お店に設置された専用端末にタッチするだけで買い物ができる電子マネー。小銭不要でスムーズに支払いができるので、日常生活において便利な決済手段といえます。その多くが、2020年6月まで続く、国によるキャッシュレス決済のポイント還元の対象にもなっています。いっぽう、電子マネーは種類も多く選ぶときに困ってしまうことも。そこで、今回は電子マネーの概要や各サービスの特徴、選ぶ際のポイントをまとめました。
日常生活で便利な電子マネー。ただ、種類も多く選ぶときに悩むケースも
電子マネーは、無線通信でデータのやり取りをする「非接触型」決済の一種です。大手の鉄道会社や流通企業などが独自に発行し、それぞれの加盟店での決済に利用できます。2001年にのちに楽天グループに入るビットワレットが「Edy(現・楽天Edy)」を、2004年にJR東日本が「Suica」を、2007年にセブン&アイ・ホールディングスが「nanaco」をスタートさせるなど、大手企業が次々に参入してきました。
日本銀行の2018年の調査によると、電子マネーの決済額は5兆4790億円。カード発行枚数も3億9077万枚にのぼり、国民1人あたり平均3枚を保有していることになります。1件あたりの決済金額は936円と、少額の決済でよく利用されていることがわかります。発行形態も電子マネー専用のICカードのほか、クレジットカードに電子マネーの機能を搭載するタイプ(クレジットカード一体型)、スマホにICカードの機能を取り込んで使うタイプなど、複数あります。
電子マネーの大きな特徴として、決済処理のスピードがあげられます。近距離での無線通信技術で電子データをやり取りするため、専用端末に一瞬タッチするだけで決済が完了します。これに対し、クレジットカードでは、カードを店員に渡し端末に通した後、サイン、もしくは暗証番号を入力する方法が一般的ですが、電子マネーではこの作業は不要です。また、最近話題を集めている「PayPay」などのQRコード決済は、スマホに専用アプリを入れたうえでQRコードを表示させて、読み取ってもらう必要があります(店舗が用意したQRコードを読み取るパターンもあり)。
審査がなく18歳未満でも利用可能な点、また、数百円程度の発行手数料やデポジット(預かり金)を除けば、年会費が原則不要でローコストで利用できるのも特徴のひとつです(クレジットカード一体型の場合は審査あり、年会費が発生する場合も)。
タッチするだけで、決済が完了する電子マネーはとても便利
複数ある電子マネーですが、精算方法によって以下の2つに大別されます。選ぶ際の大事なポイントになるので確認しておきましょう。
「前払い式(プリペイドタイプ)」は事前に、店頭やクレジットカードなどからお金をチャージ(入金)し、チャージ金額の範囲内で買い物に使うことができるタイプです。電子マネーというと、こちらのタイプをイメージする方が多いでしょう。都度チャージが必要になりますが、残高が一定額を下回ると、専用端末にかざしたときに自動的にクレジットカードなどから入金されるオートチャージ機能が使えるものもあります。チャージの上限額は種類によって2万円〜5万円程度に設定されています。
こちらのタイプは、発行企業やグループ店舗で使うと、特典が受け取れるものもあるので、自分がよく使う店舗に応じて選んでもよいでしょう。また、特定のクレジットカードからチャージすると「チャージしたとき」と「電子マネーで支払ったとき」の2回、ポイントがもらえるため、どのクレジットカードと組み合わせて使うのかもポイントのひとつになります。
「後払い式(ポストペイタイプ)」は、利用料金を後払いするタイプです。ひも付けられたクレジットカードの分と合わせて、利用代金が後日請求されます。「サインが不要なクレジットカード」というイメージです。その都度、チャージする必要はなく、クレジットカードの限度額の範囲内で利用することができます(利用店舗によって、個々に上限額を設けている場合あり)。
詳細は後ほど詳しく紹介しますが、こちらの代表的な電子マネーは「QUICPay」(JCB)と「iD」(NTTドコモ)の2種類。両サービスの加盟店数に大きな差はありませんが、いずれも「前払い式」に比べて使える店舗が多いのが特徴です。利用の際、電子マネー独自の還元はなく、ひも付いたクレジットカードのポイントのみが付与されます。このため、対応しているクレジットカードの中から自分に合ったカードを選んで使っていくのがよいでしょう。
まずは、5つの「前払い式」電子マネーについて、その概要とチャージをする際にポイント付与される相性のよいクレジットカードもあわせて紹介します。
コンビニでは多くの電子マネーに対応している
楽天Edyは2001年にサービス開始となった、電子マネーの先駆けとも言える存在です。2019年9月時点で約1億2000万枚が発行されています。コンビニについては、大手3社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)はもちろん、ミニストップやデイリーヤマザキでも利用可能。このほか、ビックカメラなどの家電量販店、大手ドラッグストアなど全国約70万か所で使えます。
通常は200円の決済で1P貯まり、貯めたポイントは「1P=電子マネー1円分」として利用することができます。特定の期間・店舗で利用すると、通常より多くのポイントが貯まるキャンペーンも頻繁に行っています。使える店舗も幅広く、万能型の電子マネーと言えそうです。1回あたりのチャージ額の上限は2万5千円となっています。
相性のよいクレジットカードは、同じ楽天グループの「楽天カード」になります。楽天カードから楽天Edyにチャージすると200円で1P貯まります。「楽天カード」を使えば、200円チャージする際に1P、楽天Edyでの支払いの際に200円で1Pと、合計200円で2P貯めることができます。
nanacoはセブン&アイ・ホールディングスが展開する電子マネーです。コンビニについては、セブン-イレブンでのみ利用可能。このほか、イトーヨーカドーなどのグループ企業はもちろん、吉野家やマクドナルド、ビックカメラなど、全国約55万店で利用可能です。
通常は200円の利用で1P貯まり(一部で異なる店舗あり)、「1P=電子マネー1円分」として利用できます。セブン&アイのグループ企業での優待に特徴があり、毎月8のつく日(8日、18日、28日)にイトーヨーカドーで使うと5%割引を受けられたり、セブン-イレブンでボーナスポイントをもらえたりします。1回あたりのチャージ額の上限は4万9,000円となっています。
一緒に使いたいクレジットカードは「セブンカード・プラス(年会費無料)」と「リクルートカード(年会費無料)」。「セブンカード・プラス」は、nanacoへのオートチャージ機能を利用でき、この際200円で1P(0.5%分)付与されます。また、「リクルートカード」はチャージの際に1.2%分のポイントが付与されますが、付与の対象となるのは1か月3万円までとなります。なお、「リクルートカード」は楽天Edyへのチャージも可能です。自動車税や電気などの公共料金を納付書で支払う場合、通常は現金払いしか対応していませんが、セブン-イレブンではnanacoで支払うことも可能です。nanaco払いの際にポイント付与はありませんが、これらのカードからnanacoにチャージする際にはポイントが付与されるので、間接的にではありますが、税金や公共料金の支払いでポイントを貯めることも可能です。
WAONはイオンのグループ会社が発行しています。ファミリーマート、ローソン、ミニストップなどのコンビニのほか、イオンやコスモ石油など全国約51万か所で利用可能です。200円の利用で1P貯まり(会員登録後、イオングループの対象店舗ではいつでもポイント2倍)、「1P=電子マネー1円分」として利用可能です。イオンでは毎月20日と30日に5%オフで買い物ができ、毎月10日は200円で5P貯まる特典があります。1回あたりのチャージ額の上限は4万9,000円となっています。
WAONをお得に使うのに役立つクレジットカードが「イオンカードセレクト(年会費無料)」です。こちらは、クレジットカードの「イオンカード」、電子マネーの「WAON」、イオン銀行のキャッシュカードという3つの機能がひとつに集約されたカードです。WAONへのオートチャージでポイントが貯まる唯一のクレジットカードで、200円ごとに1P貯めることができます。イオン銀行での金利が優遇される特典もあります。
前払い式の電子マネーには、グループ企業の店舗で使うと割引が受けられる特典が付与されているものも
JR東日本が発行するSuicaは、2001年にプリペイド式の乗車カードとしてスタートしましたが、2004年には売店などでの支払いにも使える電子マネーの機能を持つようになりました。コンビニについては、大手3社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)やNewDaysなどで利用可能。このほか、デニーズや紀伊國屋書店など街中の多くの店舗でも利用可能です。
Web上で登録すれば、対象の店舗での利用でも100円or200円で1P付与されるほか、JR東日本管内の在来線利用時にポイントが貯まる点が大きな特徴になります(カードタイプのSuicaは運賃の0.5%分、モバイルSuicaだと2%分のポイント付与)。チャージの上限額は2万円となっています。
好相性のクレジットカードは、JR東日本のグループ会社であるビューカードが発行する各種クレジットカードになります。その中で最もスタンダードなのが、「ビュー・スイカ」カード(年会費524円)です。オートチャージの利用時や定期券購入時に1,000円ごとに15P付与されます。
Suicaは、JR東日本の在来線に乗車したときにもポイントがもらえる
PASMOは関東の大手私鉄などが株主になっている「株式会社パスモ」が2007年にサービスを開始しました。私鉄やJRの運賃のほか、コンビニ各社や駅ナカなどで利用可能です。ただし、Suicaのように、運賃の支払いや店舗で使っても、PASMO独自のポイント付与がないのは弱点と言えるでしょう(手続きを行えば、国のキャッシュレス・ポイント還元事業の還元は受けられます)。
PASMO独自のポイントはありませんが、クレジットカードに搭載する形で使えばメリットが出てきます。PASMOにオートチャージした際にポイントがもらえるクレジットカードは多くあり、その中から主要なものを紹介します。
「To Me CARD Prime PASMO」(年会費2,200円)
オートチャージすると0.5%分のポイントが貯まるほか、東京メトロを1回乗車ごとに平日は10P、土日祝日は20P貯まる(定期券区間内は対象外)
「TOKYU CARD ClubQ JMB PASMO」(年会費1,100円)
オートチャージすると1%分のポイントが貯まるほか、東急線の電車やバスに乗り、東急百貨店などに設置された端末にタッチすると1日10Pもらえる(定期券区間内は対象外)
「OPクレジット」(年会費550円)
オートチャージすると0.5%分のポイントが貯まるほか、小田急線の月間の乗車金額(定期券区間内は対象外)に応じて、最大7%のポイントが付与
続いては、2種類の「後払い式」電子マネーを紹介します。前述のとおり、こちらのタイプは、クレジットカードの利用代金と一緒に請求され、還元率や年会費もクレジットカードによって異なります。2つの電子マネーに対応している、人気のクレジットカードもあわせて紹介します。
JCBが発行するQUICPayですが、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなどのコンビニのほか、イオンやイトーヨーカドーなどの大手スーパーや大手ドラッグストアなど全国約90万店で利用可能です。対応しているクレジットカードのうち、主要なものをピックアップしました。
「JCB一般カード」(年会費1,375円)
JCBのクレジットカードの中で最もスタンダードな1枚。還元率は0.5%だが、最高3,000万円補償の国内・海外旅行傷害保険も付帯している
「JCB CARD W」(年会費無料)
39歳以下限定で申込可能なカード。年会費無料でありながら、還元率は1%。最高2000万円補償の海外旅行傷害保険も付帯している
「リクルートカード」(年会費無料)
常時1.2%の高還元のカード。最高2000万円補償の海外旅行傷害保険も付帯
iDはNTTドコモが提供している電子マネーです。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなどのコンビニのほか、大手ドラッグストア、ファミリーレストランなど全国約100万店で利用可能です。対応しているクレジットカードのうち、主要なものをピックアップしました。
「dカード」(年会費無料)
常時1%の還元率があり、ローソンでの利用では5%おトクになる特典もある1枚
「三井住友VISAクラシックカード」(年会費1,375円)
三井住友カードのスタンダードな1枚。基本の還元率は0.5%で、最高2000万円補償の海外旅行傷害保険も付帯
「Orico Card THE POINT」(年会費無料)
還元率は常時1%で、入会後半年間は2%にアップ。このカードは、QUICPayにも対応している
取り上げた、主要な7つの電子マネーについて特徴を表にまとめました。
前払い式について言えば、「楽天Edy」は加盟店も多く、多くの人がメリットを享受しやすくなっています。いっぽう、それ以外の電子マネーは特典を受けられる店舗・サービスがはっきりしており、それらを定期的に利用する場合に候補に入ってきます。もちろん複数の電子マネーを上手に使い分ける方法もあるでしょう。また、オートチャージは非常に便利な機能ですが、使いすぎの心配があることは留意しておきましょう。後払い式については、どういったクレジットカードが自分にあっているかをよく吟味したほうがよいでしょう。
最後に、紛失や盗難時の補償についても説明します。
「QUICPay」「iD」といった後払い式の電子マネーは原則、クレジットカードと同様に、届け出た日から60日前までの不正利用については全額補償を受けられます。いっぽうで、前払い式の電子マネーは原則、利用停止した時点に残っていた残高は新しいカードに引き継ぐことが可能です。ただ、逆を言えば、利用停止前に不正利用されたとしても、補償されることはないので、紛失、盗難に気付いたら、すぐに運営会社に連絡し、利用停止の手続きを行いましょう。
オフィスクイック代表。1990年より編集・ライターとして出版業界に携わる。リクルート、小学館、講談社ほか多数の出版社の各媒体にて、主に企業取材、企業人インタビューを手がける。1999年の金融ビッグバンを機に金融・保険を自身の専門分野として確立。ユーザーの視点からの、わかりやすい記事を多数執筆。