備える
投資家・村上世彰氏が特別顧問の「N高投資部」。1年目の活動終了

高校生が20万円提供されて、株式投資に挑戦。生徒たちが得たモノと運用結果は?

「お金もうけはよくないこと」「子どものうちはお金について考えなくてよい」。
日本ではこうした風潮が根強く残るいっぽうで、専門家の講演やゲームなどを通じて、お金との付き合い方を学ぶ金融教育が少しずつ広がってきています。そうした中、通信制のN高等学校(N高)が2019年度に「投資部」を設立。生徒に20万円を渡し、それを元手に実際に株式運用をしてもらうという、思い切った金融教育を始めました。部活の特別顧問を務めたのは著名投資家の村上世彰(よしあき)さんで、20万円の運用資金も村上さんが設立した財団から提供されました。先日、このN高投資部の約8か月間の投資活動についての結果報告会が行われました。生徒たちはどんなことを感じ、何を得たのかを取材してきました。

バランスシートの読み方などを学ぶN高投資部の部員たち(N高提供)

バランスシートの読み方などを学ぶN高投資部の部員たち(N高提供)

N高はインターネットを活用した通信制の高校

N高は、大手出版社のKADOKAWAとIT企業のドワンゴがつくった学校法人「角川ドワンゴ学園」が運営する通信制の私立高校です。創立は2016年。インターネットを活用し、全国各地の約12,000人が学んでいます。全日制の高校と同様、要件を満たせば高校卒業資格を得ることができるほか、通常のカリキュラムに加え、プログラミングやゲーム制作、小説創作などの専門分野に特化した授業を受けられるのもN高の特徴です。

加入は任意ですが、N高には「eスポーツ部」「将棋部」「コンピューター部」など10の部活動があります。その中のひとつとして、2019年5月に誕生したのが「投資部」。株式投資を通じて生きた金融教育を行い、経済や社会の仕組みを知ってもらおうという狙いです。株式投資の疑似体験ができるバーチャルゲームも数多くありますが、「実際のお金で投資をすることが、世の中の仕組みをリアルに学ぶことにつながるのではないか」(投資部担当スタッフ)と、実際に株式投資をすることにこだわりました。そこでN高が協力を依頼した先が、投資家の村上世彰さんが設立し、金融教育を積極的に行う「村上財団」。この依頼に対し、村上財団は快諾しました。

村上財団が運用資金として、1人に20万円を提供。損失が出ても返済の必要なし

2019年度に入り、投資部の部員を募集したところ、1年生〜3年生の270人の生徒が応募。その中から、小論文などで選抜された約50人で活動をスタートさせました。当然ながら、多くの生徒に投資経験はありませんでした。N高投資部は以下のルールで活動し、「ノーリスク」で実際の株式投資を経験できることに大きな特徴があります。

・運用資金として、生徒1人ひとりに村上財団が20万円を提供
・最終的に損失が出ても、生徒が補てんする必要がない
・利益が出た場合、利益の部分は生徒自身で受け取れる
・投資先を自分で考えて選んでもらうため、投資信託などは除外し、投資対象は東京証券取引所に上場する個別株のみ(FXや仮想通貨も対象外)

銘柄の選定や売買のタイミングは自分で判断

こうしたルールのもとに、2019年7月から、生徒たちはネット証券に口座を開設し、実際に投資をスタート。どの銘柄を選ぶか、売買のタイミングなどは各個人で決めますが、定期的に売買の状況についての報告書を学校に提出するルールです。こうした日々の投資と並行して取り組んできたのが、投資に関連した知識を学ぶための講義。一例をあげると以下のとおりです。
・専門家による、投資に生かせる統計に関する講義
・三菱UFJモルガン・スタンレー証券や農林中金バリューインベストメンツの社員による講義
・東洋経済新報社の社員による「四季報」の読み方を学ぶ講義

生徒たちは、運用助言会社の社員など、投資のプロからの講義を受けた(N高提供)

生徒たちは、運用助言会社の社員など、投資のプロからの講義を受けた(N高提供)

村上さんの特別講義と、希望者全員が対象の個別面談も実施

ただその中でも、生徒たちにとって最もインパクトが大きかったのは、特別顧問を務める村上さんによる計4回の講義と、希望者全員を対象にした個別面談だったと言います。ここでは、村上さんは個別銘柄への質問に答えたり、推薦したりすることはしません。また、投資に関連した技術的なアドバイスもほとんどなく、自分で考えさせることを徹底させたといいます。

気になる企業のIR担当部署を訪問。株主総会に出席した生徒も

たとえば個別面談で、株を売るタイミングに悩む生徒が「売るタイミングがすごく難しい。利益をあげるためには、何か月ぐらい保有したほうがよいですか」と尋ねると、「それは、ケースバイケース。なぜ今買うのか、売るのかを自分で徹底的に考えてほしい。それが一番大事」と回答しました。

あるいは、特別講義の中で「投資先を検討する際、村上さんはどのようなことを行いますか」と質問した生徒に対し、村上さんは経営陣との面会やIR担当部署(投資家向けの広報活動を担う部署)への質問などをあげたうえで、「ぜひ、購入を検討している企業のIR担当部署に電話をしてみて」とうながしました。このやり取りがきっかけとなり、部員の有志が「ビックカメラ」「Zホールディングス」「ダイドードリンコ」など8社について実際に企業訪問を行い、今後の事業について尋ねたそうです。なかには、株主総会に参加した生徒もいました。

生徒が投資をするうえでの悩みなどを相談した村上さんとの個別面談(N高提供)

生徒が投資をするうえでの悩みなどを相談した村上さんとの個別面談(N高提供)

投資部の生徒たちの8か月の運用の結果は?

こうして、生徒たちは8か月間にわたる株式投資を行ってきました。新型コロナウイルスの影響でオンラインで参加するという形になりましたが、その結果報告を2020年3月6日、村上さんを前に行いました。

村上さんによる最後の特別講義と結果報告会。全員がオンラインでの出席となった

村上さんによる最後の特別講義と結果報告会。全員がオンラインでの出席となった

投資部全体としては元本割れだが、利益を出した生徒も

気になる結果は、と言うと―。
運用資金を50万円、100万円に増額された生徒もいて、提供されたのは投資部全体で1430万円。いっぽうで、2月に株式を売却した際の総評価額は約1243万と、元本割れの結果に。もちろん、投資部の活動は利益をあげることに主眼が置かれてはいません。それでも、この結果に村上さんは「負けすぎ。高校生といえども、やはり勝ってほしかった。お金が減ったのは僕だけだけど」と冗談めかして言いました。

最終的に利益をあげられたのは、部員のうち約4割の15人程度。20万円の元手を最終的に約26万円に伸ばした生徒は、2019年の後半までは通信関連の株式を購入し、3万円程度の損失が出ていました。ただ、2020年に入り新型コロナウイルスが深刻化すると、輸液バッグのフィルム開発企業など、医療関連の銘柄に集中し利益を出すことができました。

当初は短期の売買を繰り返したものの、手数料がそれなりにかかってくることに気付き、長期保有の方針にした生徒もいました。これが奏功し、最終的に約5万円の利益が得られたと言います。

また、IR担当部署への訪問をその後の投資に生かした生徒も。ドン・キホーテを運営する「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」の株の購入を検討していた生徒は、「IR担当部署を訪問したことで具体的な戦略を聞くことができ、保有することの確信を持てました」と感想を寄せました。結局、買値より300円程度の高値で売ることができたと言います。

報告会の会場には、「あなたにとって投資とは?」という質問に対する1人ひとりの答えを書いた色紙が並べられた

報告会の会場には、「あなたにとって投資とは?」という質問に対する1人ひとりの答えを書いた色紙が並べられた

株価が1,200円から800円に下落して、血の気が引いた経験も

もちろん、失敗談も数多く寄せられました。
「新興企業が多く上場しているJASDAQ株を多く買ったものの、値動きが激しく、損が出るとすぐに売却してしまい、損失額が積み重なってしまった」
「グーグルの量子コンピューター開発に関連して、上昇を続けるソフトウェア会社の株を保有していた。『まだまだ上がる』と思っていたがその後急落し、大きな損失になった」
「買った銘柄がわずかの間に1,200円から800円に下落して、血の気が引いた。一瞬で万単位のお金が減る感覚を忘れないようにしたい」などの感想もありました。

また、株価が世界の動きと密接につながっていることを実感した声も数多く寄せられました。
「2020年1月9日のトランプ大統領の演説でアメリカとイランが全面的に武力衝突する可能性が低下し、防衛関連株が急落したいっぽうで、日経平均は上昇。あそこまで緊張してニュースを見たのは初めて」
「米中貿易摩擦が激しくなっていたときは、毎日のように多くのニュースが飛び交い、それにともない株価も大きく動いた。いろいろ考えすぎて頭が回らなくなった」といった感想も。

気になる企業の業績や事業内容について調べ、株を購入し、世の中の動きとともに株価の推移を見ていく。こうした活動を通し、経済や世の中の動きも自分と無関係ではないことを実感し、また、お金とは何なのかということに思いを巡らした生徒が数多くいたことが伝わる報告会でした。

最終講義で、オンライン上の生徒を前に話す村上さん

最終講義で、オンライン上の生徒を前に話す村上さん

村上さんは1年間の活動を振り返り、このように話しました。
「今回の活動を通して、一番学んでほしかったのは『お金とは何か』ということを考えてもらうこと。そして、お金は必要だけれども、非常に怖いものだから、お金や投資に対して一定の恐怖感を持ってほしかった。今回のみんなの感想では、投資を今後も続けたいという人が多かったけど、『投資はもうこりごりだ』と思ったとしても、それはそれでいい。今後、皆さんは自分で働いたり、起業をしたりして、そのときにはもっと大きなお金を動かしたり、扱ったりする場面も出てくると思うけど、そのときに今回の投資部の活動を思い出してほしいと思います」。

まとめ

「20万円を元手に高校生が株式投資」
N高投資部が発足するニュースを聞いたとき、40歳近い筆者の第一印象は「すごいことをやるな」というものでした。同世代の多くの人と同様、筆者も学生時代、学校現場でも両親からも、お金についての知識を教わったことはありませんでした。そのいっぽうで、2019年に話題となった「老後2000万円」問題に象徴されるように、自分の資産形成は他人任せにできない時代になっています。必ずしも投資という形で取り組む必要性はないと思いますが、社会に出る前に「お金とどう付き合っていくべきか」を自分なりに考える機会は一層、大事になっていくものと思われます。

また、生徒を取材、あるいは報告会を聞いて、トランプ大統領の言動をチェックしたり、米中貿易摩擦の行方を気にしたりと、生徒の視野が身近なできごとから徐々に広がっていく様子が印象的でした。このN高投資部ですが、新年度を迎える4月に新たに約50人の部員を募集し、第2期の活動をスタートさせます。新型コロナウイルスの感染拡大で、大きく揺れている金融市場に、新たに50人の高校生がひとりの投資家として参加していくことになります。

価格.comマネー編集部

価格.comマネー編集部

投資・資産運用・保険・クレジットカード・ローン・節約に至るまで、マネーに関する情報を毎日収集。「知らないで損するなんてもったいない」をモットーに、読者のためになる記事を制作します!

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
ご利用上の注意
  • 本記事は情報の提供を目的としています。本記事は、特定の保険商品や金融商品の売買、投資等の勧誘を目的としたものではありません。本記事の内容及び本記事にてご紹介する商品のご購入、取引条件の詳細等については、利用者ご自身で、各商品の販売者、取扱業者等に直接お問い合わせください。
  • 当社は本記事にて紹介する商品、取引等に関し、何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとします。
  • 当社は、本記事において提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
  • 本記事には、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
  • 本記事のご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、価格.comサイト利用規約(http://help.kakaku.com/kiyaku_site.html)にご同意いただいたものとします。
関連記事
投資・資産運用のその他のカテゴリー
ページトップへ戻る