気軽に飲み物などが買える自動販売機(以下、自販機)。存在が当たり前すぎて、自販機自体にスポットライトが当たることはあまりないかもしれませんが、実は時代とともに進化を続けています。最新の自販機トレンドはスマホアプリとの接続です。飲み物を買うとポイントやスタンプが貯まり、その数に応じて飲み物が無料でもらえたり、クレジットカードなどで決済してそのポイントが貯まったりするなど、定価販売が基本の自販機で「楽しくお得に」買える仕組みが増えています。本稿ではまず、自販機の歴史を簡単に振り返りつつ、最新の進化形である「自販機とスマホアプリを接続させる4つのサービス」を紹介していきます。
(本記事内の価格表記は基本的に税込です)
自販機とスマホを接続するとさまざまな特典が受けられるようになってきました(画像はコークオンの自販機とスマホを接続した状態)
自販機にはどんな歴史があるのか? まずはその進化と普及の過程を簡単に振り返ってみましょう。自販機のルーツは今から2000年以上前、紀元前215年頃のエジプトにまでさかのぼることができます。コインを入れるとその重みで水が出てくる「聖水自販機」が世界最古と考えられている自販機で、当時の寺院に置かれていたと言われています。現在のような自販機が登場したのは、時代が飛んで1800年代の後半。産業革命後のイギリスで、飲料、菓子、食品、チケット、タバコなどの自販機が実用化されました。
日本に現存する最古の自販機は、発明家の俵谷高七(たわらやたかしち)による「自動郵便切手葉書売下機」(じどうゆうびんきってはがきうりさげき/郵政博物館所蔵)。これは郵便ポストと一体となった「切手とはがきの自販機」のことで、1904年に考案されたもの。残念ながら装置の作動の正確性にやや難点があり、実用化にはいたらなかったそうです。
日本で自販機が本格的に普及しだしたのは1962年のこと。この年、アメリカのコカ・コーラ社が清涼飲料の国産自動販売機を日本に導入。これをきっかけに飲み物の自販機が普及していきます。1974年頃からは、1台の自販機で温かい飲み物と冷たい飲み物が同時に発売できる、日本特有の「ホット&コールド機」が普及するなどさらに進化を遂げ、現在、日本の自販機における年間売り上げは約2兆円(飲み物のみ)と、世界一の売り上げを誇っています。
このように長い歴史を持ち、時代に合わせて進化してきた自販機。2016年頃から登場した最新の潮流がスマホアプリとの接続です。これにより、ポイントサービスなどのこれまでになかったサービスや、スクラッチなどのゲーム、歩数計測による特典の提供、キャンペーン情報の告知など、単に飲料を提供する機械から、ユーザーとコミュニケーションを取るツールへと変貌を遂げつつあります。飲料メーカー各社が手がける「自販機×スマホアプリ」の4つのサービスを見ていきましょう。
(参考)
・一般社団法人 全国清涼飲料連合会「自販機の歴史」
・郵政博物館「博物館ノート」
・日本コカ・コーラ株式会社「日本コカ・コーラの歴史」
日本コカ・コーラ(以下、コカ・コーラ)が2016年にリリースしたのが「Coke ON」(以下、コークオン)。すでに約1,700万ダウンロードを超えている人気のアプリです。コークオンの基本サービスは「飲み物を15本買うと1本が無料になる」というもの。コークオンに対応した自販機で飲み物を買うと、1本につき「スタンプ」が1個貯まり、スタンプが15個貯まると無料で飲み物と交換できる「ドリンクチケット」がもらえる仕組みです。
黄色と赤のロゴがコークオン対応自販機の目印
コークオンの機能はこれだけではありません。「コークオンウォーク」という機能では、一週間ごとの歩数や、計測を始めてからの累計の歩数に応じてスタンプをもらうことができ、飲み物を買った際にもらえるスタンプと合算してドリンクチケットに交換することができます。このほか、コークオン独自のキャンペーンも頻繁に開催されています(2019年3月まではオリンピックの観戦チケットなどが当たるキャンペーンを実施中)。
1週間の目標歩数を自分で設定し、それをクリアするとスタンプが1個もらえる仕組み。目標は難易度が異なる4段階(35,000〜84,000歩/週間)から選択できます。どの難易度でももらえるスタンプの数は変わりません
コークオンの使い方はさほど難しくはありません。まずはスマホに無料のアプリをダウンロード。自販機と接続する際は、スマホの「Bluetooth設定」と「位置情報サービス設定」をオンにしておく必要があります。対応自販機の近くでアプリを起動し、スマホを自販機に近づけると自動的に接続されます(接続されるとスマホがブルっと震えます)。この状態で商品を購入するとスタンプが貯まります(スタンプが貯まった時にもスマホが震えます)。
上の画像のように、購入する飲み物のブランドによってもらえるスタンプが異なります。色とりどりのスタンプを集める楽しみもありそうです(画像はコークオン公式サイトより)
商品の購入には「現金」「コークオンペイ」「コークオンIC」の3つが使えます。コークオンペイは、クレジットカードやPayPay、LINE Payなどの決済手段を、コークオンの支払い方法としてあらかじめ登録できる機能のこと。これによりコークオンでもらえるスタンプ以外に、各決済方法が提供しているポイント(クレジットカードのポイントやPayPay残高、LINEポイントなど)ももらえてポイントの二重取りができます。ポイント還元率のよい決済方法を使えば、コークオンをさらにお得に使えるということになります。またコークオンICでは、PASMO、楽天Edy、ナナコなどの電子マネーを登録でき、2020年1月14日からSuicaも登録できるようになります。
※コークオン対応自販機の中でも、コークオンペイ機能には対応していない自販機もあるので注意が必要です。
コークオンペイに登録できる決済手段の一覧。クレジットカードの各種国際ブランドに対応しているほか、QRコード決済のPayPayとLINE Payにも対応。還元率のよい決済方法と組みあわせるとお得度が上がります
Coke ON
公式サイト:https://c.cocacola.co.jp/app/index.html
「Smaile STAND」(以下、スマイルスタンド)はダイドードリンコ(以下、ダイドー)が運営するアプリです。ダイドーは1970年代から「アタリ付きのルーレット機能」や「おしゃべり機能」を自販機に導入するなどユニークな自販機を手がけてきた飲料メーカーとして知られています。2016年にリリースされたスマイルスタンドは、ポイントスクラッチ機能などにダイドーらしい”遊び心”を感じられるアプリ。貯まったポイントを、飲み物ではなく汎用性の高い他社の共通ポイントなどに交換できるのも、ほかのアプリにはない特徴です。
オレンジとイエローのロゴが印象的なスマイルスタンド対応の自販機
スマイルスタンドでは、対応自販機で買った商品の価格と同額分のポイントが貯まります(130円の商品なら130ポイント貯まる仕組み)。ポイントを貯めるには、無料アプリをダウンロードし、Bluetoothで自販機と接続する必要があるのは前出のコークオンと同じ。しかし接続するタイミングが若干異なります。コークオンでは接続した状態で商品を購入するとスタンプをもらえましたが、スマイルスタンドは商品購入後30秒以内にアプリを開いた状態でスマホを自販機にかざし、「ポイントをためる」ボタンをタップするとポイントが貯まる仕組みです。なお、現時点で決済方法として使えるのは現金のみとなっています。
スマイルスタンドで貯めたポイントは他社が発行するポイントに交換ができたり、コンビニなどで商品と交換できたりします。交換先と交換レートの一覧は下記のとおりです。見ていただくとわかるとおり、交換するまでの難易度がやや高めに設定されています。たとえば、楽天スーパーポイント100Pに必要な2,000ポイントを貯めるには、130円の飲み物を16本買う必要があります。
※カッコ内は、(スマイルスタンドのポイント → 交換先のポイント)です。
●LINEポイント
(3,000P→100P/5,800 P→200 P/8,600P→300P/11,400P→400P)
●楽天スーパーポイント
(2,000P→100P/5,800 P→300 P/9,300P→500P/18,000P→1,000P)
●amazonギフト券
(2,000P→100円分/5,800 P→300 円分/9,300P→500円分/18,000P→1,000円分)
●ナナコポイント
(2,000P→100P/5,800 P→300 P/9,300P→500P/12,500P→700P)
●プチギフト
全国のコンビニやファストフード店で商品と交換できるクーポン。下記は交換できる商品例。
・プチご褒美コース(3,000P→ローソンウチカフェプレミアムロールケーキ 150円 など)
・スペシャルご褒美コース(7,500P→ファミリーマートハーゲンダッツミニカップ 318円 など)
・プレミアムご褒美コース(18,000P→ローソン買い物券1,000円分 など)
貯めたポイントを他社のポイントに交換できるのがスマイルスタンドの大きな特徴
飲み物だけではなかなか交換できるほどのポイントが貯まらなそうなスマイルスタンドですが、ポイントスクラッチ機能やキャンペーンなどの利用でそのデメリットを緩和できます。ポイントスクラッチは、飲み物5本につき1回挑戦できるスマホ上のスクラッチゲームのこと。当たりが出ると最大で500ポイントがもらえます。このほか、時期によって「ポイント2倍キャンペーン」や「SNSへの投稿でポイントプレゼントキャンペーン」など各種キャンペーンも豊富に行われており、こうした情報をアプリでこまめに集めるのがスマイルスタンドをお得に活用するコツになりそうです。
ポイントスクラッチは2019年9月に追加された新機能(画像はスマイルスタンド公式サイトより)
Smaile STAND
公式サイト:https://www.dydo.co.jp/smilestand/
サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)が2017年にリリースしたアプリが「サントリーGREEN+」(以下、グリーンプラス)です。最大の特徴は「健康促進アプリ」としての性格を前面に出していること。対象の自販機で飲み物を買うとポイントが貯まる仕組みはほかのアプリと変わりませんが、ユニークなのは、トクホ(特定保健用食品)の飲み物と、それ以外の飲み物で獲得できるポイントに差があることです。トクホなら1本につき5P、そのほかは1本に付き1Pと獲得ポイントには実に5倍もの差があります。トクホ飲料を多く手がけているサントリーならではのアプリと言えるでしょう。企業における社員の健康増進ニーズをターゲットにしており、主に、オフィスや事業所内の自販機が対応機種となっています。自販機とアプリの接続は、アプリ上に表示させるQRコードを自販機に読み取らせて行います。
グリーンプラスの対応自販機はグリーンのロゴが目印
グリーンプラスも前出のコークオンと同じく、1週間の歩数によってもポイントがもらえます。基準となるのは厚生労働省が推奨する歩数(1週間)。これを達成するとグリーンポイントが5Pもらえる仕組みで、男性の場合は1週間に64,400歩、女性は58,100歩を達成するとポイントが貯まります。コークオンのコークオンウォークの場合、一週間35,000歩、49,000歩、63,000歩、84,000歩の4つの難易度から自分で目標を選ぶことができ、難易度によってもらえる特典に差がない(いずれも1スタンプ獲得)のと比べ、グリーンプラスはよりストイックな仕組みになっているようです。貯まったグリーンポイントは1P=1円換算で、好きな飲み物に交換できます。
時間帯による歩数が表示されるなどグリーンプラスの歩数計測機能は本格的な作り
グリーンプラスは決済方法が豊富です。現金のほか、下記の方法で支払うことができます。なかでも注目したいのは独自の決済手段である「グリーンPay」です。コークオンのコークオンペイと似た仕組みで、クレジットカードを支払い方法として登録する決済方法です。クレジットカードのポイントが貯まるほか、チャージ額には自動的に8%の額が上乗せされます。また、Ponta、dポイントを決済に使うこともでき、その場合は決済金額に応じてPonta、dポイントが貯まり、通常のドリンクポイントに加えて二重取りになります。
●ICカード
●グリーンPay……グリーンプラス独自の決済方法。あらかじめ登録したクレジットカードからチャージして支払いに使います。チャージ額には8%が自動で上乗せされるので、かなりお得な決済方法です。
●Ponta
●dポイント
サントリーGREEN+
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/softdrink/vendor/greenplus/index.html
最後に紹介するのは「Tappiness」(以下、タピネス)。キリンビバレッジ株式会社(以下、キリン)が2017年から始めたサービスで、今回紹介する4つの中で唯一、独自のアプリではなくLINEアプリを使ったサービスとなっています。LINEアプリを使うこと以外に目立った特徴はなく、ほかの3つのアプリと比較するとやや地味な印象を受けますが、LINEユーザーであれば新たなアプリが不要のため使うハードルは低いと言えるでしょう
タピネスの対象自販機の目印にはLINEと同じくグリーンが採用されています
自販機とBluetoothで接続する仕組みはほかのアプリと同じです。必要なのはLINEアプリです。対象の自販機にLINEを起動させたスマホをかざして接続します。この状態でドリンクを買うと、「ドリンクポイント」が1本につき1P貯まり、15Pで好きなドリンクが無料でもらえる特典チケットがもらえます。特典チケットはLINEの友だちにプレゼントすることもできます。
支払い方法は、「現金」「電子マネー」「LINE Pay」の3つ(特典チケットを含めると4つ)。LINE Payの場合は、LINEのポイント還元プログラムである「マイカラープログラム」(LINE上の前月分の決済額によって還元率が変化)の対象となり、ドリンクポイントに加えて「LINEポイント」がもらえる二重取りとなります。ただしすべてのタピネス対応自販機が、LINE Payでの決済に対応しているわけではないのでご注意ください。
タピネスはLINEアプリを使って自販機と接続する仕組み
4つの「自販機×スマホアプリ」サービスの2020年1月9日時点の情報をまとめた比較図
今回4つのアプリを実際に試してみましたが、筆者個人としてはコークオンがもっとも「使ってみて楽しい」アプリだと感じました。それは、「自販機にアプリをつないで買う」という体験自体に新鮮味を感じられたからです。特にコークオンペイを使った際にそれは顕著でした。
これまで自販機で何かを購入する場合、「お金を機械に投入」→「商品の選択」→「商品を取り出す」というアクションが必要でした。ところがコークオンペイの場合「商品の選択」→「決済」までをスマホの中で完結することができます。そして「商品を購入したという情報」を、スマホをスワイプすることで自販機に飛ばすと自販機の中から商品が出てくるという仕組みです。つまり、商品を取り出すまで一度も自販機に触れることなく商品が買えるのです。文字にするとこの体験の何がスゴイのなかなか伝わりにくいかもしれませんし、正直、実用的な仕掛けではないかもしれません。しかしこのギミックにはクセになりそうな面白さを感じたのも事実です。
コークオンペイでの買い方。スマホをスワイプして購入情報を自販機に飛ばすギミックにはクセになりそうな楽しさが
「自販機×スマホアプリ」サービスの普及、特にコークオンペイのような「新しい自販機体験」の提供の背景には、自販機が持つ「ユーザーと直に触れられる小売店」としての機能が見直されていることがありそうです。その意味で、今後もユーザー体験を充実させる自販機まわりのサービスは盛り上がっていく予感がします。これにともなって、ユーザーの側にも「メーカーによって自販機を選ぶ」という新しい基準が生まれるかもしれません。
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