになりますが、デビットカードは口座直結なので、口座の残高を超えて決済しようとしても、支払いが拒否されてしまいます。そのため、口座の残高は定期的にチェックしておきましょう。特に、公共料金などの引き落としが多い月末は注意が必要です。口座の残高の範囲内であっても、個別に1日あたり、1か月あたりの利用上限額を定めている場合は、その範囲内でないと決済できません。また、国際ブランドの加盟店であっても、ガソリンスタンドなど一部の店舗では利用できないことがあります。
加えて、クレジットカードは「1回払い」「分割払い」「ボーナス払い」「リボ払い」といった複数の支払い方法から選べますが、デビットカードで可能なのは1回払いのみです。多くのクレジットカードで作成可能な「家族カード」も、ほとんどのデビットカードでは対応していません。また、海外旅行保険や空港ラウンジのサービスも基本、付帯されていません。
セキュリティの面から言えば、先ほどの説明のとおり、決済するとデビットカードはすぐに登録したメールアドレスに通知が届くような設定も可能なので、不正利用には気付きやすいという面があります。ただ、覚えておいてほしいのは不正利用の際の補償についてです。ほとんどのクレジットカードは、紛失や不正利用に際して、被害額の全額が補償されます(カードに暗証番号を記入しているなどの大きな過失がない場合)。
デビットカードも補償についての規約はあります。ただし、「年間100万円」などと補償額に上限が設けられているケースが一般的です。そのため、万が一に備えて、1日あたりの利用額に上限を設けるなどの自衛策も必要になります。また、クレジットカードはカード会社に被害を報告した日の「60日前」までさかのぼって補償されますが、デビットカードの場合、「30日」と短く設定しているケースがあるので、こちらもチェックしておきたいポイントです。
――上記の特徴を考えると、デビットカードはどのような人に向いているサービスなのでしょうか。
決済の特徴から見ても、後払いに抵抗感を持つ人に向いた決済サービスです。また、20代の若者や学生に向いている決済手段とも言えます。若者は使えるお金が少ないのが一般的です。こうした方たちが、クレジットカードを使うと、決済したものの、請求書が来た段階で払えないというリスクが出てきます。銀行口座直結のデビットカードなら、そのリスクを減らすことができます。
デビットカードは、使えるお金が限られている若者に適した決済手段
――おすすめのデビットカードについて教えてください。
クレジットカードの還元率は通常「0.5%〜1%」に設定されていますが、デビットカードは「0.2%」程度が一般的です。このように、デビットカードの還元率はクレジットカードに比べて低い傾向となっていますが、ここ最近、クレジットカードに劣らない還元率のデビットカードが登場し始めました。そうしたカードを中心に紹介していきます。
まずは、ソニー銀行が発行する「Sony Bank WALLET」(年会費無料)です。こちらはVisaデビットカードで、キャッシュバック率は0.5%〜2%。通常は0.5%で、1%になるのは「同行の預金残高が300万円以上」、1.5%は「外貨預金残高と投資信託残高の合計が500万円以上」、2%は「外貨預金残高と投資信託残高の合計が1000万円以上」などの条件をクリアする必要があります。毎月の利用額に応じたキャッシュバック相当額が翌月25日に、預金口座に入金されます。
海外旅行(出張)のときに、効果を発揮するカードでもあります。たとえば、米ドルをソニー銀行に外貨預金として預けておき、アメリカ旅行の際、「Sony Bank WALLET」で支払いをすると、この外貨預金の残高から差し引かれ、手数料なしで買い物することができます(外貨預金口座に米ドルを預ける際の為替手数料はかかってきます)。
海外でクレジットカードで買い物をすると、通常2%程度の手数料がかかってくるので、これが無料になるのは大きいでしょう。円高のときに外貨預金をしておけばお得にショッピングすることも可能です。こうした支払いが可能な10通貨は以下のとおりですので、これらの国・地域を旅行する予定があれば、利用を検討する価値はあるでしょう。
米ドル、ユーロ、英ポンド、豪ドル、NZドル、カナダドル、スイスフラン、香港ドル、南アランド、スウェーデンクローナ
クレジットカードに劣らない高い還元率のデビットカードも登場してきた
――クレジットカードでおなじみの「楽天カード」ですが、楽天グループはデビットカードも発行していますね。
楽天銀行が「楽天銀行デビットカード」(年会費無料)を発行しています。こちらは、「Visa」と「JCB」いずれかから選べます。常時1%と基本の還元率が高いのが特徴です。
こちらは口座へのキャッシュバックではなく、デビットカードの利用時に、楽天スーパーポイントが100円につき1P付与される形になります。貯めたポイントを支払いに充当できるなど、ほぼ現金同様に使えるというメリットがあります。たとえば以下のような使い方も可能です。
(1)ポイントが1,000P(1,000円分)あり、楽天銀行の口座残高が1,000円
(2)1,100円の商品をデビットカードで支払い
(3)支払いに1,000Pあてられ、口座からは100円のみ引かれる
なお、上記のような支払いをした場合も、ポイント充当後の金額(100円)ではなく、もとの金額(1,100円)に対してポイント付与され、11P獲得できます。
このほか、高い還元率が特徴の年会費無料のデビットカードとしては、GMOあおぞらネット銀行のVisaデビットカード(年会費無料)があげられます。こちらは、毎月の利用額の0.6%〜1.5%のキャッシュバックを受けられます。通常は0.6%、「外貨普通預金残高30万円以上、または、3か月間のVisaデビット利用額30万円以上」で0.8%、「外貨普通預金残高300万円以上」で1%、「外貨普通預金残高500万円以上」で1.5%となっています。
参考:「GMOあおぞらネット銀行Visaデビット」公式サイト
――クレジットカードのゴールドカードやプラチナカードでは、保険やラウンジ利用などでさまざまなサービスが付帯していますが、デビットカードにもこのような券種はありますか?
年会費無料のデビットカードには通常、保険などのサービスは付帯していません。しかし、年会費が発生するデビットカードには付帯しているものもあります。
たとえば、住信SBIネット銀行の「ミライノデビット(Mastercard)」は年会費無料で還元率は0.8%。年会費が10,000円かかりますが、「ミライノデビット PLATINUM(Mastercard)」にすると、還元率は常時1%にアップ。さらに、以下のようなサービスが付帯してきます。
・国内外1,000か所以上の空港ラウンジを年3回まで無料で利用可能
・海外旅行の出発時と帰国時にそれぞれ、手荷物2個を自宅まで無料配送
・最大1億円の海外旅行傷害保険
※自動付帯なので、このカードを保有しているだけで保険適用になる
・全国有名レストランを2名以上利用で1名分のコース料金が無料に
このように、クレジットカードのプラチナカード級(年会費2万円以上〜)のサービスをデビットカードで求めるなら検討する価値があります。また、ミライノデビットは「円」と「米ドル」での決済が可能です。海外の買い物で利用したとき、いずれも2.5%の海外事務手数料がかかってきますが、米ドルで決済をすると、年間30回まで手数料分の2.5%がポイント還元されます。米ドル決済で実質、手数料無料で利用できるのは利点になるでしょう。
もうひとつ、プラチナ級のサービスを備えたデビットカードとして紹介したいのが、「タカシマヤプラチナデビットカード」です。ソニー銀行が発行しており、前述の「Sony Bank WALLET」の機能が備わっています。年会費は30,000円。国際ブランドは「Visa」となっています。
タカシマヤプラチナデビットは、タカシマヤ各店でのさまざまな優待サービスが魅力
基本の還元率は2%ですが、タカシマヤで下記の優待を受けることができます。
・タカシマヤ各店の一般商品は10%還元、レストランやデパ地下などの食料品は3%還元
・通常、ポイント付与の対象外となるタカシマヤの高級ブランド品でも2%還元
・タカシマヤ各店の駐車場を最大5時間、無料で利用可能
・タカシマヤで購入した商品の無料配送
このカードの利用で貯まるのは「タカシマヤポイント」で、2,000Pを全国のタカシマヤでのみ使える「お買い物券」2,000円分と交換できます。
タカシマヤ以外のサービスについては、24時間365日対応のコンシェルジュをはじめ、最大1億円の海外旅行保険(自動付帯)や、国内外の約1,000か所の空港ラウンジを年間6回まで無料できるサービスも付帯されています。高額な年会費を考えると万人向けではありませんが、デパ地下を含めタカシマヤを頻繁に利用する人は検討してもよいカードかもしれません。
以上、「ポイ探」代表の菊地さんに取材し、デビットカードのメリットや、高還元など特徴のあるカードを紹介してきました。取り上げたデビットカードのスペックは以下のとおりです。
冒頭でコンビニを例に、キャッシュレス決済の利用が拡大している現状を説明しました。決済事業者による還元に加え、国によるポイント還元も実施されているため、現状では現金払いよりキャッシュレス決済のほうがメリットを得やすい状況にあります。
そのいっぽうで、クレジットカードなどの後払いに抵抗感を持つ人は少なくありません。しかも、ネット調査では、意外にも若者ほどキャッシュレス決済と縁遠い実態が浮かび上がっています。インターネット接続事業者大手のビッグローブが2019年3月に実施した調査では、「キャッシュレス決済を利用したことがない」と答えた人は20代が最も多く34%でした(最も少ないのは60代で18.5%)。そして、利用していない理由のトップは「お金を使いすぎてしまいそう」でした。
相対的に高い還元率や、多彩な優待サービスを備えたクレジットカードが、キャッシュレス決済の主役の座であることは今後も変わらないと思います。いっぽう、「後払い方式では使いすぎが心配」という人は一定数残るでしょう。そうした「キャッシュレス決済のメリットを享受したい」が、「後払い方式に抵抗感がある」と考える人にとっては、デビットカードが有力な選択肢になるでしょう。この機会に利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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